第四部 第六章 第二十一話 愛染砦の戦い


 領内の敵排除に挑む領主イブキ率いる飯綱軍──。


 彼らは一昼夜の行軍を続け、愛染山まで残り半日という位置にて野営を行っていた。


 本隊休息の間、隠密【鴉】による斥候部隊が先んじて砦の様子を確認に向かう。先に潜伏していたのは二人の隠密、【梟】ヒバリと【鴉】ツバメ……斥候は差し障りなく接触を行うことが出来た。


「砦の様子はどうだ、ツバメ?」

「見た限りでは変わらないわよ。ただ、アブエの配下を何人か捕縛することが出来たわ。大した情報は持ってないみたいだけどね?」

「それで……例の勇者殿は?」

「イブキ様の行動に合わせて内部蜂起になる様に協力してくれてる。イブキ様の邪魔にならない様にするって」

「……そうか。飯綱軍は明日昼前には此処に到着する。引き続き頼んだぞ」

「わかったわ」


 素早く立ち去る斥候部隊。隠密姉妹はそれを見送り砦の監視を続ける。



 砦の様子は変わらない。ただ妙に静かに空気が張りつめる中でも、野生動物の鳴き声らしきものが山間に響き渡っていた……。



 翌日の昼──愛染山麓の砦前には、予定通り飯綱軍が陣を敷き戦いに備えている。


「イブキ様。全ての準備、整いまして御座います」

「わかったわ。ありがとう」


 臣下よりの報告を受け本陣から兵の前に姿を現したイブキ。その眼前には、途中合流を果たし総勢二千五百を超えた臣下の姿が整然と並んでいた。


「皆、聞いて欲しい。いよいよ戦いの時──だがこの戦、謀叛人アブエは瞬く間に拿捕されるだろう。久遠国に誇る飯綱兵の力を以てすれば、国賊など敵ではない!」

「おおぅ!」

「聞き及んでいる者もいるだろうが、ある御仁の力を借り内部からの蜂起が起こる。皆の者は同士討ちせぬよう異国兵とのみ交戦せよ。加えて、アブエは王の御前に差し出す為に極力生かしたまま捕らえよ。良いな?」

「おお━━━っ!」

「最後に……皆が無事我が元に帰ることを切に願う!久那岐にて宴も用意した!全員、生きて宴に参加せよ!これは領主の命であると共に私の願いでもある!」

「うおぉぉぉ━━━っ!勝利をイブキ様に!!」


 山間に響くつきの声。砦内の飯綱兵達は領主の到着を理解した。


「タカムラ様!」

「うむ。ノブカゲよ……いよいよだ。我らは作戦の要でもある。打ち合わせ通り兵を三つの部隊に割り振る。砦の門を開く隊、異国兵を奇襲する隊、そしてアブエを捕らえる隊……お主にはアブエを頼みたい。但し殺すなよ?」

「承知に御座います。タカムラ様は?」

「何……こんな時くらい身体を張らねばな。異国兵は私が相手をする。お主はアブエを確保の後、兵を連れイブキ様の元へ向かえ。それを確認次第、私も兵を連れ脱出する」

「分かりました。タカムラ様。ご無事で……」

「フッ……お主もな、ノブカゲ」



 それから間も無くマコアとアブエからの号令が掛かり、砦にての籠城戦が始まる。


 が……イブキが兵に宣言していた様に、砦の門前での鬩ぎ合いが始まるや否や内部から飯綱兵の蜂起が発生。内側から異国兵を倒しつつ砦門が開放され、飯綱兵が内部へと雪崩れ込んだ。


 そして、乱戦が始まった……。


「アブエを捕らえよ!但し、マコアという者は魔術にも剣技にも長けておると聞く。対峙した際は無理をせず後退……改めて攻めに転ずるまで待て!」


 タカムラの指示に応える飯綱兵。こんな乱戦の場に重臣であるタカムラが加わっていることに首を傾げつつも、重臣自らが加わることで士気は否応なく高まった。


 異国兵は思ったより強く飯綱兵は時折魔導具による攻撃で被害を受けたが、タカムラの的確な指示で怪我人を撤退させる。入れ替わりに加わった飯綱兵が見事戦果を上げていった。


「良いか!此度は殲滅戦!故に敵の首など必要ない!まず生き残ることを考えよ!生きて戻ることこそイブキ様への忠義と知れ!」


 タカムラが檄を飛ばす中、やがて戦況は飯綱軍側へと傾き出した。



「見付けたぞ!アブエ・シンザ!」

「くっ……痴れ者共め!私は飯綱領の為に……」

「申し開きはイブキ様の前で行うが良い。今の貴様には最早従う者は居らん」

「……クックック。私などにかまけていて良いのか?領主が落命すればこの戦、大きく引っくり返るぞ?」

「……まさか刺客か!全員、退くぞ!イブキ様を御守りせねば!」


 主の危機を察知し素早くアブエを捕縛……撤退を始めたノブカゲ。途中、タカムラと出会い退却の旨を伝えた。


「刺客がイブキ様を狙っております!我々はこのまま後衛に退がりイブキ様の護衛に回ります!」

「わかった!戦況は既に我等に傾いた……全員退け!何としてもイブキ様を御守りするのだ!殿しんがりは我が務める!」


 砦内には至る所に異国兵の骸が転がっている。それを踏み締めつつ撤退を始める飯綱兵達。

 異国兵達はその様子を確認し砦門まで兵を押し戻した。


 その際、砦門はタカムラを残し閉じられてしまう。


「タカムラ様!」

「私に構うな!……イブキ様を頼んだぞ、ノブカゲよ!」

「くっ……!どうかご無事で!」


 撤退を始めた飯綱兵。しかし、その背後から魔法による攻撃が降り注いだ。

 飯綱兵達が視線を向けた砦の上空には、ピンクの鎧に身を包んだ厳つい男が浮いている。


「あれがマコアか!くっ!」


 閃光と共に降り注ぐ氷柱つららを必死に避けながら撤退を続けるノブカゲ達……。だが、やがてマコアは魔法の使用を止め姿を消した。


「魔力切れ……か?いや、油断は出来ぬ」


 ともかく撤退を……。やがてイブキの元に辿り着いたノブカゲは、捕縛したアブエを跪かせる。

 今回最大の戦功……しかし、ノブカゲの表情は暗い。


「そなたがカミイズミ・ノブカゲか?よくぞ謀叛人アブエを捕らえた。その忠義と功績……必ず報いよう」

「……恐れながら、最大の戦功はタカムラ様で御座います。ですが……」


 砦はタカムラを残ったまま……。


 だが……そこでノブカゲは信じられないものを目にした。重臣タカムラがイブキの脇に控えているのだ。


「タ、タカムラ様……!な、何故ここに……?」

「何の話だ?私は初めからここに居たが……」

「で、では、砦に居たタカムラ様は一体……」


 事情を察知したイブキは正直に事実を伝える訳には行かない。そこで一つの方便を口にする。


「愛染山は神の住む霊山。お主が見たタカムラは、恐らく愛染大権現の化身かも知れぬ。……きっと、あなたの忠義に感じ入って手を貸してくれたに違いないわ」

「だ、大権現の………」

「これで益々この戦に勝たねばならないわね、ノブカゲ?」

「……はっ!」


 と、そこに地の中から飛び出す刺客。イブキ目掛けて短刀で迫るが、その刃が届くことはない。


「天雲丸!」


 刺客を尻尾で叩き伏せた天雲丸は、更に前足で刺客の身体に圧を掛ける。ミシミシと軋む頭に刺客は絶叫した。


「金で雇われた刺客か……どこまで腐っているのだ、アブエ!」

「ふん……女ごときがよくも領主面を。私こそが……私こそが飯綱の領主に相応しいのだ!」

「……貴様の処罰は王が決める。覚悟せよ!この者達を逃がすな!」


 アブエ、そして刺客は厳重に縛られ移動式牢獄へと入れられることとなった。


「……後は異国兵を残すのみか。イブキ様。如何なさいますか?」

「火矢をかければ容易ではある。しかし、それでは異国で果てるにはやや不本意だろう。一騎討ちを提案してやろうかと思うのだが……」

「!……し、しかしイブキ様がそこまでする必要は……」

「応じなければ私が【天網斬り】で砦を崩すまでの話。……。本当のところはね?私もケジメを着けたいのよ。私の大事な領地に踏み入った相手にね」

「……………」

「大丈夫よ。天雲丸が一緒だから。そうでしょ、天雲丸?」

「ウォウォン!」


 天雲丸が居れば不意な魔法にも対処が可能……とはいえ、騎乗以外は極力自らの手でとイブキは考えている。


「わかりました。しかし、敵の謀略でイブキ様危機に陥る様な場合は即座に加勢に入ります」

「それで良いわ。その時は頼りにしているわよ」

「ははっ!」



 天雲丸との単騎駆けを始めたイブキは、砦前で高らかに口上を述べた。


「我は飯綱領主コズエ・イブキ!我が領地に土足で踏み入った貴様らに鉄槌を下すが我が指命!しかし、既に勝敗は決しているこの状況……ただ死ぬのは些か不憫なり!我が刃にて果てる機会を与えてやろう!?」


 中からの返事はない。しかし、イブキは砦上空に再び人影が現れたことに気付いていた。


「貴公が大将……マコアか!」

「大将なんて大それたものじゃないわよ。それより……久那岐の街を放置していて大丈夫なのかしら?」

「フッ……そちらは全て片付いた。残すは貴公らのみ。覚悟するが良い」

「一体どうやってあれを……」

「強い味方が居た……とだけ言っておこう」


 イブキの自信に満ちた顔を確認したマコアは、僅かに達観した表情を浮かべた。


「そう……。じゃあ、折角のお誘いを断る訳にはいかないわね。少しお相手をしてア・ゲ・ル!」

「貴公が卑怯な真似をせぬ限り我が配下は手を出さぬ。また貴公が敗れた場合、配下の者が潔く投降するなら助命の可能性もある」

「随分と傲慢ね……。貴女が負けることは考えない訳ね?」

「負ける訳にはいかぬのでな。当然、負けなど考えぬ」

「フフッ……その余裕、何時まで続くかしらねっ!」


 マコアは言葉を切った途端、魔法を発動。降り頻る氷柱の中を、イブキを乗せた天雲丸は縫うように駆け抜けた。

 そして天雲丸はそのまま空を蹴り飛翔。マコアへと迫り、イブキは刃を振るう。


 見事な意思疎通──。イブキと天雲丸が互いを信じ合っている故の連携だ。


「フン……やるじゃない。それなら私も本気で行くわよ?」


 纏装を発動したマコアは金色の光を放ちつつ二本の細剣を抜き放つ。

 覇王纏衣──マコアのその姿を確認したイブキは、自らも金色の輝きを放ち剣を交える。


「まさか覇王纏衣まで使うとは……貴公は中々の腕前の様だな」

「貴女もね……でも、どうせ皆には聞こえないんだから堅苦しい喋りは無しにしようじゃない?」

「……ええ。良いわよ」


 飛翔しながら輝く者達の戦い。この場にいる者でその領域に武力が達している者は殆どいない。

 故にその戦いは、実に神々しく見えたことだろう。


「哈ぁぁっ!」

「ほあぁぁーっ!」


 飛翔するマコアに対し天雲丸の飛翔で対抗するイブキ。何かで固定している訳ではないのだが、その身体は不思議と安定した状態で剣を振るい続けていた。

 時折放たれるマコアの魔法は天網斬り、若しくは天雲丸の口から放たれる火炎により打ち消される。


 空をかける二つの光は素早く、地に居る者達は目で追うのがやっとといった具合だ。


 そんな状態で必然的に行われる互いの剣技の応酬──華月神鳴流と互角に渡り合うマコアの剣技は、トシューラに伝わる古流剣術を極めたもの。変幻自在にして多彩な攻撃はイブキを苦しめた。


「やるわね……。魔法だけじゃなく剣まで達人だなんて……」

「貴女も凄いわよ?その子……聖獣かしら?足場が無い騎乗状態でこれ程の剣を振るうなんて……」

「私の流派は有りとあらゆる状況に対応できるように進化した剣術なのよ。騎乗しながらでも座りながらでも普通に剣は振るえる。それに……この子、天雲丸は私のことをちゃんと理解してくれているの。足場が不利なんて全然感じていないわ」

「そう……ならば、遠慮は要らないわね」

「遠慮なんてしていると、後悔の念を残すわよ?」

「ウフフ……そうかもね」


 戦いは更に激化。激しい火花を散らし山々に谺する剣撃。青空で行われる大将同士の一騎討ちは、一種異様な光景である。

 それが実は【女性同士】の戦いであることなど、誰が想像できるだろうか……?


 そんな剣撃も四半刻──やがてイブキの剣技は勢いを増し戦況は一変する……。


「なっ!け、剣に亀裂がが……」

「中々の腕だったけど、私の剣は優しくないわよ?この国で私を圧倒出来る使い手は五人と居ない。残念だったわね」


 何のことはない。イブキは様子見をしていたのである。魔法ではなく剣技主体のディルナーチに於いて、魔法主体のペトランズ側が剣のみで挑むのは無謀。

 しかし、マコアは魔法剣に覇王纏衣をも展開し戦っているのだ。では、何が原因か……マコアは否が応にも理解させられてしまったらしい。


「……お見事。貴女、剣に命賭けすぎよ。折角美人なのに、それじゃお嫁に行き遅れるわよ?」

「うっ……。み、耳が痛いわね。でも……それも私の生き方なのよ」

「そう……。でも、そんな生き方があっても良いかもね」


 マコアの二本の細剣は、イブキの玄淨石の刀の前に打ち砕かれた……。


「覚悟!」


 更に切り返しの刃がマコアの腹部を切り上げた。その速さに反応出来なかったマコアは、刃を深々と食い込ませることとなる。


「グフッ!」

「苦しいでしょう……。今、止めを刺して楽に……」

「ざ、残念だけど……私にも意地があるのよ……。こうなれば……砦に仕込……んだ自爆魔法……を……」


 マコアは最後の力を搾り出しイブキの肩を蹴り刃を引き抜く。飛翔する力が無いのか、そのまま砦に向かい落下を始めた……。


「待て!」

「フフフ……自爆魔法が発動……すれば、久那岐までは届かずとも……かなりの被害が出る……わ。貴女の……お手並み……拝……見……ね」

「させない……!」


 阻止する為に近付こうとしたイブキに向けて、マコアは上位魔法 《暴風嵐》を発動。イブキを乗せた天雲丸は暴風の奔流に巻き込まれつつも、上手く体勢を立て直し本陣へと帰還した。


 家臣達は一斉にイブキに駆け寄り安否を確認する。


「イブキ様!御無事ですか!」

「ええ……大丈夫よ。天雲丸のお陰でケガは無いわ」


 その背から降りたイブキは天雲丸を抱き締める。満足気な天雲丸はイブキの頬を舐めながら甘えた声で鳴いた。


「しかし……困ったわね」


 視線の先の砦は、先程マコアが放った魔法が今だ渦巻いて近付くことが出来ない。

 それに先程の言葉……『自爆魔法』なるものが気に掛かる。


(ライ殿に……いいえ。これは飯綱領の問題。しかし……)


 家臣と相談するにも魔法に明るい者は居ないのだ。ならば天網斬りを連続して……そう考えていた矢先だった。


 天雲丸はチラリとイブキに視線を向けると、数歩砦側に歩み出し身構えた。


「天雲丸?」


 イブキの問い掛けに再び視線を向けた天雲丸。だが、イブキと天雲丸にはそれだけで疎通が可能だった。


「わかったわ。お願い、天雲丸」

「イブキ様……。一体何を……」

「天雲丸が任せろって。皆は天雲丸に近寄らないように伝えて」

「イブキ様は?」

「私は天雲丸の傍で見守る」

「……わかりました」


 飯綱兵は待機のまま主とその相棒の姿を見守っている。


 天雲丸はイブキが近付くのを確認すると三本の尾を広げ伸ばした。角は鋭く伸び、口を目一杯に広げたその姿は、いつもの天雲丸のものより明らかに荒々しい。

 イブキはそれが天雲丸の戦闘形態であることを理解したが、恐れは微塵も感じていない。



 やがて天雲丸の口内には空気を揺るがす程の高圧力魔力凝縮が始まる。魔力は天雲丸の力で炎へと変化し熱波が広がった。

 勿論、イブキは天雲丸の力で保護されている。そうでなければ近くにいるだけでたちまち発火していた筈だ。


 その証拠に天雲丸の周囲に繁る草はみるみる熱で枯れ一瞬で灰となっている。



 そんな天雲丸による魔力凝縮を終えた火炎球は、遂に砦に向かい放たれた。

 着弾───そして凝縮火炎の放出。砦を中心に巻き起こる炎の竜巻が遥か天高く立ち昇る。


「お、おお……。な、何という光景だ……」


 まるで愛染山の神がその力を示したかの様だと飯綱兵は感じたであろう。力の奔流は、まさに炎の龍と呼ぶべき力……。


 しばし猛威を振るった竜巻はやがて霧散を始め消失……砦のあった場所は、ただ黒い跡のみを残し全てが灰と化していた。

 人も物も何一つ……形あるものは残されてはいなかった。



 そんな天雲丸の炎で大気は掻き回され、たちまち雨雲が発生。砦の跡地を確認する間もなく、稲光が轟音を連れて来た……。

 そして滝のような豪雨──飯綱軍は木陰に身を寄せやり過ごすことになる。


「雨雲を呼ぶとは……名は体を表すとは良く言ったものですな、イブキ様」

「そうね。でも少し加減を教えないと……」

「……クゥン」


 申し訳なさそうに項垂れる天雲丸をイブキは抱き締めながら撫で回した。天雲丸はイブキの為に行動を起こしたのだ。飯綱領側に被害も犠牲も無いならば責める必要はない。



 その後、雨があがるまで半刻……ようやく晴れ渡った愛染山には虹が掛かっていた。

 吉兆、瑞兆……飯綱兵はこの時、ようやく勝利を実感したのである。


 砦跡地の確認が始まり採掘場入り口も全て確認するが、やはり何一つ残っていない。


「全て燃やし尽くした様ですな。人の骨や道具すらも……」

「逃げた可能性は?」

「無いと思われます。方術師が張っていた結界の外へは出ていないとのこと。終わりで良いのでは?」

「……敵とはいえ骨を拾ってやれないのは不憫だが、致し方無い。これを以て戦は終了──我が領地の汚点は取り払われた!皆、勝鬨を上げよ!」

「うおぉぉ━━っ!皆の者!我らの勝利だ!エイッ!エイッ!オォ~ッ!」


 飯綱領、愛染山麓砦の戦いはこうして飯綱軍の圧勝となった。

 犠牲者無し、怪我人はほぼ全員が軽傷で命に別状あるものは皆無。かつアブエ・シンザを見事捕縛したという完全勝利に近い結末……。


 今回の戦いの特殊性は、後に兵の口から民衆へと拡散されることとなる。


 天雲丸に乗り金色に輝きながら天駆けるイブキの姿。天雲丸が起こした炎の竜巻と雷雨。そして……重臣タカムラの姿を借り飯綱軍を勝利に導いた愛染大権現の化身──。

 それら全ては領主イブキの存在を『神の使い』の如く讃え、後の世にまで語り継がれて行くだろう……。


 だが……。その裏で何者かの意図が大幅に加わっていた事実は決して飯綱領民に知られることは無い。


 この戦いの裏側──それを知る為には、まず時と場所を遡る必要があるのだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る