第四部 第六章 第九話 霊獣の解放
その日、久遠国警備全般を受け持つ重臣カジウラ・モンドは玄淨石鉱山に向かっていた。
周辺に住まう住民や鉱夫相手の商人を鉱山地区から撤退させる役目を終え、コハクの解放準備が整ったことを伝える為である。
兵を引き連れ坑道を進むモンドは、コハクの元に向かいつつも坑内の様子に首を捻っている。
(……この鉱山はこれ程設備が行き届いていたのか?)
坑内には魔石による光が灯され歩くに支障が無い。更に途中の小部屋を覗いて見れば、風呂や厠など有り得ない程に整った状態だった。
玄淨石は確かに貴重だが、久遠国では更に貴重な筈の魔石が使われた施設。モンドにはそれが不思議でならなかった。
(……魔石を回収すべきか? いや、これも大聖霊殿の仕業ならば勝手に頂戴する訳にもいかぬな……)
そんな思考を繰り返し灯りを辿った先──モンドはそこに大聖霊メトラペトラの姿を捉える。
「大聖霊殿!」
「ん……? お主は確か……城に居た警備の……」
「久遠国警備方のカジウラ・モンドと申します」
「……お主が来たということは準備が整ったのじゃな?」
「はい。お察しの通り、鉱山周辺に住まう者達は避難を済ませ申した。加えて周囲は立入禁止にしております」
「そうか。ご苦労じゃったの」
「それで……聖獣殿は?」
「ん? お主の目の前じゃぞ?」
メトラペトラが顔を向けた先……本来岩壁がある場所には赤く輝くコハクの瞳が見える。あまりに巨大故にモンドがそれと気付くのに時間が掛かったのは致し方無いこと……。
「……お初に御目に掛かる。某はカジウラ・モンドと申す者。王の代理として参り申した」
『はじめまして……私はコハク。私の為に久遠国の皆様にはご迷惑を……』
「何を仰る。貴殿には感謝こそあれ迷惑などとは思いませぬ。寧ろ我々の為に三百年も費やされたこと、お礼の言葉も御座らん」
家臣と共に膝を付き頭を下げたモンドに、コハクは困った視線を向けている。
『頭をお上げ下さい。今から私が行うことはあなた方にとっては災害同然……。謝罪をされて良い立場ではありません』
「しかし……それは貴殿の気にすることでは……」
「……そこまでじゃ」
互いを尊重し合うが故に一向に話が進まない。これに業を煮やしたメトラペトラは、強制的に話を打ち切った。
「互いに尊重するより今は事実だけ受け止めよ。コハクはここを去る。鉱山は崩落の恐れ。良いな?」
「わかりました。では早速……」
「と、その前にお主らは安全な場所まで避難せよ。半刻後コハクを解放する。ワシが見届けてやるわ」
「……かたじけない。では」
山を下りるのに半刻は掛からぬが魔石を回収している程の時間は無い。坑内の魔石に後ろ髪引かれながらもモンドは撤退に専念し、鉱山から去った。
「さて……もう良いぞよ?」
メトラペトラに促され岩影から現れたライとトウカ。トウカは既に帰り支度を整えている。
「準備は済んだ様じゃな」
「はい。……ライ様はお荷物をお持ちでは無かったのですか?」
「荷物は特に無い……かな? やることと言えば……魔石回収くらい?」
坑内の純魔石を全て集めればそれなりに大きな一つの塊を造れるだろう。どうせなら魔導具を造ろうか?などと考えながら、ライは坑内の魔石を集めに向かった。
「それで今後のことじゃが、打ち合わせ通りで良いかの?」
『私は大丈夫ですが……本当に良いのですか?』
打ち合わせではライがコハクを纏装で包み、コハクが小型化した際入れ替わりで分身を作製──即座に石化し空洞を埋める予定である。
但し、コハク巨体分の空洞を埋めるには今のライでも魔力が足りないとメトラペトラは予想している。
『一応、私も力添えしようとは思いますが……』
「無理はせぬことじゃな。ライに魔力を補充されたとはいえ、お主はそもそもが衰弱気味じゃった。落ち着くまでは魔力の大放出は危険じゃからの。それに……」
『わかっています。最優先はトウカを安全に連れ出すこと……結果として先に脱出するのが心苦しいのですが……』
コハクにはトウカとの脱出を依頼していた。本来ならば、トウカはメトラペトラの転移魔法で先に脱出させる予定だった。
しかし……コハクがライを見届けると言って聞かなかった為に、トウカの脱出を任せることにしたのだ。
それは、もし鉱山崩落を止められない場合にトウカを任せておけばコハクは留まることはしないだろうという『無理をさせない為の配慮』──しかし、自らの無理は勘定に入れない辺りがお馴染み『蛮勇者ライ』の本領発揮と言えよう。
因みに最終的に失敗した場合は、メトラペトラによる転移で脱出する予定となっている。流石のライも人命が関わらない場合は、そこまで無理をするつもりは無いとのことだった。
そして半刻後──ライも魔石を回収し終え、いよいよ脱出計画の開始となる。
「お主らは脱出を済ませたらカヅキ道場に向かうが良い。ワシらは脱出後、麓で待つモンドに報告してから後から追う」
『わかりました……皆さん、ありがとう』
「何……ワシも三百年封印されていたクチよ。退屈さは理解しておる」
『……大聖霊』
それが今回メトラペトラが親身に行動した理由なのだろう。同じ高位霊格存在であることも共感の理由と言えるが、メトラペトラ自身はライの悪い癖が感染ったとしか思っていない。
「準備は良い?」
『何時でも大丈夫です』
「ワシも大丈夫じゃ」
「ライ様……無理はなさらないで下さいね」
「わかってるよ……ありがとう、トウカ」
鉱山での暮しを望んだトウカ……その理由の半分は間違いなく“ わがまま ”だった。しかし、ライにとってはトウカの来訪に救われた面もある。
特に食事はライが作るより遥かにマシなものだった……。
何より心配をしてくれたからこその鉱山来訪。最低限整えたとはいえ、一国の姫が足を運ぶ様な環境ではない。
そんな鉱山暮らし。実はトウカ自身はしがらみの無いこの生活を気に入っていたのだが、皆には内緒にしている様である。
「じゃあ、行きます!」
予定通りコハクを纏装で包み巨体の枠を構築。その間に霊獣の身体を小型化し、入れ替わりにコハクを模した分身体を作製。
「ぐぉっ! お……重いぃぃっ!?」
続けて分身体を石化したが、石の密度の違いから圧縮崩壊が始まる。
「や……ばい、ヤバイ、ヤバイ!」
「やはり分身体の石化では強度が足りぬか……」
『私も力を……』
コハクは支援として分身体の石の質を変化させる。玄淨石には及ばないが、石を鉄鉱に変化させた。
これは魔法ではなく方術。コハクは脱出前に自らの居た空間に陣を敷いていたのだ。更に大地隆起の魔法を掛け合わせ、鉄鉱の柱を生み出し岩山を支える。
『……も、もう少し』
「い、いや……コハクは無理しないで脱出……してくれ……」
『しかし……』
「後はワシが何とかする。行けぃ!」
『……すみません。お願いします』
コハクはトウカの傍に素早く移動し背中に乗せると、坑内を風のように駆け出した。そのまま高速で鉱山を脱出、大空へと翔ける。
金毛を纏い九つの尾を持つ狐──それが霊獣コハクの姿……。
『空飛ぶ狐の背に乗る少女』の噂が広がり鉱山付近に神社が建てられるのは、これよりしばし後のことである。
「奴らは無事脱出したぞよ?」
メトラペトラの報告を受け、ライは安堵の表情を浮かべる。
「そう…ですか……」
「無理そうなら転移で逃げるのも策じゃぞ?」
「了解…っす……」
ライは全能力を解放。チャクラを開き褐色の肌に変化したが、かなり厳しい様だ。
魔力を全開で放出し続けている状態をその後半刻近く……。費やしているのは石化した分身体の強化。コハクに倣い、岩ではなく鉄鉱に変化させているのだ。
今回は集中が必要だったので分身による魔力補充等は一切出来ない……。やがて魔力が尽き始めた頃、ようやく空洞を埋める分身の鉄鉱化を成功させることが出来た。
だが……。
「まだ強度が足りないのか……メトラ師匠。全部出し切るんで倒れたら転移お願いします」
「お主が素直に頼むのもまた珍しいのぅ……が、わかった。安心せい」
「は、はは……いつもスンマセン」
「せめて犬公と契約出来ていれば【創造】の力で容易く成功したんじゃろうがの。全て上手く行くなど有り得んのが普通じゃ。それを忘れてはならんぞよ?」
「……肝に銘じます」
メトラペトラの忠言に苦笑いしているライ。しかし内心は『毎度上手く行っている訳ではない』と思い返していた。
久遠国に来た際は招かれたのに化け物呼ばわり。初めて指導者紛いのことをやってもリンドウとシギを予定の強さまで鍛え上げられなかった。
初めて手に掛けてまった『善人』ヤシュロ……その夫ハルキヨも救うことも出来ず、ヤシュロの子は産まれながらに天涯孤独にしてしまったことはライにとっての大きな挫折とも言える。
クローダーを救う方法──更に未だ遭遇していない大聖霊は見付からない。更に、豪独楽領主ジゲンとの手合わせにもほぼ完敗だった。
そんな後悔ばかりが脳裏を過る……。
(いつだって力が足りないんだ……)
恐らく、今のロウド世界でライと渡り合える者はそう多くない。だが、ライの胸中はいつだって失うことの不安で溢れていることをメトラペトラは知らない。
「うおぉぉぉ━━っ!」
気合いを入れ直し、自らの魔力を絞り出すように放出。鉄鉱化した分身に更に性質変化を加え密度を上げる。
あと少し、あと少しとライが粘り続けていた間、鉱山周辺には地響きが長く続いていた。
やがてライは遂に力尽き、メトラペトラは転移を発動。両者はそのまま鉱山から姿を消した……。
途端、鉱山は崩落を始める。
だが、それは一瞬──。揺れは直ぐに収まり、鉱山は僅かな岩崩れを起こしたのみで大規模崩壊は免れた。
「………。大聖霊殿のお陰……または聖獣殿とその背に乗った女仙のお陰か……」
安全な麓で見守っていたモンドは大きく唸っている。
報告に現れたメトラペトラは詳細を伝えことはなく、コハクの無事のみを告げると慌てたように去っていった。故にモンドには真実など分からない。
しかしながら、鉱山が無事であるならばそれは大きな幸運……。モンドは大いに喜んだ。
念の為その後しばらく山を観察したモンドは、鉱山崩壊が起こらずに済んだことに安堵しつつ王都へと帰還することにしたのである。
一方、カヅキ道場に帰還したライとメトラペトラ。
力を使い果たし微睡みの中にいるライは、どこからか聴こえる声に耳を傾けていた。
それは柔らかな女性達の声……。まるで歌の様にも聴こえるその会話は、ライに時間や疲労を忘れさせる程に優しさを携えている。
「倒れるまでやる必要は無いと思うのじゃが……懲りん奴じゃのぅ」
『それだけ久遠国はライにとっての大切な場所なのでは?』
「そうならば……私は嬉しいです」
女性の声の正体はメトラペトラとトウカ、そしてコハク。カヅキ道場の庭先で交わされている会話だが、リクウとスミレの姿は無い。
場所はライが修行している際にトウカが見守っているいつもの縁側。丁度暖かさを感じ始める時間だった。
「さて、どうじゃコハク。自由になった感想は……」
『やはり空が見えるのは良いですね。地上は鉱山地下より魔力が溢れていますし、調子も少し楽になりました』
「良かったのぅ……で、これからじゃが、この後は以前話した『御神楽』に案内しようかと思うのじゃが?」
『はい。身体が安定するまではお言葉に甘えようと思います』
ラカンには既にライが連絡を付けている。恐らく今回の経緯も御神楽から見ていたことだろう。即時、御神楽からの使いがやって来ることは間違いない筈だ。
と……そんな中、母屋の方角から漂う香ばしい香りが……。
スミレは皆の為に食事を用意しているらしく、思わずライの空腹の虫が反応する。
「う……ここは……?」
「カヅキ道場じゃ。転移して来たのは……やはり覚えておらんかぇ?」
「はい……結局、鉱山はどうなったんですか?」
「うむ。一部の崩落だけで済んだ様じゃ。恐らく微妙な隙間分、崩れたのじゃろうな。新たな整備は必要じゃが鉱山は維持出来るじゃろう」
「そうですか……良かった」
安堵の色を浮かべるライ。その時、またしても後頭部に感じる幸せな感触に気付いてしまった……。
「……ト、トウカさん?」
「何ですか?」
「何故トウカさんは、いつも膝枕をしてくれているんですか?」
「……お嫌でしたか?」
「いや……嫌じゃなくて幸せなんだけど、初めて会った日もしてくれてたから」
リクウとの蟠りを解いたとはいえ、まだ知り合って日が浅いライに膝枕をすること自体が不思議だった。
だが、トウカはこれと言った羞恥も見せずにハッキリと答える。
「御母様がよく御父様にこうしていたものですから、よくお休みになれるかと思いまして……」
「……ありがとう。かなり楽になったよ」
「ウフフ……そう言って頂ければ嬉しいです」
トウカは屈託の無い笑顔を向けている。初めてカヅキ道場に来た時には、これ程の明るさは無かった様に思える。
それはトウカの心境が大きく変化したことを意味していた。
だが……カヅキ道場には奴が居ることを、ライはすっかり忘れている……。
「ほほう……これはこれは勇者殿。随分とお疲れの様ですなぁ? トウカを膝枕に使うとは、これはまた羨ま……いや、大それた御身分なことで」
「リ、リクウ師範!?」
「師匠を殴るわ、トウカを侍らせるわ……そんな下衆勇者は私の手で永遠の眠りに誘って差し上げましょう!」
スッと抜いた刀を平正眼に構え、横たわるライの腹部に向けたリクウ。怪鳥の様な掛け声を上げると一気に刺突を放つ。
反射的に身体を捩ったライは一足飛びで距離を取ったが、ライが元居た場所に深々と刺さる刀が見えた。引き抜くリクウの顔は獲物を狙う猟師の顔である……。
「ちっ……。巧く躱しおったか……」
「ちょっ……ちょ、ちょっと! 師範! 洒落になってないですよ!?」
「師範? はて……? 私には今、弟子は居ない筈だが?」
「な、何言ってんですか! 居るでしょう、目の前に……」
「ん~? おお! 貴様は私を殴った上に『弟子を辞める』と宣言した異国の痴れ者ではないか? ここで会ったが百年目……その首、サパッと刈ってやろう」
「………あ、ヤベェ」
確かにライは『弟子を辞める』などと口にしていたが、それはリクウを危険に遭わせぬ為のもの。事実、コハクを解放することは間違っていないと思っていた為、後悔はしていない。
後悔はしてはいない……のだが、反省はしていた。確かに調子に乗り過ぎた自覚はあるのだ。戻ったら謝罪するつもりだったが、まさかその前に先制攻撃をされるとは思っていなかった……。
「ス……スミマセンでした!」
「あぁ? スマンで済んだらお役人は要らねぇんだよ、この戯けが! グダグダ言ってっとぶっ殺すぞ、ゴラァ?」
まるで荒くれ者の仕草を見せているリクウ。いつもの佇まいは見る影もない。
「うっ! じ、じゃあどうすれば……」
「………わが刃の錆になるか、または腹を切るしか有るまいな」
「それじゃ【死あるのみ】じゃないですか!」
「うっさいわボケ! テメェで考えろ、クソが!?」
「くっ……!」
トウカが止めに入ろうとしたが、メトラペトラはこれを遮った。師弟関係のことに割り込むのは筋が違う、ということらしい。
それに、メトラペトラはリクウが本気ではないことを見抜いてもいる。
「さぁ……異国の痴れ者よ。覚悟は決まったか?」
「わ、わかりました」
庭に出て膝を着いたライはそのまま土下座をした。
「師匠に向かっての数々の無礼、誠に申し訳ありませんでした! この通りです!
お赦し下さい!」
「……………」
「お願い出来ますれば、どうか偉大な師範の元で精進を続けたいと思います。何卒、お許しを!」
『偉大な師範』の部分で口許が弛んだリクウ。だが、今回はチョロリといかずに沈黙を保ったままだ。
「師範の様な偉大な方で有ったからこそ、未完成ながらも天網斬りを修得出来たのです! どうか! 平にお願い致します!」
地面に頭を着け謝罪を続けた甲斐あってか、ようやくリクウが言葉を発した。
「そこまで言うならば、今後は師に対する無礼を改めるか?」
「無論です。二度と師範に無礼は働きません!」
「今後は口答えも許さぬ! わかっておるか?」
「何なりと!」
「ふむ……仕方無いな」
安堵したライが顔を上げリクウの顔を確認した時、そこにあったのは今まで見たことの無いようなリクウの笑顔だった。
「で……では……」
「だが、断る!」
「えぇ~っ……」
もうお手上げ……。ライが諦めかけたその時、リクウの頭をひっぱたく人物の姿が……。
「何をやっているんですか、父上?」
「おお……ス、スイレン! 良くぞ戻った!」
「良くぞ戻った! じゃないですよ。何事ですか、これは……」
「む? こ、これは弟子の躾けをだな……」
流石のリクウも実の娘にはタジタジの様である。
「それより……母上から聞きましたよ? ライ殿からあの凄い金額を巻き上げたままだって……何のつもりですか?」
「巻き上げたままとは人聞きの悪い! あれは一時預かっているだけだ!」
「預かっている………わかりました。まさかとは思いますが、大金を預かりながら破門などということはしていませんね?」
「無論だ! 私とライは大の仲良しだぞ? ほら、こんなに仲が良い」
ライを引き起こしたリクウは、ライの首に腕を回し笑顔で肩を組んでいる。
「ど、とうだ? 仲良しだろう?」
「………その割にライ殿は笑っていませんが」
「な、なぁに! ライは照れ屋なだけだ! ほら、笑顔にならないとスイレンが勘違いするだろ?」
「うっ! そ、そうだよ、スイ……うっ! ……スイレン、ちゃん?」
必死なリクウ……。しかし、内心不満があるらしくスイレンから見えないライの脇腹に小刻みに拳を喰らわしている。
それを背後から見ていたメトラペトラ達。霊獣であるコハクも含め白目を剥いていた。
「では、『弟子いびり』していた訳ではないのですね?」
「しつこいぞ! 我々は良き師弟! 今後とも懇切丁寧な指導してやろう! ハッハッハ!」
「…………」
リクウは高らかに笑いながら母屋の方角に去っていった……。しかし、ライは知っている。スイレンから見えない位置に入ったリクウは唾を吐いていたことを。
「………助かったよ、スイレンちゃん」
「いえ。父はあんな性格ですから素直にはならないでしょう。母から聞いた感じではかなり心配していたみたいですよ?」
「そ……そうなんだ……」
去り際にライだけに聴こえる小声で『チクったら殺す』と吐き捨てた姿からは、到底想像も付かないことである。
「それで……スイレンちゃんが御神楽への案内役?」
「はい。
「今日はゆっくり出来るの?」
「はい。少しお話もありますので……」
トウカに向かい頷いたスイレンは、そのままコハクに近付き礼儀正しく挨拶を交わすと御神楽での決まりを説明し始めた。
その間にトウカはライの傍に移動し、縁側に座るよう促す。
「また膝枕しますか?」
「う~ん……し、師範に見付かるとまた面倒だから。も……もしお願い出来る時は何かのご褒美ということで……」
「ウフフ……わかりました」
トウカは微笑みながらスイレンに視線を向けた。
同時にメトラペトラは定位置であるライの頭上に移動。周囲に聴こえぬよう念話で語り掛ける。
(良かったのぅ、ムッツリよ)
(……せめて名前で呼んで欲しい……)
(良かったのぅ、ライムッツ~リよ)
(くっ……も、もう良いですよ)
精神疲労は魔力が回復しても微妙に後を引く。ライは眠気を伴う気だるさでどうでも良くなった。
「トウカは……スイレンちゃんと……幼馴染みなんだっけ?」
「はい。今でも仲が良い友人です」
「そう……。俺にも……居るよ……。今頃……何して…るか……な……」
「……ライ様?」
船を漕ぐ様にウトウトと始まったライ。その頭上から降りたメトラペトラは、下から顔を覗き込んだ。
「駄目じゃな……完全にお寝むじゃ」
「……余程お疲れなのですね」
「……まるで子供じゃな。これが古の魔王を撃退した男と聞いて、お主は信じるかぇ?」
「ウフフ……それこそがライ様なのでは?」
「まあ………そうか……そうじゃな」
そのまま再び眠りに落ちたライは、二日間は目を覚まさなかった……。
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