第四部 第五章 第十四話 しばしの別れ
魔の海域から宝鳴海、龍玉海を経由し、篝火海に辿り着いた勇者ライ御一行──。
時刻は夕刻。カジーム国から出立した海王が世界の半分にも至る距離を泳ぐに要した時間は、僅か一日足らずという尋常ならざる速度だった。それは、リルが如何に久遠国に戻りたかったかの顕れでもある。
「おっ?海賊の島に船があるぞよ?」
「ライドウさんとスズさんですね。甲板で手を振ってますよ」
「他の者の姿が見当たらないのぉ?」
「多分、港に居るんじゃないかな……とにかく行ってみましょう。リル、ゆっくりだぞ?」
「おぉ~!」
船に近付き互いの存在を確認したライは、リルを抱え久遠国の船へと飛翔。途端、リルはスズの胸元に飛び込んだ。
「すず!すず~!」
「リルちゃん!本当に良かった……怪我はない?」
「だいじょうぶ!」
実に嬉しそうなスズの姿を見たライドウは、ようやく肩の荷が下りたといった顔をしている。
「スズは殆ど寝ておらんのだ。これで一安心だな」
「スミマセン、ライドウさん。色々とありまして少し遅れました……」
「ハッハッハ。見れば何となくは分かる。………髪、すっかり白くなってしまったな」
「ハ……ハハ。何せ魔王と戦って来たので……」
「魔王……か……」
メトラペトラをチラリと見たライドウ。だが、メトラペトラは肩を竦め首を振っている。
「本当のことじゃよ。まぁ、リルが直接狙われた訳でないのが救いじゃな。じゃからこそ無事に帰れた。運が良いのか悪いのか……本当に良く分からん」
「ま……終わり良ければ、ですよ。これでリルは安全に過ごせる訳ですから」
そしてライは、改めてライドウに向き直り深々と頭を下げる。
「……ライドウさん。こんなお願い不躾なのは理解しています。ですが、どうかリルのこと『養子』という形でお願い出来ませんか?」
「……………」
「リルは魔物です。だけど、あなた達の元に帰るのが凄く嬉しそうだったんです。養子が駄目でも……何年かだけでも良いんです。どうか、リルを……」
膝を着き土下座をしようとライが手を床に伸ばした時、ライドウはそれを慌てて止めた。
「リルはライ殿の家族だからと私は迷っていたのだが、スズが切実に頼むのだ……。だから、ライ殿がそれを承諾したら我が子として育てようと決めていた。まさか先に頼まれるとは思わなかったが……」
「じ、じゃあ……」
「私達の方からお願いする。リルを預けてくれまいか?不自由はさせない。愛情をもって必ず立派に育てる故、任せて欲しい」
「……は、ははは。よかった~」
心底安堵の色を浮かべるライの頭にメトラペトラが着地した。
「言ったじゃろ?心配要らぬと」
「でも、不安だったんですよ。スズさんと過ごすリルを見て母親が必要だって分かっていたから、断られたらどうしようかと……」
「お主も鈍いのぉ……。スズの取り乱しようを見れば分かるじゃろうに」
「いや……俺、それ見てない」
「………そうじゃったな」
リルと同時に転移したライは、当然スズの慌てぶりを知らない。そこでライはメトラペトラの醜態を思い出した。
「………そういやニャン公。あの時、うぬは何していた?」
「……ニャニャン?」
「くっ……ま、まあ良いですよ。今日はリルに両親が出来た喜ばしき日ですから」
「お?そうと決まれば宴じゃ、宴!」
「まだ呑むか……酒ニャンめ」
ライドウ側もリルの無事帰還を前提とした宴を用意してあるらしく、一同は百漣島に移動することとなった。
場所を百漣島にしたのは、人の多い本土側よりも落ち着けることを考慮した故らしい。
「ライさん!お帰りなさい!」
「ホオズキちゃん。心配させてゴメンね」
「大丈夫です。ホオズキ、無事と信じてましたから」
「流石はホオズキちゃん。エライエライ」
「むぅ~……不満ですが、今回は特別に許してあげます」
百漣島で待っていたホオズキは宴の為の料理を作っていてくれたらしく、割烹着を着たまま駆け出して来た。不知火領主の庵から結構な距離だが、そこは魔人。物凄い速さで駆け抜けた姿が目撃されている。
「あれ?スイレンちゃんは……?」
「一度【御神楽】に帰りました。明日の朝には戻るそうです」
「そっか……。じゃあ、どのみち今日は御厄介にならないとね。ライドウさん……ジゲンさんも見当たりませんが……」
「ジゲンはライ殿の無事を疑っていなかったからな。大人しく豪独楽で報告を待つとのことだ」
「そうですか」
ライ達が急に消えたにも拘わらず動じない辺りにジゲンの器の大きさを感じたライ……。いつかディルナーチを離れる際には挨拶に行こうとライは決意した。
「それにしても髪が……いえ、眉も睫毛も真っ白になってますね。ライさん」
「う~ん……ま、まあ死にかけた訳だし……」
「よし!では、その話を酒の肴に今夜は呑むぞぉ~?」
「……人の苦労を肴にするな、酒ニャンコ」
船着き場から移動した一同だったが、辿り着いた領主の庵前には多くの島人が集まっていた。
「お……?勇者殿のご帰還だ。皆、祭りだ~!」
「やれやれ。舟着場に人が居らんと思ったら、こんな場所にいたのか……」
「で、でもライドウ様。折角なら皆で祝った方が……」
「良い。責めている訳ではない。酒はジゲンが持たせてくれた。皆、存分に飲め」
流石は領主様!と島民は歓声を上げる。
始まった宴は、以前と同様に賑やかなものとなった。相撲、呑み比べ、踊りなど完全に祭りの様相である。
それでも以前と違うのは、夜中前には自主的に解散となり全員が帰路に着いたことだろう。
どうやら島民は、前回の醜態でライドウ共々スズのお叱りを受けたらしい……。
そして現在──。
ライ、メトラペトラ、ライドウは、温泉に浸かりグッタリと脱力している。
「あ~……やっぱり久遠国の温泉は効くぅ~」
「ハッハッハ。そういって貰えれば嬉しい限りだ。……それで、魔王とやらと戦ったのは本当か?」
「……本当です。とんでもなく強い奴でしたよ。完全に負けました」
「負けた?それでよくぞ無事に……」
温泉の湯で顔を洗ったライは、少し悔しそうに語り始める。
「一人じゃ勝てませんでした。助けられなければ間違いなく死んでましたよ。本当は自力で勝ちたかったんですけどね……」
「……生きていたなら、そんな自分を超えれば良い。その為にもディルナーチに戻ったのだろう?」
「そうですね……。ライドウさん、『認可状』ってまだ嘉神にあります?」
「いや。不知火に戻ったらリンドウの奴と鉢合わせてな……認可状を持って来ていた」
「……どうでした、リンドウは?」
リンドウが不知火を離れて
「フフ……口が悪いのは相変わらずだったが、何というか『芯』が入った様なそんな佇まいだったな」
「きっとトウテツの姿を見ているからですよ。あの若さであれだけしっかりしている訳ですから。俺も見倣わな」
「無理じゃな……それはお主ではなく、偽者じゃぁ~っ!!」
言葉を遮る酒ニャンコ。しかし、ライは事実を指摘されて反論出来ない……。
「ぐっ……ええ、悪うござんしたね、痴れ者で!」
「ハッハッハ。ライ殿は領主という訳ではないのだ。自分なりの成長を目指せば良い、と私は思うぞ?」
今のライだったからこそ救われた者も居る。それは、救った側であるライには分からないことかも知れない。
「リルのことは国王に報告せねばならぬ。私も王都に向かおうと思うのだが……」
「それは不要でしょう。俺が明日、王に直接頼んで来ますから。しばらくはリルと一緒に居てあげて下さい」
「そうか……。ライ殿。実はもう一つ、隠していることが……」
「待った!多分、それを聞いたら俺は行動を迷います。それはライドウさん達の願いにとっても俺にとっても良いとは思えません」
ライは飽くまで自分の意思で行動するつもりだ。先を知って行動したのでは判断に迷いが生じないという保証もない。
「わかった……感謝致す」
「感謝するのは俺の方ですよ。リルのこと、改めてお願いします」
「ああ。任せてくれ」
そしてその後もライドウ達と語らい、百漣島の夜は更けていった……。
翌朝──支度を整えているライは、再びディルナーチの衣装に身を包んでいた。
同じ袴でも素材の出来が違うだけでなく、凝った刺繍までが施されていた。
それはライドウがライの為に用意したもの。感謝と親愛を籠めた贈り物だった。
「以前より随分と高そうな服なんですが……」
「この間は兵の訓練着だったのでな。今回はライ殿の為に誂えたものだ。王との謁見にも必要だろう?」
「ありがとうございます。でも、またボロボロになっちゃうかも知れませんよ?」
「構わんさ。一応代えも用意してあるから持って行ってくれ」
風呂敷の中には代えの服、金子、書状が包まれている。更に……。
「これを持って行ってくれ。我が領内に存在した腕利き鍛治師の作だ。ライ殿は長刀より小太刀を好むだろうとジゲンに言われたのだが、良かったか?」
「これは……ありがとうございます。大事に使います」
「この程度のことしか出来ぬのが歯痒いな……。だが、我が不知火はライ殿のもう一つの家と考えて貰えれば幸いだ。修業、上手く行くことを願っている」
「ありがとうございます。修業を終えたら……必ずまた来ます」
ライはスズに抱かれたリルの頭を撫で顔を近付ける。
「リル。これからはライドウさんとスズさんがリルのお父さん、お母さんだ。いっぱい甘えて良いけど、ちゃんと言うことも聞かないとダメだぞ?」
「ライ……」
「ちゃんと戻ってくるからそんな顔しないの。ライは少しお出掛けしてくる。リルは良い子にしている。わかったか……?」
「うん。わかった」
「スズさん。どうかリルをよろしくお願いします」
「はい。大事な……我が子ですから」
ライは満面の笑顔を浮かべた。リルが良き両親を得たのだ。別れを惜しむ必要は無い。少なくとも今は一時の別れなのだ。
刀を腰に携え庵の外に出れば、丁度スイレンが飛翔する姿が見えた。
「そろそろ行きます。それでは、また……」
「ああ。また会おう」
「行こう、メトラ師匠。ホオズキちゃん」
「うむ。ライドウよ……またの?」
「大聖霊様もお元気で」
ホオズキを抱えたライはそのまま一気に飛翔し振り返ることはなかった……。
不知火の領主夫妻と百漣島の島民達は、その姿が見えなくなるまで手を振っていたという……。
「ライ殿。ご無事で何よりです」
「心配かけてゴメンね、スイレンちゃん」
「いえ。では王都まで向かいますか?」
「その前に寄りたいところがあるんだけど、大丈夫?」
「それは構いませんが……どちらに?」
「嘉神領にちょっとね」
認可状を既に所有しているライには、嘉神に向かう必要は無い筈……そう考えたメトラペトラは、ライの頭上で疑問を投げ掛ける。
「何の用じゃ?リンドウやトウテツに何かあるのかぇ?」
「師匠、忘れてますね……卵ですよ卵。ヤシュロの卵を回収しないと……」
「む……?忘れておったわ。じゃが……それは、まだ孵らぬ筈じゃろう?」
「修業がどんだけ掛かるか分からない訳ですから、信用出来る場所に預けないと」
「しかし、一体何処に預けるつもりじゃ?」
ライはスイレンに顔を向けるとニンマリ笑った。
「そりゃあ、魔人管理の専門家に預けるのが一番でしょう?」
「成る程……確かに適任じゃな」
『卵から孵る』という特殊な誕生をするヤシュロの子は、生まれながらの天然魔人である可能性が高い。魔人であるならば御神楽が保護するのが最適。もて余す様なことにはならないだろうと判断したのだ。
「わかりました。頭領に改めて聞いてみましょう」
御神楽頭領のラカンは、恐らく自らの存在特性『未来視』でライの思惑を見抜いている筈だ。とにかく一度、ラカンに顔を見せる必要がある。
その後ライ達が向かったのは『嘉神の隠れ里』から更に南にある小高い山の中。
緑と水、そして生命に恵まれている場所をヤシュロが選んだのは、自分に何かあった際を考え最低限の環境を用意したのだろう。
「こんな場所に隠しおったのかぇ?無事生まれても、これでは動物としての暮らししかあるまいよ」
「本当は自分で回収するつもりだったんでしょう。俺達がディルナーチに居たことで回収することを危険に感じたのかも……」
「結果、危険と警戒されていたワシらがヤシュロの卵を託された……か。皮肉な話じゃの」
「…………。こっちです」
ライの胸ほどもある茂みを掻き分け進む中、ホオズキが困った様に声を上げた。
「ライさん。降ろして下さい。ホオズキ、歩けますよ?」
「……あ、ごめん」
飛翔した際抱き抱えていたホオズキを下ろさず、ライはそのままに森を進んでいた。リルを抱える癖がまだ抜けていないらしい。
「でも、わりと藪が深いからホオズキちゃん迷子になっちゃうかも……」
「なりませんよ!ホオズキ、子供じゃありません」
「……わかった。じゃ」
ホオズキをゆっくりと下ろし手を離したライは、再び歩を進める。だが、その僅か後……。
「ライ殿、済みません。ホオズキ先輩が……」
「ん……?どしたの?」
スイレンの声に振り返って確認してみれば、ホオズキの姿が見当たらない。よく見れば茂みは不自然に揺れて何かが移動している。
「ホオズキちゃん、ストップ」
「!……な……何ですか?」
「………どこ行くの?」
「ホ、ホオズキ、迷子になんてなってませんよ?」
藪にスッポリ隠れたホオズキは完全に方向を見失っていた……。
「……………」
「……………」
「……ごめんなさい。助けて下さい」
「ちゃんと謝れるホオズキはお利口さんじゃな?」
「ホオズキ、子供じゃないですよ!」
「えっ?う、嘘じゃろ……?」
「御神楽での話は忘れたんですか、メトラさん?」
「うん、忘れた」
「な……何ですとぉ!」
腕を振り上げ怒っているらしいホオズキ……しかし、藪に隠れ腕しか見えない。ライは苦笑いしながらホオズキを抱え上げ、再び藪を進み始める。
一同がやがて辿り着いた場所は、森の切れ間にある大樹……。一本だけ聳える樹木は確かな存在感で青々と繁っている。
「此処にあるんじゃな……?」
「はい。この樹の周辺には結界が張ってあって上空からは見えないんです。この樹に辿り着くのも道順があって……」
「随分と手間を掛けておるのぉ……それが親の愛とも言えるのじゃが」
「そう……ですね。さて……」
いつまでも悔やんでいる場合でないことはライも理解している。だからこそ、強くなる為に王都へ向うのだ。
改めてホオズキを下ろし大樹に近付いたライは、ヤシュロの記憶に従い結界を解除。
大樹の根本には草花に包まれた白い卵が置かれていた。
大きさは何とか片腕で抱えることが出来る大きさ。重さはリルと変わらない程だ。
「ホオズキちゃん。これ、持ってて貰える?」
「えっ……?は、はい。わかりました」
手渡された卵をしっかり両手で抱えるホオズキ。そうしなければ抱えられないのはホオズキの小柄さ故だか、命の重みを無意識に理解しての行動でもある。
「じゃあ、行こうか。ホオズキちゃん、卵を離さないでね?」
卵を抱えるホオズキを更に抱え、ゆっくりと飛翔し始めるライ。自然とお姫様だっこの体勢になっている。
「スイレンちゃん。御神楽は下からの飛翔じゃ行けないの?」
「はい。結界があるので実際は“ 門 ”からしか入れません。一番近いのは鎖霧山脈ですね」
「そっか。じゃあ行こっか」
スイレンを先頭に飛翔することしばし……数日前に通った谷を抜ければ、再び御神楽の空へと繋がっていた。
「今回は許可を頂いているので、このまま頭領の社に向かいます」
「それは有り難いね。下を歩くのも結構骨が折れるし。ホオズキちゃんもそれで大丈夫?」
「はい。問題ないですよ」
最上層、頭領の社にてラカンとの再開。が、ラカンは少しばかり呆れ顔に見える。
「ライよ……お前はいつもあんな行動をしているのか?」
「へ……?何の話ですか?」
「魔王アムドのことだ。何故メトラペトラを頼らない……」
「それは……」
或いはメトラペトラが居れば魔王アムドを仕留められたかも知れない。しかし、メトラペトラといえど無事にとは行かなかっただろう。
ライは自らの異常な回復力を自覚している。そして同時にメトラペトラ本来の力ではないことを不安に感じていた。
本来……大聖霊の存在格は『聖霊体』だという。そのままであれば肉体損傷などは簡単に癒せるのかも知れない。
しかし、今は格下に当たる『半精霊体』の身体………。
それは『格』としてはライやマリアンヌと同種。そしてメトラペトラ、フェルミナの大聖霊二人は、再生能力が突出している訳ではないのだ。
ライにはそれが大きな不安要因だったのである。
「ラカンよ。此奴は自分以外が傷付くことを死ぬほど嫌う。故にここまで成長したのじゃ。ワシは半分諦めておるよ」
「しかしな……。あれでは、いつか本当に……」
ラカンは盛大な溜め息を吐き言葉を止めた。メトラペトラが容認しているのであれば最早余計な詮索でしかない。
「わかった。だが、ライよ……俺の期待を忘れてくれるなよ?」
「わかってます。……ところで、どうしてペトランズ大陸のことまで?」
「この島は元々、神の持ち物だ。地上の異変を把握し見通す程度の機能はある」
実はライが魔王と戦っていた際、あまりの歯痒さに加勢に出ようとしたラカン。結局は側近に止められたことをスイレンは知っている……。
「成る程……じゃあヤシュロの卵のことも見てましたか?」
「それは『未来視』で見ていた。無論、御神楽で引き受けるのは構わない」
「良かった……。一応目覚めるのはかなり先みたいですが、念の為預けておこうかと……」
「お前の修業が終わるまで卵は孵らない。安心しろ」
「………それも未来視ですか?」
「さてな……だが、どのみち何が変わるでも無いだろう?」
「まぁ……そうですね。ともかく、宜しくお願いします」
続いてライは、卵を抱えたホオズキに向き合うように座り改めて頼みごとを始めた。
「ホオズキちゃんも卵の面倒……頼めないかな?」
「ホオズキも王都に行きますよ!」
「う~ん……今回は集中して修業したいんだ。だから、気が散ると困る」
「ホオズキが居ると気が散るんですか?」
少し脹れっ面で涙を浮かべるホウズキ。そんなホオズキの頭を撫でながらライは話を続けた。
「気が散るのは卵が気になるからだよ。俺のせいで卵の親は死んだ。だから、どうしても無事に孵したいんだ。それを任せて安心出来る相手……ホオズキちゃんにお願いしたいんだ」
「ホオズキなら安心なんですか?」
「ホオズキちゃんの気配りは前に御神楽に来た時に見たからね。それに、御神楽の中じゃ俺のこと一番信用してくれてるだろ?」
「………わかりました。ホオズキ、信頼に応えます。ホオズキはライさんを待ってますからね?」
「うん。お願いします」
一方、メトラペトラはスイレンに近付き鈴型収納庫から巾着袋を取り出し手渡した。
「スイレンよ……。この中に飴が入っておる。ホオズキがゴネたら口に放り込んでやれ。但し一日五回までじゃ。良いな?餌付……ゴホン!巧く
「メトラさん!ホウズキ、愛玩動物じゃないですよ!」
「仕方ないのぉ……今日は特別じゃ。このペトランズ側で作り出された飴をやろう」
「いただきます」
キャンディを口に放り込まれたホオズキは、モゴモゴしながら歓喜の呻き声を上げていた……。
スイレンは思った。やはり餌付けされている、と……。
「ま、まあ、お願いが終わったのでそろそろ行きます。そちらの人も……出来たらで良いので、協力してくれると有り難いです」
ライの視線は部屋の隅に向けられていた。
「気付いていたのか……」
「今はこの『額の目』があるので何とか……それにしても凄いですね。こうして見えているのに、まだ気配が無い。凄すぎて寒気がしますよ」
「悪く思わないでくれ。ハヤテ、もう良いぞ?」
ラカンの許可でスッと現れたのは、中性的な顔をした男だった。
「ご無礼をお許し下さい……。私はハヤテ。こうして頭領の護衛をしています」
「謝らないで下さい。それは貴方の仕事……責める理由はありませんよ。ただ挨拶したかっただけなので、気に障ったら謝ります」
「いえ……気に障るなど……」
ハヤテは少し戸惑っている様だが、ライは嫌みの無い笑顔を向けていた。
「さて……それじゃあ今度こそ。期間は修業次第ですが、また来ます。あ……そういえば豪独楽の件……」
「ああ。望み通り、豪独楽には自称八人衆のロウガとフガクを送った。どうなるかまでは責任は取らんぞ?」
「ま、多分大丈夫でしょう。我が儘を聞いてもらってありがとうございました」
「何かあれば使いを送る。場所がスイレンの実家ならば来訪も問題は無いだろう」
立ち上がったライはメトラペトラに向かい残留の意志を確認した。
「メトラ師匠……ラカンさんとの酒は良いんですか?」
「修業を終えた時に来れば良かろう。その時は呑み比べじゃぞ?ラカン」
「おう。決着を付けてやる」
再度別れを告げ頭領の社を後にしたライとメトラペトラ。スイレンに案内され転移装置の部屋まで移動した。
目指す先は久遠国王都『桜花天』──。
「私は案内を終えたら一度御神楽に帰還します。今から転移する先は私の実家ですのでご安心を。御神楽でやり残したらことは無いですか?」
「うん、大丈夫。……お願いします」
「では、転移します」
ライは遂に久遠国王都へと足を踏み出す。王への謁見、天網斬りの修業、そして、また新たな出会い……。
勇者ライがディルナーチ大陸で過ごす日々は、更に濃厚なものとなってゆく。
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