第四部 第五章 第十話 神の遺産


 波に揺蕩たゆたい潮風が優しく頬を掠める中……子守唄の様にも聴こえる会話に促され覚醒を果たした勇者ライ──。


(……また眠っちゃったのか。何か強い相手と戦う度に寝てるな、俺)


 未熟……自分でも理解はしている。そう思った途端、先程マリアンヌに吐露した心情を思い出した。


 気恥ずかしさのあまり飛び起きそうになったが、気だるさと陽射しの気持ち良さに起きることが面倒になりそのまま狸寝入りを決め込むことに……。


 実は、マリアンヌによる膝枕というこの上無く幸せな状況を把握し少しでも長く堪能したい!という欲にまみれた心情が本当の理由なのだが、心の中で『チガウヨー、ツカレテンダヨー』と弁明しているのは秘密である。



 そんな『勇者むっつ~り!』は、膝枕の感触を堪能しながらも聴こえてくる会話に耳を傾けることにした。



「成る程……海王がそんなことになっていたとは。三百年前の魔王エイル・バニンズが解放され正気になったというのも驚かされたが……」

「で……どうするんじゃ?トシューラの艦隊を沈めた此奴を魔王認定するのかぇ?」

「いや……そんなことはせぬさ。だが……やはり、『トシューラ艦隊を殲滅した魔王』は倒されていることにした方が都合は良いだろうな。そうすれば、いつか勇者ライが公的な場に現れても別人ということで通せる」


 目を閉じていても、その声でメトラペトラとアスラバルスの会話であることは察しが付いた。

 どうやら怒りに任せてトシューラの艦隊を沈めたことが問題になっている様だ。


 余談だが、アスラバルスは既に聖獣との融合を解除している。


「だが、人死にも出ておる。エクレトルとしては本当に良いのかぇ?」

「我々は人同士の争いには関与しない。たとえ勇者ライが半精霊化していても、それは『準神格存在による』ということで通せば良い」

「……天使も随分物分かりが良くなった様じゃな」

「魔王アムド・イステンティクスを放置すれば更に大きな危機に繋がっただろうことは確実だ。そして、そのアムドを追い込んだのは勇者ライであることには違いない。それが意図せず戦ったものだとしても、な。功績を考えれば、その程度の配慮をしても釣りがくる」

「……ならば良い」


 どうやらメトラペトラはライの立場を心配してくれていた様である。流石は師匠!と感謝しているライは、後でたっぷり撫でてやることにした。


「それにしても……アムド・イステンティクスとはの……。一体誰が封印を解いたのかのぅ?」

「魔王アムドの生死確認も含め、それも調査するつもりだ。もし仲間が存在するならば、再び復活を果たすやも知れぬ」

「うぅむ……時にマリアンヌとやらよ。お主はどう思う?」


 ライの頭を撫でていたマリアンヌは、その手を止めしばし沈黙……その後、自らの考えを示す。


「魔王の消息は何とも言えません。ですが、生存の可能性を考え行動すべきでしょう」

「ふむ……で、具体的にはどうすべきじゃ?」

「各国連携は当然ながら、戦力強化の為の修行や武装強化も必要です。ですが……」

「……やはりトシューラ国が厄介かぇ?」

「はい……。彼の国と連携すれば少なからず情報も流れてしまいます。魔導具、内政、戦力、戦略など、情報次第ではトシューラ国に有利になる可能性がありますので……」


 だからといって大国を外すことは得策でも無いと言えよう。今回海王に向けたあの戦力や人員は、正しく使えれば各国の負担が大幅に減らせる。


「トシューラ・アステ両国は裏で同盟を結んでいるのは間違い無いでしょう。よってアステ国についても警戒を怠ることは出来ませんので、実質はシウト、トォン、エクレトルの三国同盟で対応を進めるべきです」

「ワシは国同士のことには興味ないからのぅ……その辺は任せるぞよ」

「……大聖霊よ。トシューラ・アステの関係で一つ伝えるべきことがある」


 渋い顔をしているアスラバルス。エクレトルの代表がそんな表情を浮かべている為、あまり良い情報ではないと察知したメトラペトラ。


 そして、予感は見事的中……。


「ニルトハイム公国を襲った魔王は三体。一体は魔王アムド、そして一体はアステ国境付近で討滅された。問題は最後の一体……無力化されエクレトルで回収する筈だった魔王は、何者かに奪われてしまった」

「魔王を奪ったソヤツが封印を解いた輩なのかの?」

「そこまでは……。ただ、エクレトルで痕跡を徹底的に調べ辿りついた先はアステの王都・ルードだったのだ。更にそこからトシューラの王都・ピオネアムンドへと向かっていた」

「それは……厄介じゃな」


 厄介なのは魔王そのものではなく、古の魔王の持ち得る智識である。カジーム国が争いを危惧し封印した知識や技術。そんなものがトシューラ国に渡ったのならば、更なる戦乱の種になってしまう。


「………時にアスラバルスよ。ベリド、という者を知っておるかぇ?」

「マリアンヌ殿から聞いている。が、過去の如何な魔王とも違う様だ。恐らく三百年内に生まれた魔人だろう」

「ソヤツもトシューラに居るらしいのじゃ。魔王二体が結託しトシューラに与すれば相当に危険じゃ。警戒だけではやはり足りぬ」

「うぅむ。しかし……どうすれば……」


 沈黙する一同……。そこでメトラペトラがピンと尻尾を立てた。


「味方を増やせば良い。それも古の魔王並の魔法を扱える国をの?」


 マリアンヌはメトラペトラの意図を逸早く察した様だ。


「味方ですか?………。それは、もしかして……」

「何じゃ、知っておったかのかぇ?」

「はい。現在、私の父とも言える人物が現地にて発展協力をしている筈ですので……」

「ほう……?それはもしや『魔導科学者』とかいう輩か?世間は狭いのぅ……」


 何やら認識疎通をしているメトラペトラとマリアンヌ。しかし、アスラバルスは情報が足りぬ為意図が把握出来ず首を捻っている。


「済まぬが何の話か聞かせて貰えるか……?」

「魔王エイル……いや、元・魔王エイルが帰還した国『カジーム』の話じゃよ。あの土地が再生を果たしたことはエクレトルも気付いていよう?」


 その国の名を聞いた時、アスラバルスの表情は俄に曇る。メトラペトラは当然そうなることを予想していた様で、敢えて触れることはしない。


 だが……アスラバルス自身はどこか後悔があるらしく、呟くように言葉を漏らした。


「……カジームには悪いことをした。我が国は人同士の争いへの関与を禁じられている。だがあの時、カジーム国が抵抗をしなかったのは【邪神】が力を増すのを避ける為だったのだ。せめてエクレトルに避難させるべきだったと今でも後悔している」

「……それでもレフ族は断ったじゃろう。あの者達は大地を守る意思が強い。防衛に徹し、追い込まれながらもあの地を離れなかったじゃろう」

「…………」

「まあ、後悔でも懺悔でも好きにするが良い。じゃが、今必要なのは過去ではなく未来に目を向けることじゃ。カジーム国の件、とくと考えておくことじゃな」

「そう……だな。了解した」


 レフ族が抗戦を始めトシューラ軍を撃退したことはアスラバルスも確認している。確かに味方にして申し分無い相手だろう、と改めてこれからの方策に組み込んだ。


「さて……では、大体の情報交換は終わったじゃろう。そろそろ其処の痴れ者を起こすとするかのぅ?けぃ!リルよ!」

「おぉ~!ライ~!」


 それまで海を跳ね回っていたリルは、大の字に寝そべるライの腹部へと飛び掛かる。


「ごはぁぁっ!」

「ライ~!ラ~イ~!」


 リルの頭突きが腹部に炸裂!ダメージを負ったライは、リルを抱えたまま悶え転げ回っている。


「ひ、酷いな、リル……折角最高の感触を満喫し……」


 リルを抱えながらそう呟いたライは、“ ハッ! ”としながら恐る恐る振り返る。そこには、冷たい目をしたメトラペトラが……。


「やはり起きておったんじゃな……?」

「ハハハ……ナンノ ハナシカ サパーリ ワカリマセ~ンヨ~?」

「くっ……この『勇者むっつ~り!』めが……!」


 大半の者ならイラッとくるであろう顔でしらばっくれる『勇者むっつ~り!』。まさにキング・オブ・ムッツリスケベの風格である。


「ま、まあ良いわ……話は付いた。そろそろ行くぞよ?」

「ちょっ!俺、途中からしか聞いてないんですが……」

「後で説明してやるわぇ」

「嫌だい!嫌だい!俺だって話したいことあるんだい!」


 寝転がり手足をバタバタさせ『駄々っ子勇者』と化したライ。隣ではリルが動きを真似ていた。明らかに教育に宜しくない……。


「わ、わかった、わかった……。少しだけ時間をやる。何が話したいんじゃ?」

「えっと……まずはアスラバルスさんに……」


 指名されたアスラバルスは真剣な面持ちで言葉を待っていた。


「何だ、勇者ライよ?」

「まずはお礼を。貴方が来なかったら俺は魔王アムドにやられて死んでました。助けて頂き感謝しています」

「いや……感謝するのは私の方だ。魔王アムドの件もそうだが、私の我が儘を聞いて貰った。そのせいで魔王を討ち漏らしてしまったやも知れぬがな」

「もし魔王アムドが出たら、その時はまた撃退すれば良いんですよ。ドンマイっス!」

「ハッハッハ!頼もしい限りだ。……そうだな、その通りよな」


 通常であれば、殺されかけた相手との再戦を口にするなど容易なことではない。アスラバルスはライの胆力を素直に感心している。


「そういえば、リルの件は……」

「大聖霊より聞いた。が、随分と大業なことをやったものだ」

「ま、まあ成り行きで……それで、お願いがあるんですが……」

「分かっている。知らぬこととはいえ囮に使うなど悪いことをしたと思っている。二度とこの様なことが起きぬよう手配しておこう。安心せよ」

「良かった……。リルは家族みたいなものですから。よろしくお願いします」

「魔物が家族か……本当に不思議な男だな」


 抱えたリルの頭を撫でながら安堵の笑顔を向けるライは、実力者としての威厳が見当たらない。それが益々アスラバルスには不思議に映った。


「それで、マリー先生……」

「何でしょうか、ライ様?」

「参考になるか分かりませんが、俺の持つ戦闘の記憶を一部渡したいんですけど……」

「それは有意義……ですが、宜しいのですか?」

「はい。あっ……メトラ師匠。魔法関連ですが伝授して大丈夫ですかね?」

「別に構わんぞよ?魔法は飽くまで技術で秘伝でも何でもないからのぅ……。ワシの力は概念じゃしの?ただ……」

「ただ……何です?」

「圧縮魔法はともかく高速言語はお勧めせんぞよ?あれを一気に流し込むのは脳に負担が掛かるからのぅ……」


 ライがマリアンヌに渡そうとしているのは、『高速言語』と『圧縮魔法』の記憶である。

 こと高速言語に関しては情報が膨大すぎて、人間では堪えることが出来ない。


 だが……。


「私は元魔導人形です。加えてフェルミナ様より命を与えられました。今の状態は“ 半精霊体 ”と言われたのですが……」

「何じゃと!?ど、どれ……」


 メトラペトラは、【視覚纏装】と併せ大聖霊の力でマリアンヌを調べ始めた。


「どうですか、師匠?」

「うぅむ……信じられん。マジじゃった……」


 ライ同様の半精霊状態……。『半精霊体』は正確には『魔人』よりも格は上である。魔人の特性『魔力製造』『身体強化』『回復力上昇』に加え、『寿命の限界延長』と『各許容限界の上昇』が加わる。

 要するに限界点が跳ね上がるのだ。


 『格上』とはいえ力には個人差が有り、魔人の中にもやたらと性能が高い者もいるので『魔人より絶対的に強い』訳ではない。魔人でありながらライを上回った魔王アムドがその最たる例と言えよう。 


「うむ……。これならば記憶の受け入れは可能じゃろう」

「良かった……けど、心配だから回数分けて渡します。一括だと死ぬ程キツイですからね」


 まだ魔人としてすら定まりきっていなかったライは、高速言語の情報を流され白髪が増えた。それ程に情報が膨大で負担が大きいのである。それをマリアンヌに与えない当然の配慮だ。


「じゃあ、行きます……」

「はい」


 マリアンヌと額を重ねたライは、八回に分けて『高速言語』の記憶を渡した。

 それでも半精霊化しているマリアンヌですら僅かに顔をしかめる程の負担──しかし、何とか無事に『高速言語』は伝えられた様である。


「圧縮魔法に関する記憶も渡しますが、少し休んで下さい」

「大丈夫……です。続けて下さい」

「駄目ですよ。フェルミナにも言ったんですが無理は良くない」


 無理しまくりのお前が言うな!とメトラペトラは心の中で突っ込みを入れている。言葉にしないのは最早諦めの境地と言ったところだろう。


「では、お言葉に甘えて……ありがとうございます」


 どこか嬉しそうなマリアンヌ。休憩の間はリルの相手をしていた。


「アスラバルスさんは……流石に使ってましたよね」

「高速言語のことか?私は永く存在しているのでな……天使が皆、使える訳ではない」

「そういえば、他にも聞きたいことがあったんです。フェルミナとメトラ師匠以外の大聖霊を探してるんですが、場所を知りませんか?」

「大聖霊……か。さて……力を観測しても大聖霊かまでは判別できぬのだ。大聖霊は封印や隠遁を心得ている存在でもあるから尚更だろう」

「そうですか……それじゃ、『存在特性』を自覚出来る方法とかは知りませんか?」


 この質問に、アスラバルスは残念そうに頭を振った。


「天使は生まれつき『存在特性』を把握しているのだ。故に自覚する方法は残念ながら分からぬ。が、ディルナーチにはそれを知る方法があると聞いた」


 結局、ディルナーチ大陸に戻るのが最善だということらしい……。


「済まぬな。力になれぬで……」

「いえ……あ、じゃあ最後にもう一つ。これって何なんですかね?」


 ライが指差したのは自らの額にある目……突然発生したそれは、国を消滅させる禁術すら飲み込んだもの。


「……やはり【目】、だったのだな。あの時は良く見えなかったが。それは何時から保有している?」

「魔王アムドと戦う少し前です。リルの身体を癒すのに回復魔法使いまくったらいきなり……」

「恐らくそれは……」

「ニャ……ニャンじゃ、そりゃあぁぁぁ~っ!!?」


 アスラバルスの言葉を遮る叫び──。


 メトラペトラはこの日一番の驚きを見せている。それはつまり『魔王アムド』より驚愕であることを意味していた。


「お……おぉ……」

「し、師匠……?」

「ア、アスラバルスよ……こ、これは……」

「うむ。間違い無いだろう」


 何やら大変なものらしいことだけは理解したライは、もどかしさと不安で一杯の表情だ。


「ヤ、ヤバイんですか、これ……?」

「いや、それは寧ろ驚くべき幸運じゃぞ……?」

「勿体付けずに教えて下さいよ!」


 メトラペトラは深い溜め息を吐いた。


「良いか?それは“ チャクラ ”という特殊な器官じゃ」

「チャクラ……って何です?」

「……数代前の神が持っていた力じゃよ。それ自体に宿る力は多種に渡る。『魔法増幅』『千里眼』『魔力貯蔵』『念話』……他にも『解析』や『封印』等もある」


 神の所持していた力……あまりに途方もない話に、ライは考えるのを止めた。


「わぁ~い……凄いや~……」

「………。そぉら!」

「びべらっ!」


 ネコ・テイルアタック炸裂。華麗に宙をスピンし海王の背でバウンドしたライは、そのまま海に転がり落ちていった……。


「全く……。しかし、コヤツ……本当に幸運だったことになるのかの?」

「どういうことです、メトラ師匠?」

「うぉう……お、お主!いつ海から戻ったんじゃ!」


 いつの間にかメトラペトラの背後で正座しているライ。しかし、海から上がって来た気配は無かった。


「フッフッフ。海に落ちていったアレ……そう!アレは『抜殻』!」

「…………」

「アレは脱皮した『抜殻』なのだよ!ぬわぁ~っはっは!」

「話、やめるかぇ……?」

「スミマセンでした。続き、是非お願いします」


 立ち上り妙なポーズを構えたのだが、姿勢正しく座り直した『海の上の脱皮男』。そのやり取りを見ていたアスラバルスは、これまで見たことの無い様な残念な視線を送っている。


 ライとメトラペトラにとってこんなやり取りなど日常と知れば、きっとアスラバルスは残念さのあまり聖獣と融合して眩しく輝くのではなかろうか……?


「チャクラは先程も言ったように『数代前の神』が所有した力じゃ。ただ少し変わっておってな?チャクラそのものに意思の様なものがあって適合者に宿るのじゃよ」

「意思……?宿る……?」

「正確には意思というより習性の様なものかのぅ……適合者の元に流れ着き、肉体に融合する。適合者が死ぬと離れて再び適合者を求め彷徨い続けるんじゃ」

「何それ、怖い……」

「数代前の神がこの世界を離れる時に残していったものらしい。元は『存在特性』じゃそうじゃ」


 神が更なる高みを目指しロウド世界を離れる際、世界を想って遺していった力──ということらしい。


「しかし、大聖霊よ……。通常は胎児の段階で宿る筈だが……?」

「ふぅむ……コヤツは普通からは程遠いからのぉ……。コヤツを普通と考えたら負けじゃ」

「……………」


 軽く数百年以上生きる大聖霊と純天使が微妙な顔で見つめ合うは様は、実に珍しい光景と言える。


「大聖霊の力は最初の神……創世神の力の分散。同じく神の力の一部たるチャクラは、それに引かれたのやも知れぬのぅ」

「じゃあ、得したんですね?やた~!儲けた~!」

「う、うむ………相変わらず軽ぅいのぉ」

「むむ?そ、そういえば『千里眼』……だと!そ、そんなの女湯が覗……」


 メトラペトラが“ シャーッ ”と威嚇した途端、ライはマリアンヌの元に文字通り翔んで逃げた。

 そして、そのまま圧縮魔法の記憶を見せる作業に戻る。


「くっ!全く……痴れ者め」

「フッ……大聖霊の中でも人嫌いの筈の貴公が随分と面倒見が良いことだ」

「見ていて飽きまい?」

「成る程……そういうことにしておくか」


 やがて作業を終えたライは今後についてをマリアンヌに伝える。


「俺は海王を連れてディルナーチ大陸に向かいます。そこで少し修行して来ますので、皆をお願いできますか?」

「はい。期待に沿えるように努力致します」

「無理はしないで下さいね、マリー先生」


 そしてアスラバルスに向き直り、ライは頭を下げた。


「俺の旅が本当に始まったのは神聖機構の【魔導装甲】を手に入れてからです。感謝してますよ」

「そうか……。ならばエルドナにそう伝えよう。それと、大聖霊の捜索も魔王探索と併せて行うことにした。あまり期待されても困るが……」

「いえ……十分です。よろしくお願いします」

「それでは勇者ライよ。また会おう」


 ゆっくり飛翔を始めたアスラバルスは、上空で転移し姿を消した。


「では、私も……」

「マリー先生……あ、あのですね……?」


 マリアンヌに耳打ちするライ。それは、縋り泣き付いたことの口止めである。


「わかっています。この胸に仕舞っておきますので、どうかご安心を」

「ありがとうございます。修行、期待してて下さい」

「はい。お待ちしております。では……」


 アスラバルス同様に飛翔したマリアンヌは少し心残りのある表情だったが、東へと向かい去っていった……。


「さて……じゃあ、行きますか!」

「そうじゃの。じゃが行き先はカジーム国じゃぞよ?」

「あ……そうだった。海王の件を伝えないといけないんですよね?」

「それもあるが、お主を連れて行くとエイルに約束してあるのでの」

「………わかりました。じゃあリル。頼む」

「おぉ~!」


 快晴の、穏やかな波の中……艦隊の残骸を掻き分け海王は進む。



 行く先はレフ族の里、カジーム国。世界を旅する勇者の新たな出会いと再会は、レフ族の里にも待っている。





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