第四部 第五章 第四話 魔王討伐作戦①


 勇者ライが久遠国・豪独楽領から姿を消した時点から一日ほど遡ったペトランズ大陸──。




 各国の連合による魔王討伐計画の決行が明日へと迫る中、アステ国にはその戦力が集まりつつあった。


 『魔王誘導組』を担うのはアステ、トシューラ、トゥルクの三国。対して『魔王討伐組』はエクレトルに集められたシウト、トォン、エクレトルの精鋭陣だ。


 誘導組と討伐組はそれぞれ別の野営地を設置し待機していて、戦力が集うことで魔王に気取られるのを避けている。

 そこには不意な事態に指揮系統が一度で全滅するのを回避する意図も含まれていた。


 互いの陣営は、エクレトルより支給された小型通信魔導具を用い情報共有・連携され、計画の実行に不備の無いよう手配されている。



 そんな魔王討伐連合の『魔王誘導組』陣営の司令部。目立たぬよう迷彩された兵站にはアステ、トシューラ、トゥルクの代表の姿があった。


「海王攻撃の為の兵士はおよそ八千程準備出来ましたよ」


 アステ国王子・クラウドが自国の戦力を提示する。予定よりかなり少ない人数だが、以前トシューラの命令で海王に沈められたことを考えればギリギリ捻出できた人数。


 だが……実のところそれは方便だった。クラウドはトシューラの妥協を引き出せるギリギリの人数を見極め用意したに過ぎない。


(あんまり兵を減らすとアステ国を食いに掛かるからね、トシューラは……。それじゃ折角弱らせる好機が無駄になっちゃうし)


 トシューラ国・アステ国の両国を滅ぼすのが目的のクラウド。アステ国がどうなろうと構わないのだが、トシューラに取り込まれ力を増されるのは避けたいという思惑が絡む。


「ハァ……予定の半分も居ないじゃないの。どういうこと?」


 不満を口にしたのはトシューラ代表として派遣された第一王女・アリアヴィータだ。

 黒茶の髪を腰まで伸ばしたアリアヴィータは、赤いドレスを纏いショールを羽織っている。至るところを宝石で飾り羽根の扇子を持つ姿は、明らかに戦場には場違いだった。



 本来派遣される筈だった第一王子リーアは、カジーム制圧に向かったまま消息不明。近年これと言った功績が無かったアリアヴィータは、トシューラ国女王パイスベルの命によりリーアの代理指揮官として派遣されたのである。


(使えないわね、お兄様……。自分から厄介を持ち込んでおきながら私に迷惑掛けないで欲しいわ。何処かで野垂れ死んでれば良いのに……)


 当のリーアは数日前に復讐として嬲り殺しにされている。しかし、アリアヴィータはそれを知る由もない。

 いや……知っていたならば寧ろ上機嫌で魔王討伐計画に参加していただろう。それ程に身内が減ることを望むのがトシューラ王族の王位争いなのだ。


「スミマセン、アリアヴィータさん。ウチの艦隊、ディーヴァインさんの申し出による海洋進軍でほぼ壊滅しちゃいまして立て直し中なんですよ……」

「ふん、仕方無いわね……」


 ヘラヘラと笑うクラウドに持ち前の鋭い視線を向けるアリアヴィータ。当然クラウドのことは傀儡だと思っているが、第三者の目があるので比較的大人しめに接している。


「トシューラからは特殊艦隊を十隻用意したわ。人員も六千程……。魔導具に関してはエクレトルからの貸与があるので、戦艦の魔導具のみで十分でしょう?」

「そうですね。トシューラとアステの兵は連携すれば良いですから、問題無いかな」


 最後に残った国、トゥルクは小国にして宗教国家。戦力と呼べる程のものは持ち合わせていないかに思われたが、古き神具を持ち込んで来たらしい。

 代表として参加したのはプリティス教・大司教のトレイチェ……ではなく、その配下の司祭メオラである。


「我が国は小国なので僧兵五百程で御容赦下さい。代わりと言ってはなんですが、我が教団に伝わる神具を一つお持ちしました」


 小柄な身体のメオラは頭を丸め前歯の出た痩せた男。他国の王族と渡り合える器には程遠く、汗を布で懸命に拭っている。


 容姿も含めたそんな行動が癪に障るらしく、設置されたテーブルを忌々しげに叩くアリアヴィータは恫喝とも取れる言葉を吐いた。


「その神具は献上で良いのね?」

「いえ……あの……」

「兵五百?小国にしたってもっと出せるでしょう?それを神具で帳消しにしてあげると言ってるのよ?無理なら今すぐ兵を二千用意しなさい」


 アリアヴィータは駆け引きなどをする人間ではない。傲慢にして貪欲なのは兄リーアと同様……いや、リーアの方が軍事的立場に居た為に有利な交渉を引き出すことに長けていたと言えるだろう。


 だがアリアヴィータは相手が下手に出るまで徹底して強気を崩さず、下手に出た相手から根刮ぎ奪う……そんな人間である。


 大国トシューラの王女だからこそ持ち得た立場で、今まで不都合など無かっただけなのだ。アリアヴィータはそれを自覚すらしない、所謂ところの『世間知らず』。当然ながら外交は無能と言える。


(あ~あ……無茶苦茶言ってるよ……。だけど、これは使えるかな?)


 クラウドはアリアヴィータとメオラの間に割って入ると、メオラに助け舟を出すことにした。それは勿論、思惑あってのことだ。


「まあまあ……他国の神具を奪っては後に避難されますよ、アリアヴィータさん?一応、ペトランズ中の国が見守る計画です。あまり評判を落とすと孤立しかねませんし」

「……仕方無いわね。で、その神具は何に使えるのかしら?」


 メオラはクラウドに頭を下げた後、神具の説明を始める。


「持ち合わせたのは呪縛系の杖型神具です。神具を打ち込まれた生物は杖の先から魔力を大気に放出し弱体化させることが出来ます。海王を捕らえるに適した物だろうとトレイチェ大司教様からお預かりして参りました」

「成る程……それ、魔人にも効くんじゃない?」

「恐らくですが有効でしょう。どうか貸与でご容赦を……」

「だ、そうですよ?どうします、アリアヴィータさん?」


 変わらず笑顔を崩さないクラウドに苦々しげな視線を向け、アリアヴィータは手をヒラヒラさせる。


「わかった、わかった……それで良いわよ。今後は私より貴方の方が対応は良い筈だから全部任せるわ?」

「良いんですか、本当に……?」

「但し、夜には私に報告をして貰える?」

「わかりました。では、アリアヴィータさんは御休み下さって大丈夫です」

「任せるわ。それじゃ……」


 戦場に似合わぬ赤いドレスを翻し兵站を離れるアリアヴィータ。その後ろを外で待機していた二人の専属護衛が追随する。


「やれやれ。災難でしたね、メオラさん」

「……助かりました、クラウド王子。私如きがこの場で意見することすら場違いな気がして言葉が出ませんでした。真に感謝致します」

「時に……トレイチェ大司教はどうなされたのですか?」

「い……いえ、少し所用があるとだけ……」

「本当に?本当にそれだけですか?」


 クラウドはメオラの肩を叩きその目を覗き込んだ。途端にメオラはビクンと身体を震わせウットリとした表情を浮かべる。


「で、トレイチェ大司教は何処に行ったか教えてくれるかな?」


 メオラに寄り掛かり剃髪された頭をペチペチと叩くクラウド。メオラは恍惚の表情を浮かべている。


「はい~……大司教様はトシューラに向かいました」

「は……?何でトシューラに?」

「大司教様はトシューラ国王子リーアから恥をかかされたことに大変ご立腹で……トシューラ国に神罰を与えるのだと」

「神罰……へぇ~」


 クラウドは歪な笑みを浮かべる。クラウドからすれば些細な諍いに見えたが、何やら面白いことになったと喜んでいるのだ。


「それで?具体的にはどんな神罰が起こるのかな?」

「我がプリティス教団秘技にてトシューラ国に魔獣を召喚するのです。その為に大司教はトシューラ国に向かい、私が代わりに派遣されました」

「ははっ!最高じゃないか!うんうん……で、メオラさんは何か命令されてないの?」

「はい。ただ、リーア王子を見付けたら隙を見て殺せ、と……」

「くぅ~っ!やるじゃないか、あのオジさん!腹の中は真っ黒だ!アハハハハ!」


 想像以上のトシューラの危機にクラウドは眩暈がする程喜んだ……。これならば確実にトシューラの弱体に繋がるだろう。


「折角の命令なのにリーア王子居ないんだよねぇ……そこでメオラさんには新しい命令をあげるよ」

「光栄です……ご主人様……」

「じゃあ耳を貸して……ゴニョゴニョ……」

「………分かりました。最高のをさせて頂きます」

「うん、頼んだよ?」


 パチン!とクラウドが両の手を合わせた音により、メオラはハッと正気を取り戻した。


「……あ……あれ?私は……」

「何か疲れていたみたいですね。無理もない……アリアヴィータさんも酷いなぁ」

「い、いえ……申し訳ありませんでした。さ、作戦の方はどう致しますか?」

「え……?忘れちゃったんですか?戦艦に人員分散して明朝、海王に攻撃を開始。但し、指揮官の私達は安全な陸から指令を送ることにしたじゃありませんか……。指揮官の護衛としてトゥルクの僧兵十人程を残すとも」

「も、申し訳ありません。ご配慮頂いたみたいで……」

「いやいや。危険をより多く背負うのも大国の義務。気にしないで」


 爽やかな笑顔でメオラの肩を叩くクラウド。


(しかし……トゥルクは誰も彼も真っ黒だね。メオラですらトレイチェの行動を理解してるのに、その点に関しては当然の様に考えてるみたいだ……。となると、邪教の巣窟かな?)


 クラウドにとってプリティス教の善悪は関係無い。復讐に『使える』か『使えないか』である。そしてどうやら役には立ちそうだと考えていた。


(これで後は明日の作戦の結果かな……?討伐組の方には厄介な人達もいる様だからねぇ)


 魔王の誘導が成功するまで討伐組は待機ということになるだろう。だが、海王に誘導組が壊滅され掛ければ救助に動く可能性がある。それはトシューラ・アステ両国の疲弊を望むクラウドにとって不都合でしかない。


 だが、討伐組の拠点に顔を見せれば勘の良い者に疑いを向けられる。トシューラとアステの裏同盟とも呼べる体制を見抜いている者が討伐組の中に居ることはクラウドも理解している。


(厄介なのは『力の勇者』なんだよねぇ……あの人、勘が鋭すぎるんだよ。それにマリアンヌとかいうメイド……ボクの【魅了】が効かなかった。得体が知れない)


 三大勇者の一角『力の勇者』であるルーヴェストは、クラウドと以前から面識がある。しかし、ルーヴェストは一度足りともクラウドに気を許した事はない。

 常に纏装を展開しているだけではなく、【魔導斧・スレイルティオ】で自らへの精神攻撃に防壁を張っているのだ。クラウドとしてはどこまで見抜かれているのか気掛かりな相手だった。


 シウト国のマリアンヌは『ペトランズ大陸会議』の場で挨拶として握手を交わした際、クラウドの存在特性【魅了】を仕掛けている。が、結果魅了に失敗していた。魅了の失敗など一度も無かったクラウドには、明らかに得体が知れない相手である。


(ま、慌てる必要は無いさ……。少しづつ削れば良い。最終的にトシューラ・アステの両方が消え去ればね……それまで楽しませて貰うよ)


 クラウドは既にリーアの死を把握している。魅了を掛けた相手の生死は、死の瞬間に繋がりが切れ痛みを感じるのだ。

 痛覚が無いクラウドが唯一痛みを感じる手法だが、当然痛みに耐性が無いクラウドは無意識に避けていた。


 だからこそ一度に大量の魅了を使わないのだが、それを差し引いてもクラウドの存在特性は恐ろしい能力だろう。


 そんなクラウドの思惑──魔王討伐計画を利用したトシューラ・アステ両国の弱体化は、小国トゥルクの存在により思わぬ前進を遂げることになる。




 一方、討伐組の兵站。位置としては誘導組より徒歩半日ほど離れた森の中。そこにある拠点では精鋭達が静かに時を待っていた。


「もしトシューラとアステが海王にギッタギタにやられても、俺は助けに出ないぜ?」


 そう言い切ったのは北の大国トォンの勇者にして『三大勇者』の一人、ルーヴェストだ。


「今回は海王を討伐しに来た訳じゃねぇ。魔王が出てくるまで俺は一切動くつもりはねぇ」

「賛成ね。私もそうするわ。そもそもこの作戦の発案はアステ国王子なんでしょ?なら尚更よ」


 ルーヴェストの意見に挙手・賛同したのは同じく『三大勇者』の一人、マーナである。

 本来、作戦に参加をするつもりはなかったマーナ。しかし、度々名の挙がるマリアンヌがライの関係者と知りその人物像を確認しに来たのである。


「この提案に反対の人は……?」


 恐る恐るといった体で挙手する人物が一名……。


 聖獣憑依の証の蒼髪……正確には髪先に向かうにつれ緑に変わる美しいグラデーションの髪を持つ少女クリスティーナだ。


 【クリスティーナ・オルネラ・ニルトハイム】


 ──彼女は魔王に滅ぼされたニルトハイム公国の公女である。


「あ、あの~……一応、私はアステの縁者なので手助けしたいのですが……」

「却下だ、却下。クリスティ嬢ちゃんは正確にはアステの人間じゃねぇだろ?」

「ですがルーヴェスト様……私の姉と義兄はアステの公人。無視する訳には参りません」

「頭の固ぇ嬢ちゃんだな……シンが嬢ちゃんをエクレトルに置いてったのは、マリアンヌから力の使い方を学ばせる為だけじゃないんだぜ?」

「え……?ど、どういうことですか?」


 頭をボリボリと掻いているルーヴェストはクリスティーナの肩を強めに叩く。


「あのな……?ちょっと耳貸せ」

「はい」


 素直にルーヴェストに近付き耳を近付けたクリスティーナ。気を許しているのは魔王と対峙した際に救われたことも含まれるのだろう。


「良いか?シンが嬢ちゃんをマリアンヌに任せたのは、今のアステに問題があると気付いたからだ」

「問題……?一体何が……」

「アステ国は裏でトシューラと繋がっているってのは殆ど事実でな……?特に王族は胡散臭せぇんだよ」

「……どういうことですか?」

「あの緑色の女魔王……何処に行ったと思う?」


 勇者シン……いや、アステ国イズワード領主・シンによって無力化された魔王・【鱗】。エクレトルの至光天・セルミローに託された魔王の処遇だったが、セルミローが殺害され【鱗】は所在不明になった。

 その行方はクリスティーナも気になっていた。


「判明したのですか?」

「その前にまず、セルミローの旦那を仕留められる様な存在なんて限られてるからな……並の奴じゃ不意打ちなんて成功しねぇ」

「一体誰が……」

「アステ王子・クラウド、と俺は見ている」

「そんな!」


 アステ国の王子が天使を殺害しただけでなく魔王存在まで奪った……それがもし事実ならば、アステ国はエクレトルに戦争をけしかけたも同然である。


「で……ですが、根拠は……」

「勘、というより経験則だな。アステ王子のあの目は何かしら画策している奴の目だ。それを裏付ける様に、エクレトルが解析した魔王存在の痕跡はアステの王城……そしてトシューラに向かったらしい。巧妙に隠蔽されて解析に苦労したらしいぜ?」

「………そんな」

「もしアステ王子のクラウドがヤバイ奴なら、嬢ちゃんは確実に狙われる。それだけの力を持ってるからな。だから、エクレトルに預けたままなんだよ」

「……………」


 ならばアステ国に居るシンや姉ナタリアも危険では無いのだろうか、と不安が膨らむ。


「シンはああ見えて癖者だからな……心配は要らねぇさ。自分の嫁くらいは護るだろう。が、嬢ちゃんまで護る余裕がある訳じゃない」

「………」

「嬢ちゃんはまず自分の身を自分で護るのが先だ。でなければ、しゃしゃり出ても足引っ張るだけだぜ?」

「……わ、わかりました」

「まあ、そういった理由で『誘導組』の救助は論外だ。必ずその隙を突いてくるだろうからな」


 幸い今回の作戦にシンは選ばれていない。だからと言って他人が危険に晒されて良い訳ではないが、身内をより優先で案ずることは仕方の無い話だろう。


「という訳でクリスティーナ嬢も納得してくれた。他に意見があれば言ってくれ」


 その言葉で手を上げたのはマリアンヌだ。


「具体的なことはどう致しますか?戦闘時の陣形や配置はエクレトルで演習しましたが、今回はマーナ様のご助力も加わったのですが……」

「だってよ。マーナ嬢ちゃん、どうだ?」


 溜め息を吐いたマーナはやれやれと首を振った。


「今回、私は完全後方支援に徹するわよ。その代わり誰も犠牲にはしないわ?」


 その言葉を聴いたルーヴェストは口笛を吹いて感心している。


「へぇ……そんな考えも出来るのか。俺ぁてっきり考え無しで突進するのかと思ってたぜ?」

「失礼ね、この筋肉勇者は……。私はやれることをやるだけよ」

「何ぃ?筋肉が見たい?良し、特別に見せてや……グアッ!」


 いそいそと鎧を脱ごうとしたルーヴェストの脳天に拳骨が炸裂。勿論、マーナの所業だ。


「おい、筋肉バカ。次同じことやったらグーで行くわよ?」


 既にグーで殴っているマーナだが、かなり真顔で告げている。ルーヴェストも突っ込むことを躊躇う程のボケッぷりだ。


 しかし、ここには冷静な方が約一名……。


「マーナ様。既にグーです」

「うっ!うるさいわね、マリアンヌ!良いのよ、次はグーで股間を殴るんだから!」


 この言葉で討伐組の男達はやや内股になり手で股間を押さえた。


「マーナ様。それではルーヴェスト様は子孫を残せなくなってしまいますよ?睾丸が潰れれば勃起による性交は可能でも精子を作」

「ちょっ!わかったから止めて、マリアンヌ!私が悪かったから!」


 普段そんな会話は平気なマーナ。何せパーティーを組んでいた元傭兵の戦士アウレルは、荒くれ者の例に漏れず下ネタ好き。当然、耐性が出来ていた。


 しかし、女性の口……しかも容姿端麗で落ち着いたマリアンヌからそんな言葉が飛び出したのだ。流石のマーナも気恥ずかしくなったらしい。


「と……ともかく、私は今回後方支援に徹するわ。それを踏まえた人員配置はマリアンヌに任せる」

「良いのですか?私などが……」

「良いのよ。この中で一番信頼されてるのは、アンタだから」


 マーナの言葉通り、討伐組は実質マリアンヌが束ねた方が纏まるだろう。癖のあるルーヴェストやマーナですら信頼しているのだから。


 ルーヴェストは以前の手合わせの際にそれを見極め、かつクリスティーナへの的確な指導を見て判断している。勿論、マリアンヌのその目を覗き確認したが、濁りなき瞳に感嘆した程だ。


 マーナも手合わせを望み……というより一方的に勝負を挑み、丸二日かけてエクレトル中を暴れ回った揚げ句、神聖機構の塔に突っ込むということまでやらかした。


 たまたまエクレトルに帰還していたアリシアがマーナを止め、アスラバルスに正座で説教されたのは皆の知るところ。一応、この事件は秘密扱いにされている。


 その後マリアンヌとマーナは語り合い互いを認めるに至る。マリアンヌはライの師にも当たる。あまり無下にして良い相手ではないと理解したのだろう。


 このところヤンデレ妹は随分と大人しくなっている様だ……。


「では、私如きで申し訳ありませんが陣形の提案をさせて頂きます。最終的な指揮はルーヴェスト様にお任せ致しますので、宜しくお願い致します」


 討伐組の人数は三十名と少ない。少数精鋭……まさにこの言葉を体現したシウト、トォン、エクレトルの三国同盟。


 シウト国からの参加者は、マリアンヌ、勇者マーナ、魔術師サァラ、獣人オーウェル、騎士のバズとアーネストだ。

 トォン国からはルーヴェスト、『氷の剣士』ロクス、更に王属親衛隊十名。


 エクレトルからは全身を白の魔導具で統一した天空騎士隊十二名が選出されている。



 マリアンヌからの詳しい説明を加えて適度に割り振られた配置は、すんなりと承認された。だが、各国精鋭の実力が発揮される機会は今回訪れない。


 それは作戦決行の日に立て続けに起こる異常の影響──世界はこの期に情勢を大きく変動し始めることとなる……。





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