第四部 第四章 第四話 御神楽の頭領


 御神楽の島──その最上層には、頭領が住まう社が存在する。



 階段を上りきった先……島を見渡せる高台には、社まで連なる赤い鳥居が続く。それは、不思議な神聖さを感じさせるに充分な雰囲気を醸し出していた。


 仕組みは解らないが、社の脇に広がる湖から大量に涌き出る水が滝となり中層・下層へと流れ落ち、御神楽における重要な命綱となっているとのこと。


 現在、その最上層……ライ達は社の扉の前に到着していた。

 スイレンに案内され上層への階段を進む間、昨日の様な茶番……もとい邪魔も入ることもなく順調に社まで到着することが出来た。


 しかし、それはそれで違和感を感じざるを得ない。


「スイレンちゃん。社までの間、誰も出てこなかったんだけど……」


 社の前にすら兵が居ないのは流石に無防備過ぎないだろうかと心配になったライは、スイレンの反応を窺っている。


「頭領の配慮でしょう。早々に面会を行いたかったのかも知れません」

「では何故、昨日の八人衆は放置しておったのじゃ?」

「さぁ……。頭領は私達とは別の何かを見ていますので……」

「別の……何かじゃと?」


 スイレンの言い回しが気になったメトラペトラだが、とにかく面会せねば話は始まらない。


 御神楽の頭領とは一体どんな人物で何を考えているのか……?この先もライの行動を妨害するならば敵対も有り得る。もし、ベリド級の魔人ならば苦戦は免れまい 。


「では……宜しいですか?」


 気を引き締めたライとメトラペトラは、スイレンに視線を向け頷いた。


「頭領。客人をお連れしました」

「……。わかった。通せ」


 その声は若い男……もっと壮年の者をイメージしていたライだが、考えてみれば魔人は老齢期が無いという話だった事を思い出す。


「失礼します」

「失礼します」


 スイレンとホオズキが扉を開きライ達は社の中を進む。

 すると、その先……一段高い敷居に大柄の男が胡座をかいていた。護衛などの姿は無く男一人のみである。


「スイレン、ホオズキ、ご苦労だった。良く来たな、異国からの客人。俺が御神楽の頭領だ……まぁ楽にしてくれ」


 ライに座るように促した御神楽頭領は、不適な笑みを浮かべている。


 素早く座布団を用意したホオズキに礼を述べ、ライは頭領と向かい合い自己紹介を始めた。


「私はペトランズ大陸シウト国の勇者、ライ・フェンリーヴです。面会して頂き感謝します、御神楽頭領殿。それと……こちらは私の師匠、大聖霊メトラペトラです」

「…………」

「し、師匠……?どうしました?」


 胡座をかいたライの膝上で頭領に視線を向けたまま、メトラペトラは黙ってしまった……。

 これでは『只のネコを師と崇める痛い人』になってしまう。ニヤニヤとしている御神楽頭領の顔を見て、ライは少しだけ気恥ずかしくなった。


 だが……頭領の笑い顔には別の意味が含まれていたと知ることになる。


「久しぶりだな、メトラペトラ」

「生きておったのか。いや、その可能性を忘れていたワシも大概じゃが……のぅ、ラカンよ」

「メトラ師匠、お知り合いだったんですか?………。ん?ラカン?何処かで見た様な聞いた様な……」


 ラカンという名に朧気な記憶を探る。やかてライは答えに辿りつき目を見開いた。


「も、もしかして……三百年前の久遠国王ですか?」

「そうだ。ここまでの旅で昔話でも聞いていたのか?」

「ええ……それとヤシュロの記憶にも確かに貴方の姿がありました」

「…………そうか」


 かつての久遠国王にして現・御神楽頭領ラカン。ヤシュロの名を出した際、その顔が憂いを帯びたのをライは見逃さない。

 しかし……先ずは聞くべき順序がある。


「貴方が生きているのは魔人だからですね?」

「そうだ。俺は先祖返り……天然の魔人だからな」


 ラカンが頭に巻いた布を外すと額に白い角が突き出ていた。確かに生まれながらに魔人である先祖返りならば、三百年以上生きていても不思議ではない。


「貴方には聞きたいことがあります」

「ディルナーチに関わるな、と伝言させた件だろう?あれは半分本気だ」

「半分?それはどういう意味です?」

「それを説明する前に聞きたい。勇者ライよ。魔人と人は共存出来ると思うか?」

「………………」


 ラカンの言葉にライは即答出来ない。その言葉の意味を図り兼ねたからではではない。ライ自身にも漠然とした不安があるのだ。


「どうした?考えていることだけでも構わないぞ?」

「……俺は……共存出来ると信じたいです」

「信じたい……か。では、何が問題かは理解しているのだろう。それで俺が使いを派遣した意味を半分は理解出来るのではないか?」


 人と魔人との共存は幾つもの問題を生む。それをラカンは指摘しているのだ。


 悪しき魔人は人を苦しめる。それは単なる脅威になるだけでなく魔人という存在の畏怖に繋がる──これは飽くまで基本的な話だ。

 排除なり討伐なりは、ペトランズ大陸側の歴史にも当然のように刻まれていた。


 だが、ラカンの指摘はそのことではない。魔人側に立つ者としての不安とも言えるものだ。


「魔人は人からすれば異物なのだ。たとえ下級魔人でも人の身より遥かに強い。魔人側がそれを理解したつもりでも大きく隔たりがあることに気付かない」

「?……何が言いたいんですか?」

「この御神楽に居る魔人の数は百人程。それでもペトランズ大陸より多いとは思わんか?」

「そう言えば確かに……」


 ペトランズ大陸で確認されている魔人はせいぜい十前後。その多くは封印された古き【禁術】由来の魔人である。

 そして、ライ自身には魔人と認識している相手はエイルとベリドしか心当たりが無い。


「今、御神楽に居るのは殆どがここ三百年以内に生まれた魔人。皆、自然発生した者達だ」

「………何でそんなに」

「大地の魔力量の影響だろう。ディルナーチは大地の魔力が多い。当然、身体に取り込まれる魔力は必然的に増える。魔人化は個人差があるとはいえ、それでも百名の者達は御神楽を選んだ。この意味が分かるか?」


 人の暮らしより不便な御神楽を選んだことを。それはつまり……。


「人との暮らしを避けた……のじゃな?」


 黙っていたメトラペトラは溜め息を吐きつつ答えた。

 本来、ライに聞かせたくない話だったのだろう。少し苛立ちながらラカンを睨んでいる。


「……メトラペトラ。お前、少し変わったか?」

「フン。三百年あれば変わるじゃろうよ。お主も以前の荒さが抜けておるじゃろうが」

「まぁ……そうだな。だから御神楽なんて組織を継いだのだが」


 御神楽を継いだ、とラカンは言った。つまり立ち上げたのは別の人物ということになる。


「誰が御神楽を立ち上げたんじゃ……?」

「イネス……俺の妻だ」

「!?……なんじゃと?」

「………まず順を追って話すべきだな。メトラペトラ……お前が来なくなった後の話だ」


 そしてラカンは三百年前からの流れを語り始めた。



 ディルナーチ大陸に勇者イネスが現れたのは突然だったという。船で海を渡った異国人ならば記録が残る筈が、それが存在しなかったのである。


「イネスはこの島……神具『天舞島』の所有者だった。この島を使ってディルナーチ大陸の様子を見に来たらしい」

「……幾ら由緒正しい勇者とはいえ、これ程の島を所有するなど有り得んと思うがの?」

「この島は、イネス個人が所縁のあった相手から譲渡された物だ」

「……一体、誰じゃそれは?」

「先代の神」

「!?」

「邪神との戦いに赴く前にイネスが託されたのだと聞いている」


 三百年前の出来事として一緒くたに語られていることにも流れがある。順としては『勇者バベルの出現、邪神の侵攻、トシューラ・アステのカジーム侵略、夢傀樹の発生、魔王エイルの誕生と封印』という流れが正しい。

 ラカンの妻、勇者イネスが『天舞島』を託されたのはカジームが侵略を受けた頃だという。


「本来はレフ族を含めた『寄る辺無き者』を救う為に譲渡されたのだ。だが、レフ族は断固として拒否した」


 レフ族は大地を守ると一族で決めている。故に大地から離れることを拒んだのだそうだ。


「それで神に事情を話し指示を仰ごうとしたところ、既に邪神討伐に向かった後だった」

「……そのまま託された物を無駄にせぬ為に行動したんじゃな?」

「それを助言したのは勇者バベルと聞いている。寄る辺無き者を救う……といっても限界がある。始めは戦災に遭った者を救っていたが、落ち着くと皆大地に下りることを望み再び島は無人になった」


 丁度その時、夢傀儡が発生。イネスはしばらくペトランズ大陸を駆け回ることになり島の利用は後回しにされた。


 事態が終息した頃、続いてエイルが魔王となる。多忙のまま魔王幹部と戦いを繰り広げ、やがてヤシュロがディルナーチ大陸に逃れた。


「バベルからの頼みもありイネスはそれを追って来た。夢傀樹の調査も兼ねてな……」

「そこでヤシュロと戦った……そこまではわかった。じゃが、それが何故魔人の保護に繋がる?」

「先に言った様に、ディルナーチ大陸は魔力が多く魔人が発生しやすい。だが、特に増えたのは三百年前からだ。理由は分かるか?」

「さてのぅ……大地の魔力が増えたらではないのかぇ?」

「それは理由半分だ。大地に関しては何故そうなったかは未だ分からんがな。そして、もう半分……それは血の薄れが原因だった」


 元々魔人の一族であるディルナーチの民は、代を重ねるにつれ人の血が混じり魔人としての力を弱めていった。魔力耐性を持つ身体が永い時を掛け少しづつ弱まり、今では逆に魔人化が起こり易くなったのである。

 といっても、ペトランズ大陸に住む者に比べればそれでも高い耐性を持つ……とラカンは語った。


「御神楽の仕事は魔人の管理だけではない。異常とも言えるディルナーチの大地魔力を正常に戻すこと……これが本来の目的だ。だからその体制が整うまで鎖国を考えた。しかし、大地の魔力の龍脈を把握するのが困難でな……どうしても後手に回ってしまう」

「後手……とは?」

「魔人が発生した地域こそ龍脈の要所なのだ。つまり魔人が発生しなければ分からん」

「成る程……後手じゃな……」

「御神楽は、その龍脈に術を施し過剰な魔力を適切な量に戻している。この天舞島を通してな」


 大地の魔力は天舞島に一度吸収され、調整した魔力を『根源の大河』に還すのだとラカンは告げた。


「お主にそんな真似が出来たとはのぅ……」

「俺の力ではない。この島に元々備わった機能だ。恐らくその為に創られた島なのだろう。三百年より前に魔人が少ないのは、神が島の機能を扱っていたからだと俺は考えている。天舞島の機能を今の俺達は十全に使い熟せていない。だから魔人も増えてしまうのだろう」

「……御神楽はディルナーチ大陸でそれを行う組織じゃな?魔人の保護は人員確保といったところかの?」

「それも理由半分。先程、勇者ライに問うたものが残り半分……」


 ラカンはライに視線を向ける。ライはやや苦しげに口を開いた。


「魔人にその自覚がなければ何かの拍子に人を傷付ける……そういうことですよね?」

「そうだ。先に述べたように魔人の精神は人と変わらん。怒りも妬みも傲りも持ち合わせている。人との諍いが起きれば相手は無事では済むまい。たとえそれが相手からの嫌がらせが元だろうとな?」

「だけど、ちゃんと自覚して自制すれば……」

「それはそれで問題が生まれる。共存し頼られ過ぎれば人側はそれが当然になってしまうだろう。都合良く頼り精進を止めてしまうのだ。それどころか、魔人にすら対応出来ないことまで勝手に期待を始める。御神楽に居る者達は皆、それが嫌で人と離れた」

「そんな……」


 御神楽に保護された魔人達の多くは、そんな謂われ無き批難を受け人から離れたのだという。突発性の事故を救えなかったこと、病を癒せなかったこと、中には天候不順による食料の不作まで責められたのだという。


「魔人は万能ではない。それを知らぬ訳ではないだろう。だが、目立つということはそれだけ矛先が向き易いのだ。理不尽でもな……」


 だからこその異物──とラカンは付け加える。


 事実として、人として生まれた者達が異物を認める例は少ない。それはライにも理解出来る。極端な例を上げればディコンズでのシルヴィーネル、シウト国での獣人達、魔石採掘場でのフローラ達レフ族などもその一部かも知れない。


 人は……異物を受け入れられる度量があまり無いのだ。



 だが、ライはそんな言葉に苦しみながらも考えを変える気はない。


「いいえ。おれは諦めませんよ。ディルナーチに魔人が多いなら人の中で暮らしている者も居るんでしょう?」

「確かに存在はしている。それが上手く行っているかは様々だがな」

「それならきっと可能性がありますよ。共存の意思があり心が通じればきっと……」


 その言葉にラカンは初めて笑顔を見せた。穏やかで噛み締めるような笑顔。それはその場に居る者の印象をガラリと変える程の微笑み……。


「ああ。アイツも…イネスも良くそう言っていた」

「だからヤシュロを放置しておったのか……」

「人と魔人の『つがい』は希望の一形態でもある。ヤシュロとハルキヨ、俺とイネスの様にな?……だが、本音を言えば俺はあの里に何も出来なかった。血筋を滅ぼす命を出した俺に二度目の命令を下す、そんな権利があるとは思えなかった。結果として更なる悲劇を生んでしまったが……」

「……結局お主は、ライをディルナーチから排除する気は無かったのじゃな?」

「確かめたかったのだよ。そして俺はそれを確かに見た。もしかすると勇者ライだけの特殊な例かも知れんが」

「人との共存か……それはワシら大聖霊にも問われるものやも知れぬのぅ」


 世界を分けることは出来ないのだ。故にラカンは魔人達の保護を選んだ。外界との接触を禁じたのは里心で苦しませぬ為。だが、実はそれほど厳格な命ではないのだという。帰る所さえあれば魔人達には救いとなるのだから……。


 魔人の保護は、現在ラカンの考え得る最善の手。人と魔人の両方に混乱を齎さぬ為のものだと改めて告げたラカン。


「魔人化した人達の家族はどうなっているんです?」

「様々だ。そのまま残る者、共に御神楽に来る者、家族を追い出した場所での暮らしを拒み新天地に移る者……。しかし家族として暮らす以上、皆が魔人化する傾向がある。特に今の御神楽の地に来た者は例外無く魔人化している」


 過剰な魔力を吸収し利用することで天舞島は浮遊、環境維持、機能の使用が可能なのだという。当然確保される食料は魔力の影響を受けており、魔人化を促進してしまうのだそうだ。

 それも今、改善する為に様々な研鑽をしている様だった。


「疑問じゃったが、何故ホオズキを派遣したのじゃ?」

「ああ。ホオズキが一番面倒無く接触出来ることを知っていたからな」

「知っていた?」

「そう言えばまだ説明していなかったな。俺の存在特性は未来視だ」

「未来視じゃと!?」

「確定未来を見ることが出来る様な強力なものでは無いがな?音はなく光景が幾つか見えるもの……しかも、縁ができるだろう相手しか見えん」


 ラカンは定期的に御神楽の者達に触れ行動を決めている。直接触れることで未来視の確率が上がる為だが、それは危険を避け犠牲者を出さぬという頭領の責任からのもの。


「じゃあ、ラカンさんは『神衣』は使えますか?」

「いや、無理だ。あれは神格に至る奇跡の力……追い求めて届いた者を俺は知らん」

「………じ、じゃあ大聖霊を知りませんか?【物質を司る大聖霊】・アムルテリアなんですが……」

「済まぬな。知っていれば教えてやりたがったが……大聖霊の未来視はできない様だ」

「そうですか……それなら、ラカンさんの未来視で俺を見て貰えませんか?アムルテリアでも神衣でも構いません。手掛りが欲しいんです」

「俺のは確実性が低い未来視だ。狙ったものを視ることは出来んし、視た通りになるとも限らんぞ?」

「構いません。お願いします」


 あまりに真剣なライに根負けしたラカンは、メトラペトラに視線を送る。


「未来を視ることが正しいかは知らんが、視てやってくれんか?コヤツにはコヤツの求めるものがある。結果はどうでも文句は言わぬ」

「やはり変わったな、メトラペトラ……。良かろう」


 敷居から降りライ達に近付いたラカンは、ライの額に手を当て存在特性『未来視』を発動する。


 が、しかし──。


「済まぬな。霞でも掛かったように視えん」

「やはり……か。まあ仕方無かろう」

「どういうことですか、メトラ師匠?やはりって……」

「もうお主はラカンの力も超えておるじゃろう。以前も話したが、魔人化、大聖霊契約、そして本来不可能な筈の限界越えの『吸収』……加えて半精霊体化。当然、魔人であるラカンには干渉は難しいと考えるべきじゃ」


 結局、手掛かり無し。だが、ライには然程困った様子は無い。


「じゃ、しゃあないっスね。次、行きましょ、次。あ、そうだ……ラカンさん、後で天網斬り教えて貰えませんか?」


 あまりに軽いライの反応に、ラカンは豪快に笑う。


「ハッハッハッハ!成る程!大した弟子だな、メトラペトラ………お前が変わったのも少しだけ頷ける」

「まあ痴れ者じゃがな。退屈はせんよ」

「フッフッ……天網斬りか。それならば王都で学べば良い。良き使い手がいる。俺は教えるのが苦手でな……スイレン、案内してやれ」

「わかりました」


 折角のラカンの厚意だがライは慌てた。


「いや、その前に豪独楽に行かなくちゃいけないんですが……」

「そうか……ならば付いて行ってやれ、スイレン」

「良いんですか?俺と来たらかなり人と接触しますよ?」

「まあ、スイレンは魔人化状態で元々王都で暮らしていたのだ。問題無いだろう」


 スイレンの父は高名な剣術家にして武術家。スイレンが多少他人より強くても、父の方が目立つので魔人と気付かれなかったのだという。


「私は先祖返りですが、父のお陰で処世術は心得てます」

「そう。じゃあ、お願いするよ」


 この言葉で約一名、不満と期待に満ちた目をラカンに向ける者がいた。


「……………」

「……何だ、ホオズキ?」

「……………」

「……………」

「ホオズキも行きますよ?」

「……駄目だ、と言っても聞かんだろうな。お前が居なくなると皆が寂しがるのだが……」


 皆に慕われているのは本当らしく、ラカンは本当に残念そうである。しかし……こうなることは未来視で視ていた様で、何処か諦めの色も浮かべていた。


「ホオズキちゃん?」

「ホオズキ、もう決めました。止めても無駄です」


 鼻をならし腕組みしているホオズキ。ライはメトラペトラを見ると小さく頷いていた。


「まあ、今更じゃろ?」

「………。何か……スミマセン、ラカンさん」

「いや、これも機会だろう。人と接することの行く先、見守らせて貰う。豪独楽には島の機能で転移させよう」

「お世話になります」

「本来ならゆっくり酒を酌み交わしたいところだがな、メトラペトラ?」

「何………この場所が判ったから何時でも転移で来れるじゃろ。その時はタップリ馳走せい」

「わかった。俺も古い馴染みがかなり減ったからな……楽しみに待つとしよう。勇者ライ、お前も時折顔を見せてくれ。話をしたい」

「わかりました」


  ラカンはライの肩に手を置くと、その目を覗き込み忠告を一つ伝えた。


「親しき者……特に愛しき者に先立たれることは苦しいぞ?それでも人と関わればその苦痛は続く。堪えられるか?」

「その人達が安心して逝けるよう見守れるなら、悪くはない……そう思いませんか?」

「そうか……そうだな」


 恐らくラカンはイネスを想っているのだろう。残される者の悲しみ故の忠告は確かにライへと伝わった。


「では、スイレン……後は任せた」

「わかりました」

「ラカンさん、あの『八人衆』なんですが……?」

「ハッハッハ!アイツら、喜んでいただろう?」

「やっぱり知っていて放置してたんですね?」

「まあ、アイツらの感覚に付き合える奴も御神楽には居ないかったからな。悪いが相手をして貰ったんだが……泣いて喜ぶとは思わなかったぞ」


 昨日、あの後ラカンに面会を求めたロウガ達は涙ながらに感謝したのだという。 


「ま、まあ、喜んで頂けたなら良いんですけどね……」

「次はもっとゆっくり出来ると良いがな。人を連れてくるのは勧めぬが、それ以外なら歓迎できるだろう」

「はい。では、また……」


 御神楽に敵対意思が無いことが判っただけでも重畳。ライには果たすべき約束も残されている。

 そうしてスイレンに連れられ社を後にしたライ達。その背を見送ったラカンは先程の未来視を思い返す。


 ラカンは視えなかったのではない。視えた未来を伝えることが出来無かったのだ……。


 ラカンの見た未来には──心臓を失い苦しむライの姿があった。



(俺の未来視は確定では無い。運命を覆して見せろ、勇者ライよ)



 御神楽の頭領、ラカンの未来視。それが現実のものになるか、覆されるのか──判明するのは、まだ先のことである。


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