第四部 第三章 第九話 カジーム防衛戦⑥


 馬車の中から大型鎧を操作し現れた『二人のリーア』──。


 不遜な態度のトシューラ第一王子は、オルストとの問答を打ち切りエイルに視線を向けた。


「ほう?女……肌の色が違うが、貴様もレフ族なのか?」

「だったら何だ……?」

「命乞いすれば飼ってやろう。レフ族の女は皆美しいが、貴様は特に気に入った。肌色の違う珍しさも含め特別に囲ってやるぞ?」

「寝言は寝て言え、盛りのついたサルめ」

「フン……生意気な方が調教し甲斐がある。どのみちレフ族はトシューラの手によって滅ぶ定めよ……今頃レフ族の里は壊滅している筈だ」


 壊滅に追い込まれつつあったのはトシューラの侵攻軍なのだが、リーアにはその事態を把握する術はない。何せ連絡してくる筈の密偵すら捕縛される始末。報告が来ないことを疑問に思いながらも、勝利を疑ってはいなかった。


「なあ、オルスト。殺っちまって良いだろ?」

「手ぇ出すなっつったろうが……」

「トシューラ王族はアタシにとっても仇なんだ。咎められる謂れは無いぜ?」

「それは漠然としたモンだろうが……俺は奴に直接の因縁がある」

「……アイツが直接の仇ってことか?」

「そういうことだ。頼むから手出ししないでくれ」


 懇願する様な視線をエイルに向けるオルスト。その目は幾つもの感情が入り混じった複雑な表情を浮かべていた……。


「チッ……仕方無ぇな。譲ってやるよ」


 エイル自身、実はもう憎しみは無い。兄に直接手を掛けた仇は魔王化した直後に殺害している。不快感こそ残っているものの、どうしても個人に復讐せねばならないという程の情念はとうに消え失せていた。


 だが……オルストは違う。


 目の前の相手を討たねばオルストの復讐は終わらない。例え他の王族を殺してもリーアを逃がせば復讐を果たしたことにならないのだ。最低でもリーアを殺すこと……それがオルストの生きてきた理由だった。


「助かるぜ……。本当なら片方は頼みてぇトコだが、どっちが本物か判らねぇからな」

「なんなら半殺しにしてから交代でも良いぜ?」

「それじゃあダメなのさ。アイツ自身、そしてその策を丸ごと俺の力だけで潰さなきゃ俺自身が納得出来ねぇ。くだらねぇ矜持かも知れねぇがな」

「わかった、わかった。じゃあ好きにしな。但し、お前が殺られたらアタシの好きにさせて貰うからな?」

「それで構わねぇ……」


 エイルはオルストを見殺しにする気は無かった。しかし、その覚悟を確認した今となっては途中で手助けすることは出来なくなった。

 それは即ちオルストの誇りを奪うことになる。


 かつて戦士として戦い兄の仇を追ったエイルには、その事が痛いほど分かったのである。


「一つ教えてくれ、エイル・バニンズ。この槍は目一杯叩き付けても壊れないのか?」

「ああ。『因果の槍』はその力で槍の存在状態が固定されている。云わば不壊・不滅だ。事象神具ってのは皆そうらしいぜ?例え世界が無くなっても存在し続ける。壊せるのは理を超えた存在──神だけだろうな」

「へっ……なら遠慮なく使えるな。感謝するぜ」

「一応聞いとくが、お前……まさか死ぬ気じゃ無ぇだろうな?」

「馬鹿言えよ……仇は他にもいるんだ。こんな所で死んでる場合じゃねぇんだよ」

「そうかよ。なら早くカタつけてこい。じゃねぇとアタシが殺っちまうからな?」


 それまで黙って聞いていたリーアは不快な顔で舌打ちした。

 会話の際、二人のリーアは交互に語り出すだけでなく表情まで一緒。まるで区別が付かない。


「神具?復讐だと?余程の物を手に入れて勘違いしたのだろうが、貴様程度が俺を倒せる筈が無かろう。実に滑稽だな、下郎」

「ソイツはすぐに分かるぜ、リーアよ。クックック……トシューラに残っていたらこんな機会は来なかっただろうな」

「フン。貴様が俺に何の恨みがあるかは知らんが、トシューラ国第一王子を狙う罪は死に値する。その身を以て地獄を味わうが良い!」


 リーア二人がシンクロしつつ鎧の左腕をオルストに向けると同時──オルストもリーアに向け腕を掲げた。

 直後……リーア達の眼前で爆発が起こった。


「くっ!何だと……?」

「その腕のヤツは魔石を撃ち出したあの魔導具と同じ形してやがるからな。案の定だったって訳だな」


 瞬時に『神具・空塗りの手』で張った空間防壁は、射出直後に魔石を破壊。リーアの鎧に爆発の衝撃を返す形で攻撃を防いだ。


 しかし、爆煙が晴れ現れた大型鎧はほぼ無傷……。リーア達自身にも怪我は見当たらない。


「チッ……頑丈だな。おい、エイル・バニンズ。下がってな……念を入れておくが手出しすんなよ?」

「わかった。見ててやるから存分にやれよ」


 ゆっくり上昇し上空に移動したエイルはレフ族の里に感知の目を向けた。里には既に結界が張られ、その遥か上空には三人の人影が見える。


先刻さっきいきなり巨木が生えた時は驚いたけど、あっちは問題ないみてぇだな。悪いけど任せたぜ?)


 再び視線を足元に向けると、丁度戦いが始まる瞬間だった。


 リーアとその影武者、区別が付かない為に本物を狙って倒すことは不可能。そして……俯瞰しているエイルは更に厄介に思える光景を捉えていた。


 大型鎧は驚くほど身軽。加えて二体の動き……その連携が実に無駄がない。オルストを境界にして繰り出される鏡合せの様な同時攻撃は、それを躱すオルストの隙を的確に攻め続けている。


「チッ……!思ったより速ぇな」

「ククク……どうした?俺を殺すのでは無かったのか?愚物めが」

「ククク……命乞いするなら今のうちだそ?まあ、どのみち殺すがな」


 大型鎧二体は常にオルストを挟み対称の位置を取る。片方が接近すると同様に接近し、片方が距離を取ると同様に遠距離からの支援砲撃を行っていた。


「ハハハハ!どうした、オルスト!口だけか?」

「所詮は傭兵上がりだな、オルスト!王族の俺に逆らったことを後悔させてやる!」

「ハン!不細工な顔が二つともなるとヘドが出そうだぜ、馬鹿王子。テメェ、もう三十だろうに王子って面じゃねぇんだよ。どうせトシューラ王にもなれねぇんだからよ……此処で死んどけや?」

「貴様ァ……後悔させてやる!」


 見事オルストの挑発に乗ったリーア達。突進しつつ大型鎧の右腕を振り翳す。装着されていた刃がオルストを掠めるが、これを紙一重で回避した。


 その際に隙を見逃さず槍で大型鎧の右腕を切り裂こうとしたオルスト。だが……背後から迫ったもう一体の大型鎧に殴られ吹っ飛ばされた挙げ句、近くの岩壁に激突することになった。


「ぐっ……!」


 覇王纏衣による防御──衝撃は凄まじかったがオルストに怪我はない。


「無駄だ、無駄だ。貴様如きの攻撃など届かん」

「大人しくしていれば楽にしてやるぞ?ククク……」


 余裕を見せて追撃をしてこないリーア達だが、オルストの心の中は不思議と静かだった。

 それは静かな怒り───頭に血が上ったままであったならば痺れを切らし特攻を掛けていたかも知れない。


(不思議な気分だぜ……。リーアの挑発が全く気にならねぇ。何でだ……?) 


 それは届かなかった筈の仇を前にした好機の自覚なのか……はたまた、異常とも言える相手ばかりを目にした故の慣れなのかはわからない。

 しかしオルストは、その生涯の中でもこの上無い程に冷静に戦い続けている。


 同じ顔、同じ声……些細な癖まで全く同じリーア達。流石に不快さはあるのだが、リーア達に向けたその視線には同情にも似た色が浮かんでいた。


(影武者は恐らく魔術に因る洗脳を受けてやがるな……無理矢理偽者に造り変えられて心まで奪われるなんざ、憐れなことだぜ……。だが、俺はどこぞの勇者みてぇな甘ちゃんじゃ無いんでな。魂を解放してやるから、それで我慢しろよ?)


 高位幻覚魔法 《幻体投影》を詠唱し分身を生み出したオルストは、分身に紛れるように移動し片方のリーアに攻め掛かる。


「生意気な……だが、無駄だ!」


 大型鎧の胸にある魔石が眩く輝き、幻覚のオルストが消滅した……。


「魔法を無効にだと?だが……まだだ!」


 リーアの間近に迫ったオルストは、幻覚の消滅を無視し風属性纏装で鎧を穿とうとした。

 しかし、槍は鎧の手前で拮抗し留まっている。


「魔力防壁!クソ……厄介な」


 オルストは咄嗟に籠手を翳し鎧の空間断裂を狙うことにした。


 だが、その時──背後側の大型鎧による大量の【魔石弾】がオルストに降り注いだ。


 炸裂した魔力は『移動式魔導砲台』程の威力は無いが、一発一発が最上位魔法に匹敵する威力。並みの者ならこれで終わっていただろう。



 全弾炸裂した爆煙の中……唐突に金色の光を纏いつつ槍が伸びる。更に槍の先には極小の空間防壁が縦に展開され、オルスト正面にいるリーアの大型鎧を魔法防壁ごと貫いた。


 オルストはここで一気に畳み掛ける。続いて槍先に爆炎魔法 《紅蓮大花》を発動し貫いた大型鎧の中で炸裂。流石の大型鎧も内側からの爆発には耐えられず、歪に変形しつつ大破し機能を止めた。


「があぁぁぁっ!?」


 激痛に苦悶の声を漏らすリーア。オルストは槍を引き抜くと、空間断絶を利用し大型鎧を横に両断。中から現れたリーアの首を素早く跳ねた。


(恐らく、こっちか影武者だろうな……。折角だ。この状況、利用させて貰うぜ?)


 爆煙が晴れる前に大型鎧から引きずり出した影武者の遺体を、素早く火炎魔法で焼却。代わりに破損した大型鎧に自ら乗り込んだオルスト。幻術で姿を変え影武者リーアに成り済ます。


 そして数分後……。視界が晴れ姿を現した大型鎧に近付くもう一人のリーア。オルストの姿が無いことに満足気な表情を浮かべたが、直ぐ様厳しい目付きに戻る。


「何だ、その無様は?」

「申し訳ありません、リーア様。オルストとやらは助からぬと判断したのか自爆特攻を仕掛けて来まして……爆煙の隙を突かれました」

「チッ……まあ良い。奴の神具は回収したか?」

「はい。此処に……」


 大型鎧から降り、差し出された槍に手を伸ばすリーア。だが……その手に触れる瞬間、クルリと反転した槍は切っ先をリーアの腹部に深々と沈めた。


「ぐはっ!き、貴様!何を……!」

「何って……お前を殺す為に決まってるだろうが。なぁ?リーア様?」


 徐々に影武者リーアの姿がオルストに変化してゆく。本物のリーアは驚愕の表情を浮かべた。


「何故だ!何故、あの爆発の中で無事だった!?」

「テメェ、神具をナメてるな?あの程度の爆発じゃ怪我一つしねぇよ」

「そんな……そんな力を、何故……俺じゃなく貴様が……」

「ま、簡単に言やぁ運だがな。だが、追い求めてようやく掴んだ運だ。長かったぜ……ここまで辿り着くのはよ?」


 槍を刺したまま槍先にされたリーアは動くに動けない。オルストの動きに合わせて移動は出来るが、自らの意思での移動は封じられている。最早逃げることすらままならない。


「一応、口だけ聞けるようにしといてやる。言い残すことがあるなら聞いてやるぜ?」


 自らもゆっくりと大型鎧から降りたオルストは、槍を握ったままリーアと共に移動を始めた。そして近場の岩場にリーアごと槍を打ち付け、ようやく手を離す。


「グフッ……!ふ、復讐だと言ったな……貴様、一体誰だ?」

「クックック……テメェは恨まれまくってるだろうからなぁ。誰に狙われても自覚すら無ぇだろう?」

「フン。お、俺はトシューラ国の為に動いただけのこと……恨まれようがそれが国の為だ。王族でもない貴様にはその責任など判るまい」


 リーアは開き直った様に語る。この状況で傲慢な態度を崩さないその精神力は大したものだが、如何せん相手が悪かった……。


 オルストは……己が復讐の炎に身を焦がし生きて来たのだ。


 そんなオルストは片手で顔を覆い笑い声を漏らし始める。やがて……その笑い声は大笑いに変わっていった。


「ア~ッハッハッハ!国の為?責任?んなモン知るかよ、クソ野郎が!?」


 オルストは神具の籠手でリーアの顔を何度も殴る。鎮まっていた怒りの炎が再び燃え盛り収まりが付かない。限界まで目を見開いた歪んだ笑顔は狂気の様相で、まるで悪魔の様にも見える。


「ったく、どいつもコイツも……。御託は良いんだよ、御託はな?恨まれりゃあ復讐される。ただそれだけで良いのさ?そして俺は、ただ恨みを晴らすだけだ!」


 しこたま殴られているリーアは身体を動かすことが出来ない。そんな無防備な状態で殴られ続け顔はたちまち変形して行く。


「おっと!まだ殺す訳にはいかねぇな……。危ねぇ危ねぇ。一気に殺っちまうところだったぜ……」

「ぐっ……ぎ、ぎさま!後悔させてやる!」

「まだ余裕があるようですねぇ、リーア王子?では、一つづつ返して行くとしようかね?」

「な……何を……」


 覇王纏衣を展開したオルストは、リーアの右掌を握り力の握り潰した。


「グギャァァァッ!?」

「痛いか?ん?痛いだろうなぁ……。だが、俺の父上はもっと痛かった筈だぜ?生きたまま磔にされてハンマーで殴られ続けたんだからな?だから、最低でもこれ位は痛かっただろうな!」


 オルストは更にリーアの右腕を壁に殴り付け続ける。骨の粉砕、肉の圧潰、やがて腕は千切れ岩壁には赤い血肉が磨り潰された。


「──ギイィィィ!!」

「おっと。ショック死されたんじゃ困るぜ?晴らせない俺の恨みに『しこり』が残るからな……回復してやるよ」


 オルストはあまり得意でない回復魔法を掛けリーアの痛みを抑える。当然ながら喪失した腕は戻らない。


「俺の母上は凌辱された上に槍で滅多刺しにされた。こんな風にな?」


 リーアが腰に帯びていた短刀を引き抜き、その左足太ももを滅多刺しにするオルスト。途中から火属性の魔纏装を短刀に展開し、リーアのその左足を切断した。


「ギィヤァァァァッ!?」

「どうしたよ?国の為に堪えてみろや?」

「ぐぅ……も、もう……」

「赦せってか?馬鹿言うなよ……まだ半分しか晴らせてないぜ?」


 リーアの左肩に手をかけたオルストは、火属性の魔法でその腕を燃やし続けた。


「俺の兄上は槍で壁に縫い付けられ火炎魔法の的にされて死んだ。こんなのは、それに比べりゃ蚊に刺された様なモンだろ?」

「ギギギギギギギギッ!」


 リーアの左腕は炭化し崩れ落ちた。オルストはその都度回復魔法をかけリーアの精神が崩壊するのをギリギリで防いでいる。


「姉上は優しい人だった。それを……テメェが……テメェらが凌辱し尽くした。その後トシューラに連れて行かれたんだ。姉上を追った俺はトシューラ中を捜した……。だけど、見付けた時にはもう姉上の心は壊れていた。兵士のオモチャにされてな……」


 風魔法でリーアの足を切り刻むオルスト。与えている筈の苦痛が自らを苛んでいるかの様に、苦悶の表情を浮かべ血を吐き出すように語り続ける。


「だから……俺が姉上を殺した。あの時から俺はテメェを殺す為に生きてきた。俺は全てを……家族の非業の死を全てこの目で見た」

「そう……が!……キ…ザマは……!」

「ハッ……!思い当たることでも有ったか?侵略した国での蛮行が国の為だと?侵略された国の王族を嬲り殺しにするのが王族の責任か?ならば……」


 オルストは笑顔だった。本当に屈託のない子供の様な……心から欲しかった者を手に入れた様な、憑き物の落ちた笑顔。しかし、その目からは大粒の涙が流れていた。


「祖国を滅ぼされ家族を殺された“ 王族 ”の一人として仇討ちするのも、間違いなく王子の責任だろ?」

「だ……だ…ずげ……」

「その言葉をテメェに向けた奴等が居た筈だぜ?それを思い出して謝罪しながらあの世に逝きな」

「や……め…」


 籠手の空間防壁により岩壁との圧縮を始めたオルストは、槍を引き抜き数歩下がる。ゆっくりと回転をかけた防壁が、やがて断末魔も上げられぬリーアを押し潰した。


 空間防壁は止まらずそのままガリガリと岩を削り始める。いつの間にか降りてきていたエイルは、そっとオルストの肩を叩いた。


「……オルスト」


 その声で気が抜けたのか、オルストは膝を着き崩れ落ちた……。神具を解除され空間防壁は消滅。

 オルストはそのまま天を仰ぎ、声が枯れるまで号泣にも似た雄叫びを上げ続けた……。


 遂に果たした復讐───。


 己の心の中にずっと沈めていた家族への思い。それが堰を切ったように溢れ出す。


「父上、母上、兄上。あの日の無念を晴らしましたよ。姉上……護れなくてゴメン……。救えなくてゴメンね」


 普段のオルストからは考えられぬ穏やかな口調。生き抜く為に心に被せていた仮面はいつの間にか剥がれていたらしい。


 しばらく感慨に浸っていたオルストはやがてゆっくりと立ち上り、黙って見守っていたエイルに向き直ると深々と頭を下げた。


「感謝する、レフ族・エイル・バニンズ殿。生涯をかけて討ち果たすべき相手……トシューラ第一王子【リーア・スティルフ・トシューラ】をこの手で倒せたのは、間違いなく貴女のお陰だ」

「……………」

「我が名はオルストに非ず。真の名を【スルト・バイルフライマ】……今は亡きバイルフライマ王国の王子」

「………お前誰だ?」

「へ?……だ、だから、バイルフライマ王国の……」

「我が名は……とか馬鹿じゃねぇの?貴女?殿?うわぁ……ほら見ろ!鳥肌立っちまったぞ?」


 亡国の王子スルトとしてその正体を明かしたオルスト……。礼儀に則った発言なのだが、エイルはその言動を全否定した。

 無論、オルストの普段のガラの悪さに対する意趣返しが冷たい態度の原因である……。


「さてはお前、偽者か?オルストはそんな堅苦しい喋り方はしねぇし、もっと外道だった筈だぜ……?」

「くっ!……し、しかしケジメというものが……」


 覚悟を決めて正体を明かしたのに、膠もない言葉で返すエイル。流石のオルストも困っていた……。


「やれやれ……。アタシが知ってんのは、憎まれ口が当たり前の元傭兵オルストだ。同じ人間に二つの態度を使い分ける気はねぇよ。お前の中身が何だろうがな?」

「………………」

「お前はお前の中でケジメをつけりゃあ良いさ。必要なら長老や里の皆にでも話しなよ。アタシは結局のトコ何もしちゃいないんだし」

「………ケッ!わかったよ。これで良いのか?」


 頭をボリボリと掻きながら舌打ちするオルスト。エイルはニンマリ笑う。


「あ?おかえり、外道傭兵?」

「誰が外道傭兵だ!このババァ!」

「なっ!誰がババァだ!封印されている間は肉体の時間が止まってたんだ。それが無くても人間族で言うと二十ちょっと位だぞ?」

「だが、実年齢三百超えのババァじゃねぇか……。ったく、無駄に若作りしやがって……」

「……よし、コロス。亡国のアホ傭兵。墓にはそう書いてやるから安心しろ」

「い、言い過ぎました。赦して下さい、エイル様」

「時、既に遅し!女の娘をババァ呼ばわりしたその罪……その身を以て償え!!」


 先程までの重く暗い雰囲気を吹き飛ばす賑やかさ。逃げ回った上にエイルに吹き飛ばされ宙を舞ったオルストは、最終的に二、三発殴られた。


「クソッ……痛ぇ……」

「フフン……女性の年齢を発言するときは気を付けるんだな。さて……じゃあ、里に戻ろうぜ?皆、待ってる」

「おい。なら、その前にアレ回収してけよ。何かの役に立つだろ?」


 影武者が使用していた物は大破し使い物にならないが、リーアの使っていた大型鎧はほぼ無傷。戦利品としては十分な品だ。



 様々な想いが混じり合ったカジーム防衛戦は幕を閉じた。今後の課題も残るが、この戦いによりシウト国とカジーム国の結び付きは確かなものとして確立されたのだ。



 里では宴の準備が始まっている。未だ国として容認されぬカジームにとって、それは束の間の休息。


 しかし、間違いなくカジーム防衛を祝うに相応しい宴となる筈だ───。




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