第四部 第三章 第五話 カジーム防衛戦②
カジーム『防衛爆殺部隊』によるトシューラ兵への蹂躙は続く。
場所は狭い渓谷──逃げ場の無い兵士達は近場の魔術師の元に逃げ込み魔法防壁を期待したが、兵に対し魔術師の数が明らかに足りない。
しかも、レフ族の使用しているのは上位爆炎魔法の連射。爆炎は大地を爆ぜ、飛礫を飛ばし、更に残り火が大地を焦がす。地上の温度は上昇し、既に熱砂の中にいる様な灼熱を生んでいた。加えて絶え間無い燃焼による酸素消費は、呼吸を奪い相当数の兵を葬ることとなる。
空駆ける脅威『カジーム防御爆殺部隊』───本当もう『防御』じゃなくね?と、エイルに思わせる光景だった……。
そんな爆殺部隊は、最奥にあるリーアの馬車にまで迫り恐怖を撒き散らす。堪らず悲鳴を上げる女達。だが、リーアは不愉快な表情ながらも慌てる様子はない。
「ちっ……流石は魔法王国の生き残りか。移動砲台まで奪われるとは予想外だったが……まだ手はある」
リーアは通信魔導具を起動すると、状況把握を開始した。
「残存兵の数は?」
「被害甚大!半数以上が死亡、若しくは戦闘不能!残り、凡そ八百前後です!」
「黒騎士は無事だろうな?」
「はい!黒騎士は一名足りとも欠けていません!」
「良し。では、黒騎士の行動を許可する。黒騎士以外の全部隊を退かせろ」
「了解しました!」
トシューラ兵はその数を大きく減らしつつも、徹底した防御に切り替え撤退を開始。その様子を確認したオルストは、上空にて一時的にレフ族の戦士達を呼び戻す。
「教官!如何なさいましたか?」
「敵兵が撤退を始めただろ?ありゃあ逃げじゃねぇ。下手に近づくな」
「ですが、敵は既に三分の一以下です。このまま一気に攻めれば圧倒出来るのでは?」
「テメェらは戦闘経験が浅いから分からねぇのさ。俺は元トシューラの傭兵……奴等のやり口は嫌って程に心得てるぜ?とにかく、あの魔石砲弾が無ぇなら無理に攻め込む意味もねぇ」
魔石砲弾をまだ保有していた場合、敵意を挫くためにレフ族の里に向け射出される危険性が高かった。エイルがいる以上里に届くことは無いだろうが、それでも無理矢理止めに出る場合は敵の罠の心配もせねばならなかっただろう。
だが、今はその必要が無い。ならば後は持久戦に切り替えても問題はないのだ。有象無象の数の有利など、レフ族の高い魔法力で崩せることは既に証明済みである。
問題なのは相手の切り札……不意を突く様な大規模殲滅魔導具、または『三大勇者』級の戦士がいた場合である。それは一時的な優位などいとも容易く逆転する力。油断は出来ない。
「わかりました。では我々はどうしますか?」
「一時後退して待機。休息も……」
そこでオルストは言葉を切った。
視界の先……既に夥しい数のトシューラ兵の遺体の中を歩み来る黒き騎士の一団を視認したのである。
動きは愚鈍な様にも見えるが、オルストはその異様な殺気をその身に感じていた……。
故にオルストは思わず叫ぶ。
「テメェら!全員里に戻れ!」
「はい?何故です?」
「良いから早くしろ!アイツらは……」
次の瞬間、レフ族の戦士の腹部に黒い槍が突き刺さる。オルストは即座に攻撃を受けた戦士を他のレフ族戦士に向けて蹴り飛ばした。
「早くソイツの治療をして下がれ!里に戻って守りを固めろ!」
レフ族戦士達は動揺していたが、オルストの睨みを受け大至急里へと引き返して行く。
その一部始終を見ていたエイルは、遥か上空からオルストの側へと下降し並び飛翔した。
「……おい。ありゃあ何だ?」
「……………」
「おい!聞いてんのか?あぁ?」
「あれは……合成人間だ。人と魔獣のな?」
「は……?何だそりゃ?」
オルストは苦笑いしながら自分の知る情報をエイルに伝える。それはまるで悪夢の様な話……。
「トシューラはある魔術師と手を組んでてな。コイツがイカレ野郎で、片っ端から人間を使った実験を繰り返していやがるのよ。で、辿り着いたのが魔獣と人との融合……」
「……何だ、その吐き気のする奴は」
「ベリドって名乗ってたが本名かすら怪しいもんだぜ……。とにかく、そいつは実験が何より優先の下衆野郎。だからトシューラ国にその場を提供して貰い、対価として技術を提供したのさ。俺がトシューラを離れた時は、まだ実戦投入されて無かったんだがな」
「でもよ?魔獣なんて簡単に用意出来るのかよ……数だって限られるだろうが?」
「だから造ったのさ?あのイカれ野郎、魔獣の肉片から大量の魔獣を生み出しやがった」
【魔獣】は【魔物】と違いその数が少ない。
野生動物が魔力を取り込み変化する【魔物】──稀に海王の様に自我を持つ強力な個体が生まれるが、基本は『魔力を持った動物』である。
だが【魔獣】はその成り立ちが根本から違う。
【魔獣】とは魔力の顕現。大地に蓄積された膨大な魔力がやがて自我を持ち形を成した存在を指す。場所の性質により【聖獣】【魔獣】のどちらかに変化するが、殆どの場合は魔獣になるのが通説とされていた。
【聖獣】と【魔獣】は対の存在。よってその性質を反転する可能性もあるが、一部特殊な例を除きどちらかの数が増加するということは起こり得ないと言われている。
それを覆し魔獣を増やすベリドの所業は、魔法王国の子孫・レフ族にすら伝わっていない未知の技術。それを扱うベリドは確かに異常な存在であろう。
「ソイツ……魔人か?」
「ああ、恐らくな。百年前はどうだった、とか語るのを聞いたことがあるからな」
「ソイツはこの戦場に居たか?」
「いや……この場には居なかったぜ。だが、そうなると里が気になる。テメェはあっちを見てこいや」
「は?お前一人で何とかなる相手なのか?」
「さぁな。だが、もし里がベリドに襲われたら一貫の終わりだぜ?アイツはイカれ野郎だ。レフ族を実験に使いたがっても不思議じゃねぇからな」
「…………」
得体の知れない魔人ベリド──。もし本当に里を襲った場合、たとえレフ族でも対応出来ないだろう。
魔導具も殆ど無く、人数も少ない今のレフ族……。そして魔人と対峙できるのは基本は魔人。やはりエイルが適任ということになる。
「オルスト……悪い」
「俺はこの神具を試してぇだけよ。早くしろ」
「
エイルは高速で飛翔し里へと向かう。残されたオルストは、靴に固定した効果を解除し地上へと着地した。
「さて……折角だ。神具を扱う練習に付き合って貰うぜ?」
向かい合う黒騎士の一団……。魔獣合成体とも言える黒騎士の数は十体……これは十分な脅威である。
だが、オルストの顔には笑顔が浮かんでいた。
(生っチョロい考えは捨てろ。敵は全て殺せ。俺はまだ死ぬ訳にはいかねぇ……コイツら程度を殲滅出来なければ、トシューラ王族に届く訳もねぇ!)
そしてオルストの心は、ゆっくりと冷たく黒いものに染まってゆく。
だが──手にした神具を構え踏み出そうとした矢先、オルストは唐突に呼び掛けられた。
「よう。オルストじゃねぇか……久し振りだな?」
声は黒騎士の一人から発せられている様だった。
オルストはその事実に驚愕するしかない……。魔獣合成体は意識を保てない筈なのである。
「テ、テメェ!何で魔獣合成体が喋りやがる!?」
「酷でぇな……俺は魔獣合成体なんかじゃねぇぜ?相変わらず失礼な奴だな」
「テメェ……一体、誰だ?」
あまりに親しげに語り掛ける黒騎士に、オルストは益々警戒を強めた。
敢えて友人を作らなかったオルストにこれ程気安く語り掛ける者など数人しか思い浮かばない。しかし、それも皆既に死んでいる筈……。
「俺だよ、俺。忘れたか?」
「だから誰だってんだよ、クソが……」
「やれやれ……仕方ねぇな」
黒騎士達は全員、顔を覆う兜を外した。そこには確かにオルストには見慣れた顔が……。
「な……!う、嘘だろ……?」
「嘘も何も、見たまんまだぜ?」
「何でテメェらが生きていやがるんだ!ルフィアン!アウルウォット!?」
そこにあったのは、かつてのフォニック傭兵団長と副団長──『ルフィアン・プレヴォー』と『アウルウォット・ノイスリル』の姿。残りの兵も全てフォニック傭兵団で死んだとされた者達である。
「何てことはねぇだろ……死んだ訳じゃなかっただけだ。死に掛けはしたがな?」
「何だと……?どういうことだ、そりゃあ?」
オルストは一切警戒を解いていないが、黒騎士達は寧ろ気安い態度で話を続けた。
「あの時……シウトの女勇者と魔王のガキ共の争いに巻き込まれた俺は、確かに死に掛けた。だがな?それを救ってくれたのがルルクシア様だ」
「ルルクシア……トシューラ第二王女か。だが、どうやって……」
「ルルクシア様はベリド様と協力関係にあった。だから、瀕死の我々を優先的に治療して貰えたのさ。まあ、少々人間離れしちまったがな?」
ルフィアンは自らの籠手を外しオルストに晒した。その腕は上腕部半ばで途切れ、歪な赤黒い腕に変化している。元の腕側にはどす黒い血管が浮かび禍々しく脈打っていた。
「ケッ!人間離れか。物は言いようだな……結局、魔獣と混じった化けモンになったんだろ?」
「化け物か……ハッハッハ。だが、俺は今嬉しくて堪らねぇのさ。この力がありゃあ、一国一城……いや、世界制覇だって夢じゃねぇだろ?」
「世界制覇ねぇ……。なぁ、ルフィアン。テメェ……何時から他人を“ 様付け ”で呼ぶようになったんだ?」
「…………何?」
「先刻言ったろ?『ルルクシア様』『ベリド様』ってな?俺はテメェの“ 一国の王にすら従わなかった尊大さ ”が好きだったんだぜ?それが『様』だとよ……ケッ!ヘタレやがって」
オルストは槍を肩に担ぎ退屈そうに首を回している。
「ああ、そうそう。そういや俺、フォニックの団長になったんだぜ?色々あって団を抜けちまったが、テメェらを見て抜けて正解だったと改めて感じたわ。俺は犬になる気はねぇからな……」
「クックッ……オルスト、言うようになったじゃねぇか」
「まぁな。俺も色々あったのよ……。で……御託はもう良いだろ、ルフィアン?そろそろ俺達の流儀に戻ろうぜ」
「力ある者が全て……か。だが、テメェは一度も俺に勝った事は無ぇだろ。結末は見えてるぜ?」
「だから御託は良いんだよ、御託はな?」
籠手を戻したルフィアンに対し、槍で肩をトントンと叩いているオルスト。しばしの沈黙の後、先に動いたのはルフィアンだった。
素早い抜刀からの横凪ぎ一閃。オルストは覇王纏衣を発動。飛び退きながら槍と右手の籠手を交差し、宙を振り払う。
「なっ!何だと?」
発生したのは球状の防壁。それが全部で九つ。黒騎士達を捕縛するように包んでいる。
『空塗りの籠手』は本来、球体を生み出すことは出来ない。球体に見えるのは無数の細かい円陣を展開し、対象を覆い固定した為である。
「心配すんなよ。邪魔されねぇ様にしただけだ。コイツは俺とルフィアンの差しの勝負。終わったら一人づつ相手してやる」
「ハッ!テメェが俺に勝てるか?オルスト!」
「これで三度目だぜ、ルフィアン?御託は要らねぇ……かかってきな!」
互いに距離を取り対峙する『元フォニック傭兵団』の二人。因縁に決着を付ける為の戦いが今、幕を開けた──。
その頃……里に向かったエイルは長老の元へと急いだ。魔石による強化結界を張るには人数が多い方が早い。熟練者たる長老の力は不可欠だったのだが……見慣れない人影がいつの間にか里に居ることに気付く。
長老の様子から敵ではないと推測出来たが、エイルは一応の警戒として確認を行う。
「おい、長老。ソイツらは何だ……?」
「エイル!無事だったか!心配したぞ…」
「良いから早く答えろ!時間がねぇんだよ!」
苛立つエイルを見た長老はタメ息を吐きながら説明を始めた。
「こちらはシウト国から協力に来てくださった方々じゃ。失礼の無い様にな?」
「シウト国?どうしてこんなタイミング良く……」
「ワシが連絡しとったのじゃよ。もしもの時は女子供だけでも転移させて貰うつもりじゃったからな……」
「成る程……」
窺うようなエイルの視線に対しシウトの代表として挨拶したのは、ファーロイトことパーシンである。
「私はシウト国トラクエル領主補佐官ファーロイトと申します。及ばずながらお力添えに参りました」
「アタシはエイルだ。わざわざ来てくれて有り難いよ」
ファーロイトと挨拶を交わしたエイルは、直ぐに視線の先を変える。この場で最も警戒すべきとエイルが判断した得体の知れない相手──そこにいたのは輝く様な髪を持つ少女と、空色の髪の少女。
明らかな場違いに見えるが、エイルは二人から目を離せない。
「お前ら……一体何だ?」
「これ!失礼じゃぞ、エイル!」
「長老も気付いてるだろ?何で確認しねぇんだよ。異常だぜ、特にこの二人は」
訝しがるエイルにまず答えたのは空色の髪の少女だった。
「アタシの名前はシルヴィーネル……こんな姿をしてるけど氷竜よ。縁あってシウト国に身を寄せているの。で、手助けに来た」
「氷竜……どおりで。で、そっちのは……いや、この感じは……」
メトラペトラ同様の超越の圧力。それは理に関わる存在……。
「大聖霊……なのか?」
「はい。私の名はフェルミナ。命を司る大聖霊です」
この言葉でレフ族から響動めきが上がる。
『命の大聖霊』──その存在を直に見たのは長老ですら初めてだったのだ。
「こ、これは失礼しました。非礼を御赦しください!」
「いえ。気にしないで下さい、長老さん。私もシウト国に縁ある者なので手助けに来たのです。だから、普通に接して頂ければ」
「き、恐縮です」
畏まっている長老だが、エイルはお構い無しに話を続ける。
「心強い援軍だな、長老?で、折角の援軍だ。期待して良いのか?」
その質問に、笑顔を浮かべたファーロイトは力強く頷く。
「出来る範囲であれば、ですがね?」
「……じゃあ、早速一つ頼むよ。アタシは直ぐに戻らなきゃならないんだ。厄介な敵がいるみたいでね」
「ならば我々も……」
「いや、アンタらには里の守りを頼みたい。下手すりゃ魔人が来るかも知れないんだ」
「魔人ですか……」
「そう。ベリドとかいう奴らしいんだが……」
「ベリドだって!?」
その名に驚いたのはシウトからの援軍達。驚愕と不快……まさにそんな表情だった。
「知ってるのか、ベリドを?」
「シウト国で邪法を行っていた者ですから。それに……」
「?……何かあるのか?」
「奇縁、というヤツですよ。ソイツが居なければ私は未だトシューラに縛られていたし、アイツにも出会えなかった」
(アイツ……?)
再び怪訝な顔をしているエイルにそれまで様子を窺っていたフローラが駆け寄る。手招きしたフローラに耳を近付けると、エイルはある事実を聞かされる。
「エイルさん。その方が以前話した“ パーシンさん ”ですよ」
「は?トシューラの採掘場でライと一緒だったっていう、あのパーシンか?」
そこで再びシウト国側から驚きの声が……。
「エ、エイル……ライを知ってるの?」
「そっちこそ……。何でライを知ってるんだよ?」
「何故って……アタシ達の縁も【ライ】に由るものだからよ……。アタシもフェルミナもライに救われたのよ」
「………。アハハハハ!コイツは良い。アタシもそうだぜ?まさか、こんな偶然が重なるなんてな?」
痴れ者勇者の旅は意外な形で縁を繋いだ。それは偶然か必然か……。
「エイルはどんな出会いで?」
「封印を解かれたんだ。それで身体の異常を治して貰った」
「封印……?異常……?」
「アタシは三百年封印されていた。バベルの手によってな?」
そこでパーシンはワナワナと震え出す。明らかな狼狽にエイルは笑顔を浮かべていた。
「ま、まさか……魔王……」
「御名答。アタシは三百年前の魔王だ。魔王エイル・バニンズ。まあ、今は【元・魔王】だけどな?」
今日一番の驚き……。シウト国からの援軍は皆固まっている……かと思いきや、さほど驚かない者がチラホラと……。
フェルミナ、シルヴィーネル、パーシンの三名である。
「アンタらはあんまり驚かねぇんだな?」
「アタシはエイルと同じで救われたのよ。ドラゴンの姿で、男の声を使って威圧したのにね?」
「へぇ……流石はライだな」
満足げなエイル。その姿を見たフェルミナは何処か張り合う様な態度を見せた。女の直感が何かを告げたのかも知れない……。
「そうです。ライさんは凄いんです。封印されていた私を命懸けで助けてくれたんですから」
そんなフェルミナの態度に、エイルも対抗意識を燃やし始める。視線が交じり合えばまるで火花が散っているかの様だ。
「アタシだってそうだぜ?命懸けで助けて貰った。だからアタシはライの女になることにした。生まれたままの姿も見られたことだしな?」
大衆の面前での爆弾発言投下。だが、エイルはフフンと誇らしげである。
「私だって全部見られていますよ?一緒にお風呂だって入って温まったんですから」
対するフェルミナも爆弾を投下。フンスと鼻を鳴らす美少女大聖霊様の全裸自慢は、レフ族の男達の股間に中々の衝撃を与える。
「あの……。お風呂……私も一緒にお風呂に入りましたよ?ライさんの裸も……その…全部見てます」
第三の爆弾を落したのは、まさかのフローラだった……。孫娘の爆弾発言に、長老リドリーは血の涙を流しそうな苦悶の表情を浮かべている。
この日以来……レフ族達の間には、ライという勇者と関わると全裸にされるというトンでもない噂が拡がることになるのだが、当人は知る由もない。
因みに当人であるライは、やはり全裸を見られたホオズキを抱え飛翔中。あながちレフ族の噂は間違っていないのかもしれない……。
その後も三人は、胸を揉ませた、唇を奪った、抱っこした、おんぶした、と張り合い、ライの評判を下げ続ける。やがて三人は何故か互いを認め合い固い抱擁の末に握手を交わす。
「フフ……中々やりますね、エイルさん」
「フェルミナこそ……。まあ、全てはライが決めりゃ良いんだ。その時はどんな答えでも恨みっこ無しだぜ?」
「私、頑張ります!」
何故かフローラまで参戦しているが、考えてみればこの三人──ライより遥か歳上である……。
そんな光景を、死んだ魚の目で見ていたシルヴィーネル。その隣にはやれやれと首を振るパーシンの姿が……。
(大変だぜ、ライ。戻ったら修羅場が待ってるぞ?)
いつもの無茶苦茶とはまた別のトラブル発生中……。だが、パーシンは知らない。修羅場への参加者はこの先まだ増えることを……。
そんな大混乱の里。その場を諌めたのは、なんとフィアアンフである。アニキと呼ばれたフィアアンフは、どうやら精神的成長を見せ始めた様だ。
(おい、エイルよ!あのオルストとかいう小僧、放置していても良いのか?)
「あ……ヤベェ、忘れてた」
(我の見立てでも確かにあの黒い連中からは魔獣の気配がしたぞ)
「そうか……じゃあ急がねぇと……」
「エイルよ……誰と話しているのじゃ?」
孫娘の爆弾発言から立ち直った長老は、確かにエイルと何者かの会話を聞いた。だが、その相手が見当たらない。
「ああ……。紹介がまだだったっけ。今話しているのはフィアーのアニキだ」
「は……?誰じゃと?」
「説明が面倒だから、アニキ頼んだ!」
(フハハハ!良かろう!我が名はフィアアンフ!最強の竜なり!)
「……いや、訳がわからん。ん?フィアアンフ?はて……何処か……で……」
長老はみるみる青ざめて行く……。その様子に首を傾げているエイル。そんな中、フィアアンフに質問を投げ掛けたのはシルヴィーネルである。
「ま、まさか……『黒の暴竜フィアアンフ』なの?五百年前に暴れ回って覇竜王ゼルトとふた月も戦ったっていう、あの?」
(ほう……そうか。貴様は竜族の娘であったな)
長老はそこでようやく記憶に思い当たった。
「思い出したぞ!バベルに封印されて魔剣・獅子吼になった、あのフィアアンフか!」
(フハハハ!そうだ!我は……いや、今は我よりあのオルストとかいう小僧の件だろう?
次に反応したのはパーシンである。ライに関わる者達への驚きで少し混乱しているが、可能性としては有り得なくもない。
「オルスト……トシューラの傭兵のオルストですか?」
「知ってるのか?」
「……少し事情がありまして。詳しくは後に話しますが、まずは救出に」
「いや……それはアタシだけで良い。アイツは意固地だからな。意地でも手を借りないだろ?アンタらはここで待機しててくれ。トシューラのことだから、まだ何か仕掛けてくるかも知れない」
「分かりました。お気をつけて」
「話はトシューラを追っ払ってからゆっくりやろうぜ?里の守りのほう、頼んだ」
エイルは再び国境に向け飛び立つ。そこではオルストが激戦を繰り広げている最中だろうが、手助けを求めるとは思えない。
だが、オルストの行為がトシューラの進軍を防ぐ為の行動である以上、せめて近場にいるのが筋だろうとエイルは考えていた。
そして……エイルの言葉通り、レフ族の里にもトシューラの魔手は確かに迫りつつある。
そんな状況のカジーム防衛戦中盤。マリアンヌに鍛えられたシウト国の『援軍』がカジームの大地で無双するのは、あと僅かのことだ……。
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