第四部 第三章 第三話 復讐者、二人


 国境から里へと向かうレフ族の戦士達は、穏やかではない心中で努めて冷静に思考を繰り返す。


 『これは戦の始まりだ』、と……。


「里の者達と共に玉砕覚悟で戦うべきか?」

「いや……シウト国が避難を受け入れてくれるだろう。皆で転移すべきではないのか?」

「しかし、易々と国を空け渡すのか?折角甦った我々の故郷を……」


 口々に今後の行く末を語るのは、やはり不安が消えないからだろう。


 そんな戦士達も決断を下せる訳ではない。最終的な決定権は長老にある。一刻も早く長老に指示を仰がねばならない──。

 戦士達の飛翔は自然と速まり、然程時間を掛けずして里へと到着を果たした……。



「長老!大変です!?」


 駆け込んだ長老の館。しかし、そこに長老の姿はない。


(ここにいないとならば集会場か。あの爆発だ……既に対策に乗り出したのだろう。流石は長老だな……)


 戦士達は急ぎ集会場を目指すことにした。その途中、里の者の姿が無いことで予想は確信に変わる。

 事実、集会場に到着すれば、多くのレフ族達が既に人集りになっていた。そして、その中心には長老リドリーの姿が……。


「長老!」

「おお!お前達……無事で何よりだ」

「それで国境の件ですが……」

「うむ。大体は把握しておるよ。今は皆の意見を聞いている最中じゃ。お主らの意見も聞かせて貰えるか?」


 既に意見集約は為されている様子。戦士達はただ一言を述べるのみだった。


「我々は長老の決定に従う」

「……良いのか?里が滅ぶやも知れんのじゃぞ?その決定をワシに任せて後悔はせんのじゃな?」

「貴方を長老に選んだ時点でそれは決めていたこと。後悔などないですよ」


 国境を守備していた戦士達は口々に同様の言葉を述べる。長老は少し感動していたが、咳払いを一つして己を律した。


「皆の意見は理解した。この国を離れてまで生き残る気は無い、そういうことらしい。全く……頑固者達よの」




 そして長老は、同胞の顔を見渡し厳かに告げる。その決断はカジーム国誕生以来……つまり、千年ぶりの大きな決断となるだろう。


「カジームはこれより敵対国への反撃を軸とし戦う方針に切り替える。但し、これは怨嗟にあらず。純粋な生存権を賭けた戦いと心得よ!」

「おぉ!我らが国を護れ!」

「レフ族の安住を護れ!」


 一族は鬨の声を上げた。魔法に優れたレフ族の戦い……それは本来ならば脅威なのだとレフ族自体忘れている。トシューラ兵はこの後、その恐怖に曝されることになる。


「皆の意思は決まったな?では、ここで行動方針を決めたいと思う。何か問題があれば遠慮せず言うように」


 最初に長老の側に歩み出たのはエイルだった……。


「私が先陣切ってやる。だけど、後は自分等でやるんだぜ?じゃなきゃアタシが居なくなった後もカジーム国を護るなんざ無理な話だ」

「エイル……本当に良いのか?戦いたくないんじゃないのか……?」

「良いんだ……。これはアタシの決断。アタシはウジウジしてるのは性に合わないからな」


 エイルがカジーム国に戻って既に七日……。その間、エイルの生活は実に穏やかだった。

 家事をこなし、田畑を耕し、子供達と過ごす。世界から恐れられた魔王の姿などそこにはなく、レフ族の若い娘の暮らしぶりそのままの日々があった。それこそが本来のエイルの姿であることを、里の者皆が理解している。


 だが……寧ろエイルはその平穏を恐れていた。魔王として奪った命、巻き込んだ者達を考えると、自分が幸せで本当に良いのか?という疑問が消えない。だからこそ戦いに身を投じることを決めたのである。


(今度は命を奪うんじゃなく、里を護るために。良いよね、兄さん……)


 今は亡き兄に問い掛けるエイル。その決意に満ちた顔に、里の者はそれ以上何も言えなかった……。



「さて……エイル以外にも戦いを志願する者はおるか?」

「取り敢えず俺も行くぜ?まだ報酬貰ってねぇのに死なれても困るしな?」

「オルストか……。お前はレフ族の者ではない。無理に戦う必要は無いのじゃぞ?」

「まあ、テメェらには何のかんのと世話になったからな。飯と宿代分くらいは戦ってやる。それに、取り敢えずとはいえ新設部隊の晴れ舞台だ。面倒見てやるよ」

「……感謝する。他にはおるか?」


 前に歩み出たのはオルストに鍛えられた者達……。二十人程の若きレフ族の戦士だ。


「クックック……腕がなるぜ。なぁ、兄弟?」

「ああ……トシューラ兵など我らが力で血祭りに上げてやろうではないか……」

「こ……ここここ、コロス~」

「誰一人逃がしゃしねぇ……皆殺しじゃ!」


 オルストに鍛え上げられた若き戦士達は皆、精悍な顔付きをしていた……。

 以前は石鹸の香りがしそうな優男達だったのだが、今や石鹸どころか酒と汗の臭いが似合う無頼漢となってしまっていたのだ。


 刃物を舐める者や酒瓶を煽る者、意味もなく不敵な笑みを浮かべる者など、一団はかなり異様な雰囲気を醸し出している。しかも皆、腕に同じ刺青を入れて結束を高めているご様子。


「………………」

「………………」

「………。ちょ、長老。何か一言……」

「え?あ、ああ。……いや、済まん……言葉が見当たらぬとはまさにこの事じゃな」


 若者達のあまりの変わりように長老は思考を止めていたらしい。いや、長老だけではない。殆んどのレフ族は何と言えば良いのか本当に困っている様だった。


「おい、オルスト……」

「何だ、魔王か。フッ……どうだ?中々頼もしげだろう?短期間であそこまで仕上げるのに苦労したぜ」

「この……ドアホぅ!?」

「ぐべっ!?」


 エイルの手刀炸裂。脳天を叩かれたオルストは蹲り唸っている。


「テ、テメェ!何しやがる!?」

「何しやがる!は、こっちの台詞だ!おい、何だアレは?アイツらに何しやがった!?」

「あぁ?テメェの要望通りにどんな戦いにでも生き残れる様に鍛えたんだろうが!何か問題あんのか?」

「問題大ありだ、どアホ!アレじゃレフ族じゃなくて蛮族じゃねぇか!?」


 エイルが指を指した先には妖しげに嗤う荒くれ者集団が親指を立てている。


「しょうがねぇだろうが、時間無ぇんだからよ!それに本来はまだ訓練途中なんだぜ?」

「あれで途中とか訓練終わったらどんな殺人集団になるんだよ……」

「まあ、見た目はアレだが確実に強くなった筈だ。実戦が欲しかったが、これはむしろ好都合……痛ぇ!叩くな!?」

「………。今更言ってもしょうがないんだが、アイツら平和になったら普通の生活出来るんだよな?」

「…………。お、男ってのはいつも戦場にいるもんだぜ?」

「このヤロウ~ッ!?」

「ま、待て!時が奴等を癒してくれる!……かもしれねぇ!」


 目が泳いでいるオルストの胸ぐらを掴みガクガクと揺さぶるエイル……。だが、そんなエイルの肩を叩き制止する者がいた。


 そう……レフ族の荒くれ者達である。


「姐さん……そのぐらいで許してやっちゃあ貰えませんかね?教官も俺らや里を思えばこそのことですから」

「セロ……お前、アタシより歳上じゃねぇかよ!何だよ、姐さんて!」


 セロと呼ばれたのはエイルより歳上のレフ族の男。つい一週前まで植物……特に花を愛し懸命に水やりをしていた心優しき男だった。

 だが、今はそんな気配は微塵もない。花など踏みにじりそうなその顔には、大きな刀傷が痕になっている。


「へへっ……俺達【カジーム防衛爆殺部隊】の教官であるオルストさんより強いんですから、姐さんと呼ぶしか無いでしょう?」

「ちょっと待て!何で防衛なのに爆殺なんだ?それに『呼ぶしか無いでしょう?』とか頭おかしいぞ!」

「またまた……照れちゃって」

「照れて無ぇよ!オ~ル~ス~ト~!どうしてくれんだコレ?絡み辛くて仕方ねぇ!?」

「俺は依頼を果たしただけだ!なぁ、そうだろ?テメェら!?」

「御意!?」


 エイルは再びオルストを揺さぶる。既に取り返しが付かないかも知れない『カジーム防衛爆殺部隊』……部隊名から察する様に殺す気満々である。



 そんなエイル達のやり取りをしばらく生暖かい目で見守っていた長老達。いい加減時間が勿体無いので止めに入り話を再開する。


「と、ともかくじゃな?まず敵の戦力を把握せねばなるまい。じゃが、ワシの魔法 《遠隔視》は何かの術で妨害されて詳細が分からん。警備をしていたお主らの話を聞きたいのじゃがな?」


 長老は隣にいる国境警備隊長ダグルの肩を叩く。ダグルは無言で頷くと、国境で起こったことを出来るだけ事細かに語った。


 それは、魔法王国の子孫であるレフ族ですら驚く内容であった。


「魔石を撃ち出すだと?そんなことが……」

「しかし事実です。あれは間違いなく魔力を限界まで詰め込んだ上質の魔石。恐らく風魔法か何かで撃ち出すのでしょう」

「うぅむ……品質の低い魔石で使う【簡易魔法】の上位型、といったところかのぅ」


 過去、ライがエノフラハの地下で使ったこともある【簡易魔法】。事前に劣化魔石に魔法を込め叩きつけるだけで、魔力の消費せず魔法が使えるというもの。魔石の質にも左右されるが、精々中位魔法までしか使えないという欠点があった。


 しかし、今回トシューラが使ったのは上品質の魔石……その様な品は多種多様に応用が利く上に永続的な再利用が可能な為、使い捨てにするなど有り得ないことなのである。


「トシューラは余程の魔石鉱山を所有しておる、ということか……」

「侵略行為で手に入れた資源かも知れませんね。だから躊躇せずに使える……いつかトシューラは取り返しの付かないことを起こしそうですね……」

「むぅ……ともかく、今は先のことを心配しても仕方あるまい。それで、その魔石を撃ち出すという砲台は幾つあったのだ?」

「恐らく十以上は……砲台は金属で出来たもので、恐らく移動用の脚も兼ねた支えが付いています。移動しながらの砲撃も可能でしょう。ですが動きの遅さと命中率の低さが弱点の様です」


 ダグルは、虫の脚の様な形状移動する砲台の姿を国境で確認している。命中率に関しては、結界の要を砲撃している際の命中制度の低さから予測が容易だった。


「魔石自体に魔力が限界まで籠めてあるので、魔法で誘導出来ないのでしょう。付け入る隙はありますよ」

「良く見ておるな……流石じゃ。で、他にも情報はあるかの?」

「歩兵の数はざっと見て三千程でした。ですが、何やら奇妙な兵が混じっていましたよ?」

「奇妙な兵とな?」

「トシューラの兵は赤揃えですが、その中に黒い鎧の兵が少数混じっていました。妙な魔力気配もあったので警戒すべきでしょう。あとは魔術師の姿が思いのほか少なかった様に感じました」


 黒い鎧は魔導具の可能性もある。魔術師の少なさも代わりがいると考えるべきだろう。


「油断は出来ぬな。だが、我々は退路がない。焦らず、かつ迅速な戦いが理想じゃ。戦略としては敵の足止めと上空よりの攻撃が王道じゃろう。飛翔の出来る数の有利は変わらんじゃろうからな」

「敵の足止めはアタシがやる。後続はオルストと防衛爆殺ぶ……と、とにかく任せるから成果を見せてみな。他の皆は後方から魔法射撃と監視を頼むよ」


 エイルの指示に皆が首肯く。カジームは国を名乗ってもレフ族の数は精々千人にも満たない。長命ゆえの少子化。加えて過酷な環境による自制により人口を増やせなかったのだ。どうしてもエイル頼りになってしまうことに、多くの者は申し訳無さそうな顔をしていた。

 だが、そんな空気を振り払う様に声を上げるオルスト。戦の前に士気が下がるのを止めたのは、場数の多さによる直感的な判断だろう。


「わかったぜ。テメェら!いよいよ力を見せる時だ!気合い入れろ!」

「御意!」

「俺達は何だ?」

「俺達は炎!」

「敵は何だ?」

「トシューラの【ピーッ!】野郎!」

「敵を見つけたらどうする?」

「皆殺し!皆殺し!」

「命乞いする奴がいたら?」

「焼き殺す!焼き殺す!」

「逃げる敵がいたら?」

「爆殺!爆殺!」

「クックック……奴らに絶望を!?」

「サー!イェス!サー!!」


 その異様な雰囲気を存分に醸し出す『オルストと愉快な【防衛爆殺部隊】』。彼らの士気は確かに上がったが、『殺せ』連呼を聞かされた他のレフ族のテンションはダダ下がりである……。


「……。よ、よし!では前線の指揮はダグルに任せるとして、我々はエイルの指示通りに後方から援護じゃ」

「あ……そうだ長老。海岸側の警備はそのままにしておいてくれ。もし、何かあったら応戦せず連絡を頼むぜ?」

「何か気になるのか、エイル?」

「魔術師が少ねぇって話だからな。相手は卑怯が常套のトシューラ。警戒し過ぎて損する相手じゃねぇ。アタシが封印されている間に変わっていなければ、だけどな?」

「わかった。その際はワシが《山彦の術》で伝える。安心せい」

「……無理すんなよ、長老?」

「お主もな?皆も必ず生きて戻れ!では、作戦開始じゃ!?」


 戦士達は各々装備を揃える。カジームの……レフ族の命運を賭けた戦い。失敗は許されない。準備を揃えた前衛担当の戦士達は、早くも国境に向け歩みを始めた。


 先頭を行くのはエイルとオルスト。エイルは腕輪型宝物庫から槍と籠手を取り出しオルストに見せた。


「コイツを貸してやる。今回の成果が確かだったらそのままお前のモンだ」

「……良いのか?このまま持ち逃げするぜ?」

「傭兵ってのは契約に忠実なんだろ?お前の依頼が確かに果たされたら好きにしな」

「俺がこの神具でテメェを刺すとは考えねぇのかよ。魔王のクビだぜ?トシューラじゃ英雄になれる」

「そうかもな?だけどそれを渡すってことは、アタシがそれでも討たれない自信があるって考えられねぇか?」

「…………ケッ!」


 オルストは礼も言わずにエイルから神具をもぎ取った。これは報酬の前払い……そう呟きながら。


「まあ、お前が嫌じゃなければこのままカジームに居てくれて構わねぇけどな?ある程度落ち着いたらアタシは出ていくつもりだし」

「出ていく?ハッ!やっぱり後ろ目てぇか?」

「まあ……な。アタシは里の優しさに甘んじちゃダメなのさ。やることもある」


 拐われたレフ族の奪還……。今更遅いと言われ恨みを向けられるかもしれないが、今もまだ不遇であるならば……今も生きているならば救い出すのがエイルの願いである。


「クックック……随分とお堅い魔王様だな。俺なら助かった時点で好きにさせて貰うがね?」

「そうかよ。まあ、アタシの勝手さ。干渉すんなよ?」

「しねぇよ。俺は神具が手に入りすりゃあ良い。そうすれば俺は……」


 槍を握りながらギラギラする目で笑うオルスト。その目は其処に無い何かを渇望する色を浮かべていた。


 エイルにはその表情を嫌と言うほど知っていた。だからこそ、オルストの抱えるものも直ぐに見抜くことが出来た。


「……復讐、か」

「!!な、何だいきなり……!」

「……隠すなよ。アタシが何で魔王になったか、長老辺りから聞いてるだろ?つまりは同類だから見抜けた。それだけの話だ」

「ちっ……。干渉すんなよ」

「しねぇよ。他人の復讐に干渉出来るほどアタシは清廉潔白じゃあないんでね。どの面下げて人に意見出来るってんだよ……」

「……………」


 復讐者であったが故にその辛さや悲しみは理解できる。だが、復讐に呑まれ他者を巻き込んだ災害とも言える自分が復讐者を諭すなど、まさに“ どの面下げて ”ということになる。


「ま、里の皆はアンタを気に入ってるみたいだからな。もし復讐が終わっても嫌じゃなかったら戻ってやってくれ」

「ケッ……あの連中に気に入らない相手なんていんのかよ?お人好し共がよ?」

「いるじゃん。トシューラが」

「それは国単位の話だろうが。人ってのは個人だ。身内を嬲り殺されりゃ、個人や一族が復讐対象よ」

「そうだな。その意味じゃアタシはまだ復讐を果たしていない。少なくともトシューラ王族を何とかしたいところだ」

「クックック!良いねぇ!それでこそが人ってもんだ。ようやく利害が一致したな?」

「利害が一致?じゃあ、お前の復讐相手ってのは……」

「トシューラの王族よ。まあ、目的を果たすまではカジームに付き合ってやっても良いさ」

「お前……里を巻き込んだら殺すぞ」


 初めてエイルから向けられた殺意。しかしオルストはそれを受け流し、動じた様子は見せない。


「心配しなくても魔王を敵に回すほどアホじゃねぇ。ただ、カジームは隠れ家には持って来いだからな?その過程でトシューラが攻めて来りゃ潰してやる。奴等への嫌がらせにもなるだろ?」


(……まあ良いか。長老がその辺気付いていないとは思えないからな。それに、コイツはライの呪縛を自力で解いた。心配は要らねぇだろ)


 エイルの見立てでは、『発動条件を呪縛無しでも満たさない』ことが呪縛の解除条件。つまり弱者を殺したり利用したりしないとオルスト自身が考えられた故に、呪縛は解除されたのだろう。

 だが、恐らく復讐心がある以上トシューラ兵に対しては『復讐すべきトシューラ』として纏めて見なされる可能性が高い。きっと相当の犠牲は生まれる。


 エイルはそのことに口を出さない。誰も彼もを救おうとするライの真似など出来ないのが当たり前なのである。当然エイルも優先すべきことの線引きは出来ていた……。



 レフ族の戦士達を先導する復讐者二人……。その行く先には復讐対象であるトシューラ王族・リーアが待ち構えていることをまだ知らない。


 そしてカジームの初の反撃戦──この行為は後に世界に知れ渡ることとなる。シウト国の口添えも加わり、やがてペトランズ【五大国】が【六大国】に変わるのは間も無くのことだ。




 一方、里には戦況を左右する大きな変化が訪れていた。


「まさかご協力頂けるとは思いませんでした。ご足労、ご助力、感謝致します」


 長老が迎えたのは青く輝く鱗を持ったドラゴン。そしてその背から降り立ったのは、輝く様な髪を持った少女と数人の戦力だった。


「カジーム国は今や縁ある国。微力ながらお力添えさせて頂きましょう」


 シウトの代表として現れた男が握手を求めると、長老は快く応える。


「私はファーロイト。ファーロイト・ティアジストと申します。シウト国大臣キエロフの命により馳せ参じました。少数ながら手練れも連れて参りましたので、戦の末席にお加えください」


 ファーロイトと名乗った男は騎士然とはしていないが、威厳のある雰囲気を纏っている。黒茶の髪に代表らしからぬ身軽な装備……その姿に気付いたフローラは思わず駆け寄った。


「パーシ……ファーロイトさん。お久しぶりです!」

「はは……フローラ。パーシンで良いよ。手助けさせてくれるかい?」

「はい!ありがとうございます!」


 新たに加わった援軍。カジーム防衛戦は今、大きく動き出した……。



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