第四部 第三章 第二話 結界崩壊


 その日はカジームが緑溢れる大地としてよみがえった喜ばしき日だった……。


 レフ族の皆が互いの手を取り感激に浸る……里にそんなことが起こるのは実に久方振りのことである。



 だが──そんな中で悲劇は唐突に起こった。



 里の中の森、その小道の横で男が一人……グッタリと倒れているではないか。


 【カジームの悲劇】


 私はその事件をそう名付けることにした──。


 申し遅れたが私の名はリドリー……リドリー・マオナーズ。カジームの長をやらせて貰っている者だ。


 ともかく、私はこの事件を追うことにした……。




 まず、事件の概要を説明せねばなるまい。


 昼を少し回った時刻……。唐突に地震が起こり、気が付けば枯れていた大地が息を吹き返えした。里の多くの場所が予想以上に木々に覆われ、見通しも悪くなっていた。そんな場所で事件は起こったのだ。


 被害者は二十程の男。打撲跡多数、意識は確認出来ず。但し、現場には被害者が残したらしい血文字が一文……『おっぱいよりお尻が大好き!』と印されていた……。


 まずは多数いる目撃者の証言から──。



 ※ 都合により音声を変えてあります。


『ああ。あの事件ですか?初めは何処の流れ者の喧嘩かと思いましたよ。威嚇と睨み合いから始まったんです。ほら、あの人……オルス【ピーッ!】さん、悪い人じゃないんですけど言葉遣いが荒いっていうか……。で、相手の人も言葉遣いが悪くって……』


 どうやらいさかいのあった両者は互いにガラが悪かった、という証言が相次いでいる。更に、調査を続ければ新たな事実が判明した。



  ※ 都合により音声を変えてあります。


『相手の方?綺麗な方でしたよ。でもねぇ……あの人、ヤッパリ気が強くて……。え?えぇと……あの……私が話したって言わないで下さいね?何でも昔、素行の悪さに『魔王』とか言われて恐れられていたとか……確か名前はエイ【ピーッ!】さんていって……』



 重要な証言を得た私は、遂に【ピーッ!】イルさんに直撃インタビューを試みた。



 ※ 都合により音声を変えてあります。


『ああ?知らねぇよ!何だ?文句あんのか?コラ!』


 会話も成り立たない程に興奮した様子のエ【ピーッ!】ルさん。私は身の危険を感じ、一旦その場を後にした……。



 次はこの事件の影にあるエイ【ピーッ!】さんの人物像に迫る。

 そこで私は、ある有力な情報を持つ人物との接触に成功。彼から有力な証言を得るに至った。



 ※ 都合により音声を変えてあります。


『事件直前、あの人が私のところに来たんです。相変わらず口が悪いなぁと思ったんですけどね?え、話の内容?確か【殴りたい】とか【腑抜け】とか……そうそう、フォークを向けて来たんですよ……いやぁ、恐かったですよ』


 昔からエイル・バ【ピーッ!】のことを知る【ピーッ!】さんは【ピーッ!】【ピーッ!】で【ピーッ!】……。



「いい加減にしやがれ、クソジジィ!」

「ぐあぁっ!?」


 エイルの手刀がカジームの長老・リドリーの脳天に炸裂。うずくまる長老の頭からは、煙が上がっているような幻覚が見える程の強烈な一撃だった。


「痛いではないか、エイルよ……」

「ああ……痛みを味わわせる為に叩いたんだから当然だ。何が『カジームの悲劇』だ、訳のわからねぇ演出しやがって……」

「いや、だってアレ……」


 長老の指した先にはトシューラの元傭兵・オルストが横たわっている。因みに血文字など一切見当たらない。


「あれが惨劇じゃなくて何じゃ?」

「あっちが先に絡んで来たんだろうが!」

「だが、アヤツは魔王と聞いてビビっとったんじゃろう?それをあんな無惨な……」

「ただ小突いただけだ。死んじゃいねぇよ」


 周囲にいるレフ族の者達は、近くの者達とヒソヒソ話をしている。エイルは拳を握り締め震えていた。


「お前らもお前らだ~っ!!いつからそんなノリが良くなったんだ?えぇ?レフ族ってそんなだったか?」

「悪い、エイル……村長には逆らえなくて……」

「………やっぱりジジィの仕業か」


 振り返ると長老の姿は既に無い。遥か先の木々の隙間から、走り去る後ろ姿が僅かに見えた……。


「くっ……あのジジィ。何て身軽な……」


 後でもう一度殴ろう……謝るまで殴ろう!──と心に誓うエイルであった。



 そして、まるで見世物が終わったかの様に散開するレフ族達……。本来はエイルに感謝を告げに訪れたのだが、長老の茶番で空気を濁された為に期を改めることにしたらしい。


 そして残されたのは、倒れたまま放置されたトシューラの元傭兵・オルスト……。エイルはその傍に近付くと、指先に電撃を込めてオルストに触れる。


「ばびびびびびびぴ!?」


 電撃を受けたオルストは思わず勢い良く転がり、新たに繁った木に激突……痛みでのたうち回っている。


「ぐ……ぐぞぉ!つくづくツイてねぇ……ま、魔王だと?」

「おい……オルストとか言ったな。お前は何でここに居やがる」

「……こんな寂れた場所、誰が好き好んで来るか!飛ばされて来たんだよ、ライとかいうバケモンにな」

「……アタシが聞いてんのはいつまで里にいるんだってコトなんだけど?」

「呪縛が掛かってんだよ!悪かったな!」


 呪縛という言葉にエイルは眉をひそめた。かつて魔王だった頃、配下を従わせる為に使っていた記憶が僅かながら過ったのである。


 ライがオルストに呪縛を使った理由は分からないが、無意味にカジームに送ってくるとも考え辛い。

 念の為に視覚纏装の【流捉】で呪縛の状態を確認するエイル。しかし……オルストの身体には呪縛は見当たらなかった。


「お前、呪縛無いぜ……?」

「は?そんな筈は……確かに俺はアイツから《呪縛》を受けた筈だぞ」

「……それは間違いないんだろうな。その痕跡はあるし。つまり、呪縛は『解けた』ってことになる。ライは何を呪縛の条件にしたんだ?」

「確か……俺より弱いヤツを傷付けたり見捨てたりすんな、俺を信用した奴を裏切るな、だったか……」

「解除条件は聞いてねぇのかよ?」

「何も知らねぇ……解けたって何だよ、チクショウ。あんの野郎……」


 いつの間にか解けた呪縛……。つまりそれは、解除条件を満たした……もしくは期限付きだった可能性が高い。

 更に呪縛の内容を考えれば、前者と考えるのが妥当だろう。


 つまり───。


「お前……呪縛の解除条件を満たしたみたいだな」

「は……?何の話だ?」

「……ま、いいや。自分で考えな。で……呪縛は解けたけどどうすんだ、お前?」


 しばらく値踏みする様な視線でオルストを眺めるエイル。呪縛解除条件は大体想像が付いたので特に警戒はしていない。

 一方のオルストは、舌打ちしながらエイルを見ている。やはり値踏みする様に確認していた。


「……フン。勝手にさせて貰うさ。それよりテメェ……本当に魔王なのか?随分と落ち着いてんじゃねぇかよ」

「まぁな。今のアタシは【元・魔王】ってトコだ。魔人でレフ族の、恋する女──エイル・バニンズ。まあ、馴れ合うつもりはないから安心しな」

「そうかよ。ならありがてぇ……互いに干渉無しで良いな?」

「いや、干渉はするぜ?馴れ合いはしないってだけだ。アタシはライみたいに優しくないからな?」

「ちっ……めんどくせぇな」


 不満げなオルストだが、何処かホッとした表情をエイルは見逃さない。


(そういや長老は、コイツが一族に発破かけてるとかいってたな……。何か目論見があるのかも知んないけど、もう少し様子見してみるか)


 今のレフ族は戦う覚悟が明らかに足りない。長老は反撃を口にしたが、レフ族は持って生まれたその温厚さから戦いに躊躇してしまうのは目に見えていた。


 だが……オルストは元傭兵。どんな状況でも生き残る意志を持ち、あらゆるものを利用して敵を倒す存在だ。エイルさえもその独特の空気を感じる程にオルストの意志は強さを滲ませているのである。


「そうだ。おい、オルスト。一つ取引しねぇか?」

「取引だと?急に何だ?」

「お前、傭兵だろ?なら報酬をやるから依頼を受けねぇかと聞いてんだよ」

「……条件次第だな。俺に出来ることか?対価に相応しい報酬か?その辺バランス次第だ」


 傭兵だけあって報酬には厳しいらしいオルスト。確かに不要なものを報酬にされても困るだけだろう。


「よし。じゃあ依頼内容からだな。お前、レフ族の教官になれ。戦える奴らを鍛え上げて部隊を作り上げろ」

「……この平和ボケした連中にそれが必要なのか?」

「ああ。間違いなく必要になる日が来る。アタシは個人を鍛えられても部隊を創るのは苦手でね」

「難題押し付けやがって……報酬は高くつくぜ?」


 そう言うと、オルストはニヤリと笑う。応える様に笑ったエイルは、腕輪型の宝物庫から一本の槍と赤い籠手を取り出した。


「お前の成果次第だが、これらの神具一つ、または両方くれてやる」

「神具だと!……こ、効果は?」

「槍は結果を固定する『因果の槍』だ。コイツを受けたら回復魔法でも傷は治らない。それに魔法の効果も対象に固定することが出来る。ずっと消えない火とかな?」

「……で、籠手の方は?」

「時空間魔法による壁を生み出す機能がある。籠手の掌を向ければ空間遮断による絶対防壁が発生するぜ?防壁はサイズも形も自在に調整出来る。最大でこの里を覆える程度。それを越える面積は出せない」


 エイルはさも当然の様に語っているが、現代には神具は殆ど残っていない。何処かの魔人勇者の様に製造出来る者など、エクレトルのエルドナを除き現時点では皆無なのである。


 当然、オルストからすれば喉から手が出る程に欲しい品だった……。


「ほ……ほぅ。良いだろう。その取引、乗ってやる」

「よし。これは成果が出たら渡してやる」

「何だと?先に渡さねぇなら取引無しにするぜ?」

「そうか。じゃあ交渉決裂だな」


 エイルは食い下がることもせずあっさりと退き下がる。これにはオルストは慌てた……。

 折角の神具……これを逃せば神具など二度とお目に掛からない可能性が高い。


「ちょっと待て!……。ま、まぁ、何だ。一応は受けてやるが、成果に関しては断言出来ねぇだろ?」

「確かにそうだな。ん~……じゃあ、ひと月様子を見てモノになりそうなら、この槍をやる。それなら文句無いか?」

「ひと月かよ……短けぇな、オイ。……まあ仕方ねぇ。それで良いぜ」

「その後も成果次第で報酬出してやるぜ?籠手もそうだけど、魔法の指南もしてやっても良い。ま、お前次第だな」


 今度はエイルが先にニヤリと笑う。オルストはやはり応える様に笑った。


「交渉成立だな。……魔王の癖に随分と羽振りが良いじゃねぇか」

「元・魔王だ。心が戻った今、里に迷惑掛けた分は報いたいんだよ」

「……まあ、どうでも良いさ。俺は神具さえ貰えばそれでいい」

「アタシはしばらく長老の家に厄介になるつもりだ。用がある時はそっちに来な。じゃあ、任せたぜ?」


 欠伸あくびをしながらエイルは森を歩き出す。その後ろ姿を見送るオルストは、内心小躍りしていた。


(神具か……。ククク……フォニックに留まっていたら手に入らなかったぜ。ソイツだけは感謝してやるよ、ライ)


 悪い顔でニヤつくオルスト……この日、レフ族に鬼教官が誕生した……。後に『カジーム爆殺部隊』と呼ばれ恐れられる部隊……その第一歩である。



 オルストと別れたエイルはそのまま長老の家に向かった。しかし、屋敷には長老の姿はない。どうやら熱が冷めるまで逃げ回るつもりの様である。


「……長老とは思えねぇいい加減さだな、オイ」


 エイルは無人の家でも構わず長椅子を見つけ横たわる。疲労のせいもあってか、目を閉じると直ぐ様深い眠りに落ちることとなった。


 その眠りの中、エイルは様々な光景を見た。記憶の奔流は正気を失っている間との整合性を取るために時系列順に流れて行く。それは今のエイルにはかなりの苦痛。知らぬ間に涙が流れていた……。


 だが、そんな夢の最後にはライが待っていた。エイルは苦しみから救い上げられ安らぎに満ちる。それは昨日の出来事とは思えぬほどに懐かしい気がした。


 因みにエイルの中でライはかなり美化されている。それは恋する魔王の脳内補正によるもの、とだけ述べておこう。



 そうして、どのくらい眠っただろうかとエイルがふと目を開く。するといつの間にか傍で見守るように見下ろす人影が……。

 人影は仄かな灯りに照らされて実に妖しげな顔に見えた。そして目を覚ましたエイルに気付くと恐ろしげな笑顔を向ける。


「にぎゃぁぁぁ~!お、お化け~!」

「おお、起きたかエイるぶふぉ!?」


 エイルの平手打ち炸裂!人影は勢い良く部屋の宙空を回転しながら舞い、勢いそのままに床に転がった。


「きゃあぁぁっ!お、お祖父様!?」

「へっ……?お祖父様?」


 叫ぶフローラの姿を確認し恐る恐る床を見れば、そこには長老リドリーの無惨な姿が……。

 オバケが大の苦手なエイルさん……反射的にやってしまったのである。


「ワ、ワリィ……長老」

「……ち…ちょ…ちょう…」

「何だ!何が言いたいんだ?」

「長老……の館……殺人……事…け……ん……」


 言葉が終わると“ ガクッ ”と崩れ落ちる長老。その指先には『犯人は魔王』といつの間にか血文字が……。


「……こ、このジジィ……こんな時まで……」

「た、大変!息していない!エイルさん、どうしたら……」

「くっ……安心しろフローラ。長老は自分で息を止めているだけだ。回復魔法はもう掛けてある」

「で……でも……」

「まあ、見てろ」


 エイルの【流捉】には、しっかりと長老の魔力が映っている。そのまま放置することしばし……。やがて長老はプルプルと震え出した。


 そして……。


「ブハッ!は、はぁ、はぁ……あ~……苦しかった」

「あれぇ?生きてたんだ?」


 ゆっくりと顔を上げる長老は、腕を組んで見下ろす冷笑のエイルと残念なものを見る視線を送るフローラを確認した。


「……長老の館殺人……犯人はお前だぁ!」


 ビシッ!とエイルを指差す長老。その脳天に炸裂したのは、エイルの手刀ではなくフローラの持っていた『盆』だった……。


「痛い!“縁”は痛いぞ、フローラ!」

「長老なのにいつもいつも……恥ずかしいです、お祖父様」

「フ、フローラや……済まなかった。……。で、エイルは何故我が家に?」

「しばらく厄介になろうかと思ったんだけど、マズかったか?」

「いや、そりゃあ構わんぞ。な、なぁ?フローラ?」

「はい!歓迎します、エイルさん!」


 フローラの機嫌が直り安心した長老は、エイルに親指を立てている。一瞬イラッときたエイルだが、厄介になる身なので我慢することにした。


 実は、エイルの家はまだ残されている。正確には建て直されているのだが、里の者が交代で掃除を行って何時でも住むことが出来る環境にしてあるのだ。

 しかし今、過去を思い出すことはエイルに辛い思いをさせるだろう。そう考えていた長老は、始めからエイルを世話するつもりだった。


「で、お主は何時まで居られるんじゃ?何ならずっといて構わんのだが?」

「有り難てぇがカジームが安定したら里を出る。やることやったらライのトコに向かうつもりだ」

「そうか。まあ、好きにやるがよいわ。だが、ここはお前の故郷でもあることを忘れてくれるなよ?何ならライとやらを連れてきて共に暮らしても良いぞ?」

「アハハハハ。考えとくよ、長老」


 エイルは故郷に戻った幸せを噛みしめる……。復讐から解き放たれ、本来ならこれから自分の為に生き心の痛みを忘れて行く筈だった。



 だが……世界はまだ安定していない。


 カジームに迫る魔の手をエイル達が目の当たりにするのは、それから一週程後のこと……。



 カジームはペトランズ大陸の西……アステ国の更に西側に位置している最西の国である。アステとの境はくびれた様な地形の険しい渓谷。そこを抜けた先にあるカジーム国は、周囲が海の断崖という陸の孤島とも言える大地だ。

 だからこそ攻め入ることが困難で、これまでレフ族は戦いを最少限に抑えることが出来たのである。


 唯一の陸路である渓谷には侵略を防ぐ為に結界が張ってあり、トシューラ・アステの侵略を三百年もの間防いでいる。

 カジーム国は魔法に長けた者の国──並の方法では結界を破ることは叶わなかった。



 だが、その日……レフ族の永き平穏は唐突に破られることとなった。



 アステとカジームを別ける国境『リバル渓谷』に、突如轟音が響き渡ったのだ。


「な!何だ……?一体何事だ!?」


 国境警備を担当するレフ族の戦士達は、その異常事態に慌てふためく。


 それは、カジームが今の大地に移って以来初めての事態だった……。


 大地を揺るがす震動、耳をつんざく轟音……。そのどちらもが、今の今まで結界により遮られていたのである。


 その三百年の沈黙を破るもの。レフ族の戦士達はそれを遠巻きに確認することが出来たのは幸いだろう。何故なら、逸早く撤退を決断できたのだから……。



 狭い渓谷から迫り来るのは魔術砲台。但し、砲台には昆虫の足の様な支えが付いている。

 見たことのない形状のが撃ち出したのは、高魔力の結晶たる魔石弾頭だ。


「ば、馬鹿な……三百年も維持していた結界だぞ。それがこんな容易く………」


 レフ族の戦士が驚くのも無理はない。魔石を弾頭として撃ち出す行為──それは莫大な損失を伴うものである。

 魔石の大きさを考えれば小国の年間予算程の価値があるだろうそれを、侵入者は惜し気もなく撃ち続けているのだ。


 魔石弾頭は結界に触れた途端に眩い光を放ち炸裂。その威力で強固な結界が歪み僅かに綻んだ。そこへ第二射、第三射が続く……。

 やがて結界は、悲鳴に似た音を立て掻き消えてしまった……。



「撤退だ!渓谷に仕掛けた罠を起動させろ!瓦礫で時間稼ぎが出来る筈だ。この砦を放棄する!」

「了解だ!全員撤退!全員撤退だ!!」


 カジーム国の平穏は遂に破られた──その事実が戦士達の心に重くのし掛かる。

 だが、このまま容易く里へ近付かせる訳には行かない……。


 もしもの時の為に用意していた瓦礫を崩し道を塞ぐ仕掛けは功を奏し、攻め入る敵国の行く手を阻んだ。これで幾分かの時間稼きにはなる……レフ族の戦士達は急ぎ飛翔し撤退を始めた。


(あの旗はトシューラ国か……。くそっ……!こんなことが!ともかく長老に伝えねば……)


 半ば絶望に近い感情を浮かべ戦士達は里に向かう。戦いはもう避けられない。守る為に覚悟を決めねばならなかった……。




 一方、崩れた瓦礫の側にはトシューラ国第一王子・リーアの姿が……。


「ちっ!忌々しいレフ族め……悪あがきを……!おい!『魔導式移動砲台』に被害はないか?」

「はい!砲台は全て無事です!瓦礫を退かせば問題ありません!」

「進路はどのくらいで確保出来る?」

「広範囲ですから休まず動いて明日の昼、といったところでしょうか……」

「フン、止むを得んな。では、明日の昼までに進路を確保。その後、一刻の休息を入れ再び進軍だ!」

「ハッ!了解しました!」


 忙しなく行動を始めたトシューラ兵達。リーアはその労働するさまに視線すら向けず、最後尾にある大型馬車の中に姿を消した。


(くっくっく……!やったぞ!遂に奴らの結界を破った!後は出来るだけ生け捕りにするだけ……魔法技術も魔導具も全て我々のものだ!何せ魔法王国の生き残りとなれば強力な神具すら期待できる。これで【魔王討伐】の駒は揃うだろう……)


 馬車の中には裸の女性が数人同乗している。リーアはそのうちの一人を荒々しく抱き寄せ、その唇を貪るように奪った。


(それに、レフ族の女は皆美形揃いだからな。しばらくは楽しめそうだ……クックック、ハ~ッハッハ!)



 我欲にまみれたトシューラの王子。その毒牙が遂にカジーム国へと迫る。


 もはや避けられぬ衝突。形はどうあれ互いの生存を賭けた戦──。


 『カジーム国』対『トシューラ国第一王子』


 その火蓋が間もなく切って落とされる……。




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