第四部 第二章 第十一話 ヤシュロの記憶


 嘉神・鹿雲城近くの旅館。その部屋で寝転がるライは頭から布団を被ったまま動かない。


 昨日のヤシュロとの戦いは激戦と言えるもの。肉体的疲労……と言うより精神的な疲労を考えれば致し方ないことだろう。


 だが……。


「全くお主は……何故慣れぬのかのぉ?普通、人は慣れるものじゃ。戦う度にそれでは、いつかお主も暴走しまいかと気が気で無いわ」


 ライの布団の上に乗りクドクドとお小言を垂れるメトラペトラ。タシタシと布団を叩いている。


「…………」

「大体じゃ?大体じゃぞ?ワシを使っておきながら労いもせず落ち込むなど言語道断じゃ!ワシを誰だと思っとるのじゃ!大聖霊様じゃぞ?」

「………師匠、優しくない」

「フン!や、優しくして欲しかったら、元気出しなさいよね?」


 ツンデレ大聖霊様は内心かなり心配をしている。想像より落ち込んでいるライを励ます方法など思い付かないのだ。何か切っ掛けが欲しいところだった。


 そしてその切っ掛けは思わぬところに……。


「メトラさん。お困りですか?」

「ん?何じゃ、残念魔人よ。何か用かぇ?」

「ホオズキは『残念魔人』じゃありませんよ!」

「今はお主に構っている暇は……何じゃ、その顔は?とうとう残念さが脳に届いたかぇ?」

「な、何ですか、その言い種は!折角ホオズキが秘策を見せてあげようとしたのに!」

「秘策じゃと?」


 自信満々のホオズキは鼻を“フンス”と鳴らし、ライの布団に近付き囁く。


「ライさん……ライさん!」

「…………何?」

「特製の飴、ありますよ?おいしいですよ?」

「………要らない」

「………何ですとぉ!」


 驚愕の表情を浮かべ、メトラペトラに視線を向けるホオズキ。メトラペトラは開いた口が塞がらなかった。


「………ま、まさか、今のが秘策かぇ?」

「だ、だって飴ですよ?こんな美味しいものを食べないなんて信じられ……はむ……むふぅ…」

「食うな!我慢も出来んお子ちゃまか!」

「むむ?むむふ!むほふむ……むふん」

「くっ……ダメじゃ此奴……」


 あまりに残念なホオズキ……だが、このやり取りも無駄ではなかった。ライの被っている布団が震えているのだ。

 どうやら余りの残念さに笑いを堪えているらしい……。


「のう、ホオズキよ……ライは心が疲れておるのじゃよ。こういう時は大人の女が優しくしてやるのが一番なんじゃがの?」

「むふ?……んぐっ!大人の女?……大人と言ったらホオズキ、ホオズキと言ったら大人ですよ!ど、どどどうしたら良いですかね?」

「……ま、まあ落ち着くんじゃ。大人の女はそんな慌てはせんぞよ?まずは深呼吸じゃ」


 言われるがままに深呼吸をするホオズキ。間を置いてメトラペトラに再び質問を繰り返した。


「そ、それで何をすれば大人ですか?」

「……主旨が変わっとるのぅ。ま、まあ良いわ。大人の女性……それはの?包容力じゃ。男が温もりを求める包容力で添い寝すれば、一発で元気になるぞよ?」

「添い寝……中々難易度が高いですね。で、ですがホオズキ、大人ですから平気ですよ?」

「ただの添い寝ではないぞよ?スッポンポンでの添い寝じゃ」


 ここでライの布団から“ブフォッ”と噎せ返る音が聴こえて来たが、メトラペトラは構わず続けた。


「スッポンポン……マジですか?」

「マジもマジ……大マジじゃ。アレ?ホオズキちゃんには無理かの?」

「や……やってやります。えぇ……殺ってやりますとも!ホオズキ、大人ですから!?」

「殺ってどうする……ともかく、大人の女性が添い寝して元気にならぬ男などいない。さあ、行け!ホオズキよ!?」

「任せてください。ホオズキ、必ずライさんを元気にして見せます!」


 意を決しシュルシュルと帯を解くホオズキ。かなり緊張している様だが、大人の女になる為に頑張っている。そう、ホオズキは頑張ったのだ。


 だが……そこでメトラペトラから残酷な事実が告げられた。


「あ~……駄目じゃ駄目じゃ。済まんの、ホオズキよ。そんなチッパイじゃ無理じゃったわ」

「何ですとぉ!ホオズキ、確かに胸は小さいですが大人と関係あったんですか?」

「いや……本来は関係ないのじゃよ。大人の女性ならばな?じゃが、ホオズキは頭脳は子供、身体も子供じゃ。これはもう……くっ……」

「ちょ……ちょっとメトラさん!何で泣くんですか?これじゃホオズキ、本当に残念な人になっちゃいますよ!」


 宙に浮きホオズキに近付いたメトラペトラは、優しくその肩を叩く。


「うむ!お主は既に……残念じゃ!」

「だ、騙したんですね?純粋なホオズキを弄んだんですね……赦せない!」

「ククク……騙される方が悪いのよ……」


 ここでライは我慢の限界に達した……。あまりの馬鹿馬鹿しさに笑いを堪えられず爆笑しながら転げ回る。


「なっ……!みんなでホオズキを馬鹿にして!赦せない!絶対に赦しませんよ!」

「アハハハハ……は、はぁ~。ホオズキちゃん、飴あげるから赦して?ね?」

「仕方無い……赦してあげます。はむ……むふぅ~!」


 一頻り笑い落ち着いたライはメトラペトラに向かい頭を下げた。メトラペトラは構わずその頭にのし掛かる。


「うっ……これが生きてるってことなんですかね。悲しみも楽しさも同時に押し寄せる。悩むのが滑稽な程に……」

「フン。十万年生きておるワシからすれば一々気にしておれんわ。……悲しむなとは言わんが、悲しみに暮れるな。それは戦う者の生き様ではない」

「そう……ですね。……。目覚ましにひとっ風呂浴びてきます」

「ならばワシも行くぞよ?ここの温泉は美肌効果があるらしいからの」


 立ち上り部屋を出る直前、ホオズキがライの浴衣を掴んだ。


「ホオズキも行きますよ?二人が悪巧みしそうですから監視しないと」

「悪巧みて……師匠、ここって混浴無かったですよね?」

「いや……確か家族向けの個別風呂があった筈じゃ。それなら良かろう。丁度聞きたいこともあったからのぅ」

「わかりました。ホオズキちゃん、それで良いの?」

「良いですよ?あ、でもライさんを悩殺したらゴメンなさい」


 一生懸命ウインクしているが目にゴミが入った様にしか見えないホオズキ。ライがそんなホオズキを脇に抱え、一同は個室温泉に向かうのであった……。




「ふぃ~……生き返る~」

「いい湯じゃろう?お主は入っとる暇なかったからのぅ……」

「そういや師匠……聞きたいことって……?」

「あのヤシュロとかいう魔人じゃ。お主から聞いた話では三百年前から色々画策していたって話じゃったろ?じゃがお主は最後、肩入れしとった……何故かと思うてな?」


 ヤシュロとの戦いの前……分身体のライはヤシュロから聞いた言葉をそのままメトラペトラに伝えていた。メトラペトラ側はハルキヨの記憶から首謀者までは知っていても、過去の真実まではわからないのである。


「ヤシュロから聞いた話……。あれはハルキヨさんに疑いが向かない様に吐いた嘘でしたよ」

「嘘……とな?」

「はい。あの後見たんです。ヤシュロの記憶を…… 」


 ライは自らが見たヤシュロの記憶を紐解き、時系列順に話すことにした。


「まずヤシュロは三百年前の魔王軍幹部でした。エイルの友人でしたよ」

「ふむ。それはあの時聞いたな……」

「ええ。ですが、実は魔人転生する前からの友人だったんです。三百年前にトシューラに滅ぼされた国の生き残り……それをカジームの反乱軍が助けた。だから、本当のエイルの友人……」

「それも因果かのぅ。エイルの件は話してやったのかぇ?」

「はい。嬉しそうでしたよ……」


 また少し涙が浮かんだ為に、ライは温泉の湯で顔を洗い誤魔化す。メトラペトラは気付いていたが何も言わなかった。


「魔人化したエイルの手でヤシュロには魔人化が為され意識混濁……。目が覚めたのはディルナーチ大陸の久遠国内です。当時魔人として猛威を振るったヤシュロは、大陸から追ってきたバベルの仲間……金髪の女勇者の手で正気に戻った。偶然みたいですけどね」

「三百年前の金髪勇者……イネスか。古き勇者の血筋じゃな。話をしたことはないがの……それで?」

「正気に戻ったヤシュロは自分の姿に劣等感があったみたいで、人を避けて山の中に……。それから一年経たずに嘉神の誅殺が……」


 当時の久遠国王ラカンは、先祖返り故か行き詰まると力に頼る傾向があった。といっても、嘉神の骨肉の争いはそうせねばならぬ程に荒れていたのだが……。


「久遠の先祖は【鬼人】なんですね。始めて見ましたよ」

「異世界から追われ世界を渡って来た鬼人。お主が見たラカンは歴代随一の怪力だった。が、頭も切れたぞよ?」

「密偵の組織化もラカンの考案だったみたいですし、それはわかります。だけどあれは虐殺ですよ。女子供まで……」

「禍根を断つ為の決断じゃったと酒の場で愚痴を溢しておったな……。悪名は背負う覚悟じゃったのじゃろう」

「でも、禍根は断ち切れなかった。分派カガミ一族は子供を井戸に隠していた。それを、偶然人里を覗いていたヤシュロが救ったんです」


 魔人化しても寂しさから人里を覗いていたヤシュロは、男女の子供を救い出して山に匿った。家を建て食事を用意し知識を授けたのだ。姿は異形だが間違いなく救いの神に見えたことだろう。


「ヤシュロはそれから里を作り始めた。子供達だけじゃ良くないと考えたみたいですね。生活に困窮した者やお家騒動で身寄りがない者を救いながら、隠れ里はすぐに大きくなった」


(じゃから共感しおったのか……行動がライに似ておるわ)


「ん?どうかしました?」

「いや、別に……。で、それからどうなったんじゃ?」

「丁度そのころ、久遠国と神羅国の境で魔獣が発生したんです。かなりデカイ魔獣でした」

「魔獣?【黄泉人】ではなかったのかぇ?」

「それとは別件ですね。で、魔獣退治の為に久遠と神羅の両国は協力して戦った。まだディルナーチを離れていなかった女勇者イネスも参戦してようやく倒したんです」

「何でイネスがディルナーチ大陸に残っとるんじゃ?ヤシュロを倒して帰ったのではなかったのかぇ?」


 争いが少ないディルナーチ大陸に一年近くの滞在する理由──。


「夢傀樹ですよ。ディルナーチ大陸に夢傀樹が出たら不味いと大陸を調査していたんです。許可を貰う際に王に面会して惚れられた」

「そこは本当じゃったんじゃな……」


 その頃ヤシュロは、カガミの隠れ里を護る為に大陸中に糸を伸ばして監視していた。大陸ほぼ全てを把握している。


「で、両国の王を振って帰った訳か。ラカン、ザマァじゃな」

「いえ……それがイネスはラカンを選んだんです。今の久遠国の血は【鬼人】と【勇者】の系統」

「ニャ、ニャンじゃと?うぅむ……生意気なラカンめ……」

「初めの子供が生まれた時には大陸の安全も確認できて平穏になった。その頃にはメトラ師匠来なくなってましたね」

「そういやワシがヤシュロとやらを攻撃したという話も嘘か?」

「……いや、あれは本当」

「…………マジで?」


 たまたま出掛けていたヤシュロはメトラペトラと出会した途端、攻撃された。糸分身で事なきを得たが、これからヤシュロは身を護る為に修業を始めたのである。


「つまり俺の苦戦はメトラ師匠のせいです」

「……………」

「おい、何とか言ったらどうだ?酒乱ネコめ」


 メトラペトラは白目を剥いたまま口をだらしなく開け舌まで出している。ノーコメントを貫く意思表示らしい……。


「くっ……と、ともかく、ヤシュロは平穏に過ごしていたんですよ。そこで【黄泉人】が出現した。出現したのは神羅国側からでした」

「黄泉人……何故、突然……」

「ヤシュロの目でも詳しいことは分からなかったみたいですよ。でも、神羅王族絡みでの揉め事みたいでした。それから黄泉人が大陸を荒らし始め、久遠・神羅が再び協力。イネスに頼まれてヤシュロも影から支援した。黄泉人……物凄い強さでしたよ」

「裏返ると力が跳ね上がるからのぅ……聖獣による魔人転生と言っても良いものじゃ」


 だからこそ前例が少ないのだとメトラペトラは告げた。確かにそんなものがやたらと生まれたら、ロウド世界は疲弊が激しく混乱している筈だ。


「それも何とか倒して落ち着いた頃、鎖国の話が出たんです。【黄泉人】は大陸外から来た女性でしたから……。それにヤシュロと国境の魔獣……どちらもイネスが戦った。金の髪は目立ちすぎて災いとこじつけられたみたいです。だから鎖国の機運が高まった」

「つまり、言い掛かりから鎖国が始まったんじゃな?やれやれ……」

「目立つことは迫害の対象になりかねませんしね……事実、イネスはそれから髪を染めて過ごしていました。ラカンは止めてましたけど、仮にも王妃ですから模範になろうとした」


 それからは何事もなく時代が過ぎて行く。だが百五十年程経過した頃、カガミの隠れ里では決起の機運が生まれ始めた。


「分派こそ正当なカガミ一族だと誰かが言い出したんです。それまでは静かに暮らすことを望んでいたのに……」

「何処にでも居るからのぅ……自らの身勝手な正当性を主張し、他人を巻き込む愚劣な輩は……」

「だけど一度着いた火は消えなかった。もう混じって薄れた分派カガミの血の中で、『我こそは!』と言い出した者を主に立て嘉神領奪還の話が進んだんです」


 ヤシュロは悲しんでいた。謂わば家族の暴走……諌めても彼等の固まった思考は止まらない。まるで悪しき宗教の様に……。


「時が過ぎて、そんな里で本家筋を主張する家に一人の赤子が産まれた。それがハルキヨさん」

「それが三十年以上前か……」

「何でしょうね、アレ……。ハルキヨさんは常にヤシュロの傍にいようとしたんです。赤ん坊の頃からヤシュロの方に這っていくんですよ?」

「……稀にいる魂の伴侶かのぅ。互いを求め出逢えば離れることは出来なくなる存在……所謂、運命の存在じゃな」

「運命の存在……ですか……」


 三百年の時を超えた出会い……。ヤシュロが魔人でなければ起こり得なかったそんな出逢いも、また運命なのだろうかとライは思った。


「そして二人は互いを求めた。でも異形化しているヤシュロには引け目があるし、ハルキヨさんには一族の悲願がある。一度は駆け落ちしようとしたみたいですけど、しがらみに捕らわれて動けなかったんです。そこで逃げられれば、こんなことには……」

「いや……恐らく残された者は嘉神領に挑んだじゃろうな。すると隠れ里も掃討される。だからハルキヨは逃げられなかった」

「結局、ヤシュロもハルキヨさんも優しすぎたんですね……」


 もしかすると、ヤシュロとハルキヨは討たれる事を望んだのかも知れない。嘉神を奪わねば二人は結ばれないが、奪ったとしても久遠国からは処罰されるだろう。

 方々を久遠領地に囲まれていてはどのみち先はない。大量の犠牲をヤシュロとハルキヨが望むとは思えなかった。


「だから偶然やって来た俺達を呼んだ……かまでは記憶から巧く隠されていてわかりません。だけど、ヤシュロが俺に向けた言葉は嘘ばかりでしたよ……」


 ただ壊して遊んでいる様に見せたのは、百漣島の様子からライの気質を見抜いておびき寄せたから。領主コテツを殺したのはハルキヨ自身。シギの記憶を弄り不知火に送ったのは、ライと接触すれば殺されないと見越した『ハルキヨの配下』への思いやり……。

 恐らくコテツの子供達は、後に逃がすつもりだったのだろう。


「そこまで考えると、ハルキヨはともかくヤシュロは死ぬつもりじゃった様に感じるのぅ……」

「結局、そこまではわかりませんでした。何か思うところがあったのかも知れませんけど……ただ」

「ただ……何じゃ?」

「一つ頼まれたことがあります。明日それをハルキヨさんに伝えますが、もしかすると俺はトウテツやリンドウの裏切り者になるかもしれません……」

「何の話か見えんが……?」


 しばらく沈黙の後、ライは小さい声で呟いた。


「………ヤシュロとハルキヨさんの子供が居るんですよ。正確にはまだ生まれていませんが」

「何じゃと!ど……とういうことじゃ!?」

「身籠ったヤシュロは卵を産んだんです。ある場所に隠してありますが」

「し……しかし…あの姿で人とまぐわう事など……」


 人ならざる姿に大きく変化した魔人は、そうそうに子孫を残せない。これはメトラペトラからしても驚くべき事態である。


「その辺は複雑な話ですから秘密と言うことで……。ともかく卵が……子供が居るんですよ」

「………ハルキヨはそれを知らんのじゃな?」

「はい。明日密かに伝えようと思っていますが……ハルキヨさんの意志次第で牢から助けようかと」

「……………」


 騒動最大の戦犯ハルキヨを助ければ確かに大きな裏切り者だ。だが、メトラペトラはライの意見を尊重した。


「お主の好きにせい。ワシはお主の師匠……恨まれようが敵視されようがワシだけは味方じゃ。存分にやれ」

「師匠……結婚しよぶがぁ!」


 盛大な水飛沫を上げメトラペトラに張り倒されたライ。プカリと浮かび身動ぎもせず温泉を漂っている。


「フン……甘い顔をするとすぐにこれじゃ。おい、ホオズキ。此奴を引き上げて……って、ニギャーッ!何でお主まで浮かんでおるんじゃ!!」


 温泉での長い会話に堪え切れずのぼせたホオズキは、ライと並んでプカリと浮いていた。


「くっ……ま、魔人が湯あたりするなど前代未聞じゃぞ……。ホンットに使えん奴じゃな、此奴は……」


 結局……メトラペトラ一人で二人を引き揚げることになったが、タオルがはだけた二人はスッポンポン。先に目覚めたホオズキがライの全裸を目の当たりにして再び倒れた。一体どこが大人の女なのかとメトラペトラは呆れるしかない……。


 最終的にライが目覚めホオズキを部屋まで運び介抱したのだが、それ以来ホオズキはライを見て赤面する様になったのは余談である。




「それで……これからどうするつもりじゃ?」

「明日ハルキヨさんの返答次第ですけど、寄り道しながら豪独楽領に向かおうかと……。ヤシュロの記憶のお陰で地形は把握出来ましたから迷わず行けると思います。ただ……」

「何じゃ?まだ問題があるのかぇ?」

「はい。ホオズキちゃんの組織……【御神楽】というのがヤシュロの記憶にも無かったんですよ。一体何処に連れていけば良いのかサッパリでして……」


 ヤシュロの監視の目にすら掛からない【御神楽】。残念魔人を擁する組織は、意図も概要も良くわからないままだ。


「ホオズキちゃん……。その辺はどうなの?」

「!!そ……そそそ、そんなのはですね……あの……」

「どうしたの、ホオズキちゃん。まだ調子が悪いの?」


 熱を測ろうとライが腕を伸ばすと、ホオズキは身を強張らせ叫び声を上げた。


「さ、触らないで下さい!このケダマ!?」

「ケ、ケダマ?毛玉って何?」

「ま、間違えました。触らないで下さい!このケダモノ!?」

「ケダモノ……何故に?」


 メトラペトラはニヤリとしながらライに耳打ちをした。


「ホオズキは風呂で見てしまったのじゃよ、お主の股間に潜むケダモノをのぅ?」

「……うっ。子供には刺激が強すぎたんですね」

「ホオズキ、子供じゃありません!例えライさんの股間がケダモノでも平気です!」

「ちょっと待て……股間がケダモノで固定されてるんだけど?それに近寄らないでって……」

「き、気のせいですよ。ホオズキは大人ですからね?」

「ほう?これでもかの?」


 メトラペトラがライの浴衣をたくし上げると、股間の魔龍がコンニチハと挨拶した。


「ちょっ!メトラ師匠!」


 慌てて隠すライ。だがホオズキは混乱のあまり拳を握り締め、ライの下腹部を力の限り殴る。


「グギャゴハァ!?」


 魔龍には直撃しなかったがライはかなりのダメージを受けた……。

 残念と言っても魔人。かなりの膂力だった様で、ライは身動きすら出来なくなっている。


「ホオズキ……恐るべしじゃな」



 その後、ホオズキがライに普通に接する様になるまでしばらく時間が掛かったという……。




 そして翌日──嘉神の騒動を終わらせる最後の話し合いが始まった……。


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