第四部 第二章 第四話 魔人変化
ライ達が不知火から嘉神領に渡った翌日の早朝──国境付近の森から呻き声が聞こえる……。
それは、森の中でリンドウとシギが修業している声だった。
「くががが!なん……だよ、こりゃあ!?」
「か……身体が千切れ……そうだ……!」
命纏装の上に魔纏装を重ねる……只それだけで身体中から悲鳴が上がる。
ライから渡された記憶では簡単に成し得ていた筈なのに、再現しようとしただけで猛烈な疲労と苦痛だった。
「ぐぎぎぎ……な、何で……アイツは…平……気なん……だ……?」
「お…恐ら……く……平気…な訳……じゃ……なかっただ…ろ……う」
「な……に……?」
ライの髪は一部……ではなく既に半分近くが白い。リルを変化させた際の紋章融合時に白髪が増え、更にクローダーに記憶を流し込まれた際の負担でほぼ半分が白になった……。
現在では、まさに『紅白おめでたい頭真っ盛り』になっている。
度重なる肉体酷使……それを厭わない象徴とも言えるそんな容姿は、修業如きで音を上げる者の姿には到底見えなかった。
「俺……達より…も…強い……なら…それだけ……の……苦痛を…知っている…んだ……ろう」
「………ちっ……俺ら…と…そんな……歳違わ…ね……えだろ……。ぐわっ!」
纏装の維持が出来ず、二人はほぼ同時に吹き飛ばされた。
「ゼェ……ゼェ……い、痛ってぇ~!!爆発したぜ、今?」
「ハァ!ハァ!……ば…爆発じゃなく反発したんだ……」
ヨロヨロと身体を起こし近くの木に身体を預ける二人。休憩を取りながら口を開いたのはシギだった。
「纏装を重ねるだけがこれ程難しいのか……」
「そもそも出来んのかよ、そんなこと?」
「……この国でもそれが出来る者は少ないらしいが、纏装には先があると聞く。実際にライから見せられた記憶にあっただろ?」
「覇王纏衣だったか?見てねぇから……いや、城で見せたあれもそうなのか?」
「あの黒いヤツか?戻ってきたら聞いてみるか……」
「呼んだ?」
リンドウとシギの会話に割り込むように上から降ってきた男、ライ。完全な脱力状態で逆さにぶら下がるその姿はちょっとしたホラーである。
「うぉっ!テ……テメェ!脅かすんじゃねぇよ!」
「ライ……何時から居たんだ?」
「ん~?二人が修業始めた頃にはもう居たけど?」
「い……いい加減にしろ、テメェ!怖ぇんだよ、顔が!」
逆さ万歳とでも言うような脱力だけでなく、生気の抜けた顔で目も殆んど白眼状態。昼ですら怖いのだから、夜なら絶叫もの間違いなしだ。
そして……体勢を戻し地面に着地したライは髪の毛が逆立ったまま。
「くっ……テメェと真面目に話す気にならないのは何でだろうなぁ?」
「固いなぁ……そんなんじゃ疲れないか?」
「余計なお世話だ、この野郎!」
興奮ぎみのリンドウを宥めるシギ。この二人、以外と馬が合う様でリンドウは大人しく従っている。
「ライに確認したいことがあったんだが……」
「え?彼女いない歴?」
「いや、それはどうでもいい……」
「因みに好きなタイプはねぇ……オッパイ?」
「………。この野郎……人が必死に修業してるってのに……」
ワナワナと震えるリンドウは何とか怒りを抑えている。
ライはリンドウの僅かな成長を感心しつつ髪を戻した。
「わかった、わかった。で、何が知りたい?」
「知識として理解しても実感が無いんだ。試しに纏装を見せて貰いたい」
「何だ……そんなことなら御安い御用だ。その前に……」
リンドウとシギの肩に手を置いて回復させる。この時点でシギはもう一つの疑問を投げ掛けた。
「最初から疑問だったんだが、ライは何故魔法詠唱をしていない。それも纏装か?」
「いや……これは後で教えるよ。今教えても無事かどうかの自信がない」
「……危険なのか?」
「う~ん?昨日、纏装の記憶流したろ?あれの数十万倍以上の情報を流し込むんだけど、自信ある?」
「………いや、遠慮する」
流石に堪える自信がないシギ。纏装の情報だけに絞って昨日の意識朦朧。どう考えても精神が壊れる。
ライとしては最終的に『完成した魔法式』だけを幾つか流し込むつもりだった。情報としての【高速言語】は膨大すぎて危険なのだ。
「じゃあ、纏装に話を戻すぞ?まずお前らにやらせているヤツね?命纏装、魔纏装、命纏装、魔纏装……」
ライは纏装の多段重ねを展開。布一枚展開が重なりそれなりの厚みになった。
「…………」
「…………」
「何で呆けてんのさ……やるんだよ、君達も?」
「い、いや……最初の二段で既に身体が悲鳴を上げてるんだが……」
「それは纏装に攻撃意思を含ませ過ぎてるからだよ。纏装はどちらかと言えば防御の技だ」
「いや、テメェは攻撃につかってるじゃねぇかよ」
「そこは慣れだよ。ん~……例えば盾、だな。基本は防御に使うものだけど殴れるだろ?纏装はその盾を武器にも変えられる技法だから、基本は飽くまで盾。盾を使いこなせないのに武器にするのは本末転倒だろ?」
「……成る程」
早速、リンドウとシギは練習を始めた。その間にライは昨日仕止めた獲物を調理し始める。
「中々面倒見が良いのぉ。どうじゃ?人に教えるのは……?」
「一人ならともかく二人ですからね……あの二人、持ち合わせた性質がまるで違うから教え方も途中で変えないと……」
「教えるのもまた修業。まあ精々頑張ることじゃな、ハッハッハ」
他人事だからと笑うメトラペトラは、切り株の上でアクビを吐き眠り始めた。
「確かに普通の修業より疲れるかな?ま……良いけどね」
人に教えるのが楽しい訳ではないが、自分との違いを……そして、一人一人の違いを実感するには丁度良い機会である。
確かに自分は周りの人間からは浮いている様だとライは改めて理解した。当然ながら改める気は無いのだが……。
(俺は俺だからね。迷惑かけなきゃ勘弁して貰うさ)
しばらくしてライが朝食を準備し終えた時、リンドウ・シギはそれなりの成果を出していた。
「お?二人とも四段……やるじゃん」
「な……なんとか……だが……」
「はは……どうだ……」
「よし。じゃあそれを維持したまま食事といこうか」
スタスタと先に食事を始めるライとメトラペトラ。だが、リンドウとシギは動けない。
「早くしないと全部食っちまうぞ~?」
旨そうな肉の香りが漂っている。早朝から修業をしていた二人は、空腹のあまり生唾を飲み込んだ。
「ぐっ……くそ……盲点だった……」
「た……確かに……動けなければ……意味がない……な」
まるで石像が動くが如き硬直した挙動。二人は一向に食事の場に近付けない。
「それ、纏装二段まで落として良いから早く食え。じゃないと飯抜きで出発だぞ?」
「そ……それは……」
「ヤベェ……な……」
纏装を二段まで落とすとようやく動ける様になったリンドウとシギ。空腹も相俟ってかなり必死に動いていた。
そしてようやく朝食にありつく筈だったのだが……力の加減が利かない為、肉を口に運べない。
「く……こんな……」
「拷問じゃねえか……」
口の前で自らの手が震える為肉が逃げる様に揺れる。その様子を見てライは楽しげに笑う。
「ホレホレ……早く食わなきゃ全部俺が食っちまうぞぉ?」
「な……ナメんなぁ~!」
「うおぉぉお!!」
何とか食事を始めた二人を見てライは思った。やはり人を成長させるのは生存本能だと……。
予定では三日などと言ったものの実はそこまでの期待をしていなかった。しかし、この調子なら結構な成長が見込めそうである。
そこで食後……ライは隠していた事実を明らかにすることにした。
「二人とも驚かないで聞いてくれ。実は……」
「修業終わりとか言わねぇだろうな?」
《雷蛇》発動──だが、今回は纏装が電撃を緩和し少し痺れただけである。
「へ……何とか堪えたな」
「良いから話を聞け。じゃないと次は加減無しで行くぞ?」
「わ、わかった……。で、何だよ?」
リンドウはいつもの軽口だろうとタカを括っていた。しかしシギは、機微に聡い密偵だけありライの表情に逸早く気付いている。
「ライドウさんの手前隠していたけど、嘉神領主・コテツは『死んでいる』」
衝撃の事実にリンドウ・シギの両名の纏装が制御を失い弾けた。
「な……ちょっ……何言ってやがんだ、テメェ!?」
ライに飛び掛かり胸ぐらを掴むリンドウ。だがライの顔にふざけた様子は見当たらない。
「ど……どういうことだ、ライ!コテツ様は俺に書状を託して……」
「それは書き換えられた記憶だよ。本当はその時既に死んでいたんだ。その記憶を俺は見ている」
そのシギの記憶を戻せば白馬城でライドウに悟られる。だから敢えて戻さず隠していた。
「う……嘘だ!じゃあ、誰が書状を……」
「テンゼンだ……。アイツは意図があって書状を不知火に送ったみたいだな」
ライが視線を向けると、メトラペトラは首を横に振りながら溜め息を吐いた。
「また巻き込まれたか……。テンゼンとやらの狙いはお主か、ライよ?」
「多分、そうでしょうね。俺を挑発してますよ、テンゼンは」
ライの胸ぐらを掴んだままだったリンドウは、再びその胸元を締め上げる。
「じゃあ何か?叔父御はテメェのせいで死んだってのか?答えろ!」
ライは答えない。だが、シギはそんなリンドウを諌めた。
「ライのせいではないだろう……。恐らくテンゼンは嘉神を奪うつもりだったと考えた方が辻褄が合う。ライが不知火……ディルナーチ大陸に来たのは、俺が嘉神領を出る直前なんだろ?それじゃハルキヨ様が捕らえられた時期と合わない」
「シギの言う通りじゃな。白馬城でも言った様に、急遽予定を変えてライを標的にしたんじゃろう。ワシらが居ようが居まいがコテツは死んだと考えるのが正しい」
しばらくライを睨んでいたリンドウは、胸ぐらを掴んでいた手を弛めた。
「チクショウ!叔父御……。そ、そうだ!シギ……叔父御の子供達はどうなる?」
「恐らく牢獄だろう。時期を見て処刑されるかも知れない。勿論、ハルキヨ様も……くっ!」
追い詰められた状況を把握したリンドウとシギ。互いに視線を合せ頷くとライに頭を下げた。
「頼む!今すぐ嘉神の城に向かわせてくれ!」
「俺もだ!頼む!救いたい奴らがいるんだ!」
震える声で二人の必死さが理解出来る。しかし……。
「論外だな。お前ら程度の力でどうすんのさ?行ってもすぐに棺桶行きだぞ?」
「そ……それでも行かないとならないんだ!」
「俺はテメェの手下じゃねぇ!勝手にさせて貰うぜ!」
もはや収まりが付かないリンドウとシギ。しかし……ライは冷酷に告げる。
「お前らに行かせるなら俺が単身で乗り込んだ方が百倍マシだ、ドアホウどもが!文句あるなら俺を倒してから行け!」
この言葉に二人はたじろいだが、冷静さを失っている二人にはその実力差など頭から抜け落ちている。
戸惑いながらも身構えライと対峙を始めた。
「済まないが、本気で行くぞ!」
「今度こそ倒す!そしてアイツらを救いに……!」
溜め息を吐いたライは、分身を二体生み出して背後に下がった。リンドウとシギは一瞬ギョッとしたが、それでも諦めの意志は見当たらない。
「その分身は俺の百分の一程度の力しかない。だけど、お前らよりは遥かに強いぞ?倒せたら嘉神領主退治に向かわせてやる。精々頑張るんだな」
本体のライが背中を向け手を振ったと同時に、『リンドウ・シギ』対『ライ分身体』の戦いの火蓋が切って落とされた……。
リンドウもシギも完全な手ぶら……武器を持ち合わせていない。故に攻撃は素手か魔法になる。
分身体はそれぞれ一人づつと対峙。そんな中、真先に仕掛けたのはリンドウだった。
「うおぉぉっ!!」
猪突猛進の攻撃はしっかり纏装を展開している。だが、当然ながら分身体には届かない。全て衣一枚の纏装で往なされていた。
「くっ……なら!」
足元の石を分身体に向けて蹴り飛ばし、その隙に近くの丸太を拾い上げたリンドウ。渾身の纏装を向け分身体に殴り掛かった。
しかし丸太は分身体に直撃した途端、炎上し消し炭と化す。唖然としたリンドウに分身体の蹴りが炸裂。その身体は勢い良く大木に叩き付けられた……。
「がはっ!」
しばらく踞っていたが、やがてヨロヨロと身体を起こすリンドウ……その身には辛うじて纏装が維持されている。
「ま、まだだ!」
リンドウは再び分身体と殴り合いを始め、重く鈍い打撃音が森に木霊させた……。
一方シギは、魔纏装を展開。自らの手刀に風属性を纏い斬撃で分身体に斬りかかる。尽く躱される中、纏装を命纏装に変更。そして魔法詠唱を始めた。
シギが使用したのは幻術……。幻の自分を生み出し自らは高速移動で分身体の背後から斬りかかる。
しかし手刀はスルリと躱され、シギはライ分身体に宙高く蹴り上げられた。
上空には既に分身体が回り込んでいる。そして勢い良く地面に叩き落とされたシギは、覚束無い足取りで立ち上がった。
やはりその身には、辛うじての纏装が維持されていた……。
「ほう?中々頑張っておるではないか……」
離れた位置から戦いを見守る本体ライとメトラペトラ。ライの頭上に座ったメトラペトラ感心頻りだ。
「わざと煽った甲斐があったのぅ?」
「別に煽った訳じゃないですけどね?コテツさんが死んでるの、本当ですし……」
「しかし、お主も人が悪いのぉ……。アヤツらの救いたがっている相手……無事なんじゃろ?」
「まあ……一応は。昨日の夜中分身で確認してきましたし、今も念の為に護衛付けてます」
昨日、ライは夜中になるのを待ち感知纏装を嘉神の居城まで伸ばし捜索を行った。
まず、城下町に住むシギの想い人と分身で接触し事情を説明。シギの記憶を覗いていたので比較的簡単に信用を得られたのは幸いだった。
そのまま分身の飛翔で彼女を不知火に運び、現在は白馬城に匿って貰っている状態だ。
リンドウの気掛かりになりそうなのは、コテツとその身内と予測していた。嘉神の居城には結界が張ってあったが地中にまでは及んでいない。姿を昆虫に変えて地中を進み、そのまま牢獄のハルキヨと接触。そして嘉神領主コテツの身内を捜し出し事情を説明した。
その際、昆虫が喋りだしたので接触した全員が奇声を上げたのは余談である。
何せ小型の甲殻虫が男の声で語りかけたのだ。驚かない方がどうかしている。
昆虫は三体に分離。家臣ハルキヨ……そして領主の嫡男トウテツとその妹カエデの全員に張り付き、今もライに情報を送り続けている。
「随分とまあ、手間を掛けておるのぉ……」
「海賊相手と違いますから、パッと殲滅!って訳にも行きませんからねぇ……。リンドウとシギが強ければ任せたんですけど、全然話にならないですし」
視線の先で必死に戦うリンドウ、シギの両名……。意気込みは理解しているが、まだまだ力不足なのだ。
「で……テンゼンという輩は見たか?」
「いや……そこまでは無理でした。あまり目立つと人質が危険かと……ただ、可能性としては魔人かも知れませんね」
「もしくは昨日アヤツらに話した半魔人……か。はたして魔術師か『存在特性』か……得体の知れん奴じゃな」
「あの二人がある程度強くなったら乗り込んで見ようかと……でも時間がなぁ……」
「やはり足りんか……。神格魔法には時間を遅らせるものも存在するのじゃがな……」
「ん~……まあ、とにかく三日間は様子見しますよ。あの二人の成長次第ということで」
結局、リンドウとシギが力を使い果たすまで半刻……グッタリとした二人を分身達が引き摺って来た時は、息も絶え絶えの状態だった。
「ホラ……もう終わりか?そんな事で誰が救えるんだよ?ん?」
リンドウとシギは悔しさのあまり歯を食い縛り涙まで流している。
「ここで言っておくからな?もし、お前らがあのままテンゼンに挑んだとした結果は……一つ。こうして生きていることはまず無い」
「……………」
「…………くっ」
「二つ。お前らの短絡の結果、囚われているハルキヨ、トウテツ、カエデは全員死亡。カエデはもしかするとテンゼンの妻にされるかもしれない。記憶を操作されてな?」
「ふ……ふざけ……んな!」
声を振り絞りライに憎悪を向けるリンドウ。ライはその頭を押さえ付け威圧を込めた声で続けた。
「別に巫山戯ちゃいないさ。これはお前らが起こし得た可能性を口にしているだけ……ライドウさんはリンドウが討たれた時点で嘉神領と戦だろう。勝っても負けても責任を取り自害、スズさんも後を追う」
「ぎっ……黙れ……!」
「シギの想い人は反逆者との繋がり有りと判断され投獄。もう出られないかも知れないな」
「そんなこと……させん!」
「させん?そんな様で?お前らの行動の浅はかさの結果、這いつくばってんだろ?夢でも見てんのか?あぁ?」
ライは二人の頭を鷲掴みで持ち上げ、勢い良く放り投げた。その際、回復魔法で全快にしていた為二人は体勢を立て直し身構える。
「まだ理解出来ないなら理解させてやる。テンゼンは魔人、もしくは半魔人だろう。その魔人てのがどんなものなのか……今から良く理解しろ!」
メトラペトラが退避した後、ライは完全戦闘態勢の構築を始める。人間相手にはまず見せない全力……久々に展開したそれは、ライ本人ですら気付かぬ異様な変化を起こしていた──。
まず起こったのは肉体の変化……僅かに浅黒く変化し、服から覗く身体中の契約紋章が鮮やかに浮かび上がった。加えて瞳の色が赤に変わりボンヤリと輝いている。更にその背後には、メトラペトラが戦闘態勢に使用する氷と炎の翼まで発生していた……。
大地を揺るがし大気を震わせる極大の魔力。それだけで木々は嵐の様にその身を揺らしている。
「どうした……? 」
その姿を見据えるリンドウとシギ……。全快した筈の身体は震え意識が奪われることに堪えるのが精一杯だった。常に吹き出す脂汗や吐き気……手が届くなどという幻想は瞬く間に打ち砕かれ、二人は大地に膝を着いた。
「そこまでじゃ!ライよ、落ち着け!」
その言葉で場の圧力が嘘のように掻き消えた。ライの姿も元に戻っている。ただ大量に舞い散る木葉だけが先程の光景が現実の出来事だと実感させていた……。
リンドウとシギは……まだ震えていた。
本当の恐怖に直面しない限り、人が心から震える様なことはない。それは、何処かにまだ希望がある気がする為だ。
しかし……先程のライは、まるで魂ごと喰らう魔人。いや、魔神にすら見えた……。それを間近に体感したリンドウとシギは自分が死んだ様な錯覚すら覚えた筈だ。
そして……一番驚いていたのは実はメトラペトラだった──。
(えぇぇぇ~っ!何あれ!何なの?マジなの?)
『理』に届きそうなその力……メトラペトラに匹敵するだろう圧力。しかも、自分の力の体現までされていたのだ。技量や知識ではまだメトラペトラが上回るが、まともに対峙したらメトラペトラとて無事では済まない……ライはそんな変化を果たしていたのだ。
(むむむむむ……ヤバイ。アイツ、絶対ヤバイ……。よし!見なかったことにしよう!)
現実逃避する大聖霊様……。ライが大聖霊達と争うことなど有り得ないのだが、弟子をからかい過ぎるのは止めようと心に誓うメトラペトラだった……。
精神世界に於て渡されたウィトの鍵。ライの中にあるその扉は今、少しづつ開かれ始めた……。
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