第四部 第一章 第五話 クローダー


 海賊の拠点に向かう不知火領主一行──。


 その航路を往くのは鉄甲船。昨日手に入れた船は早速活用されている。


 わざわざ鉄甲船での運行を選んだのは、慣れぬ船の操作を少しでも学ぶ為であると同時に不知火兵の訓練を兼ねてのこと。海賊から聞き出した操船法はこれまでの船とは根本から違う……それに合わせた試行錯誤が必要なのだ。


 そんな船には今回、ライだけが同行している。リルはスズとお留守番。メトラペトラは温泉で酒。珍しく同行を望まなかったのだ。



 因みに、ライは譲って貰った袴一式に魔導具の刀を腰に下げた姿。言っては何だが、珍しくまともな格好だ……。



「それにしても、僅か三名で動かせるとは……ディルナーチでは考えられんな」

「う~ん……ディルナーチ大陸では魔石って採れないんですか、ライドウさん?」

「採れることは採れる……が、数が少なくてな。何処かに鉱脈を見付けられれば良いのだが、今のところは当てがない」


 海賊から接収した鉄甲船はその殆どの動力が魔石である。機巧を真似ようにも材料が無いのではお話にならない。


「魔法式とやらの問題もあるのだろうが、どのみち我が国では技術が足りぬ。ドウゲン王に目通り願う際には色々と提言しようと考えてはいるが……難しいだろう」


 久遠国の中でも全ての領主同士の関係が良好とは限らない。馬が合う、反りが合わない、ということは問題として普通に存在していた。恐らく進言には反対意見が出て保留となるだろう。

 そんなことをしている場合ではないのだが、とライドウは苦笑いを浮かべている。


「ともかくこの船だけでも価値はある。上手く利用したいところではあるが……」

「海賊の拠点にも何かあると良いですね」

「昨日ざっと見た感じではあまり期待出来ぬ。まあ、暗かったので見落としが無いとは言い切れぬが」



 そうこうしている内に見えてきた海賊の島……いや、元海賊の島と言うべき無人島。岩の切れ目から内部へと進めば、鉄甲船昇降用の橋脚まで掛けられていた。


「昨日も驚いたが、最早要塞だな……。一体、何時からこんな島を造っていたのやら……」


 島に下りた兵達は直ぐ様隊列を組みライドウの指示を待っている。


「今回は戦闘ではない。主な任務は情報収集である。有用と思える物を集めるだけでなく、この島の機能も含め情報を集めてくれ」

「哈っ!」


 機敏な動きで島の捜索を始めた不知火兵達。ライドウはゆっくりと歩きながら島の形状の把握に努めていた。


「ライドウさん。俺も見て回って良いですかね?」

「いや、ライ殿は自由にしてくれて結構だぞ?……探険してみたかったのだろう?」

「バレてましたか……。では遠慮なく……あ、不知火の方々は纏装って使えますか?」

「使える者もいる。が、数は少ないな。一応だが私も使える」

「もし、纏装に変な気配を感じても多分俺ですから気にしないで下さい。では!」


 歩いている筈なのに走っている様な素早い速度で去って行く『童心勇者』。


(ハッハッハ。昨日、海賊を壊滅させた人物には到底見えないな……)


 ライドウはそんな魔人勇者を笑顔で見送った……。





 ライドウ達が島を探索している間、ライは岸壁沿いをぐるりと散策することにした。しばらく歩いてみたが所々に魔導具砲台が配置されていることに気付く。流石に昨日は暗かったことに加え砲台の重量もかなりのもの……分解して運ぶにしても時間が掛かるだろう。


(ん?あれは……?)


 そんな中……魔力視覚化纏装である【流捉】を常時展開しているライは、魔導具砲台に違和感を捉える。どうやらそれは、先程学んだ『不安定な魔力の流れ』──つまり欠陥品だ。

 これを放置すれば、不知火の兵に危険が及ばないとも限らない。


「よし……じゃあ早速、吸収魔法の練習と行くか。っと……また爆発させると不味いから、先ずは魔力の消費を」


 ライの背後にはいつの間にか九人の分身体が並んでいる。


「これで魔力は十分の一。……。折角だから他の砲台も確認しておこうかね」


 分身体達が砲台を探しに岩壁沿いを駆けて行く。砲台を見付けた分身体は【流捉】で確認。欠陥があった砲台に印を付け、次の砲台を探す。

 最終的に見付けた欠陥品は、十一ある砲台の内の二つ。九つもの魔導砲台の入手……不知火にとってこれは幸運なことと言える。


「うっし。じゃあ早速……」


 神格魔法 《魔力消滅》《魔力循環》の掛け合わせ。メトラペトラの魔法式を再現し、自らに吸収する式を高速言語で加える。

 すると砲台は徐々に白く色を変え灰のように崩れ去った。同時にライの身体には魔力が戻る。


「う~ん……『回復の湖水』より随分少ないな。魔導具も質によって回復量が違うのかな?これじゃ瞑想のがマシな気がする……」


 どうも不満げな勇者さん。そこでちょうど戻って来た分身体を使い、最上位魔法を自分に向けて放つことにした。

 使用したのは《氷華柩》──。但し氷華を展開せず塊を直接ぶつける程度に留める。


 素早く吸収魔法を展開し魔力回復に充てるが、今度は一気に魔力が回復した。


 が、それはそれで怪訝な様子のライ。一方、《氷華柩》を使用した分身体は魔力を使い果たし消滅。他の分身体はそのまま残っている。


「おかしい……。今ので魔力半分以上回復してんだけど、計算合わなくね?」


 十分の一の魔力しか持たない分身体。その分身一体の魔法で半分以上の魔力回復。確かにおかしい。


「はい、ちょっと全員集合~!」


 ライは残りの分身体八人を呼び集め、円陣を組み胡座をかくと意見交換を始めた。


 自分同士で意見を出し合う【必殺・自分会議】の開催である。


「まず魔力量以上に回復があった理由からだ。何でだと思う?」

「わからん!」

「いや、わからん!じゃなく可能性をだな……」

「わからん!」

「わからん!」

「わからん!」

「おっぱい」

「おっぱい?」

「おっぱい!」

「おっ~ぱいっ!」

「おっ~ぱいっ!」


 分身達は肩を組んで『おっぱい』の大合唱を始めた……。煩悩駄々漏れである。


 眼下の船着場付近では不知火兵が何事かと警戒していたが、何かを諦めたようなライドウが兵を落ち着かせている姿が見えたことは気にしてはいけない……。


「……はい!終~了~!!」


 自分会議、終了……。


 そもそも同一意識の拡大でしかない分身に別の知識がある訳が無いのだ……。


「ま、まぁ、後でメトラ師匠に聞くか……。ともかく、もう一個の欠陥品も処理しとこう」



 結論を先送りにした『おっぱい大好き勇者』……。どうせ分身したならば修業に使おうと、分身二人一組で吸収魔法と攻撃魔法の手合わせを行うことにした。今度は応用……《魔法反射》の実験だ。

 分身達は海上に移動し配置につく。



 魔法式の構築を少しづつ変え《魔法反射》を展開する四体の分身。結果として攻撃側が三体、反射を受け消滅。一体が反射失敗し消滅となった。


「うぅむ……攻撃を受ける際性質を変えて反射は出来るけど、回復の性質だけは変化出来ないのか……いや、そもそも回復魔法は反射出来ないのか?」


 残った四体……内一体は魔力切れで消滅したので、残り三体で実験再開。


 続いて一体が反射魔法を用意。残り二体で攻撃魔法を使用したが、それぞれ別属性の魔法を同時使用した。


 別属性同時反射は予想通り失敗に終わり爆発。魔法を放った側も魔力切れで消滅。分身は全て消えた。


「二種以上の魔法は当然ながら同時反射は出来ない、っと。いや……これも師匠に要確認かな?」



 分身達が研鑽している間に欠陥魔導砲台に移動していたライは、魔力が回復してしまっているので再び分身を生み出し消費を試みる。その数五体……。


 手早く魔導砲台を吸収し魔力還元。これで誰かが間違って砲台を撃つ心配は消えた。


「よし!実験再開!」


 次に行ったのは吸収限界。本体のライは瞑想を行い魔力を満たす。そして海上の分身に放つのは最上位火炎魔法 《金烏滅己》。ありったけの魔力を込め分身に放った。

 金に輝く烏は吸収魔法に吸い込まれあっさり消えた。


「吸収魔法自体には限界は無し……か。いや、今の俺の力じゃ吸収限界に届かないだけかもな。次は……」


 魔力を限界近くまで吸収した分身体は、吸収魔法の複数同時発動を試みた。しかし、二つ以上は展開できない。

 事実上、通常魔法八つ分の同時展開になる魔法融合。流石に操作が難しい……。


「今の俺じゃこれが限界か……要修業だな、こりゃ」


 更に吸収魔法の範囲確認。これは海賊の島を覆える程までは広げることが出来たが、まだ伸ばせそうな気がする。


 その後も魔法以外の吸収、吸収魔法を『射出』する実験などを繰り返す内に、ライドウからの御呼びか掛かった。


 ライは急いで分身を消すとライドウの元に飛翔した。


「どうかしましたか?」

「いや、粗方の探索が終わったのでな。そちらはどうだった?」

「……途中から修業してて忘れてました。あ!岸壁にある魔導砲台……欠陥品だけ処理しておきましたから」

「おお……それは有り難い。この島は確かに使えそうなので、砲台は半分だけ持ち帰りそのまま利用しようかと思っている」


 地理的な面でも外敵に備えやすい位置にある海賊の島。今まで放置されていたのが不思議だった。


「この辺は岩礁が多くてな。海賊達はわざわざそれを砕いて澪標みおつくしまで用意しておった。その執念、恐れ入ったわ」

「アイツら、【蛮龍党】を国とまで言ってましたからね……。で、アイツらどうするんです?」

「詮議の後、本土に連行して処罰となる。久遠国の場合、殺人、強盗殺人、拐かしによる人身売買は例外なく打ち首だ」

「打ち首……ですか……」


 ライドウは国外の処刑事情を知らない。故にライがショックを受けるのでは?と心配していたが、そんな素振りを見せないことに僅かな安堵を見せた。


「海賊達──【蛮龍党】の罪は重いからな……。これを赦すことは国の威信に関わるのだ」

「仕方無いですよ。無法に対する罰が無ければ国は乱れますから……久遠国王は聡明な方なんですよね?」

「うむ。国王は民を想い慎ましやかな生活を送っている程だ」

「なら大丈夫でしょう。あまり口外することでも無いんですけど、ペトランズ大陸なんてアホな王の方が多いんですから」


 主にトシューラとアステの事を指しているが、その中には前・シウト王も含まれている。


「それはそうと、何かありましたか?」

「いや……大したものは、な。まあ、それでもこの島の有用性は理解した。それで一度百漣島に戻るが、ライ殿はどうする?」

「あ~……もし大丈夫ならもう少し探険……ゲフン!調査をしたいんですが良いですか?自力で帰りますので」

「ハッハッハ。では、悪いが先に戻らせて貰う。まあ、ゆっくり探険すると良いさ」


 手をヒラヒラさせながらライドウ及び、不知火兵は鉄甲船で引き上げて行った。



 それからゆっくりとライの海賊の島散策が再開された。


 自然を生かした構造の島は、中央が空に抜けた形状で円筒型。所々の岩をくり貫き部屋が用意されている。

 ヒンヤリとした岩の回廊は、夏はともかく冬場暮らしづらい印象をライは感じていた。


 誰もいない島──波の音と海鳥の鳴き声のみの島で、ライは久々に一人であることを体感していた。

 解放感がありながらも妙な寂しさも僅かばかり込み上げたが、今はこの空気を楽しむことにした……。



 やがて更に歩を進め上階層へ……。岸壁を削った部屋は上の階に行くほど手が込んだ造りになっている。

 特に上階三層以上は季節に合わせた対策が出来るようにまで加工されていた。


「これ……絶対十年以上掛かってるよな~。何故この労力を悪事に使う……いや、悪党だからこそこんな労力が出せるのか?」


 思い返せばシウト国・ノルグーでも、プリティス教司祭ア二スティーニが幾年もの時を費やしていた。真の悪は時間と労力を惜しまないのかも知れない……。


 そして最上五層。部屋は二つのみ。そこにあったのは空の部屋とやたらと飾りのある部屋だ。

 空の部屋は宝物庫だったのだが、昨日全て百漣島に送った。もう一つの部屋は恐らく『頭』の部屋なのだろう。価値の良く分からない物が煩雑に壁を飾っている。


「ん?あれは……」


 そんな部屋でライが捉えたのは壁掛けの後ろにある魔力。近付いて確認すると壁の隙間に小さな金属棒が刺さっていた。


「流捉が使えなかったら見逃してたな……」


 金属棒をゆっくりと引き抜いて確認すると、少々独特な形をした鍵の様にも見える。


「鍵……ってことは何処かに挿し込む訳だよなぁ。しかも魔力が籠められているし」


 『頭』の部屋を探してもそれらしきものは見当たらない。ならばと部屋を出たライは、島の中央上空まで飛翔した。


 使用したのは【感知纏装】及び【流捉】──。複合して力を使用し鍵と同じ魔力を探す。しばらく集中した甲斐あってか、島の下層に目的のものを見付けることが出来た。


 そこにあったのは……海賊頭が座っていた玉座だった。


(俺の国……か……)


 試しに座ってみたが座り心地はあまり良くない。ライは周囲を見渡して海賊が動く様を想像してみる……。


「……。俺にはわからないな……使う側の愉悦なんて」


 王になった者の気持ち……。分かりたいとも思わないが、地位を求める者が多い事実は理解している。そういう者は大抵【愚王】……ライはそう認識していた。


「久遠国王……ドウゲンは聡明だってライドウさんは言ってたよな」


 ライは何故、自分が王と会うことを望まれたのかを考える。

 魔人だから?異国人だから?そもそも意図して来た国ではないのだ。思い当たる節も無い。


「はい、保留~。それより鍵を挿すところは……」


 【流捉】により見付けたのは肘掛けの先にある髑髏の飾り。良く見れば確かに差し込み口がある。

 そして鍵を挿し込んだ途端、玉座は音を立てスライドした。


「おお!た、探険っぽい!」


 玉座の下には階段が続いている。どこからか薄明かりが射し込んでいるそこは、完全な暗闇ではない。何より奥からは海風か流れて来ていた。


「くっ……やるじゃないか、海賊め。憎い演出しやがって……」


 薄闇の階段を進むライは子供のように胸を高鳴らせた。


 だが……その先にあったのは行き止り。途中から海水で進めなくなっていたのだ。

 洞穴になっているその場所は天井付近まで海水が上昇していて、外の景色は僅かに見える程度。どうやら干満の差で生まれる入り口らしい。


 ライの頭には一つの結論が過る。これは『脱出口か』、と……。


 恐らくまだ完成していなかったのだろう。先ず周囲に脱出用の船がない。それに満潮で入り口が塞がっては意味もない。


「………。くそぅ、騙された!」


 別に誰も騙していないのだが、童心に戻っていたライには裏切られた気分だったのだろう。

 トボトボと階段を戻ろうとしたその時、何か赤く光るものを視界に捉える。


「何……だ……?浮いてる?」


 海側から徐々に近付くその姿が明らかになった時、ライは思わず間の抜けた声を上げてしまった。


「へっ……?カ……カメ……?」


 宙を漂うのは赤き宝石の様な甲羅を背負った亀。そのままライに近付くと、思わずライが差し出した掌に着地した。


「何だ……お前、聖獣か?」


 亀からは邪悪な気配は感じない。だが、【流捉】で捉えた流れは膨大な力の渦。そもそも宙に浮く時点でまともな生物ではない。


「お前、独りか?」


 問い掛けに返事はない。ただ顔を向けているだけである。その目は吸い込まれそうな深い黒……。ライは何故かその亀の姿に妙に惹かれた。


「そうだ!何か食うか?今朝、台所からかっぱらっ……拝借してきた果物があるんだ。あれ?亀って果実食えたよな?」


 階段に腰掛け亀を膝に移すと、懐からリンゴを取り出す。食べやすいように手で割ってやると、亀は夢中で貪り始めた。


「ハハッ……腹減ってたか。遠慮せず全部食えよ?」


 自分はかっぱらってきた分際で遠慮するなと言う『軽犯罪勇者』。

 だが亀にはどうでも良いことである。亀はしばらく貪り全て食べ尽くすと、満足気に顔を上げた。その吸い込まれそうな目を見ていたライの脳裏にある言葉が浮かぶ。 



 (クローダー……)


「クローダー?お前、クローダーって言うのか?ん?カメ……クローダー……何処かで聞いた気が……」


 【クローダー】の伝承は地方によって異なり、亀以外にもトカゲ、カエルなど様々な姿で伝わっている。その為ライは即座には気付かない。


 (過去を見せる……)


「過去を見せる……?ああ、クローダーってあの【クローダー】か。確か見たい過去を何でも見せてくれるんだっけ?」


 見たい過去……そんなものはライには多すぎるほどに存在する。過去の勇者の経緯だけでなく、邪神の事、ディルナーチの成り立ち、失われた魔法王国の技術……。

 しかし、今のそれは何かが違う気がした……。


 クローダーの瞳を無心で見続けていたライ。そこで問い掛けたのは、過去の質問ではなかった……。


「なぁ?一人は寂しくないか?」


 亀は首を傾げている。


「お前が嫌じゃなければ一緒に来ないか?俺の周りはお前と似たような奴、多いんだ。だからさ……」


 クローダーはその時、大きな涙を一粒流した。途端にライの脳裏に大量の情報──記憶が流れ込む。



 その膨大な記憶……それはロウドと共に生まれたクローダーの十万年の記憶。部分的なものであるものの、そのあまりの負荷にライの目や耳、鼻などから血が流れ出す。


「ぐうぅ……」


 記憶の対象がクローダーだけとはいえ十万年……。並みの人間ならば……いや、例え魔人でも脳を破壊されていたかも知れない。


 しかし、ライは耐え抜いた。その理由は単純なものだった……。


「お、お前……大聖霊だったのか……」


 大聖霊との契約。融合した紋章。拡大した意識……。それらを全て持ち合わせていたからこそ、ライは正気を失わずに済んだのである。



 大聖霊【クローダー】──。



 精神と記憶、魂……つまり【情報を司る大聖霊】。


 だが、遥か昔に大聖霊として認められない存在となっていた。その理由……。


「お前……自分の心まで犠牲にしていたのか?」


 クローダーの存在概念は情報。過去のあらゆる情報……それは生物に限らず、物や霊的存在にも適応される。全ての記憶を保持する為、クローダーは心の領域まで記録に回していたのだ。


 自我無き存在はやがて意義を失い、大聖霊として数えられなくなってしまった──。


「……酷でぇ神様だな。何でそんな風にしちまったんだよ。もっと考えてやれば良いじゃないか……」


 涙を浮かべクローダーを撫でるライ。クローダーは再び涙を一粒流した。


「……よし!じゃあ俺と行こうぜ?何か方法を探してやる。心を失わなくて済む方法を……」


 クローダーは首を振った……。僅かに残されたその自我が何かを訴えている。


(一緒にいられない)


「無意識に移動しちゃうのか……」


 自我が保てない状態である為、放浪してしまう……。その事実に、ライは尚更クローダーを救いたくなった。


 考え得る選択肢──大聖霊の力を集めればクローダーを救えるのではないだろうか?


 そこでライは改めて決意する。


「じゃあ、契約しよう。大聖霊としての契約じゃなくて、『約束を果たす』契約……。時間は掛かるかも知れないけど、お前を救う手段を見付けたらお前を呼ぶよ。その位は出来ないかな?」


 クローダーは大粒の涙を流した。今度は一粒ではない。幾つも幾つも止めどなく流れ出している。


「よし。じゃあ契約だ。いつか方法を見付けて解放してやるからな……」


 紋章が互いの間に展開し契約が成された。ライの腹部にはクローダーの紋章が浮かんでいる。

 そのままクローダーは姿を消した。


「………帰るか」


 クローダーに関してはメトラペトラに聞いた方早い。それから方法を探すのが最善だろう。それに、他の大聖霊も捜す必要性も考えられる。



 海賊の島の【はぐれ大聖霊】との出会い。これも運命なのかは分からない。だが……確かなことが一つあった。



 それは、ライが久々に一人で行動した海賊の島はワクワクした……という事実である。



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