第四部 第一章 第四話 爆裂勇者


 ライドウ達不知火の兵が海賊の拠点から戻ったのは、既に日が沈んだ頃……。連行された海賊達はそのまま牢屋へ直行になった。



 百漣島の船着き場には現在、大型鉄甲船が停泊している。篝火が照らす港には、今回最大の戦利品とも言えるその船見たさの兵や従者達が集まっていた。


「スゲェ……鉄が浮いてるぞ!」

「何人ぐらい乗れるんだ?」

「外国の船か……これで攻められたら……」


 初めて間近に見るそれは不知火の民には別世界の物に見えたことだろう。


 ディルナーチの文化は鉄工業より木工業中心。それは資源的な問題からのものだが、自然と共に在る精神を育んだ結果とも言える。故にディルナーチは水や空気が澄んでいた。



 海賊の拠点から帰還を果たしたライドウは早々に庵へと向かう。が、進むにつれ庵周辺にはかなりの人集りが詰め掛けていることに驚きを隠せない。


「一体、何事だ……これは?」

「あ……ライドウ様。いえ……その、あの赤髪の御仁にお話を聞こうかと思いまして……」

「……うぅむ。お主らの気持ちも理解できぬでもないが既に夜だ。明日にせよ」

「いえ……それがですね……?」


 その言葉が切れると同時に歓声が上がる。ライドウが何事かと人集りを掻き分け進んだ先には、褌一丁で腕を掲げる赤髪勇者の姿が……。


「イェイ!また俺の勝ちぃ!!」

「か~っ!強いな、勇者殿は!」

「いやいや、あなたも中々の強さでしたよ」


 その場に居た者は大半が褌。なんと、篝火の元で相撲大会が開催されているではないか……。


「ラ、ライ殿……これは一体……」

「あ!ライドウさん、お帰りなさい。いやね?昼間のことを謝罪に来た皆さんと力比べすることになりまして、急遽場所を用意してこんなことに……」


 昼間までライを警戒していた兵や従者達が、今や笑顔で肩を組んでいる。これは間違いなく酒の力が働いている……そう察したライドウは酒臭ニャンコを探す。

 すると……庵のすぐ前で酒を振る舞っている猫の姿を確認。その周囲にもやはり結構な人集りが出来ていた。


「だ、大聖霊様……。一体何が……」

「ん?いやの?ライの元に来た島民が酒を持って来たのでな?ちょっと『呑んべぇ談義』になっての……。で、海外の酒を知らぬと言うので用意してやったのじゃ。どうじゃ、お主も?」


 海外の酒樽から升で汲み上げた酒は少し甘い香りがする。色は赤の様だが、夜の闇と篝火の影響で真っ黒にも見えた。

 そして一口啜ったライドウは芳醇な香りに目を見開く。


「これは……果実の酒ですな?確かに美味い!」

「そうじゃろ?一応上等な酒じゃぞ?じゃが、まだまだあるから遠慮せず飲め」


 すっかり宴状態。まさか一日掛からずあの警戒から打ち解けるとは思わなかったライドウ……最早、笑うしかない。


「ハッハッハッハ!これは参った。……私が気を揉むまでも無かったか。これもライ殿の人徳なのですかな?」

「人徳などという高尚なものではないわ。ライといると真面目に悩むことが馬鹿らしくなる……じゃから笑う者が増える。それだけのことじゃよ」

「成る程……笑う者を増やすのも才能ですな。ハッハッハッ」


 小さな庵の宴。やがて少しづつ人が増え、遂には祭りとなった。食料や酒は海賊の拠点から回収したものもあり、島には夜遅くまで賑やかな声が響き渡っていた。




 翌朝──。


 すっかり酔い潰れていたライドウは慌てて目を覚ます。百漣島での仕事はまだ残っている……早々に片付けなければならない。

 酒は抜け切らないが、とにかく水で顔を洗い冷たい水を一気に煽る。幾分意識がハッキリとしてきたライドウは庵の外へと足を踏み出した。


 視界には朝焼けが眩しい。ディルナーチの現在の季節は春。とはいえ、まだ寒さの残る時期の朝は野宿には向かない。酔い潰れた者を起こすつもりだったが、どうやら全員自らの寝蔵に戻ったらしく姿はなかった。



 安堵したライドウが海を見渡せる場所まで移動すると、朝焼けの煌めく海に魚が跳ね回る姿が見えた。


「あれは……」

「リルちゃんです。やはり海王様は海が好きなんですね」


 いつの間にか側に来ていたスズはライドウに寄り添った。


「ライ殿はどうした?」

「今朝方早くリルちゃんを海に連れて行って、それから兵の駐屯地に向かうとおっしゃっていました。何でも、昨日海賊から取り上げた魔導具がどうとか……」

「そうか。……なぁ、スズよ?私はライ殿達が気に入ってしまったよ」

「フフフ……私もです」

「魔人とはいえ、気持ちの良い青年を巻き込むのは間違っていないだろうか……?」


 遠く輝く水面を眺めつつライドウは呟く。スズは目を伏せ、ライドウの腕にしがみつく様に更に身を寄せた。


「ライ殿には辛い思いをさせるかも知れません。お優しい方の様ですから。でも……」

「久遠国の為にもお頼りする以外無い……か。私は酷い男だな。海賊討伐の恩人に向かって……願いを隠して運命を押し付けるなど……」

「あなただけではありません。元は私が……そして『ルリ』の願いでもあります。罪は久遠国王族全てのものでしょう。ですが、私は信じています。この出会いこそがディルナーチの未来だと……」

「そう……だな。済まんな、頼りない夫で……」


 見つめ合うライドウとスズ……。互いの意志を確認し頬を寄せ合ったその時、突如として爆発が起きた。


「なっ!何だ?敵襲か!」


 昨日のライの話では、鉄甲船はトシューラ国のものだと言う。もし、あの技術で物量戦を仕掛けられたら苦戦は必至──。負けぬ自信は有れど犠牲の多さが気に掛かる。そんな不安が過ったライドウ……。


「敵襲では無いみたいです。あれは兵の駐屯地。……ライ殿が何かを為されたのかも知れません」

「そうか……では、私は念の為に向かうことにしよう」

「私はリルちゃんを迎えに行ってきます。朝食あさげも用意致しますのでライ殿とお越し下さい」

「わかった。では行ってくる」


 ライドウは二日酔いの不快さも忘れ、慌てて駐屯地に向かった……。




 そして、爆発が起きた不知火兵駐屯地、敷地内──。


 武器庫付近の広場には倒れる赤髪の青年の姿が見える。しかし、何故か未だに褌一丁まま……。


「やれやれ……やはりそうなったのぅ」


 離れた位置でアクビをしているメトラペトラは顔を洗いながら毛繕いを始めた。爆発の中心に居たライには見向きもしない。


 一方、プスプスと煙を上げ倒れ伏す『褌勇者』は、ムクリと起き上がると何事も無かったように胡座をかいた。


「くっ……何故に爆発?」


 首を傾げつつメトラペトラに視線を向けるライだが、既に傷らしき傷は完治している。


「言ったじゃろう?その魔導具は欠陥品じゃとな。お主ももちっと『物質に宿る魔力 』を読むことに慣れねばの?」


 駐屯所武器庫前の庭には、昨日海賊達から奪った魔導具が山積みにされていた。



 それは今朝方早くのこと……。目を覚ましたライは、自らの武器が無いことを思い出した。獅子吼、改め【黒竜剣フィアー】は元魔王・エイルに手渡してしまっている。そのエイルとの戦いで、所持していた短刀は砕け散っていた。つまり完全な手ぶら状態。


 そこで思い出したのが海賊達の魔導具。何か掘り出し物がないかと探していたのだが、同行したメトラペトラが魔導具の欠陥を指摘し実際に試したところで先程の爆発である。


「じゃあコレ、全部ダメですかね?」

「いや……残る『はずれ』は三つじゃ。見付けてみせい。これも修業よ」

「……だって、確認する度爆発するんでしょ?ご近所迷惑でしょ」

「ふむ……ならば全部正解だった場合だけ教えてしんぜよう。但し、ハズレが混じった場合は自ら試すんじゃぞ?でなければ修業にならんじゃろうからの」

「むむむむむ……仕方無いか」


 不知火の兵に使わせて爆発するよりは被害は少ない筈……と諦めて、ライは魔導具の山から慎重に『欠陥品』を選別する。


「纏装を目に集中することを【流捉】と呼ぶ。これを使えば魔力の流れは見える筈じゃ。問題はその流れの種類を見極めることじゃな。不安定なものは見ただけでわかるじゃろう?」


 食い入る様に魔導具を見詰める褌男。周囲には既に爆発に驚いた不知火の兵達が見物を始めている。

 しかし、集中しているライは見向きもせずに魔導具とのにらめっこ状態だった。


 そんな中で選んだ魔導具二つ。どちらも同じ型の弓……しかし、最後の一つの見極めが難しいらしく中々決まらない。


「おお……ここに居られましたか、大聖霊様。一体何が起こったのです?」

「うむ。昨日海賊から奪った魔導具……恐らく試作品じゃろうが、欠陥品が混じっていての。その選別中じゃ」

「それで魔導具の暴発が……し、しかしライ殿がやらぬでも良いかと思うのですが」

「これも修業よ。まあ、見ておれ」


 ライはしばらく悩んだ末に一本の刀を選んだ。弓型二つと長刀型一つの魔導具。それらを抱えメトラペトラの元へ並べる。


「どうでしょうか?」

「…………………」

「あの~……」

「うむ。正解じゃ。では続きまして~……」

「ちょっと待った~!何ですか、『続きまして~』って!不吉な予感しかしな」

「続きまして~、欠陥品の処理を行います。では任せたぞよ?」

「くっ……話を聞きゃしねぇ。具体的にどうするんですか、コレ……?」


 少し考えるメトラペトラ。何か閃いたらしく、振っていた尻尾をピンと伸ばす。


「よし……折角じゃから新しい魔法を教えてやるとするかのぅ」


 メトラペトラは魔導具の一つに近寄ると先程の【流捉】の使用をライに促す。言われるがままに目に纏装を集中しメトラペトラを見れば、その前足に集まる魔力の流れが見えた。


「これはワシの領分【熱】の亜種──【吸収】じゃ。エネルギーとはほぼ全て熱。魔力に関しては特にじゃな。その熱である魔力を取り込む魔法と心得よ」

「疑問があるんですけど、まず吸収した魔力はどうなるんです?」

「どうとでもなる。肉体への魔力補充、そのまま変換して回復や補助、魔法そのものを変換して相手に反射……応用は魔法式次第じゃな。こんなことも……」


 前足で弓型魔導具に触れ高速言語を加えると、弓の魔石から流れていた魔力がメトラペトラに吸い取られる様に力を失って行く。弓型魔導具は全ての魔力を失い砂の様に崩れて落ちた。


「怖っ!そ、それ……生き物でも同じことに?」

「なる。このロウド世界で魔力の通わぬものは無いからのぅ……因みに生命力も【熱】じゃから吸収出来るぞよ?それが奪われれば劣化するのは当然じゃよ。かつてその魔法に特化した魔人の中に【吸血鬼】などと呼ばれた輩もいたのは、まぁ余談じゃがな」


 メトラペトラが一度口を閉じ再び開くと、真紅の珠を吐き出した。


「な、何か出た!毛玉?」

「違うわ!こんな宝石みたいな毛玉があるか、ボケェ!……とまあ一応突っ込んで見たが、これは魔石じゃ。しかも【純魔石】と言っての?通常の魔石の数十倍強力じゃぞよ?」

「でも小さいですね。小指の爪程しかないとか……」

「魔人や魔獣クラスで手の平大じゃからの。じゃが、これは禁術に近い。【獅子吼】などはコレを利用している。やり方は後で教えるが悪用するでないぞよ?」


 そう告げたメトラペトラは、【純魔石】を鈴の中に収納した。


「では、もう一度見せてしんぜよう。今度はゆっくりと使用するから良く見て覚えよ。これが出来れば応用で色々便利になる筈じゃ」

「はい!」


 再び弓型魔導具に前足を乗せ、今度はゆっくり魔法詠唱を行う。使用する魔法はメトラペトラの系統【熱】と、フェルミナの系統【生命】の融合。下位とはいえ初の神格魔法二種の融合である。


 ライはそれらを【流捉】で凝視し見逃さないようにしている。これを習得すれば間違いなく現在最強の手札になる筈なのだ。


 弓型魔導具はゆっくり崩れ去り、メトラペトラは再び純魔石を鈴に収納した。


「どうじゃ?覚えたか?」

「何とか……ただ、コレってかなり難しいですよね?」

「そうでもあるまい?要は《魔力循環》と《魔力消滅》を組み合わせれば良いのじゃ。特に《魔力消滅》辺りはもう自然に使えるじゃろ?」

「と、ともかくやってみます」


 残った最後の魔導具を握ったライは早速新たな魔法を試す……寸前にメトラペトラから待てが掛かった。


「ちいと待て!」


 そのままネコに似合わぬ二本足で、スキップしながら離れて行くメトラペトラ……。駐屯地の敷地にある大木の陰に隠れ、大声で叫ぶ。


「お~い!近くに居る奴らよ!ソレ失敗したらヤベェやつじゃから、逃げた方が良いぞよ~?」


 あの大聖霊様が隠れるレベルのもの……しかも『ヤベェ』ときた。見学に来ていた兵は蜘蛛の子を散らすが如く逃げ出した。その中にはしっかり領主様も混じっていたことをライは知っている……。


「失敗前提じゃん……クソゥ!見てろよ?」


 意を決したライは魔導具の剣を握りメトラペトラのやっていた手順を真似る。《魔力消滅》に慣れていたお陰で思ったよりスムーズに展開は可能だった──が、『トラブル勇者』の称号は伊達ではない……。


「あ、あれ?吸収しきれない?」


 吸収しきれない魔力が少しづつ増え、やがて行き場を失った魔力は魔導具に逆流。そして……眩い閃光と爆破の衝撃。小さなキノコ雲が駐屯地に発生した。


 モウモウと上がる煙と砂塵。やがてそれも霧散し爆心地の状況が明らかになった。


 中心には人影が……ライが腕を組み仁王立ちしているではないか……。

 ボンバーヘッドのその頭。そして砂塵まみれのその身体……。


 皆は恐る恐るライに近付いた。爆発にも拘わらず漢らしく仁王立ちをする勇者『ライ・ボンバヘッ!』の勇姿を確認する為に。


 そして間近で確認したライドウは思わず震えた……。その凄まじいまでの姿。何と……つがいの鳥が飛んで来てライの頭に舞い降りたのだ。それでも……ライは微動だにしない。


「だ、大聖霊様……こ、これは……」

「……うむ。此奴はもう……くっ!」

「し、ししし……し、死んでるぅ~!!」

「イヤイヤイヤイヤ!勝手に殺さないで下さいよ、ライドウさん?」


 ライの視線を確認しておきなが『死んでるぅ~!』とか、割とお茶目な領主であるライドウさん(四十五歳)。趣味は釣りと折り紙、大好きなのは妻のおっぱいという好人物だ!


「ハッハッハ。無事で何より。……しかし、服を吹き飛ばしてまで」

「いや、これは昨日からです」

「……………」


 少し間を置いたライドウは何事もなく話を続けた。


「そうか……。ライ殿は……風邪を引かないのか」

「くっ……と、とにかく、魔導具の選別は終わりましたよ。で、お願いがあるんですが、一つ頂いて構いませんか?実は手ぶらでして……」

「構わんよ。第一、これらは元よりライ殿が回収したものだ。遠慮は要らんさ」

「じゃあ、一本だけ有り難く頂きます」


 始めから目を付けていた長剣型魔導具を拾い上げ腰に下げたライは、焦げた丸太に向かい試し振りをしてみた。刃から発生したのは風。比較的ありふれた一品だった。


「これ……結局、俺が《付加》した方がマシじゃないですか?」

「仕方あるまい。それは魔導具……お主の付加は神具作製じゃからな」

「え!?………って言われて見れば、神格魔法ですからそうなりますかね。なら仕方無いか……」

「気に入らねば作り替えれば良かろう?どうせ欲しいのは刀身だけじゃろうからな」


 言われたように《付加》を利用した作り替えを行おうとしたが、どうせなら吸収魔法を付加したいと考えた。


先刻さっき、何で失敗したんですかね?」

「お主、魔力を自分に吸収しようとしたじゃろ?自分が魔力発生器官持っとるの忘れたのかぇ?」

「あ……」


 覇王纏衣や飛翔魔法を使っているとはいえ、既にそれらを極めつつあり微細な魔力調整が可能なのが現状。対して魔力を生み出す臓器のお陰で常に魔力満タンに近いライが、外から魔力を取り込もうとした結果溢れだしたのが失敗の原因である。

 それでも慣れていれば逆流せずに無理矢理取り込むことは出来たのだが、覚えたてではそこまでの調整が出来ないのは仕方無いことだろう。


「今回は道具に《付加》させるのじゃから問題あるまい」

「わかりました。じゃあ早速……」


 魔導具の剣を握り魔法を展開。刀身に吸収魔法を《付加》させた。


「うむ。今後は覇王纏衣以外に常に【流捉】を展開。それと……コレを常に身に付けて微弱に吸収し続けよ」


 メトラペトラが取り出したのは先程の『純魔石』。これを左手の親指と小指に括り付け、吸収魔法を使い純魔石間で魔力を移動させろとの指示だった。


「それとその剣も不十分じゃな。折角魔力を吸収しても、無駄になるのは勿体無かろう。少し改造してやるぞよ?」


 メトラペトラは、刀身に吸収した魔力を元から組み込まれている魔石に流れる様に改造。蓄積された魔力はそのまま魔法に利用できる様に変更された。


「後で純魔石化のやり方を教える。そうしたら新たに剣を造る際に利用できるじゃろ?」

「ありがとうございます」


 そこでライは興味津々に聞いていたライドウに気付いた。折角なのでライドウの刀にも何か《付加》することにした。


「本来はあまり神具を増やすべきではないのじゃがのぅ……まあ、これも練習じゃな」

「じゃあ《魔力消滅》なら良いんじゃないですか?あれなら単品で驚異にはならないでしょうから」

「そうじゃな……。寧ろその方がこの国には向いておるじゃろう」


 ライドウから受け取ったのはディルナーチ特有の反った片刃の太刀。その刀身部に魔力消滅を付加して手渡した。


「そんな一瞬で良いのか?」

「まあ、試してみて下さい」


 一足で距離を取りライドウに向かい手を掲げるライ。ライドウは刀を構えた。


「ライドウさん。魔法を斬ってください。それでわかります」

「うむ、心得た」


 ライの掌から放たれたのは《雷蛇》を大きめにしたもの。ゆっくりとライドウに向かい進んで行く。

 電撃魔法と刀は相性が悪く、何の対策も無いと感電する。しかし、ライドウの刀が《雷蛇》に触れると忽然と魔法が消えた。霧散ではなく消失……ライドウは息を飲んだ。


「……こ、これは凄い」

「魔法を無効にするものじゃからのぅ。この国の戦い方にはピッタリじゃろう?」

「いや……有り難い。感謝致す、ライ殿」

「いえいえ……これで魔導具と鉄甲船、不知火領は幾分強化されたでしょう。本当は国外の技術入れた方が良いとは思いますが……」

「まあ、それは国の先行き次第といったところだな。だが、忠言は心に留め置こう」


 確かに魔法技術の点で他国に大きく遅れを取っているディルナーチ。いつか鎖国を解く日を考えれば、友好国を探しておかねばならないだろうとライドウは考える。


 だが、久遠国の皆がそうではない。だからこそライドウはライに期待しているのだ。この異国からの来訪者に感じる何かに……。


「さて……では朝食あさげにしようか。スズが用意して待っている筈だ。その前に……ライ殿はまず風呂に入った方が良いな」

「はい。そうさせていただきます」

「私はその後、海賊の拠点を視察してくる。一緒に来るかね?」

「そうですね。折角だから見学させて貰います」




 篝火海の海賊島……男心を擽る憎い響き。そしてその島では新たな出会いがライを待っている。



 それは朝食に舌鼓を打った一刻程後のことであった……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る