第四部 第一章 第三話 海賊退治


 不知火領の海──【篝火海】には多くの無人島が存在する。その殆どが小さな島であり、岩礁も多い為船が近付くことはあまりない。


 そんな中に【蛮龍党】の拠点は存在していた。


 【蛮龍党】の拠点の島は複数ある無人島の中ではやや大きめの島で、岸壁の裂け目から島の内部に入ることができるよう手を加えられている。

 更に島は天然の要塞とも言える地形になっていて、迂闊に近付けば落石や罠の餌食になる危険性があった。加えて、潮の流れが不規則に変わる上に海の魔物も多い海域……。


 不知火領主が長年海賊退治を果たせなかったのは侵攻が困難な島を拠点にされた故である。



 だが、間も無く夕刻となる頃──そんな危険な島に近付く小舟が一艘現れた。


 当然【蛮龍党】の見張りはそれを見付け素早く島内に通達。瞬く間に海賊達の警戒体制は整った。


「どうします、頭?」


 『頭』と呼ばれた男は、島の中央にあつらえた玉座に座り酒を飲んでいた。

 その姿は色黒、髭面、眼帯、顔に傷。更に黒の波がかった長髪。そして片腕がフック型の義手という、恐ろしいまでのテンプレ海賊である……。


「沈めろ」

「はい?」

「沈めろと言ったんだよ、ボケナス。前々から言ってるだろうが!仲間以外が島に近づいたら有無を言わさず沈めろとな?わかったら早くしろ!」

「り、了解です!」


 手早く伝令が伝わり島の岸壁から近付く小舟に向かっての攻撃が始まった。


 未だ離れた位置よりの魔導具を使用した遠距離攻撃……。破片も残さず撃沈できるだろう巨大な火球が船へと迫る。


 だが………。


「なっ!何で無事なんだ!お、おい!撃ち続けろ!」


 慌てた海賊達は大砲型魔導具を操り蓄積された魔力が切れるまで《大火球》を乱射。過剰な熱による水蒸気や水飛沫が生じ海賊達の視界を奪った。


 船の姿は確認が出来ないが海賊達は“ 今度こそ沈んだ ”と確信した。


 しかし……視界が回復した海賊達が目にしたのは、健在な一艘の船──流石の海賊達も混乱を免れない。


「か、頭ぁ~!船が……小舟が沈まねぇんでさぁ!!」

「あ、あれはもしかして化け物じゃねぇのか?」

「化け物だって!や……ヤベェんじゃねぇですかい、頭!?」


 動揺する手下達……その姿を見た『頭』なる人物は、雷鳴のような怒号を発した。


「この馬鹿共がぁぁぁ━━っ!!」


 島中に響くその声に海賊達は動きを止める。ある者は身を縮め、ある者は背筋を伸ばし固まった。それだけの迫力を含んだ声は、海賊達の混乱を鎮めるに充分な威圧が込められていたのである。


「俺達は何だ?あぁ?只の漁師か?違ぇだろ?俺達は泣く子も黙る【蛮龍党】だろうが!?」


 海賊達は一人、また一人と移動を始める。ものの数分で近場の者全員が頭領の姿が見える位置に移動を果たした。


「化け物だぁ?俺達ゃ蛮龍よ!龍が化け物怖がってどうすんだ、アホタレ共が!ここは蛮龍たる俺達の力の見せどころだ!化け物なんぞ喰らってやろうぜ……なぁ、兄弟達!?」


 途端にわき上がる喚声と雄叫び。海賊達は一気に士気を取り戻した。


「魔導具は有りったけ使って構わねぇ!俺達に関わったことを後悔させてやれ!」

「うおぉぉぉっ!蛮龍党、万歳!!」

「船を用意しろ!化け物を倒せば箔が付く。その時こそ真の海の支配者が決まるのだ!!」


 頭領は檄を飛ばしつつ自らの刀を天に掲げる。海賊達はその力を持って今まで生き抜いて来たのだ。今更後に退く訳にはいかない。


 完全戦闘体制──。恐らく【蛮龍党】始まって以来の総戦力の投入。まだ確認もしていない相手に過剰にも思えるそれは、頭領からすれば確かな理由が存在するのだ。


 そう……それは今朝方のこと。


 蛮龍党の船は不知火領主の妻をもう少しで捕らえられるところまで追い詰めていた。しかし邪魔が入り計画が阻まれ、あまつさえ船が沈められたのである。それも一瞬だったと報告されていた……。

 その際、確認されているのが『子供の人魚』と『赤髪の空飛ぶ化け物』……。今回の船はそれにまつわる者に違いないと、海賊の頭領は直感したのである。


(来てみやがれ、化け物め!今朝の借りをのし付けて返してやる!)


 自信の根拠はトシューラ国から大量に貰い受けた魔導具。その殆どが試作品でいつ暴発するかわからない代物だが、海賊達はその事実を知らない。



 やがて御自慢の鉄甲船が拠点より出航し小舟を取り囲む様に船は配置される。その中心にはただ一人きりを乗せた小舟が浮かんでいた。


 海賊の頭領は鉄甲船の舳先より乗り出し高らかに宣告する。


「おい!テメェが化け物か?今朝はよくも仲間の船を沈めてくれたなぁ……その罪、死を以てあがなえ!」


 対する小舟の男……良く見れば丸腰である。いや、それどころかほぼ裸……褌一丁だ。一点変わっているところは顔に天狗の面を着けていたことだろう。


 天狗面の男は、ややで海賊に応える。


「笑止千万!」


 答えたのはその一言だけ……。しかし、海賊達にはそれで充分だった。


「野郎共!やっちまえ!!」

「おおぅ!!」


 掛け声と共に動いたのは海賊、天狗の両方同時──。


 まず海賊達は、弓型の魔導具を使い『天狗面の男』に集中砲火を浴びせる。属性は殆どが【火】と【風】。相乗効果による威力上昇を狙ったのだろう。

 対する天狗は両手を鳥の頭のように構え、身体の右側で交互に上下をさせ始めた。更に腰を落としている姿は一見するとカマキリを模している様にも見える。


「ヤロォ……舐めやがって!おい!ドンドン撃て!!」


 炎の嵐と切り裂く風が高熱を生み出し海水がもやを立てているが、構わず乱射を続ける海賊達。

 だが……天狗の男は怯まない。身体の向きを右に左にと変えつつ慌ただしく手を動かし、天狗の面だけを海賊の頭領に向けている。


「ちっ……一発も当たりゃしねぇか。ならば取っておきだ!」


 痺れを切らした『頭』は早くも奥の手を持ち出した。旗艦である鉄甲艦にのみ装備された大砲を展開し、装置を起動。


 それはトシューラ国が開発した特殊魔導兵器。魔力による空気圧力で射出するのは魔石を加工した弾頭だ。魔石砲弾に臨界近くまで魔力を流し込み激突の衝撃で炸裂させる……所謂、魔石爆弾である。


 小舟に照準を合わせ躊躇なく装置の引き金を引く『頭』……。放物線を描く魔石砲弾が小舟に命中するや否や、それは盛大な爆発を巻き起こした。


「ハーッハッハーッ! ザマァミロ、化け物が!!」


 爆風と衝撃で揺れる海賊船。鉄甲船以外は大きく煽られ、仲間の船同士で接触・損傷が起きていた。



 しばらく爆風が続き、やがて巻き上げられた海水が豪雨の様に降り始める。それも落ち着いた頃、海賊達は激しい波揺れから船の制御を取り戻した……。

 そして海賊達はくだんの化け物『天狗の面の男』を捜す。生きている筈がない……そう思い込んでいた海賊達はそれを見付けてしまった……。


 そこには……傷一つ無い小舟が一艘浮かんでいたのだ……。



 海賊達は己が目を疑った。舟には男が仁王立ちのまま立っているのだ。但し、大きな変化も起こっている。


 まず天狗の面。顔から移動し股間に装着。面の外れた顔は……骸骨になっていた。

 そして海賊達は、骸骨がカタカタと口を鳴らしながら海に響く声を確かに聞いた。


「はい!という訳で爆発してしまった訳ですけどね!いやぁ……良くありますよねぇ?爆発して顔が何処かに行っちゃうことって。え?無い?じゃあ私の顔はどこに?顔……顔が?私の……顔……ヒィィ!無い……無いぞぉ…………誰だぁ?私の顔を奪ったのは!?」


 化け物は近くの舟に目を向けると、突然炎に包まれて突進。船体を突き破ると内部で爆発した。


「…………」

「…………」

「……ほ、本物の……ばっ、化け物だぁぁぁっ!」


 その様子を見て慌てたのは他の船の海賊。その肩を叩かれ振り返ると……いつの間にか骸骨が……。


「ケ~タケタケタケタ!」

「うぎゃあぁぁぁあっ~!?」


 海賊は恐怖のあまり海に飛び込んだ。その様子に慌てた他の海賊達も皆、海に飛び込む。すると骸骨は甲板を突き破り、やはり内部で爆発……。


「ぜ、全員撤退だぁ!」

「了解っス~!」

「フザケている場合じゃ……うわぁぁっ!?」


 振り返れば骸骨。そして爆発。瞬く間に船は鉄甲船を残すのみになった……。


「ば、蛮龍党が……クソォ……俺の国がぁ!?」

「俺の顔がぁ!?」


 背後からの声に硬直する『頭』。唾を飲込みゆっくりと振り返れば、そこに居たのは骸骨……じゃなくて、ひょっとこ面。


「骸骨じゃねぇ!?」

「残念でした~!はい、ドーン!?」

「うわぁぁっ!ちっ、畜生がぁぁ~!」


 抵抗の間もなく海に突き落とされた海賊の頭領……。更に化け物は鉄甲船にいる全ての海賊を海に突き落とすと、満足げに汗を拭う。


「ふう……。お宝ゲットだぜ!さて……あとは任せたぜぃ、リル!」


 そう言葉を残し、股間に天狗面を付けた変態は黄昏が降り始めた海に姿を消した。




 鉄甲船の下方……船の残骸の浮かぶ海には海賊達が幾つかの小舟に身を寄せている。先程落とされた『頭』も既に船に拾われたらしい。


「おい、お前ら。何とか島まで戻るぞ……あそこに行きゃあ人質が居る。もし領主どもがこの騒ぎに気付いても迂闊に手は出せねぇ筈だ」

「し、しかし頭ぁ……あの化け物が居るんじゃ……」

「び、ビビってんじゃねぇ!根性なし共め!とにかく、このまま浮いてても仕方無ぇんだから島に戻るぞ!ほら、早く漕げ!」


 『頭』の号令で小舟を漕ぐ海賊達。しばらく漕ぎ続けるが、一向に島へは近付けない。やがて疲弊した海賊の一人が何かに気付き声を上げる。


「クソッ!グルグル回ってやがる!」


 そこで海賊達は小舟が同じ場所を回っているだけだと初めて理解した。


「次から次へと……また化け物の仕業かよ」


 うんざりと吐き捨てる『頭』。だが真の恐怖はソコからである……。


 やがて海中から浮かび上がる影、影、影……それは人を丸のみ出来る巨体。この海域を統べる魔物達だ。

 これには『頭』も観念した様だった。


「結局、化け物が現れた時点で俺達の命運は尽きていた訳だな。ハッ……」


 小船の周囲をゆっくりと回る海の魔物。その中の一体……龍に似た個体がゆっくりと小舟に近付きその口を開くと、中には深い青髪の女児の姿が……。


 理解不能の光景に海賊達は茫然とその女児を見詰めるしかない。そして女児と視線が交わったその時……。


「うみ、だいすき!」


 女児は笑顔で親指を立てている。そして魔物の口は閉じられ海の中に潜り姿を消した……。


「…………」

「…………」


 呆けているのも束の間、続いて小舟の一艘が宙を舞う。魔物による攻撃……当然、小舟は大破した。


「く、クソォ~!何が『海、大好き!』だぁ~!?」


 放り出された海賊達は近くの小舟に移動する。すると再び一艘が攻撃され船は大破。放り出された海賊達は再び近くの小舟に助けを求める。


 やがて船は四艘を残し全て沈んだ。残る船は海賊達でギッシリ。小舟同士を寄せねばバランスを崩す為、動くに動けない状態になっている。


「ハッハッハ。流石は海王様だ。そぉら、大漁だぞぉ?」


 漂う海賊達に上空から打ち掛けられたのは、漁猟用の網。それは大物用の頑強な物で、海賊達は小船ごと全員捕獲される。


 海賊達はそのまま宙吊りにされ拠点の島に連行と相成った。


(……いや、これは寧ろ好機。島に戻れば魔導具もある。うまく使えば隙を見て逃げりゃあ良い。俺さえ居れば【蛮龍党】は甦る……)


 『頭』がそんなことを考えている内に拠点の島に戻ったが、あてにしていた警備の海賊達が見当たらない。


 『頭』は悪い予感がした。まさか全員殺られたのか、と……。


 だが、やがてその耳にうめき声らしきものが聞こえてくる。恐る恐る視線を向けると、大量の『生きた生首』が転がっていた──。


「うわぁぁぁっ!た、助けてぇ!?」


 混乱を起こす海賊達。網の中で踠くが逃れることができない為、益々混乱は広がっていく。


 『頭』はその混乱に紛れナイフを取り出し網を切り裂こうとした。だが、網は柔軟な癖に切り裂くことが出来ない。見た目も触感も麻縄なのに刃が全く通らなかった。

 それも当然……。網には神格魔法 《付加》により覇王纏衣を固定してあるのだ。切り裂くには最低でも同等の力が必要。半端な海賊には到底無理な相談である。


「諦めな。この島は既に占拠したよ」


 そこで現れたのは股間に天狗面を付けた男……しかし、その顔は骸骨ではなく若い男だ。


「赤髪……やはり今朝方ウチの船を沈めた奴か!」

「ん?そんな小さいこと気にすんなって。船なんてあと一隻しか残ってないんだからさ?」

「クソォ……化け物め!」

「化け物、ねぇ……。確かに俺は化け物かもしれないけど、心は人間だと思うよ?だけどお前らはどうだ?同じ国の人間をさらい他国に売り飛ばす……いやぁ、俺にはとても無理だわ」


 盛大な溜め息を吐くライに対し、海賊の『頭』は憎しみの視線を向けた。


「この世は弱肉強食だ!強い者が弱い者を食って何が悪い!あぁ?」

「諦め悪いなぁ……それをこの状況で言うかよ。じゃあ、俺がお前らを食っても良いんだよな?」


 人差し指を立てたライは、島の岸壁に向け火炎圧縮魔法 《穿光弾》を放つ。見事な穴が開いた壁の向には夕焼けの水平線が見えた……。


「……………」

「おや?ダンマリか?自分の時は棚に上げるのかよ……。身勝手というか、図々しいというか」

「ぐぬぬ……な、なぁ、アンタ?どうせアンタにゃディルナーチ大陸がどうなろうと関係ないだろ?み、見逃してくれよ!この島の物全部やるから……」

「今度は買収か……。残念だけどこの島にはもう何もないよ?魔導具も宝も食料も、拐った人達もね」


 その言葉は海賊達にとってトドメとなった。一切の財を失い交渉の価値も無くなったのだ。道は死しか残されていないといっても良い。


 海上でライが暴れている隙に【分身ライ】とメトラペトラが島に潜入。島内の海賊を全て、拐われた者達を救出。更に海賊に奪われたもの全てと食料を拝借し、【分身ライ】の魔力を利用したメトラペトラの転移魔法で百漣島に送ったのである。


「うぅ……死にたくない……」

「何故こんなことに……」


 周囲から聴こえる恨み節。だがライは毅然とした言葉で断罪する。


「義賊ってのなら見逃したさ。そうでなくともディルナーチ大陸内での国家間謀略でも見逃した。だがお前ら、自分勝手な理由で好き勝手やったんだろ?なら自業自得だろうが」

「……………」

「勝手に突っ走り勝手に沈む。海賊らしい最後じゃないか。沢山の非道を働いたお前らには同情の価値はないよ」


 と、いっても自害されては困る。ライは雷撃魔法 《雷蛇》を発動し場の全員の意識を刈り取った。


「終わったかのぅ?」


 転移で戻ってきたメトラペトラは、ライの背後から声を掛ける。弟子の心がまた傷付いていないか心配の様だが、今回は大丈夫だと表情で理解したらしい。


「復讐でもないのに望んで手を汚した奴らに同情は要らないでしょ?」

「じゃが、誰も殺さなんだの?」

「そりゃあ殺さず済めば……というのは建前ですね。コイツらの裁きはディルナーチの仕事と思っただけですよ」

「……まぁ良いわ。それではリルを連れて帰るかの?その内に不知火の船も来る筈じゃ」


 海にてリルを回収したライ達は、夕暮れの海上を百漣島に向かって進む。しばらくしてライドウ達の乗る船を見付けたライは結果を報告に向かうことにした。


「海賊は全員気を失ってます。あ、贈り物届きましたか?」


 ライは褌一丁だが股間の天狗は外してある。領主様の前であれは流石に不味いと理解はしていたらしい……。


「う……うむ。それにしても、我々が何年も手を出せなかった相手が一刻足らずで……いや、誠に恐れ入った。このまま船で休むか?」

「いえ……百漣島まで戻ります。スズさんは島に居るのでしょう?」

「うむ……。では、ゆっくり待っていてくれ」

「あ……ちょっ、ちょっと待って下さいね?」


 ライドウに同行する必要は無い。しかし、一つ失念していたことがあった。


「そういえば、リル。子分達は?」

「かえった!ライドウ、だいじょうぶ!」

「じゃあ、安心だな」


 あの場にまだ魔物達が居たならばライドウ達が海の藻屑になりかねない。そんな不安があったが、どうやら杞憂で済んだようだ……。


「それとですね、ライドウさん。海賊の拠点近くに鉄甲船があります。一応錨を沈めていますから動いていない筈です。あれ、貰っちゃいましょう」

「何と!……こ、これは思わぬ収穫……誠にかたじけない」

「あの拠点もかなり使えそうですよ?一種の要塞でしたから。それに設備まで揃ってましたし」

「心得た。が、まずは海賊の拿捕が先。島の件は明日、改めて見聞しようと思う」

「そうですね。もう暗くなるから気を付けて下さいね」

「うむ。そちらもな」



 高速飛翔で瞬く間に百漣島に戻ったライ御一行。それを迎えたのは不知火兵達の大歓声だった……。


「初めの頃と随分違うのぉ……」

「ま、まあ仕方無いですよ」

「これだから人間という奴は腹立たしい……」


 メトラペトラは何やら不満げにブツブツと言っているが、それが自分の為だと理解している。ライはメトラペトラをそっと抱き抱える。


「でも、これで本土に渡れば師匠念願の『久遠の酒』が飲めますよ?」

「おぉ~!そうじゃったな!ヨォシ、飲むぞぉ!飲んじゃうよぉ!?」

「いや、もう少し我慢して下さいね?」

「むむむ……無理!取り敢えず湯船で呑んでくる!」


 まるで雷の如き速さで飛び去る『アルコール依存症ニャンコ』。ライは呆れて溜め息を吐いた。


 だが……ライは心から感謝もしていた。メトラペトラが居なければライは海王の体内で夢傀樹に敗れていただろう。

 そして今、生き残る自信が付いたのは間違いなくメトラペトラのお陰である。


 マリアンヌにメトラペトラ──優れた存在から師事を受けられた自分は、やはり運が良い。ライは改めてそう思った。


「リル。今日は頑張ったな」

「お~!リル、おりこう?」

「ああ。凄くお利口さんだ。じゃ、帰るか」

「おぉ~!」



 百漣島に響く歓声……。


 この日……赤髪の魔人は『赤髪の勇者』と認識された。





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