第三部 第二章 第二話 それぞれの思惑



 シウト国に宛がわれた迎賓施設にて元・ボッチ少女達が友情に花咲かせていた頃……トシューラ国の迎賓施設にはアステ国王子クラウドが来訪していた。


 場所はトシューラ国王子・リーアの部屋……人払いを済ませた部屋に居るのは二人のみ。そんな状況で部屋の主リーアは大業にふんぞり返っている。


「オイ!早くしろ!酒の用意もロクに出来ねぇのか、ボケが!?」

「スミマセンね……。グラスが割れてしまって……」

「なら瓶ごとで構わん!全く……アステの連中は尽く使えんな」


 大国の王子同士、同等の筈の立場……ましてやアステ国王子のクラウドは、『特殊魔導装甲』に選ばれた勇者。それを踏まえればこの光景はあまりに異常と言える……。


「で、リーア様はどうするつもりですか?」

「フン……他国のことなど知ったことではない。だが、あの娘……クリスティーナとか言ったか?アイツの提案は使えるぞ」

「使える、とは?」

「少しは頭を使え!この『ノラ犬』が!』


 酒のツマミを乗せた皿をクラウドに投げ付けるリーア。クラウドに当たった皿は砕け散り、額からは血が流れ出す。


「ちっ……おい。ちゃんと隠しておけよ?明日の会議で目立っても敵わんからな」

「はい。大丈夫です」


 クラウドは笑顔を浮かべている。まるで貼り付けた笑顔……その不気味さにリーアは気付いていない。


「それでリーア様。あの娘の提案が使える、というのは……?」

「フン……あの提案には越境権限が含まれていただろう?それは如何様な策にも使える。他国の情報を得る、技術を盗む、等のな。エクレトルに滞在出来るのも都合が良い」

「成る程……では明日の会議では賛成する訳ですね?」

「ああ。……それにしても、旨そうな女が何人も居たな。クリスティーナとかいう小娘もそうだが、シウト国のメイドも気に入った。何とか手に入らんものか……」


 強欲なトシューラ国王族の中でもリーアは色狂いとも言える人間である。常に女を連れていて、まるで物の様に扱う。クラウドはそんなリーアを心底醜いと思っていた……。しかし一切そう思わせる表情は見せない。


「一つお聞きしたいのですが、リーア様は何故この会議が開かれたかご存知ですか?」

「何……?魔王によるニルトハイムの消滅が理由ではないのか?」

「それでは理由としては弱いと思いますよ?」

「勿体つけるな、グズが!」


 リーアはクラウドを蹴り飛ばそうとしたが、その足はクラウドに届かない。クラウドが素早く躱した為に、リーアは体制を崩しソファーから滑り落ちた。


「貴様ァ……犬の分際で!」

「知ってますか、リーア様?犬は愛情を向けた者にしか従わないのですよ。力で押さえ付けている者に対しては従っているのではなく、従っている『フリ』をしているのです。そして常に首を噛みちぎる為に牙を研いでいる」

「フザケルな!みっちり洗脳を受けた輩が逆らえる訳がないわ!!」

「そうですね。洗脳を受けていれば確かにそうだったでしょう……。受けていれば、ですがね?」

「貴様一体……!」

「それは、ナ・イ・ショ!」


 横たわるリーアの腹部をクラウドの手刀が刺し貫く。鮮血を吐き出しビクビクと痙攣を起こすリーア。クラウドは初めて楽しそうな笑顔を浮かべた。


 それは、実に心の底からの……濁った瞳の色を浮かべた笑顔だった──。


「グブッ……が……がぁ……」

「おっと……まだ死なれては困るのですよ。貴方にはもう少し僕の為に役立って貰わねばね?その程度には使えるんでしょ?王子様?」


 素早く手を引き抜きタオルで血を拭い取ったクラウドは、リーアに回復魔法をかけ腹部を治療した。


「ぐ……このノラ犬が……!?」

「血統だけの堕落した駄犬より野良犬の方が賢く強いんですよ?こんな風にね?」


 今度は素早くリーアの手足を叩き折るクラウド。リーアが叫び声を上げそうになる瞬間、その口に先程血を拭ったタオルを詰め込んだ。


「嫌だなぁ……だらしないですよ?この程度で音を上げないで下さいね?これはトシューラが生み出した呪いなんですから……。三百年来のアステ国王族に蓄積された呪い……せめてもう少し楽しませて貰わないと」


 今度はリーアの股間を蹴り上げるクラウド。何度も何度も丹念に踏みつける度に、タオルから悲鳴に近い呻き声が聞こえる。


 そしてクラウドは再び回復魔法を使い傷を癒す。但し、今度はリーアの手足は折れたままだ。

 その後も熱湯、ナイフと拷問の限りが続く。そしてギリギリのところで回復魔法で癒すことを忘れないクラウドは、常に恍惚の表情を浮かべていた。


「ふぅ~……やはりディーヴァインの様に策で貶めるより、直接手を下した方がスッキリするなぁ……。もう少し……もう少しと力が入る」


 一方のリーアは繰り返される拷問に怯え震えていた。


「え~っ?もう限界とか言わないよね?俺が受けた一日分もやってないよ?」


 しかし、リーアの目には既にいつもの覇気はない。他人を虐げ、この世全てが自分の物と言わんばかりだった不遜な態度は最早見る影も無くなっていた……。


「ちぇっ。白けちゃったな……じゃあ、もう良いや」


 リーアの髪を掴み上げ自らの視線に合わせたクラウド。途端にリーアのその身体が軽い痙攣を起こしトロンとした表情に変わった。

 クラウドは回復魔法でリーアを全快させた後、部屋の片付けや衣服の着替えを命じた。まるで操り人形の様に首をフラフラさせながら嬉しそうな顔で掃除する姿には、先程までの横暴な様子など見る影もなかった。



  『クラウド・ハイト・デ・アステ』


 彼が使ったのは【魅了】。そしてそれは、ペトランズ大陸の人間で使える者が稀と言われる能力──存在特性である。

 クラウドがその能力に至った事情を知るには過去を遡らねばなるまい。




 三百年前……。レフ族の国・カジーム侵略以降、トシューラとアステは影で同盟を結んだ。アステ国にとってそれは侵略という事実を隠す為のものであるが、トシューラにとってはそうではない。

 互いの国を監視するだけでは足りぬと、『人質』という名目でアステ王への供物が捧げられた。それが当時のトシューラ王の娘である。


 妾としてアステに送られた娘は、毒殺、暗殺、誘惑等のあらゆる手段を用いアステ王の正妻に登り詰めた。そして生まれた子はトシューラの血縁となり、交流と称しての『洗脳』が始まったのだ。


 それはアステ国を内側から食い破る為の計画だった……。


 代々のアステ国王子はトシューラ国に交流に訪れた際、洗脳の限りを受ける。それは幼少期に始まり成人になるまで続けられた。方法は肉体苦痛、精神圧迫、薬物、魔法、と多種多様に用いられ、王に即位する頃には完全な『人形』が出来上がるのだ。

 それをこの三百年……。トシューラがアステを奪わないのは、単に戦略的に都合が良いからである。


 アステはトシューラの犬……ルーヴェストの言葉は的を射ていた。アステの王族はトシューラ国の王族に逆らえない。それがアステという国の真実……。



 当然ながらクラウドの親もトシューラの人形。そしてクラウドもその悪魔の所業の餌食になる……筈だった。



 だが、それも一つの運命なのだろう……。


 クラウドは生まれながらに洗脳を受け辛い体質を持っていた。一つは生まれながらに持ち合わせない『痛覚』。そしてもう一つは生まれながらの『才能』──。


 痛覚を持ち合わせぬクラウドには、痛みによる洗脳全ては意味を為さない。

 そして特異な才能───クラウドは始めから高い【魅了】の力を持ち合わせていたのである。


 クラウドが【魅了】を自覚し覚醒したのは初めてトシューラを来訪した日……魔法による洗脳に反応し、魔術師を逆に魅了したのが始まりだ。

 この時クラウドは子供として『嫌な目に遭う』ことを避けるに留まったが、歳を重ね【魅了】する相手が増える度に相手の害意を理解。そして物事の分別が付く頃……全ての事情を理解し、トシューラ国への憎しみが芽生えた。


 それからはクラウドの復讐計画が組み立てられて行く。


 洗脳をされた振りをしつつ、トシューラ国の多くの者を魅了して行った。王族に殴られ貶されてもその身体と精神で堪える自信があった。そしてトシューラ王族の第二王子・ディーヴァインを魅了し、多くのトシューラの兵を魔の海域に送り出したのである。アステの兵と共に……。


 そう。クラウドの復讐対象はトシューラ国だけではない。トシューラ国の息のかかったもの全てである。それは身内血縁関係無く、全てが対象なのだ。


 そして質の悪いことに、クラウドは復讐の為なら他人を犠牲にすることを躊躇しないのである。持ち得る才の全てを使い、目的の為に他人すら巻き込む。クラウドは肉体こそ人間……だがそれは、人間でありながら魔王と同じ精神という最悪の勇者を意味しているのだ。


「さて……じゃあ、また明日。そんな弛んだ顔で出てくるなよ、駄犬?」

「はい……クラウド様」

「明日そんな口聞くなよなぁ。まだ計画は途中なんだ。邪魔したら殺すぞ?」

「わかりました……」


 本当に理解しているのかわからない恍惚……クラウドは平手打ちを一発与え去って行った。


 (ま、明日どうせ死ぬんだけどね?)


 一方のリーアはドアの閉まる音で正気に戻る。しかし、記憶は失せていて何事か把握していない。もっとも、記憶が残っていれば正気ではいられなかっただろうが……。





 同時刻、やはりトォン国の迎賓施設にも来訪があった。


 トォン国への来訪は四件と最多の来訪。来訪数は小国、大国共に二国づつである。


 まず最初に来訪したのはエクレトルの至光天・アスラバルスである。


「これは議長自らお越しとは……まずは酒でもどうかな」


 豪快な笑顔を浮かべるトォン国王・マニシドは、年齢は五十前後……髭だらけの顔をした恰幅の良い男だった。アスラバルスは差し出された酒瓶を快く受け取り、互いに瓶ごとの乾杯を交わす。


「ハッハーッ!議長もイケるクチか?」


 まるで水の如く丸ごと一本飲みきったマニシドは、アスラバルスの隣に座り肩を叩く。

 対するアスラバルスも瓶を空にしながら屈託のない笑顔を浮かべた。


「昔は世界中の酒を飲み歩ったものだ。しかし、この酒は中々に美味い……」

「わかるかね?ウチの国の上物だ。遠慮せずやってくれ」

「気持ちは有り難いが用向きを先に宜しいか?酔っては話が出来ぬからな」

「おう……。で、議長様自らお越しの理由はなんだ?」

「回りくどいのはお嫌いだろう?用件は二つ。一つは今日のクリスティーナ殿の提案に協力願いたい」


 マニシドはふと笑顔を消し国王の顔になった。アゴヒゲを撫でながらアスラバルスを値踏みしている。


「一つ聞くが、他国にも言って回っているのか?」

「いや、貴殿にのみだ」

「ほう……何故か聞いても構わんか?」

「何……私の勝手な判断だ。あの提案ならばエクレトルも活動の名目が立つ。しかし、エクレトルとしては複数国に協力願いたいのだ。正直なことを言えば、エクレトルは我が国の実力者・セルミローを倒す程の相手に対抗出来る個人戦力が少ない」

「そんなこと俺に明かしても良いのか?攻め込むかも知れんぜ?」


 マニシドの言葉を受けてアスラバルスはニヤリと笑う。


「それはあるまい。トォン国王は代々、大胆にして聡明だからな。エクレトルという国の役割を理解しているだろう。それに……」

「それに、何だ?」

「個人戦力は低いが国の総合力はどの国よりも高い。エクレトルが本気で動けば大国と謂えども滅ぼすことなど容易だ。まあ、そんな日は来ないで欲しいがね」


 マニシドはしばらくアスラバルスを睨みつけていたが、豪快に笑いだした。


「ハッハーッ!正直だな、議長殿は。良かろう。協力しよう」

「感謝する。それと私のことはアスラで良い」

「わかった、アスラ殿。で、何故他国には協力を請わない?」

「シウト国は私が言わずとも参加するだろう。あの国は国王が退位してから変わった。今は僅かなりの縁もあるからな」

「残りは……聞くまでもないか」

「流石はマニシド王。やはりお気付きだったか」


 マニシドは酒瓶を更に煽る。その顔は不敵な笑みを浮かべていた。


「恐らくあれらの国は繋がっているのだろう?更に言えば魔王を囲っている可能性もある」

「私の意見も同様だ。故に今回、彼らが参加を表明した場合一度白紙にするつもりだ」

「そりゃあ……あからさま過ぎないか?」

「なぁに……奴等の悪行の情報は山ほどあるからな。突き付けて断れば良い」


 アスラバルスは酒瓶を取り一口煽る。


「実はセルミローを殺した相手……私はアステ国と踏んでいるのだ」

「ほう……それはまた……。理由を聞いても構わんか?」

「簡単な話よ。我が国には世界を監視する技術がある。あの時……セルミローが倒された時点で転移魔法の反応は無かった。と言うより、転移の使い手など極少よ。そうそう有ることではない」


 再び酒瓶を煽るアスラバルス。セルミローの事を考えれば飲まずにはいられないのだろう。


「時間的にもセルミローのいた場所に行ける者は限られる。勇者数名……転移魔法無しとならば、やはりアステ国が最有力ということだ」

「……なるほどねぇ。わかったぜ、アスラ。お前、仇が討ちてぇんだな?」


 その言葉で初めて自分の気持ちに気付いたアスラバルスは驚きの表情を見せた。


「仇……そうか。私はセルミローの仇を……。フフフ……貴殿に言われて気付くとはな……それに天使としては失格だろうな」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。友が殺られて黙ってる様じゃ、人の痛みすら分からん人形じゃねぇかよ?それに俺はお前が気に入ったぜ?信頼に値する」

「ハッハッハ……。ああ、私も貴殿を気に入った。ならば是非に頼む!私の我が儘に付き合って貰えるか?」

「おう!見返りはそうだな……酒で良いぜ?」

「ならば最高の品を用意しよう」


 そして二人は酒を煽る。既に酒瓶は相当数が空だ。


「で、もう一つの用件は何だ?」

「いや……そちらは良い。貴殿の目ならば問題なかろう」

「何の話だ?」

「早ければ今日にも接触がある筈だ。貴殿の判断を信じる、それで良かろう」

「わかったよ。じゃあ、また機会があったら飲もうや」

「うむ。是非に頼む。おっと……これは内密にな?威厳が無くなりかねん」


 豪快に笑う二人。アスラバルスは上機嫌で去って行った。


「へっ……天使ってのも中々に粋じゃねぇか」


 損得が無い訳ではないが、マニシドは己の勘を信じている。アスラバルスは信頼に値すると判断した……それだけの話だ。そしてマニシドの勘は外れたことがないのが自慢でもある。


「マニシド様。面会希望者が……」

「分かった。通せ」


 続いて訪れたのは二つの小国の王達。二国とも用件は同じだった。トォンと隣接する小国はニルトハイムの件で恐れをなし庇護を求めに来たのである。恐らくその為に会議に参加したのだろう。

 そういった場合のマニシドは狡猾で、庇護の対価として流通利益の割譲や優先権などをしっかり握る。小国の王がギリギリ容認する範疇を見切るのが実に見事だった。


(ハッ!根性の無い連中には王を名乗る資格は無いわ!何れ国民に見切られるだろうよ)


 面会を求めた小国はやがて王族が衰退するだろう条約を結び引き下がっていった。しかしそれも、生き残りの手段としては間違いではないのだが……。


 そして最後に現れたのは体格の良い銀髪の青年だった。


「さて……お前は何用で来たのかな?」

「俺はシウト国のオーウェルと言う。言葉遣いの失礼、先に詫びよう」

「ハッ……気にすんな。俺もあまりお上品な方では無いからな。で、シウト国の人間が何用だ?」

「シウト国との同盟を頼みに来た」


 鰾膠にべも無く告げるオーウェルにマニシドは威圧を向けた。


「おいおい……ならば王自らが来るのが礼儀だろうが……。一体何様だ、あの小娘は?」

「王は勘違いしているな。俺はシウト国の人間で間違いないし護衛として同行しているが、ここに来たのは俺の勝手な判断だ」

「何ぃ……?どういうことか聞かせろ、若僧」

「先に言っておく。おれは【獣人】だ。これで半分は察しただろうか?」

「!……成る程……面白い!」


 獣人の住まう『エルゲン大森林』はトォンとシウト、二つの国に跨がっている。三百年前のまだ領土紛争があった時代……森は二つに別たれた。獣人達も二つの集落に分かれ、国籍も別々の生活を余儀なくされる。これにより獣人達は勢力を失うことになったのだ。

 獣人のその強力な戦闘力を恐れられたが故の結末。これは当時のシウト、トォン両国の思惑の合致からのことであった。


「で、何故シウト国との同盟だ?」

「本来ならば獣人を解放しろ、と言うべきなのか?しかし、それでは『シウト国に獣人を取られた』と考えるのではないのか?」

「まあ、そうだな」

「だからシウト国と同盟を結びエルゲン大森林を不可侵扱いにして貰いたい。そうすれば一族の悲願は叶う」

「簡単に言うが、獣人は普通に脅威だぜ?お前らが牙を剥いたら大国と言えど只では済まん。それをシウト国が了承するか?」

「既に了承を得たから此処にいる」


 マニシドは酒を吹き出した。そんなアッサリと了承したのは何処のアホウだ、と一瞬油断したらしい。


「一体誰がそんな……」

「クローディア女王だ。無論、条件付きではあるが」

「条件?どんな条件だ?」

「一つはトォン、シウト両国の対等な同盟を成し遂げること」

「だから来たのはわかった。で、他には?」

「同盟の後、獣人の国の設立をすること」

「………あの小娘は馬鹿なのか?そんなことは国に不利益でしか無ぇだろうが」

「まだ続きがある。獣人の国建国時、シウト・トォンとの永代戦力不可侵条約を結ぶこと。つまり兄弟国となる」


 流石にマニシドといえど呆れるしかなかった。エルゲン大森林は半分とはいえ様々な資源がある。薬草や食料、聖獣の住み処もあるのだ。獣人が建国すれば全てを失うのは必然。


「話にならねぇな……。そんな馬鹿げた話に誰が乗るんだよ」

「現にクローディア女王は乗った。後はトォン国王次第だ」

「………何か企んでやがるのか、小娘は?」


 オーウェルはその言葉に僅かな笑みを見せた。


「流石に察しが良い。では本題と行こう……我ら獣人は強き者が長となる。長となる為の試合が催され、最後まで勝ち残ればそれが長だ」

「そういやそんな話、聞いたことがあったな。で?」

「但し、今回は建国に関わる大事。兄弟国となるならば獣人達だけでなく人にも参加して貰うのが筋だろう」

「なっ……!本気で言ってるのか、お前!?」

「当然だ。人が勝てば獣人の長は人間。当然、獣人達はそれに従う。つまり……」


 勝った国がエルゲン大森林全てを手中にすることになる。それはつまり、トォン、シウト、獣人族の三つ巴の争奪戦だ。


「無論、獣人が勝つだろう。兵力……数では劣った故に我々は不覚を取ったが、個別であれば人に負けることはない。しかし、人からすれば総取りの好機なのだろう?」

「面白れぇ!力で決めろ、か……分かりやすくて涙が出るわ!」


 目を輝かせたマニシド。この場合……国益云々ではなく、ただ面白い事態に胸踊っているだけとも言える。


「現状、魔王の脅威が残っている。それを名目に同盟を結べばそちら側にも都合が良い筈だ。何せ兄弟国だからな。その間に長を決める大会を準備しよう」

「ならウチで会場を用意してやる。エルゲン大森林が無くなると困るからな。構わねぇか?」

「それは助かる。では了承と受け取って構わないな? 」

「勿論だ!」


 固い握手を交わしたマニシドとオーウェル。マニシドは目の前の獣人の目を覗き込んでいる。そして一つのことを看破した。


「お前は良い目をしている。だが、小細工が出来る奴の目じゃねぇ。かといって小娘女王にここまで策が回るとは思えんな。誰だ?この絵図を描いたのは?」

「友人の商人だ。どうせなら一族の命運を賭けた勝負をしてみろ、とのことだ」

「トンでもねぇ奴だな。いつか逢わせろよ?」

「わかった。では失礼する」


 獣人の青年は堂々と立ち去って行った……。


 しばらく一人で酒を飲んでいたマニシドは突然笑い始める。


「ハッハッハーッ!全く面白れぇじゃねぇか!魔王の危機でも世界は回る、か……。こんな楽しいのはいつ以来だ?」



 その後、上機嫌のマニシドは酒を全て飲み尽くし酔い潰れた。同時に、シウト国側にはオーウェルにより同盟了承の報告が伝えられることとなる。



 会議一日目の夜は、様々な思惑を絡めつつ過ぎて行くのだった──。




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