第三部 第二章 第三話 ペトランズ大陸の歪み


 ペトランズ大陸会議、二日目──。


 会議場では参加国の減少が起こっていた。



 昨日、トォンの庇護下に入った二国は会議の開始早々にその旨を告げエクレトルを離れたのである。因って現在は大国が五、小国三、計八ヵ国にて会議が開かれていた。


「本日はまず、提案がある国から意見願いたいのだが……挙手を願えるか?」


 最初に手を上げたのは小国トゥルク教国の大司教・トレイチェ。


「我が国は小国ゆえ発言力は低い。ですが折角の機会ですので提案を……。魔王は【魔力ある獣】を狙っているのでしょう?ならば魔獣・聖獣を囮にする事が可能なのでは?」

「面白い案ではあるが……具体的には?」

「簡単なことですよ。魔獣を封印してある地域で解呪を行えば良いのです。如何ですかな?」

「……それでは本末転倒な話。魔王の脅威どころではなく魔獣の対策に追われることになる」

「ですが、大国ならば可能でしょう?残念ながら我がトゥルクは小国……しかし、協力は惜しみません」


 この言葉に噛みついたのはトシューラ国のリーア王子だ。


「馬鹿か貴様は?会議の立場は同格と言われただろうが……。負担は大国に、と言ってる時点で既に論外だ」

「何を……?それぞれの国に出来ることを頼んで何が悪い!」

「それが押し付けだと言っている!貴様は大国に向かい被害が出ても良いだろうとタカを括っているに過ぎんわ!その犠牲……貴様に償えるのか?この愚物が!?」

「ぐっ……私はただ担う責任の重さを……」

「では、貴様の国でやれば良かろう!ならば幾らでも協力してやる!」

「ぐうぅぅ~っ!」


 見兼ねたアスラバルスは仲裁に入る。


「案としては些か他国を軽んじている故に賛同は出来ぬ。トレイチェ殿は魔獣を甘く見すぎている様だ。他国と言えど今少し人命を重んじられよ」

「……………」

「他の提案は」


 その時、唐突に声を上げた者がいた。アステ国王子・クラウドである。


「いや、待って?丁度良い魔獣がいるじゃないか…」

「何と?それは一体……」

「魔の海域だよ。あの場所ならば海……しかも魔獣も居る。魔王を誘導し互いに戦わせれば疲弊した両方を潰せるだろう?」

「それは妙案だが……どうやって魔王を誘導するのだ?」

「簡単な話さ。海王を怒らせれば良い。魔力に惹かれて魔王も集まる筈さ」


 一同はこの案に賛同意見の傾きを見せた。だが……。


「ウチはパスだ。やるなら勝手にやれ」

「マニシド殿。何故かお聞きしても?」

「簡単な話だ。それはアステ国が国益欲しさに言っているだけだからな」

「酷いなぁ……アステ国が一番大変な作戦でしょ?」

「その分、あの海域が解放される見返りも大きいだろうが。海王は放置していても困るものではない。よってウチはパスだ。この方針に変更はない」


(ちっ……面倒な爺さんだな……)


「ならば、我がシウト国も協力は出来ません」

「それは何故か?」


 シウト国女王クローディアはマニシドと視線を交わし頷いた。


「我が国はトォン国との同盟を果たしました。故にトォン国の賛同せぬことにはお力をお貸しすることは出来ません。それに、出征には迂回しつつ向かう必要があります。遠方だということも理由とお考え下さい」

「むぅ……ならば仕方あるまい。会議が強制権限では無い以上、参加意思があるか否かだけ確認しよう。因みに我がエクレトルは直接協力は出来ぬ。先程のマニシド殿の言でアステ国の国益の可能性を知ってしまったからな。ただ、魔王出現時は直ぐに駆け付けよう」


 『魔王誘導作戦』として議会に於ける意思確認の挙手。手を上げたのはトシューラ、アステ、トゥルク、の三国。結局、海王討伐として当てにしていた大国の戦力は得られず終い。


 だが……。


(これはこれで良いかな?)


 クラウドは内心ほくそ笑む……『これは寧ろ好都合だ』と。


 他国の支援無き状態で海王に挑めばその損害は計り知れまい。その上、リーアは【魅了】で手中にある。トシューラがアステ国のみに押し付けることは阻止し、両国に損害を与えることが出来る絶好の機会。

 それにトゥルクなどという小国に興味はないが、第三国が参加する以上トシューラとしても今更引き下がることは出来まい。


(ハハハ……良かったね、リーア王子。死なずに済んだよ?)


 対してリーアは怒り心頭だ。


 つい最近、弟ディーヴァインが辿った道をなぞる運命など御免なのだ。何とかもう少し加勢を増やしたいのが本心だろう。


 そこで目を付けられたのは小国である。参加を表明しない小国二つを誘導し戦力を要求することが出来れば負担は減らせる……筈だった。


 だが……その策も儘ならない。


「我々はトォン国とシウト国の同盟に加わりたい。如何だろうか?」


 残った小国、『タンルーラ』と『アヴィニーズ』は素早く提案を掲げた。勿論、トシューラとアステの無謀に巻き込まれるのを避ける為の提言である。


「……小国が大国と同盟するだと?庇護の間違いでは無いのか?」


 皮肉を込めたリーアの言葉だが、内心は腹立たしさで拳を握り込んでいる。クラウドはそれを見て取り実に満足げな様子だ。


「さて……どうするかねぇ、クローディア女王?」

「私は構いませんが、マニシド様は如何お考えですか?」


 タンルーラ、アヴィニーズ、共にシウト国とトォン国に挟まれた小国だが、目ぼしい資源や技術が有る訳ではない。


「……ま、良いか。同盟を認める」

「では、私も了承致します。今後とは同志として宜しくお願い致します」


 クローディアは小国への善意だが、マニシドは所謂『嫌がらせ』である。理由はアステとトシューラが嫌いだから……という超個人的なもの半分、クラウド同様の国力減らし狙いが半分だった。


(ちっ……仕方無い。ならば……)


 リーアが次に狙ったのはエクレトルの技術を奪うこと……。海王相手ならば魔導具の貸与を願い出ても不思議ではない。


「エクレトルに魔導具の貸与を申請したい。可能か?」

「可能だ。しかし技術は出せぬ。今ある使い切り型の魔導具貸与となるが良いか?」

「十分だ。では海王攻めを行う際は事前に連絡する。それで魔王を呼び寄せれば本格的な対峙となるだろう。但し……その際は海王攻めをしている我々の戦力を削がれるだろうことを配慮して貰いたい」


 アスラバルスはその言葉を逃さず利用する。


「了承した。では一先ず、アステとトシューラ、トゥルクを誘導組……クリスティーナ殿の提案した『脅威対策組織』を直接対峙組として他の国より募ることにしよう」


(くそっ!やられた!)


 海王相手を理由に魔導具の借り受けまで申請し、かつ疲弊を匂わせ魔王との戦闘を回避しようとしたリーア。今更『まだ戦力はあるから参加させろ』と言うことは出来ない。

 魔王討伐組の越境権限は確約された訳ではないが、ここでどこまで容認されるかを試す機会は失われた。


「今後の流れが決まった為、予定より早いが『ペトランズ大陸会議』は閉会とし魔王に対する準備を整えることとしよう。今はいつ何時なんどき、魔王が行動を起こすかも知れぬ緊急事態。アステ、トシューラ、トゥルクは是非万全を持って海王に当たることを望む。残る脅威討伐人員はトォン、シウト同盟により至急準備されたし。以上を持って解散とするが、異論のある者は?」


 返事はない。ただトシューラ王子だけが苦虫を噛み潰した顔をしていた……。


「では、トォン、シウト、タンルーラ、アヴィニーズの四国は今後の打ち合わせも有るのでこのまま会議に移りたいと思う。これにて『ペトランズ大陸会議』は終了とする」





 トシューラ国へ向かう馬車の中、王子リーアは怒りに震えていた。


「くそぉぉぉっ!クソ天使めがぁ!!」


 エクレトルを利用するつもりが、体よくあしらわれ枠組みから外されたのだ。しかも思惑の全てが裏目に出る始末……。それもこれもアステ国王子クラウドの発言のせいである。

 大体、魔王をおびき寄せるなどということが本当に可能なのかすら理解出来ていないのだ。もし魔王が来ず多大な被害だけで終れば、待っているのは王位継承権剥奪……いや、最悪の場合は弟ディーヴァインと同じ結末が待つだろう。第一王子としては断固として避けるべき事態。


(どうする!どうすれば……!)


 その時、リーアの頭を過ったのはレフ族だった。あの国ならば魔力に長けた者が多い。脅して従わせるには十分な人質の数をトシューラは捕らえている。ならば使わぬ手は無い。


 薄笑いを浮かべたリーアは、カジーム国への進軍計画を組み立てるのであった……。




 そしてもう一人。良からぬ考えを持つ者がいた……。


 トゥルク国『プリティス教』の大司教・トレイチェである。


 教主の命で会議に参加したは良いが、どうしてもリーアにけなされたことに苛立たしさが消えない。


(くそぅ……忌ま忌ましいトシューラの王子め。大陸各国の前で大恥をかかせおって……。赦せん……赦さんぞぉ!)


 手にした教典を叩き付けその小さき自尊心の維持に努めるトレイチェ。しかし、やはり収まりが付きそうにない。


(教主に何を言われようが構わん……トシューラに裁きを……)


 この小国の大司教による行動は、トシューラのみならず世界にも混乱を巻き起こすこととなる。奇しくもそれが今回の『ペトランズ大陸会議』の意義の大きさを知らしめることになる……のだが、それは少し先のこと──。




 そして一方のシウト、トォンの両国は、エクレトル会議室に残ったまま話を続けていた。

 タンルーラとアヴィニーズの両小国は立場をわきまえて既に帰国の途についている。



「それにしてもトォン国王が『タンルーラ』と『アヴィニーズ』を同盟に加えるとは、驚きました」


 クローディアは会議場にてマニシド、アスラバルスとの会談中である。場にはクリスティーナ、ルーヴェスト、シンも加わっている。


「なぁに。ありゃあトシューラとアステへの嫌がらせだ。放置すれば小国を利用して捨て駒にするのが目に見えていたからな。小国の処遇はあとでキッチリ話をしようぜ?」


 アスラバルスは小さく笑うと、咳ばらいを一つ吐き真顔に戻る。


「成る程……マニシド王らしい。さて……それでは『組織』に関してだが、参加者選別はそれぞれどう考えておる?」


 そこで真っ先に手を挙げたのはトォン国の勇者ルーヴェストだった。


「あ~……それなんだが、俺は初めから参加するつもりだったぜ?」

「ルーヴェスト。テメェ、また勝手に……」

「ウルセェな、マニシド爺。これはセルミローのオッサンとの約束だ。絶っ対に守るぜ?」

「わかったよ……ったく。テメェは俺の言うこと聞いたこと有りゃしねぇな」


 そうは言っても満足げなマニシド。自国の勇者が死者との約束を重んじることが誇らしい……そんな表情に見える。


「ウチからは他に親衛隊を派遣する。魔王相手に有象無象は意味があるまい?」

「うむ。有り難い……感謝する」


 トォン国王直属の親衛隊は選りすぐりの魔法剣士の集まりだと噂されている。完全戦闘特化部隊──マニシドはアスラバルスの心に応えたのだ。


「私の国からはマリアンヌ様、それと騎士隊長を何人か派遣させて頂きます。加えるならば、勇者マーナに協力を申し出るつもりではおりますが、どうなるかはまだ……」

「勇者マーナは自由人って聞くぜ?大丈夫か?」


 ルーヴェストはマーナに直接会ったことが無い。チラリとシンに視線を送ると肩を竦めて苦笑いしている。


「アイツはライにベッタリだった記憶しかない。勇者として台頭した時は、正直驚いたよ」

「ハッハッハ。俺は勇者マーナよりお前の弟が気になるがな」

「兄の俺が言うのも何だが変わった奴だよ。案外、お前と気が合うかもしれないな」


 クローディアは咳払いを一つして脱線した話を戻す。


「コホン……で、ですので断言までは出来ませんが可能ならばマーナ様も参加ということで……。しかし……マーナ様のお力が無くともとても優秀な方々を派遣する予定ですので、その実力は保証致します」

「了解した。では出来るだけ早くエクレトルへの派遣をお願い致す。滞在施設はこの会議区域をそのまま使って構わぬ。まあ幾分の手を加える必要はあるだろうが……」

「それは便利ですね……。私、シウト女王クローディアは確かにお約束承りました」

「トォン国王マニシドも確かに受けたぜ?じゃあな、アスラ」

「うむ、有意義な会議であった。お二方とも……帰りの途はくれぐれも用心を」


 そして会議場にはアスラバルス、ルーヴェスト、シン、クリスティーナとマリアンヌが残った。


「師しょ……アスラバルス殿。少しお時間を頂けるか?」

「シン……殿。構わぬが、何か?」

「クリスティーナの希望でマリアンヌ殿の元で修行をさせて頂くことになりました。ついては訓練の場を提供して頂きたいのですが……」


 アスラバルスはクリスティーナを見やる。どう見ても繊細ですぐに折れてしまいそうな印象……。類稀な美しさも相俟って戦う者には見えない。


「……クリスティーナ殿。本当に良いのか?確かに素晴らしき力をお持ちの様だが、戦いは過酷になるぞ?」

「私は出来ることをやりたいのです。力があるならば是非に……」

「わかった……では黒い屋根をした建物へ。あれは手合わせしたいと申し出た者の為に用意したもの。結局使わず終いになったが、今後は訓練場として使えるだろう」

「御配慮、ありがとうございます」


 その決意を否定することはアスラバルスには出来ない。それにクリスティーナのあの力……『神格』に限りなく近いと感じていた。

 アスラバルスは今は亡き【神】を思い出す。三百年前、邪神の手に掛かり消えてしまった、かつての主を……。


(あの方に少し似ているか……。ならば心配は要らぬやも知れぬな)


 不思議な温かさを胸に感じながら、アスラバルスは全ての手配の為に奔走を始める。




 会議場から場所を移した一同は、早速マリアンヌに訓練を依頼する……筈だったのだが、ルーヴェストがそれを遮った。


「よう!マリアンヌ……だっけ?俺と手合わせしてくれるか?」


 不躾なルーヴェストをシンが諌める。


「おい、ルーヴェスト!失礼だぞ!」

「そ、そうですよ!私からお願いしたのです。それではあまりに……」

「だって、実力わからにゃ話になるめぇよ。俺やシンが鍛えた方が早いんじゃ笑えねぇぜ?」

「だが!幾ら何でも……」

「構いません。ご自由にどうぞ」


 表情を変えずに応えるマリアンヌ。ルーヴェストはニンマリと笑うと準備運動を始めた。


「いやぁ……実際のところ、俺がただ手合わせしたかっただけなんだがな?魔導具の使用は無し……だと武器が無いな。徒手空拳で構わねぇか?」

「問題はありません。ルーヴェスト様の納得の行くようご自由になさって下さい」

「ハッハッハ。良い女だな、アンタ?いや……顔もだが、内面がな?」

「惚れても無駄ですよ?私にはライ様が居りますので」

「そりゃあ残念。じゃあ一丁、手合わせと行こうか?」


 身構える二人。慌てたのはクリスティーナだ。突然の事態を止めるようシンに掛け合っている。


「だ、大丈夫でしょうか?あれではあまりに……」


 体格が違い過ぎる──。


 片や筋肉隆々の大男、片やクリスティーナと変わらぬ細身のメイド。通常ならとても相手になる訳がない。


 しかし……シンは慌てた様子もない。


「見ていればわかるよ。それに、ルーヴェストもそこまで無理はしないだろう」

「そ、そうですか?なら安心でしょうか……」


 クリスティーナが不安な視線を移すと、そこには既に大男と打ち合うマリアンヌの姿が……。


「……………」

「ちょっ……クリスティーナ!逃避しないでくれ!」

「ハッ!わ、私は一体……」


 大男のルーヴェストと激しい打撃戦を繰り返しているマリアンヌ。その現実離れした光景にクリスティーナは白目を剥いた。精神耐性がやや低めの元大公女様の課題は、まず精神力強化かも知れない……。


「あ……ああ…こ、こんなことが……」

「……。あのマリアンヌという女性……。魔人とも違う。一体……」

「そ、そそそ、そんなことより、どうして無事なんですか!」

「それは纏装……いや、後でマリアンヌさんから学ぶ方が早い。良く見ておくんだクリスティーナ。最低でもあの位は出来ないと魔王と戦うなんて夢また夢だよ」


 シンはクリスティーナに普通の娘として暮らして欲しいと考えている。イズワード領でナタリアと共に暮らし、やがて良縁に結ばれて欲しいと。

 しかし、クリスティーナの目は真剣に戦いに向けられている。止めることは出来ない様だ。


「クリスティーナ」

「は、はい!」

「……いや。マリアンヌさんは強いな。あれなら良い師匠になってくれるだろう」

「はい!」


 一方のルーヴェストは目の前のメイドに感嘆の視線を向けていた。自分と互角……いや、それ以上の実力。流石のルーヴェストも冷や汗が流れ出した。


(……ったく、とんでもねぇぜ。あの細身でこの力……技術も群を抜いているが、肉体は人じゃねぇな?魔人か……いや、違うな。じゃあ一体………)


 膂力では互角……だが、あらゆる技能がルーヴェストを上回る。戦いには相性があるが、ルーヴェストが同じ土俵でここまで競ったのは本当に久々のことだった。


「ヤベェ……楽しくなって来ちまった」

「どうぞ、ご存分に……ただ、建物は壊さぬ程度でお願い致します」

「了解!じゃあ次の一撃で決めるか!」


 互いに金色の輝きを放ち渾身の一撃……ぶつかり合った拳の衝撃波で建物が軋む。と同時に両者は拳を納め、クリスティーナの元に戻ってきた。


「大したメイドさんだぜ。クリスティーナの嬢ちゃん、良い師匠……って、おい!大丈夫か?」


 ルーヴェストがクリスティーナに語り掛けたその時……やはりクリスティーナは白目を剥いていた。


「お~い……駄目だ。何とかしろよ、シン」

「クリスティーナ!しっかり!」

「どうやら覇気に当てられた様ですね。無理に動かさず休ませた方がよろしいでしょう」


 シンは心配になった……。こんな状態で本当に成長出来るのかと。そして、いつか義妹はお漏しっ娘になるのでは無かろうか?、と。


「シンはどうすんだ、これから?」

「クリスティーナが起きたらイズワードに帰るよ。ナタリアが心配するからな……。それにあの作戦……海王との戦いも気に掛かる。次期領主が領地を空ける訳には行かないだろう?」


 そしてシンは改めてマリアンヌに向き直り頭を下げた。


「クリスティーナのこと、是非にお願いします。それとライのことも」

「承りました。ただ、ライ様に関しては私の意思ですので」

「それでも宜しくお願いします」

「……わかりました。不束者ですが、こちらこそ今後とも宜しくお願い致します」


 まるで縁談の様な挨拶だが、やがてシンは知ることになる。ライがフラグを立てまくる天然タラシだということを……。



 こうして魔王級脅威に対する体制が整い、こと魔王・【角】に対する作戦が進められて行く。

 しかし──そこには多くの者の様々な思い、そして謀略・奸計が巡る。決して予定通りなどという事態は訪れないと考えるべきだろう。



 少しづつ……大きな嵐がペトランズ大陸に迫っていた。


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