第二部 第四章 第十一話 化け物の涙
エイルが無人島を離れた翌日……ライとメトラペトラは今後について話し合いを再開した。
しかし、何故『翌日』になったのか……それは昨日、ライが腑抜けてお話にならなかったからである。
エイルの色香に惑わされたライは完全な放心状態だった……。リルの突進を何度も受けメトラペトラの爪を顔に刻まれても、惚けた顔でニヤケていたのだ。
メトラペトラは、ライにここまでエロ耐性が無いとは正直考えていなかった……。
「こ、これは由々しき事態じゃ……。なんじゃ、この脱け殻は……?おい!しっかりせい、馬鹿者!!」
往復ビンタを受けて腫れ上がった顔は、ゆっくり元に戻って行く。魔人化の影響の一つだが実に気持ちの悪い光景だ。
「……おぅ……お……へへ……へ……」
「くっ!ダメか……。仕方がない。斯くなる上は……」
メトラペトラは『収納鈴』から酒瓶を数本取り出した。メトラペトラにとっては貴重な一品……高濃度アルコール・銘酒『みなごろし』。
並の者なら瞬く間に酔い潰れる強力な酒。そんな、メトラペトラの宝とも言える酒を惜しげもなくライの口に注ぎ込んだ。
魔人化しているライでは『毒』に耐性があるので酒の効果が薄い。それを量で補う為、メトラペトラは損失に涙を流しながらも注ぎ続けた……。
結果、酩酊したライはそのまま意識を失うに至る。常識ある皆さんはこんな無茶を決して真似をしない様に……。
因みにロウド世界は戒律としての禁酒は存在するが、酒そのものに年齢制限はない。暗黙のルールとしては、一人前と判断されたらというのが一般的だ。
そして翌日の朝……目を覚ましたライは、すっかり何時もの様子に戻っていた。
「で、これからどうします……って、あれ?どうしたんです、師匠?」
「うむ……貴重な品を失ってな……。中々にキツいのぅ……」
「それは残念でしたね……。どんなものなんですか?」
「酒じゃよ……大事に取っておいた貴重な品が……くっ……」
あまりの落ち込み様を見兼ねたライは、提案を持ち掛ける。
「じゃあ、そろそろシウト国に行きますか?有名な酒をたらふく飲ませますよ。多分用意出来ると思うので……」
「い、良いの?本当に?やった~!何呑もうっかなぁ~」
浮かれて踊る大聖霊様に苦笑いを向けるライだが、原因が自分であることには気付かない。
「じゃあ準備しましょうか……。お~い、リル~!!そろそろ移動するぞ~!!」
返事はない──。確か今日も海岸を走り回り海を泳いでいた筈だ……。
「お~い!!何処だ、リル~!!返事しろ~!!」
声を更に張り上げ島中に響き渡る様に叫ぶ。しかし……やはり反応は無い。
「メトラ師匠……リル、何処行ったんでしょうか……?」
「ふぅむ。海が気に入って移動したくないのやも知れんが……アヤツが何を考えてるのかは、ワシにも良う解らんわ」
「リルが島に残るとしても、顔を見てから行きたいんですけどねぇ……少しだけ待ってみて良いですかね?」
「好きにせい。今更慌てる旅でも無いでな。……酒も少し我慢した方が美味いからの」
ライは念の為、分身体で島を捜索することにした。それぞれの分身は森の中を感知纏装で探索。更に海に潜り、上空からも遠方まで確認していた。
と、そこで分身の一体が遠方より迫る一艘の小舟と一隻の大型船を発見する。
分身を解除したライはメトラペトラにそのことを伝え指示を仰いだ。
「エイルの話では、この辺りはディルナーチの海域じゃろう。とすると、船はシンラ国のものかのぅ?」
「俺たちがこの島を勝手に使ってたから警告にでも来たんですかね?」
「恐らく違うと思うがのぉ……取り敢えず、ワシらがいた痕跡は消しておくとするか……」
焚き火の跡や不自然な植物の切れ端、踏み固めた土や砂地の足跡など全ての痕跡を隠蔽。そしてライとメトラペトラは、そのまま上空に飛翔し船を観察することにした。
「片方は小舟じゃな……」
「もう片方はかなりデカイ船ですね……武装もしてますよね、アレ?」
「その様じゃな……にしてもあの小舟、随分と速いの……ん?ライよ!あの小舟の前方を見よ!!」
「前方?一体何が……」
小舟の先には不自然にロープが伸びている。それは海の中へと続き、更にその先には小さな魚影が……。
いや……良く見ればそれは人型にも見える。この青く澄んだ海域でなければ気付かなかったかも知れない人影。
それは───。
「あれ!リルですか?嘘ぉ~ん!何やってんの?」
「さて……ワシには船を曳いている様に見えるが……」
「もしかして獲物として持って来ちゃったとか?じゃあ後ろの船はそれを追って来た警備船……?」
「いや……?どうも違う様じゃぞ?あの船は普通の船ではない……海賊船じゃ」
「え……?」
徐々に近付く大型船を良く観察すれば、乗組員は全員が武装している。だがそれは、統一性の無い装備だった。加えて服は上半身裸。確かに公的な機関にしては随分と雑な印象である。
加えて船の掲げる旗は、真っ黒の生地に赤色で何かが印されていた。
「師匠……あの旗……」
「あれは……骸骨を『受け皿』に花が咲いておるのじゃな。あんな旗を掲げるのはディルナーチ大陸では海賊船くらいじゃよ」
「じゃあ……益々訳わからん訳ですね?」
「そうじゃな……。ただ真っ直ぐ此方に来るのが気になるがのぅ」
メトラペトラの言うように、リルの引く小舟は無人島に一直線である。リル自身に意図があるのは間違いないと思われた。
「………ちょっと行ってきます」
「その方が早いじゃろうな」
メトラペトラを残しリルの元に向かうライ。小舟まで僅かな時間で辿り着くが、そこでようやくあることに気付いた。
リルの曳いていた小舟には数名の乗員がいたが、その半数が女性なのだ。
「ライ!来た!」
海から飛び上がるリルはライの胸に飛び込んだ。ライは上半身裸の為、シャチのヒレがヒタヒタとライの身体に触れている。
「リル……この船、どうしたんだ? 」
「もってきた!」
「それはわかるけど、何で?」
「オニごっこ!アレ、オニ」
リルの指差した大型船は勢いを落とさず向かってくる。小舟の乗員が何か喚き立てているが言葉が理解出来ない。
「厄介だな……異国語だから何言ってるかサッパリだ」
「ライ!あれ、オニ!」
「この人達が追われてるってこと?」
「これ、にげる!」
「わかった。じゃあ取り敢えず……」
リルを片手に抱えたまま、空いた手で纏装を圧縮。使用するのは火炎魔法 《穿光弾》……ライは、そのまま小舟に迫る大型船の船底に向け射出した。
同時に大型船は勢いを落とし傾き始める。あちらも何やら騒いでいるが取り敢えず無視。小舟の乗員を確認することにした。
見たことの無い衣装を纏う異国の民。怯えの混じった目でライの様子を窺っている者もいる。どうも男達は召使いの様だが、女達は身分の高い者に見えた。
そのアンバランスさが気になったライだが、語り掛けても首を傾げられるだけで要領を得ない。
「言葉が通じないんじゃ仕方ない……ま、良いか。メトラ師匠に聞いてみよ」
リルを海に戻し小舟のロープを掴むと、飛翔しつつ船を曳航する。その速度に驚きの声を上げているが、またも無視して無人島まで一直線。
その間、リルは楽しげに飛び跳ねながら泳いでいた……。
無人島に着くと浜辺にはメトラペトラの姿が……どうやら意図に気付き待っていたらしい。
「また厄介事を持って来おったな……?」
「こ、今回は俺じゃないですよ?」
「いいや、お主じゃ。元を質せば、お主がリルを同行させているのが始まりじゃからの?つまり、全てお主のせいじゃよ。空が青いのも、海が青いのも、三兄弟が暑苦しいのも、エイルがエロいのも、お主が痴れ者なのも、全っっ部お主が悪い……」
「ぐっ……ず、随分と機嫌悪いですね……」
「折角うまい酒が呑めるとオモタラ、お預けにナチャウヨ?やぁ~だ~!お酒!お酒呑みたぁいのぉ!!」
砂浜に寝転がりバタバタとのたくり回る『駄々っ子大聖霊』。完全にヘソをお曲げでいらっしゃる……。
「……わ、わかりましたよ。ちょっと待ってて下さい」
仕方無くライは猛速度で先程の大型船に飛翔した。乗組員は既に姿がない。遠方を見ると、小型船が数艘遠退いて行く姿が見える。
「船の所有権、放棄しましたね~?じゃ、ちょっくら物色させて頂きますよ~?」
自分で船を沈めておきながら所有権を確認する横暴さは『強奪勇者』とも言えよう。しかし、魔人勇者にそんな常識を期待するだけ無駄である。
船内を一通り物色したライは、酒樽を肩に担ぎ船を後にした。
「おお!酒じゃ!」
「師匠、その前に話が……」
「先に一口くれんか?頼む!ライちゃ~ん……お願いだよぉ!!」
「くっ……師匠……カッコ悪い……」
足に縋がり付くアルコール依存大聖霊の嘆願を心を鬼にして我慢させるライ。飲んべぇモードになると役に立たないのだから仕方ない。
「終わったら全部飲んで良いですから……。その前に、この人達のことですよ」
「ちっ……仕方ないのぅ……(このドケチ勇者め)」
「おい……今、何か言ったか?」
ライは酒樽を強めに叩く。樽が軋み砕けるかに思われたその威力に、メトラペトラは慌てた。
「いえ!ニャンでも御座りません!」
「……とにかく、ちょっとだけ待って。この人達の言葉わからないんですよ。師匠、事情聞いてやって下さい」
「おおっ!ならばやはりアレじゃな!」
「アレ?……ってまさか!」
「そら、行くぞよ?」
ライの額に自らの額を密着させたメトラペトラ。容赦なく大量の情報を流し込むと、そのまま酒樽の中に飛び込んだ。
対してライは情報の渦に脳内を掻き回され吐き気に襲われる。
まさに浴びるほど酒を呑むニャンコ……そして酒を呑まずに酩酊している勇者の姿は、小舟に乗っていた者達からすればさぞ奇っ怪な光景に見えたことだろう。
「うっぷ……く、くそっ!酔いどれニャンコめ……後で覚えてろよ?」
「のう、ライよ?酒は美肌に良いって知っとったかぇ?見よ、この見事な肌……雪のようじゃろ?」
黒猫なので肌なんて見えやしない。しかも毛並みは黒……雪どころか墨にしか見えないのだ。
そんな酔っ払いは放置して、ライは小舟から降りた異国の民に語り掛ける。
「え~っと、こ、これで通じてるかな?コニチワ!ワタシ、ユウシャ!」
「…………」
「あ、あれ?通じてないかな?し、師匠~?」
振り替えればお師匠様は華麗に酒の中で踊っている。足を出してクルクルと回り、手足をバタつかせ、更にキメ顔でポーズをとりながらザバッと姿を現した。
(ダ~メだ、こりゃ……)
諦めて自力で何とかしようとした時、微かに声が聞こえた。
「化け物……」
どうやら言葉は通じていたらしい……。
しかし、先程見せた魔法は相手からすれば恐怖の対象だったのだろう。会話を避けていた様である。
それも仕方有るまい……船を曳く人魚に、人語を喋る空翔ぶネコ。それらと共に行動する人間は、空を飛び大型船を沈めたのだ。
【化け物】──この表現は的確極まりない。
しかし、ライは務めて冷静に語り掛けようとした。言葉が通じるなら何とか安全な場所まで送ってやれると考えていたのだ。
その後はどうでも、何と思われても知ったことではない。
が、しかし……。
「あ……あれ?」
一筋の涙がライの頬を伝う。自分でもその理由を理解出来ない……。
別に魔人化していることは自覚しているので、化け物と言われても気にはならない。実際……トシューラの魔石採掘場でも何度も言われたことであり、逆にそれを利用して脅してもいる。
では何故、涙など流れたのだろか?
メトラペトラは気付かない様だが、海中からリルが心配そうに目を向けていた。ますます混乱したライが慌てて腕で涙を拭ったその時、透き通る声が響く。
「申し訳ありません。身内の者が大変な無礼を……。この通りです。どうかお赦しを……」
恐らく一番身分の高いであろう女性が、砂に膝を着き深々と頭を下げた。
「奥方様……お止め下さい。化け物に謝罪など……」
「黙りなさい!あなたは命の恩人に無礼を働く様な、不義理な人間ですか?ならば同伴など望みません。皆も同じです!この者の様に目が曇っているならば、この小舟で今すぐ国にお帰りなさい!」
「うっ……そ、それは……」
毅然とした態度の“奥方様”は配下らしき者を一睨みした。その迫力で皆、沈黙し顔を伏せる。
「大変失礼を致しました。どうかこの通りです。ご容赦を……」
「あ……頭を上げて下さい!それに膝も……服が汚れちゃいますよ!」
「いえ……これは必要なケジメです。お赦し下さるまでは……」
「赦す……赦しますから、立ってください!」
「感謝致します」
“奥方”と呼ばれる女性は立ち上り砂を払うと、改めて深々と頭を下げた。
「助けていただき本当にありがとうございました。また、身内の無礼……改めて謝罪致します」
「別にその人は間違ったことは言ってませんよ。俺は半分化け物みたいなものですから……」
「いいえ。少なくともあなたの心は人です。でなければ私達は海賊に囚われていました」
「その礼はリル……あの子に言ってやって下さい。俺は流れで助けただけですから」
“奥方”はリルに向き直り深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、人魚さん。あなたのお陰で助かりました」
リルはチラリとライを見る。ライが笑顔で首肯くと、いつもの元気なリルに戻った様だ。
「お~!オニ、にげた?」
「はい。お陰さまで」
「へへへへへ!リル!いいこ!」
そのまま海の中に潜るとあちこちで跳ね始めたリルは、どうやら照れているらしい。
そうして一通り礼を述べた“奥方”は、ライの側まで歩み寄り真っ直ぐな視線を向け自己紹介を始めた。
「改めて……私は
「私は親大陸……シウト国の者で、ライと言います」
「シウトの方でしたか……しかし、何故こんな場所に?」
「実は漂流して辿り着いたのがこの島でして……」
嘘は言っていないのだが、翔べる人間が漂流しているといっても信頼されないだろう。しかし、スズは疑う素振りも見せずに話を続けた。
「それは御苦労なされましたね……。それで……これから、どうなさるのですか?」
「特に決めていなかったんですが……皆さんを安全な場所に送り届けてからシウトに帰ろうかと考えています。しかし、この辺は
「はい……。実は、久遠国の近海の島に滞在する夫に緊急の用向きがあったのです。しかしその帰り、海賊と遭遇して船が……小舟で難を逃れた末、潮の流れに逆らえずこの近海まで流されてしまいました。それを別の海賊に見付かってしまいまして……」
「成る程……わかりました。少しでも早くお送りしましょう。ご家族の方も心配なさっているでしょうから」
「それは……大変ありがたい話ですが、本当に宜しいのですか?」
「ええ。でも、ディルナーチ大陸は鎖国してると聞いてますので、どこか適当な場所をお教え願えれば……」
変わらずライに視線を向けているスズ。ライは何やら観察されている気分だった……。
「失礼しました。………。もしご迷惑でなければ我が国……久遠国までおいで頂けないでしょうか?」
「えっ!!!」
あまりに突然の誘いは再びライを混乱させた。しかし、スズは平然と続ける。
「命の恩人に国まで送って頂くのです。その礼もしないのでは畜生にも劣るでしょう。是非とも御立ち寄り下さい」
「し、しかし奥方様……」
「お黙りなさい。ここで礼を尽くさぬのは我が一族の名折れ……あなたは家臣にも拘らず我が一族に泥を塗るつもりですか?」
「いいえ……そんなつもりは……」
「結構。では……ライ殿。お手間を取らせてしまいますが、宜しくお願い致します」
スズの凜とした態度にライは尊敬の念すら覚える程だった……。
「……わかりました。用意しますので少しお待ちを。師匠~」
樽に向かい呼び掛けると、中からひょっこりと顔を出した泥酔ニャンコ。近付いてみれば既に樽は空だった……。
「ひっく……何じゃい」
「くぅっ……酒臭い!このっ!」
メトラペトラを抱え海に飛び込みそのまま沈む。メトラペトラは暴れたが、構わず身体中を海水で濯いだ。
「プハッ!ニャにしやがるんじゃい!」
「今から久遠国に向かうのに酒臭いんじゃマズイんですよ!」
「へ?……何でそんな話になってんの?」
「………説明面倒だから記憶読んで下さい」
海に浮かんだまま互いの額を合わせたライとメトラペトラ。記憶を覗いたメトラペトラは何やら唸っている。
「どうしました、メトラ師匠?」
「むむむ……久遠国か……!ヒャッホーゥ!!」
「いいから!説明!」
「何……無くしたと言った酒は久遠国の物じゃ。手に入るかと思っての?」
「………なら、酒抜いて下さいよ。真面目にしないと追い出されちゃいますよ?」
「む?そうじゃな」
メトラペトラを放したライは、リルを呼び戻す。
「リル。ここに残りたいならお別になる。まあ、たまに遊びには来るけどどうする?」
「ライ!いっしょ!」
「一緒で良いのか?海から離れちゃうぞ?」
「リル、へいき!ライ、イヤか?」
「………わかった。行こう」
「お~!!」
ライはリルを肩に乗せて小舟まで戻った。スズだけは柔和な顔で出迎えたが、残りは皆警戒しているのが判る。
「お待たせしました。連れに説明していたもので……」
「いえ。お世話になるのですから当然です。お連れの方をご紹介頂けますか?」
「えぇ……と、こっちのネコはですね……」
「大聖霊メトラペトラじゃ!」
ライを遮り自己紹介を繰り出したメトラペトラは、実に尊大な態度でふんぞり返っている。
しかし……『大聖霊』の言葉に久遠国の者全てが反応を示す。
「だ、大聖霊ですか?し、四元の一柱の……?」
「そうじゃよ?三百年前、お主らの国の王とケンカ友達じゃったんじゃが知っとるかぇ?ホレ、紋章もこの通りじゃぞよ?」
額の紋章をスズに見せるメトラペトラ。確認したスズはやはり驚きの色を隠せない。
「そ、それは存じております!まさかご健在だったとは……ご無礼、大変失礼致しました!」
「まあ、気にするでない。そうそう……此奴はワシの弟子じゃ。一応、勇者じゃから安心するが良いぞよ」
「大聖霊様のお弟子様でしたか……どうりで……」
勝ち誇った顔でライを見るメトラペトラは生意気にウィンクまでしている。しかし、お陰で無用な警戒は解けた様だ。
「では、そちらの人魚さんは……」
「ん?ああ、海王じゃよ。正確にはその『半分』じゃがな……?」
「か、海王様!こんな南にいらっしゃるとは……ご無礼を致しました」
「気にするでない。其奴は子供と同じじゃ……格式ばっても伝わらん。ま、子供と同じ様に接してやることじゃな」
大聖霊と海王の威厳は伊達じゃない!とばかりに、久遠国の者達はメトラペトラとリルを崇めている。
「さて……それでは行くかの?」
「何卒、お願い致します」
「うむ!行け、ライよ!」
小舟の舳先に胡座をかきライに命ずるメトラペトラ。リルは、スズに大切そうに抱き抱えられ満足気だ。
ライは思った──『あれ?何かおかしくね?』と。
完全にモブ扱い……しかし、これも確かな現実である。やはり大聖霊と海王の威厳は計り知れないのだ。
ライはそんなモヤモヤした気持ちで舌打ちしながら、船を曳き久遠国を目指す。
その向かう先には、これまでの旅とはまた別の出会いと別れが待ち構えていることをライはまだ知らない……。
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