第二部 第二章 第二話 魔法修行


 トシューラ国秘密採石場の島が沈んでから四日が経過した。



 ライ達の乗る運搬船は現在、【親大陸】と呼ばれる『ペトランズ大陸』の最西端まであと二日という位置を漂っていた。

 この先順調ならば、カジーム国のある【死の大地】の岬を抜け、【海王】のいる魔の海域を進みトォン国まで辿り着けるだろう。


 勿論、順調ならば……ではあるが……。



 そして我らが変人……もとい『魔人勇者』は、運搬船の甲板にて魔法指導を受けている最中である。


「先ずは初歩からじゃ。ワシが使っていた魔法全般の特長を言ってみい?」

「え~っと……あ!そういや詠唱がなかったですね」

「うむ。正確には『詠唱がないと思うほど短い』訳じゃが、どういうことか分かるかぇ?」


 魔法の専門家どころか魔法が不得意だったライは今一つ理解が及ばない。考えすぎて表情が劇画風に渋くなっている……。


「わかった、わかった。『何故魔法には詠唱が必要か?』程度は理解しとるか?」

「え~……確か、『魔力を属性変化させる為の公式』じゃなかったですか?詠唱の前半は種類や展開方法、後半は規模の指定と威力……と何かで見たような気がします。詩っぽいので気付かない人もいるみたいですが」

「正解じゃ。一般の魔法は外界の力を操作してそのまま借りる訳ではなく、己の心の内界にて力を構築し外界魔力と融合するものなのじゃ。これは『世界改変』があった前と後でも変わらん。まぁ例外はあるがの?」

「例外ですか?」

「例えばじゃな……お主がやった樹木を生み出す力はフェルミナの持つ『概念』を借りて行使しておる。そして転移魔法は、この世界の場所と場所を『別の空間』を使って繋ぐ近道じゃ」


 大聖霊の力は正確には魔法ではなく『概念力』……なのだが、借り受ける側は魔力操作が必要なので魔法と同様の感覚と言って良いだろう。


 転移魔法は、自らの心の内界と外界の魔力を融合した時空間魔法を構築し、更にもう一度外界に干渉するもの……複雑な構成式が必要で通常の人間では理解することが不可能と言われていた。


 その為、昔の転移魔法の使い手も何かしらの媒介を使用していたという。その式に行き先を組み込むのが最も負担が少なく、かつ基本と言われている。今の世界に転移魔法が失われたことは、その媒介を造れる者が居なくなったことが大きいとメトラペトラは告げた。


 ベリドの様に単独で転移を可能にするには、高い魔力と『高度な魔法式を理解する知能』が必要になるという。因みにメトラペトラは大人数でなければ神具無しで転移が可能である。


「話を戻すぞよ?魔法の形を決める為の詠唱じゃが、詠唱せずとも属性を利用出来る技術がある。さて、何じゃ?」

「纏装……ですか?」

「うむ、正解じゃな。纏装……要は魔纏装。あれは自らの魔力をのみで変化させる技法じゃ。さて……そこでの?ちと顔を貸せ」

「顔?耳じゃなくて?」

「耳じゃなくて、じゃ」


 ライは先程引っ掛かれて酷い目に遭ったばかり……ビクビクしつつメトラペトラに顔を近付けた。

 肉球で顔を挟んだメトラペトラは、自らの額をライの額に当て一言告げる。


「ちいと気持ち悪くなると思うが我慢せいよ?」


 次の瞬間……ライの頭の中に大量の情報が一気に流れ込んだ。その圧倒的情報量はライの平衡感覚を激しく乱し脳の容量を圧迫。

 当然、限界に達したライは甲板の縁まで酔ったように這いずりそのまま海の中へ嘔吐を決めた。


「ウオォエェ~、ギモジワルイ~……」

「ニャハハハハ!まあ当然そうなるじゃろうの」


 酩酊を繰り返し胃が空になった『リバース勇者』。そのまま甲板で大の字に寝そべり落ち着くまで、悠に一刻は掛かった……。


 ようやく吐き気が落ち着いてきた頃、ライは手摺を伝いながらフラフラと立ち上がる。


「うぅ……。し、師匠……一体何を……」

「先ずは説明より実践かのぅ?《火球》を使ってみぃ」


 まだ頭痛もしているライであったが、取り敢えず従ってみることにした。一応、メトラペトラを師匠としては信頼しているのである。


 メトラペトラの指示通り下位火炎魔法 《火球》の詠唱を始めた瞬間、ライは直ぐに異変を理解した……。


 自らの口から出た言葉は聞いたことのない言葉……発声も発音も自覚がない程に短い。しかし、《火球》はちゃんと発動したのだ。


「な……なんですか、コレ……」

「フム……上手く行った様じゃな。今、お主の頭にあるのは『高速言語』じゃ」

「……こ、高速?」

「うむ。魔法王国の時代に編み出された魔法の為だけの言語……一言で幾つもの意味を持つ言語じゃが、量が膨大での?教えるには時間が掛かりすぎるから『植え付ける』ことにしたんじゃよ」


 上位魔術師ですら下位の火球魔法に五秒程の詠唱を要する。しかし、高速言語は秒どころか『一文字』と言って良い短さ……。実質、無詠唱と変わらない。


「これでお主が魔法で引けを取ることはあるまい。魔力を考えれば最上位魔法の連発すら可能じゃろう。が、これはまだ序の口じゃ。本番はこの先……もう一度 《火球》を唱えてみよ。但し、纏装を使った状態でじゃぞ?」


 言われたままに魔纏装を展開し『高速言語』で《火球》を海に向けて射出する。


「……普通じゃの」

「……普通、ですね」

「魔法を使うのに必要なのはイメージじゃ。簡単な下位魔法では威力の底上げに『高速言語』を足せば良い。しかし、効率を考えればもっと良い方法がある。その為の纏装じゃ」


 今度はメトラペトラ自身が宙に浮き魔纏装を展開する。ライと同様の衣一枚だ。


「お主はこの状態でただ《火球》を放った。だから普通な訳じゃが……良く見ておれよ?」


 メトラペトラはそのまま全身の魔纏装を圧縮し始める。その光は左前足に集まり始め、人差し指に当たる部分へ。そして更に伸ばしていた爪に凝縮された。その超圧縮の魔力にライは息を飲む……。


「凄い……」

「これでもお主の【火球】より魔力は少ないんじゃぞ?要は研鑽・工夫・発想じゃ。その結果がこれじゃ!」


 無詠唱とも思える『高速言語』を加え、海に向けて放たれる超圧縮火炎魔力。的にしたのは遥か先に見える巨大な岩礁だったのだが……熱線の閃光が迸った瞬間、的にした岩周辺をゴッソリと吹き飛ばした。微かにしか見えないが魔法の当たった部分は岩を溶かしているらしく、赤く変色している。


「…………」

「…………」

「……久々だからやり過ぎちゃった。テヘヘッ?」

「無茶苦茶だぁぁぁ~っ!!!」


 下位火炎魔法より少ない魔力でとんでもない破壊力。それは、改めて大聖霊の超越が際立った光景だった……。


「ま、まあ、今のは初歩じゃよ?連射も出来るし……」

「れ、連射?」

「うむ。この辺が出来るようになれば一つ段階を上げてやろう。因みにこの上は多重魔法。最終段階が神格魔法じゃ。さあ、練習あるのみじゃぞよ!」


 メトラペトラに急かされ練習を始めたライだが、先程の熱光線魔法の余波で波が高い。乗組員たる元トシューラ兵たちが船内で愚痴る声が聞こえてくる。


「くそっ……化け物め……」

「いや……アイツらは魔王に違いない。この船……沈むぞ?」

「俺達は贄だ……邪神への供物なんだ。ハハハ」


 すこぶる付きで評判が悪い勇者とニャンコ。考えてみればここ数日、デタラメコンビの訓練で不安を煽ることばかりだった……。


 しかし、我らが勇者は挫けない。例え評判が悪くへコもうとも努力を怠らない男……それがトラブル大魔……勇者なのだ。

 そもそも、これも採掘場で保留していた奴等への罰……と割り切り、いざ訓練再開!


「師匠。具体的に魔法は何属性でも練習すべきですよね?」

「うむ。じゃが先ずは考えることじゃ。高速言語の使い方こそが最短の道……結果、お主に適した【オリジナル魔法】に繋がる。お主の魔力は既に最高位魔法を幾らでも撃てるだけあるんじゃ。練習には事欠くまいて」

「わかりました」


 それから甲板に座り込み練習が始まった。試しに魔法を海に撃ち込み考察する、を繰り返す。半日かけて方向性を探り幾つかは定まった様だ。


「良いか?訓練に必要なのは純粋な魔法式の構築じゃぞ?この練習は単純に魔法の才を引き出す為のもの。魔法を知れば魔法剣も進化するからの?」

「はい!……ところで幾つかは決まったんですが……?」

「もう?は、早いのぅ……」

「いやぁ……何せ二年間も採掘場に居たもんだから空想だけはしてまして……。こんなのが便利かなぁ、とかね?で、早速試したら何とかモノになりそうなんですよ。メトラ師匠のお陰でいきなり『ほぼ無詠唱』で使えるのは想定外ですけど」

「……う、うむ。しかしお主は動じんな。願わずに【魔人化】したことも、普通ならへコむと思うんじゃがの?」


 どうやらライを気遣ってくれているらしいメトラペトラ。しかし、気を遣われた当人はあっけらかんとしている。


「ハハハ。いやぁ……自分が自分じゃなくなるならいざ知らず、心が変わらずに済むなら『便利かなぁ?』としか……。外見が変化して魔獣にでもなったら流石にへコみますけど、角くらいまでなら許容範囲ですよ?」

「……改めて思うが、お主は馬鹿じゃな?バベルもそうじゃったが、それ以上に思考が緩いわ」


 ライの判断基準は『迷惑じゃなければ問題なし』である。流石に見た目が魔獣化したらショックもあるだろうし周囲も心配するだろう。だが、人の姿のままなら問題無しなのだ。

 但し、船にいる元トシューラ兵達にとっては現在進行形で迷惑極まる存在。そこは痴れ者勇者さん……華麗にスルーである。



 という訳で昼食時を挟み、練習は試し撃ちの連続に移行する。何せ下位魔法程度ではほぼ尽きぬ魔力量……撃ちたい放題だった為、練習はかなり捗った。更には採掘場の悪列な環境で培われた集中力も加わり、殆どの魔法は形に成りつつあった。


「【魔人化】したのが大きいのじゃろうが、学習が早いのう……」

「そうですか?でも俺、地属性だけは使えないんですよね……」

「いや……使える筈じゃぞ?やってみぃ……と言いたいが、いきなりは無理かのぅ」


 使ったことの無い魔法……しかも使えないという観念が植え付けられていた為、一石一丁には感覚は掴むことは出来ない。

 メトラペトラは自ら地属性の魔纏装を展開しライに触れる。攻撃の意思が無いので触れても影響は無い。


「感覚はこれで掴めるじゃろう?纏装で構わんから真似てみぃ?」


 言われた通りに真似てみると、見事地属性纏装が成功した。少し感動しているが、適正の無い属性が何故使えたのかという疑問が浮かぶ。


「……何で?どういうこと?」

「お主は肝心なことを忘れておるよ。胸の紋章は魂の繋がりじゃ。当然、繋がりの相手の力を使えて当たり前なのじゃよ」


 ライの左胸にはフェルミナの紋章が、右胸にはメトラペトラの紋章がうっすらと浮かび上がっている。

 ライはフェルミナが普通に地属性魔法を使用していたことを思い出した。


「ん?ということはメトラ師匠の力も使えるんですか?」

「勿論じゃ。ただ、ワシとフェルミナでは契約の質が違う。ワシは隷属契約ではないからワシの負担になるような強制は出来んぞよ?」

「いや……そんな気はありませんけどね?そもそもフェルミナに対してもそんなことする気はありませんし」

「わかっとるわい。しかし、そういうものだと理解はしておくことじゃ。逆にワシらが弱った場合、お主から力を借りることも出来る……んじゃが、お主は力を開放しっぱなしじゃから関係ない気もするわ」


 メトラペトラの話ではライ自らも大聖霊側に力を与えられるとのこと。その魂の経路を調整することで互いの負担の増減が可能なのだという。

 しかし、ライの魂の経路は完全に無防備状態。大聖霊側が要求する分の力はそのまま持っていかれるとメトラペトラは忠告する。


「まあ、今はワシが調整してやれるから心配は要らんがの……どうやらフェルミナもほぼ回復したらしいぞよ?」


 それは思わぬ吉報だった……。


 ライは離れていてもフェルミナの疲弊が心配だったのだ。どうやらメトラペトラはライの魂の経路を通じてフェルミナの状態を察したらしい。


「そこで一つ、言っておかねばならぬことがある。どうやらワシら大聖霊にはまだ幾重もの封印が掛かっとるようじゃ」

「封印?ご先祖の仕業ですか?」

「まず間違いなかろうの。気付いたのは転移魔法を使った時じゃな。ワシらの魂に何かしおったと考えるべきじゃろう。具体的には全力の半分程しか力が出せん」


 それでも大聖霊の超越は改めて驚かされることばかり。全開なら一体どんな事態になるのか……ライは少し……いや、かなり心配になった。


 そこで更なる疑問が浮かんだ……。


「メトラ師匠の力って結局何なんですか?【熱】を司るって漠然としていて今一つわかりづらいんですが……」

「うむ。例えばじゃの?」


 そういうと前足の先に小さな炎を生み出すメトラペトラ。炎は宙に静止している。


『汝命あるものなり。我が眷属として意思を示せ』


 その言葉で炎は自由に動き出した。メトラペトラとライの周りを飛び回り二人の前で再び静止した。


「こ、これってフェルミナと同じじゃないんですか?それって【命】の分野なんじゃ……」

「ハッハッハ。まあの?実は大聖霊というのは、ほぼ同じ力の存在なんじゃよ。何せ神の力が分散したのが大聖霊じゃ」


 またとんでもない話が飛び出した……様だが、ライはもう慣れ始めていた。といっても、大聖霊達のことは詳しく知っておくべきだろう。


「つ、つまり力は皆、同じなんですか?」

「少し違うのぅ。ほぼ同じではあるが特化した部分がそれぞれにある、と言うべきかの?例えば命を司るというのはどういうことか分かるかぇ?」

「命を管理する、という訳ではないんですか?」


 メトラペトラは“チッチッ”と音を出して尻尾を振る。


「例えば命という概念を分類するならば“有る”か“無し”かじゃろ?それら全てに関与する、つまり万物に関与出来るんじゃよ」

「…………」

「な、なんじゃ、その遠い眼差し……うぉう!何故白眼に……!」


 つまり要約すると『何でもあり』ということになる。ライの少しばかりの逃避は仕方ない。


「……それだとメトラ師匠は【熱】の概念がある全てのものに干渉出来るって話ですか?」

「物分かりが良いの……。アムルテリアは物質全て、オズ・エンは時と空間全てじゃ。意思あるものの世界にそれらが存在しないなどということは先ず無いからの?実質全て干渉出来る。司るものに特化しているのは各々の【概念力】からじゃの」


 ライは考えるのを止めた……。やはり『迷惑じゃなければ何でも良し』と割り切ったのだ。

 どうせ考えたところで理解出来るものでもない。ならば考えるだけ時間の無駄と悟ったほうが楽になる……。


 という訳で、差し当たって論点を目の前の炎に移すことにした。


「ま、良いや……それで……」

「良いや、ってお主のぅ……」

「漠然とは理解したんで問題なしッスよ!どうせ全部理解できる頭無いし、感覚でわかれば」

「……………」

「それよりメトラ師匠。ソレ、どうすんですか?」


 生まれたての為か忙しなく動く『命ある炎』を指差す。メトラペトラはチラリと見やると前足を向ける。


「待った!メトラ師匠……消す気じゃないでしょうね?」

「ん?何か問題あるのかの?」

「……折角生まれたのに数分で消すとか酷いと思うんですが?」

「可哀相……?ワシが創った命じゃぞ?」

「う~……た、例えばですね?神様が大聖霊を消す、とか言ったら嫌じゃないですか?」

「それはそれで仕方あるまい?」


 どうも命の尊厳が甘い気がするメトラペトラ。大聖霊は皆こうなのだろうかとライは疑問に思った。いや……少なくともフェルミナは消滅を恐れていた。

 それは『命』を司るフェルミナだからこその感覚なのか……それとも単にメトラペトラが命への頓着が無いだけなのかは判らない。


 そこでライは、自分の率直な気持ちを伝えることにする……。


「メトラ師匠。俺はもし神様が『メトラ師匠を消す』と言い出したら戦いますよ。例え勝てなくてもね?」

「そんなことをしても意味は無かろう?何を突然……」

「意味はあるんですよ。神だろうが誰だろうが、俺の大切なものを奪うなら黙っているつもりはありません。必ず一矢でも報いてやります」

「…………勝てる訳なかろうが」

「勝てなくてもやりますよ。俺が嫌だから」

「……………」


 真剣そのものの視線。メトラペトラはその目を見つめ返す。この赤髪の人間はいい加減に見えて時折、芯を覗かせる。


 メトラペトラはこの時、初めて己の中に不思議な感情が湧き上がることを理解した。

 自分を大切だと言い切った若者……。もし逆の立場となり、この若者が神様に消されるとしたら納得出来るのだろうか?しかし、答えは出ない……ただ、無言ではいられない気がする。


 そんなメトラペトラは、昔フェルミナに言われたことを思い出していた……。


『メトラペトラ……命は尊いの。でも多分、心はもっと尊いと思う……私達はそれを知る必要があると思うの』


 メトラペトラはその言葉の意味が少しだけ理解出来た気がした。


 確かに失いたくないものはある様だ……と自嘲気味に笑うメトラペトラは素直ではない。気持ちの変化を素直に伝える訳もなく、誤魔化しながら答えた。


「フン……神は不在じゃ。仮定の話に興味は無いわ」

「………」

「じ、じゃが、折角命を与えたのに消すのも勿体無かろう。べ、別にお主の為じゃないんじゃからね?」


 ニャンコ大聖霊はツンデレさんだった……。


「メトラ師匠!」

「えぇい!ともかく練習あるのみじゃ!!」

「あの~……その前に一つお願いが……」

「何じゃい」


 ライの願いは『もう一つの命ある炎』を創りだすことだった。それと、少しだけ倫理を与えること……。


「まあ、良いわ。今さら一つでも二つでも変わらんからな。ホレ、これで二つじゃ」

「ありがとうございます。……。やっぱり世界で一人ぼっちってのは寂しいでしょ?」

「……。で、倫理はどうするんじゃ?」

「無暗に命を奪わないこと……ですかね。身を守る時は別ですけど」


 ライはそのまま二つの炎に向き合い語り掛ける……。


「言葉が理解できるかはわからないけど、生きる為以外で命を奪わないで欲しいんだ。それとあまり『人』には関わらない様に。人は危険だからね……それでも関わりたい場合は、エルフトにいる『ラジック』って人の所に行けば相手してくれる筈だよ」


 二つの炎はクルクルと回っている。それが返事なのかはライにはやはり判らない。


「大丈夫じゃ。理解はしておるよ。よし、お主らは自由じゃ!行けぃ!」


 炎が二つ、天高く昇って行く。炎はゆっくり漂いながら風に流されて去って行った。


「………。さて、魔法の訓練を続けるかの?」

「はい!」


 晴天の海を漂い魔法訓練を続ける二人。あの炎はやがて新種の魔物として人々に囁かれることになる……かもしれない。

 そうなれば勿論、ラジックは大喜びになるのは間違いない。



 その後、ライは日が沈むまで練習を続け圧縮火炎魔法を成功させる。


 だが……その日、船内の元トシューラ兵達はライと目を会わせようとはしなかったという……。




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