第五章 第三話 帰郷


 ライは再び馬を走らせる……。


 次の目的地は王都。エノフラハを出たライとフェルミナは新たな装備に身を包み颯爽と野を駆けた。

 ライの新たな装備である白い鎧はエルドナ社のもの同様に非常に軽く頑丈だ。兜は喋り辛いので人目に付かない場所では外している。


 フェルミナは、腕輪、髪止め、手袋に魔石を付けた。それらは全て自然回復力を高める効果を付与したものである。幾分でも回復の助けになる筈だ。


 フェルミナが完全回復すれば馬ではなく『転移魔法』に期待出来るかもしれない……ライはそれを少しだけ楽しみにしていた。

 実際、ディコンズからの移動にはかなりの時間を費やしている。急いでいる場合は馬鹿にならない。


 移動と言えば《身体強化》での爆走が出来なくなり掛かる時間が伸びるかと思われていたが、実際はそれ程の差は無かった。理由はライが血眼で練習している【纏装】である。


 自分とフェルミナを包んでいた【纏装】……それならばと馬を含めての展開を試してみた。すると脚力が上がると同時に負担が減るらしく、かなり移動速度が速くなった。


 勿論、纏装自体が不慣れな上に自分以外に展開することはライにとってはかなりの負担……一日の内に使えるのは僅かな時間になる。人より馬のが早いのは当然ではあるのだが、不慣れな【纏装】でそれだけの結果が出れば概ね成功と言えよう。


 この時、ライは一つの可能性を考えていた。それは竜鱗装甲に組み込まれた《身体強化》という魔法……。

 あれは【纏装】を魔法として定着させたものでは無いか?と推測を立てたのだ。


 しかし、それは正解半分である。


 【纏装】には種類がある。魔力を纏う【魔纏装】、生命力である氣を纏う【命纏装】、そしてその両方を纏う【覇王纏衣】。マリアンヌが明確に説明しなかった理由は、自らで感じ取って貰う為である。


 そしてマリアンヌの狙い通り、ライは【命纏装】を発動するのが困難な疲労になった場合【魔纏装】に切り換えて修練をしていた。それは後に【覇王纏衣】を修得する際に不可欠な修行でもある。


 ともかく《身体強化》は、【身体覚醒】という技に【命纏装】を合わせたエルドナ独自の魔法である。発動を魔法で固定してあるが、【纏装】の性質に近い為に重ねがけが可能というものなのだ。



 そんな詳細など知ることも無く【纏装】を必死に練習するライは、軽快に移動し上機嫌だった。



 だが……我等が勇者は、そんな中でも旅路を一気に駆け抜けるなどという蛮行はしない。休養と栄養補給の為、街を見掛ける毎にキッチリ立ち寄るのである。例え時間帯が早かろうとも、その日はとにかく宿屋に宿泊し温かい食事を堪能するのだ。


 時間が早れば限界まで【纏装】の訓練を続け少しでも日程を引き延ばす『往生際が悪い漢』ライ。街ごとに停泊するのは飽くまで訓練と休養の為であって、決して『王都に行くのが億劫だ』とか『時間を潰してる内に好転しないかな』とか『このまま旅に出ようと葛藤していた』とか言う理由ではないだろう……多分。


 そんな見苦しい引延し……もとい、不可欠な休養を挟んでも、エノフラハから王都ストラトまで五日と掛からなかった。ストラトが見えたときフェルミナの耳に溜め息と舌打ちが聞こえたのはきっと気のせいだろう。




 久々の故郷、ストラト──それは、ライにとっての始まりの地。たった一月半程離れていただけなのだが、とても懐かしい気がする。馬から下り感慨深く城砦の入り口を通ろうとしたその時……見張りの兵が声を掛けてきた。


「ん?お前、もしかしてライか?」

「え?マジか?おぉ……ホントだ。しかも女連れとか生意気な」


 ひと月振りに聞く懐かしい声……門番の衛兵・ペリークとエトガ。ライの子供の頃からずっと門番の二人組だ。


「お久しぶりで~す。それじゃ!」


 そそくさと通り抜けようとするライだったが、そこは出世と無縁の万年門番……人の都合など無視して引き留めに掛かる。


「ちょっと待て。お前旅に出てからまだひと月くらいだろ?何で戻って来てんの?」

「一応、ノルグーまで行ってきたんですよ。用があって戻って来たんです」

「嘘こけ。今のご時世、ここからノルグーまで徒歩でふた月は掛かるわ。さてはママのお乳恋しさに戻って来たのか?」

「ヒャァ~ッヒャッヒャッヒャッ!そうに違いねえぜ、エトガ!」

「そう思うだろ、ペリーク?」


 “カッツィ~ン”という音がライの頭の中に響き渡る。思い返せばこの二人、昔から悪い印象しかない。子供の食い物を奪ったり、意味もなく小突かれたりと衛兵であることが不思議な下衆だったのだ。


 笑顔は崩さないが、コイツらをどうしてやろうかというライの悪巧みが組み立てられて行く。これも国の浄化の一旦。という名目のささやかな復讐が始まる……。


「そうだ! 良いものを手に入れましたんですよ。ちょっとお耳を……」


 手招きをして内緒話を始めるライと門番達。耳打ちの為に顔が見えない程近い距離で、ライは悪魔の笑みを浮かべていた。


「実はですね?モテ薬を手に入れまして……」

「な、何!?」

「ほ、ホントか?」

「ええ。ただ非常~に希少な品で僅かしか手に入りませんでした……残り一人分です」


 ペリークとエトガは互いの視線を探っている。その顔は実に下卑ていた。


「そ、それでその薬の効果は?」


 顔を見られる前に悪魔の笑みを瞬時に引っ込めたライは、フェルミナに手を向ける。そう、フェルミナは超美少女である。 


「ご覧の通りです」


 この瞬間、ペリークとエトガの目は本気になった。長年の相棒を親の敵の様な目で見ている。実にペラい友情だ。


「お前、金貸してやってるだろ?チャラにしてやるから譲れ」

「あぁん?そんな金返してやるよ!それよりお前、当直何回も代わってやってるだろうが?お前こそ譲れ」


 その醜い友情を確認したライは満足げに二人の肩を叩く。


「強い者が全てを手に入れる!コレ、自然の摂理ネ!さあ、真のモテ男は誰だ!」


 この言葉で門番二人は互いに威嚇を始めた。幸い人の出入りはない。ライは念のため素早く二人の武器を取上げる。刃傷沙汰では流石に困る。


 そして遂に……門番達は殴り合いを始めた。ライはフェルミナの目を手で覆い隠した。


「ライさん。見えませんよ?」

「うん。あまりに醜いからフェルミナには見せたくないんだ」


 自分で煽っておきながら何たる言い種。流石はトラブル大魔王……。


 その後しばらく放置された門番二人は、完全に互角の泥仕合じみた戦いを続けた。既にヘロヘロのペリークとエトガ。そこへ魔王たる?勇者がふと囁く……。


「そういえば他にも欲しがってた人が居たっけなぁ……中々決まらないしティムに譲るかなぁ……」


 その言葉で“ギンッ”と目を見開いた門番二人。互いになけなしの体力を搾り出し渾身の一撃を放つ。見事なクロスカウンターは互いの醜い顔を更に醜く完成させた。


「実に!実に素晴しい戦いでした!!この薬をお二人に。半分でも効果は抜群の筈です。それぢゃ、また!」


 とても満足げな顔で去って行くライ。門番達は既に薬に意識が向いていて見送りもしない。


 しかし……彼らは気付いていない。ライは一言も『モテ薬を譲る』とは言っていないのだ。しかも『勝った者に』とも言っておらず、最後に渡した薬が何かも説明していない。ただ『効果は抜群だ』と述べただけである。


 そしてその薬とは……そう、かつてセトの宿屋でライを苦しめたあの強力精力剤【大人の夢】である。なんたる鬼畜勇者ぶりであろうか……。


 後に逆恨みされても今のライなら返り討ちに出来る自信がある故の悪魔の所業……もっとも、あの二人は門番ではなく牢屋番にして貰う様にキエロフに頼むつもりだ。それが国の為だと自己完結するライであった。



 そんなこんなと馬を公共厩舎に預けライとフェルミナはフェンリーヴ邸へと向かう。母の反応が少し気になるのだが、なるようにしかならないと覚悟を決めた。


「ただいま~」

「あら?ライ、久しぶりね」


 母・ローナの反応は素っ気なかった……。理由を聞いたところ、ティムから既に説明を受けていたらしい。


 それでもフェルミナに気付いた時は驚いた様で、その後何処か嬉しそうにしていたのは気のせいではないだろう。


「はじめまして、フェルミナと申します」


 流石に学習したらしく、『大聖霊』や『下僕』といった単語が出なかったのはライにとって大いに助かった。


「はじめまして。私はライの母、ローナよ。ゆっくりしていってね?」

「それなんだけど母さん。しばらくフェルミナをここに置いて貰えない?」

「それは構わないけど……」

「だって、城に連れていく訳にはいかないだろ?」


 これに不満を口にしたのはフェルミナである。置いていかれるのに抵抗があるのだろうが、こればかりは仕方がない。


「フェルミナ。今回俺は【勇者フォニック】として城に行かなくちゃならないんだ。フェルミナと一緒だと俺がフォニックだとバレちゃうだろ?」

「でも……」

「今回一緒だと今後この街じゃ一緒にいられなくなる。それは俺だって嫌なんだよ。もし何かあっても必ず迎えに来るから待っててくれないか?」

「………」

「大丈夫だよ。協議はまだ先だし、それまで普段は一緒にいられるんだから。事が終わればまた一緒にいるからさ?」


 それでも不満を隠せないフェルミナをローナが背後から抱き締める。


「その時は私と待っていましょう、フェルミナちゃん。ライはぐうたらだけど約束は破らないわ」

「……はい。ライさん、約束ですよ?」

「うん、約束だ。母さん、この娘はちょっと特殊な環境にいたから凄く寂しがりなんだ。頼むよ」


 事情は落ち着いた時に話そうと思ったが、考えて見れば母より遥かに歳上のフェルミナ。色々と内緒にしていた方が良さそうだ。


「今日は時間あるんでしょ?ご馳走作らなきゃね。フェルミナちゃん、手伝ってくれる?」

「わかりました」

「じゃあ、俺はティムの所に顔出して来るよ。すぐ戻れると思うから」


 面倒さに引延しをかけていたが、シウト国中から重鎮が集まる【円座協議】にはまだ時間的な余裕がある筈。色々と打ち合わせも含めた顔出しの為にライはティムの店へ足を運んだ。


 しかし……当のティムは余程忙しいのか店にも倉庫にも姿は無い。


(キエロフ大臣のトコか……?)


 諦めて自宅に引き返すと家の前に見慣れた人影がある。ライと同様の赤い髪。黒の鎧を身に纏い、長剣を腰に下げた男。


「父さん!」

「ん?おお!ライ!我が息子よ!今帰ったぞ!」


 フェンリーヴ家の主にしてシウト王国の雇われ勇者、ロイ・フェンリーヴ。遂に登場!


「で、何やってんの?そんな所で……」


 ロイは窓からコッソリと中を覗いている。その姿はまるでコソ泥の様だった……。

 家の主人なのに残念に見えるのはロイの持つオーラの賜物だろう。


「実はな?母さんを驚かそうとして中を窺ってたんだが、凄い美少女が居て入るに入れなくて……」

「いや……アンタ家主でしょ?堂々と入れば良いじゃん」

「馬鹿者!父さん、若い娘と何話せば良いのかわからないんだ……無視されたら泣いちゃうよ?」


 良い歳して馬鹿なことを言ってるロイ。ライは溜め息一つ吐いて首を振った。


「フェルミナはそんなことしないよ。良いから中に入りなって」

「フ、フェルミナちゃんて言うのか?何でお前が……」

「あ~もう、良いから中で話そうね?」


 街行く人の痛々しい視線に堪え兼ねたライは、父を無理矢理わが家の中に引摺り込む。驚いたのは母のローナである。


「あなた!いつ帰ってきたの?」

「つい先程、遠征から戻ったんだ。会いたかったよ、マイハニー!」


 抱き付こうとしているロイをフライパンで押し返すローナ。


「熱い!!母さん!熱いよ?」

「ごめんなさい!まだ冷めてなかったわ……」

「フッ……この熱さが母さんの思いの熱さなんだと思えば何と言うこともな……熱っつう!!何故、二度も!?」

「恥ずかしいでしょ、もう!人前なんだからね!」


 その時、ロイの視界にフェルミナが映った。物陰に半分隠れ食い入る様にじっと見ているフェルミナ……無垢な瞳に見つめられているロイはタジタジだった。


「は、はじめまして……フェルミナちゃん?我が家にようこそ。ロイと言います」


 懸命に引き攣った笑いを浮かべるロイ。その必死さにライとローナも笑いを堪えるのに必死だ。


「はじめまして。フェルミナと申します。ライさんにはお世話になってます」


 この言葉でロイは首だけを素早くライに向けた。固まった笑顔が中々に気持ち悪い……。


「どういうことかなぁ?ライ君?説明よろしくね?」

「説明も何も私はライさんの下僕ですよ?」


 油断大敵とはまさにこのこと……大聖霊様が嵐を巻き起こしたこの瞬間、ロイだけでなくローナまでライに詰め寄った。


「ちょっと、ライ!どういうことなの!!」

「そうだぞ、ライ!羨ま……この外道め!!」


 実の父に外道扱いされては流石に誤魔化す訳にも行かず、二人を宥めることに終始するライ。説明を始めたのは、ローナが用意したお茶を前に全員がテーブルを囲んでからである。


「……という訳なんだよ」

「………」

「………」


 怠け者の息子が旅に出た途端『はっちゃけた』訳だから、親としては耳を疑う話だろう。


「もし本当ならひと月ちょいでノルグーまで行って帰ってきたのか……信じられん」

「一応、証拠の品は幾つか有るよ?」


 テーブルに並んだのはラジックから手に入れた装備の品々と、シグマに貰ったエルフトの地図である。


「あとはコレ」


 ライはその場で【纏装】を展開した。ロイとローナは真面目な顔で頷いた。纏装は初心者に使える技ではない。


「それとディコンズに『シルヴィーネル』って名前のドラゴンがいて、話した鎧を貸してる。ああ……あと、共同厩舎にノルグー騎士団から借りた馬が預けてあるんだ。後で返さないとならないんだけど……」

「わかった、わかった。信じるよ。しかし、下僕ってのはなぁ……」

「……取り消せないんだから仕方ないじゃないか」


 ロイとローナは何やら相談を始めた。正直、悪い予感しかしない。


「フェルミナちゃん。契約って上書き出来ないの?」


 ローナの質問にしばし沈黙していたフェルミナは頷いた。


「可能です。ただ、上書きするならもっと強い契約にしなくてはなりませんけど。例えば性奴隷とか……」


 この言葉でライの両親は茶を盛大に吹き出した。その茶は全て向かいに座るライに浴びせかけられた。何故か隣に座るフェルミナには全くかかっていないという不思議……。


「ゴホッ!フ、フェルミナちゃん!そんなことを口にしちゃいけません!」

「だから言ったじゃないか、母さん……ちょっと特殊な環境にいたって」

「そういう問題じゃないわよ!分かりました……アンタがいない間、私が躾けます」


 やれやれと首を振ったライ。父・ロイは妙に気不味そうだ。美少女の口から『性奴隷』などという言葉が飛び出せば当然ではあるのだが……。


「その前に契約よ、契約!フェルミナちゃん。【婚約】に変更出来ないの?」

「婚約だと解除が可能なので弱いです。上書きは無理です」

「じゃあ結婚は?」

「ちょっと、ちょっと!母さん、何勝手に……」

「アンタは黙ってて!どうなのフェルミナちゃん?」


 フェルミナはしばしの沈黙の後、ゆっくりと答える。その表情は変わらないが顔が少し赤い気がする。


「可能です。でも……」

「でも……?」

「……人と大聖霊との婚姻は前例がありません。ライさん自身が人で無くなるかも知れませんので、お勧めは出来ません」


 少し残念そうなフェルミナ。ロイとローナはがっくりと肩を落とす。


「つまりライが『大聖霊』の仲間入りになるか、人外になるってことかな?」

「現状の世界管理者がどう判断するかが大きいです。神の眷属になるか、大聖霊に変わるか、人の身でありながら全くの別種になるかはなんとも……」

「因みにライが大聖霊になると何を司ることになるのかしら?」

「多分、運を司る大聖霊になるかと思います。ライさんの運はかなり強いみたいですから」


 婚姻はどの道人外になるのは確定……当然、両親は無理強いは出来ない。盛大な溜め息が漏れるばかりである。


「俺は契約はともかくフェルミナを下僕と思ったことは一度も無いよ。これから先も一緒にいたいと思ってるし、考える時間はまだまだある。だから気長に考えれば良いとも思っている。ま、別に人で無くても俺は俺だろうし」


 相変わらずの楽観。これぞライの真骨頂である。迷惑じゃなければ何でもごされ、なのだ。


「まあ、アンタがそれで良いならねぇ……でも教育はさせて貰うわよ?」

「それは、寧ろお願いします……今まで何度苦労したことか」


 当のフェルミナは首を傾げているが、どこか満足そうだった。


 とその時、絞り出すような奇っ怪な音が響き渡る。音の発生元はロイの胃袋だ。


「母さん……取り敢えず飯にしないか?」

「ああ!ごめんなさい!今、用意しますから。フェルミナちゃん、手伝ってくれる?」

「わかりました」


 二人が台所に向かうのを確認して、父ロイはライに耳打ちを始めた。


「それで、お前の話に出た国王の件だが……」

「うん。それは食事の後で説明するよ。出来ればティムもいた方が説明は楽なんだけどね」

「ん?ティム君ならホラ……」


 ロイの指した窓にはベッタリと張り付いているティムの姿が……。


「うぉう!気っ持ち悪ぅい!」


 ライ達の視線を確認したティムは、窓から離れ気安く家に上がり込んだ。幼馴染みであるが故にライの家族も慣れたものである。


「おじさん。お久しぶりです」

「ティムくん。しばらく見ない内にまた恰幅良くなって……」

「ハハハ。そういや、ライ。お前、早速やらかしたな?」

「ん?何の話だ……?」

「門番のことだよ。アイツら今、謹慎中だぜ?」


 門番二人を放置したままだったことを思い出したライ。しかし、正直どうでも良いとしか思っていない。


「門番?そう言えば私が帰ってきた時、城門には妙に腰を引いたペリークとエトガが居たな……何かやったのか、ライ?」

「別っつにぃ?ところで何で謹慎に?」

「何でも貴族令嬢を血走った目で見ていたらしくてな。ほら……今、円座協議で元老院が集まってるだろ?その家族の不興を買ったらしい」


(……。ま、後でキエロフ大臣に言えば大丈夫だろう)


「それよりティム。今後の話だけど……」

「ああ。それは明日にしようぜ?おじさんもしばらく滞在するんでしょう?手伝って貰いますよ」

「わかった。それより夕飯を一緒にどうだい?」

「いえ……今日は帰ります。確認に来ただけですから」


 流石のティムも今回ばかりは断りを入れた。家族水入らず……と言ってもフェルミナもいるのだが、今日くらいは邪魔をしたくなかったのだろう。

 結局、明日ティムの店の倉庫に集まり相談する約束して去っていった。


 それからは久しぶりの家族団欒だった……。

 何せ父ロイはあまり家にいない。積もる話もあるのだろう。というよりロイは家族と離れるのが辛いらしく、帰る度にひたすら喋りまくるのだ。


 そうしてフェンリーヴ家の夜は更けてゆく。


 就寝時。ローナとフェルミナが一緒に寝ることに決まった為、ライの耳にはシクシクと啜り泣くロイの声が一晩中聞こえたという。


 そんなライが久々の寝不足となったのは言うまでもない……。




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