第三章 第六話 友との再会


 エルフトでの訓練は数日経過し七日目になっていた。当初の予定では本日が期限である。


 しかし、ライはまだ訓練初級。せめて初級編をクリア出来るまで粘るつもりだったのだが……。


「お見事です。次はいよいよ初級編、最終段階【強敵と書いて“とも”と呼ぶ】に移行します」



 見事、訓練は最後の段階に進もうとしていた。



 素手の訓練から三日が経過した今朝方……マリアンヌと素手による手合わせを行ったのだが、反撃を防ぎ、あまつさえカウンターまで当りかけたのだ。


「もしかするとライ様は格闘型の適性が高いのかも知れません」

「そ、そうなんですか?でも勇者なのに剣じゃないのは何か悲しい気がしますが……」

「いいえ。勇者の戦い方は様々です。剣以外にも槍や斧、弓などの勇者も確認されています。少数ですが格闘型の勇者も存在します」


 かつて旅立つ際、ライは斧を武器に戦うことを拒んだのを思い出した。心の中で『斧の勇者さん、ごめんなさい』と謝ったのはライだけの秘密である。


「格闘型の難点は装備の品揃えの少ないことです。しかし、その点はラジック様に依頼すれば解決するでしょう。後で私からお伝えしておきます」

「はい!ありがとうございます、マリー先生!」


 いつの間にか愛称で呼ばれ始めたマリアンヌ。顔を空に向け小さくガッツポーズをして奮えているのだが、ライは気付かない。


「それと格闘型の打撃では効果の弱い相手も存在しますので、今後は剣と格闘型の両方を伸ばしていくのが理想的でしょう。今後はそれも踏まえた訓練と致します」


 最終段階と言うだけあって訓練は苛酷なものとなる。今までと違いマリアンヌからの先制攻撃が加わるのだ。加減されるとはいえ、より実戦的形式となる。


「これを越えれば仮に魔王軍幹部と対峙しても即死しない筈です。そして、初級編終了と共に私から技を一つ伝授致します。基本技ですが全ての技の基になる強力な技ですのでお役に立てる筈です」

「わかりました。お願いします!」



 そして今までで最も厳しい訓練が始まった。



 前日までの訓練と圧倒的に違うのは運動量だった。常に動き続けていなければマリアンヌからの容赦ない攻撃がライを襲うのだ。更に自らも攻撃をしなければ訓練に意味がなく、必然的に疲弊は激しくなる。

 当然、ライはまた直ぐにボロ雑巾と化した。加減されてはいても打撃を受ければダメージが蓄積する。もし本物の武器の斬撃であれば命を落としていただろう。


 それまでの訓練と一線を画す難易度。それを巧く誘導するマリアンヌ。徐々に腕を上げてはいるが、先の訓練の様には容易でないことはライも理解していた。


 今までは基礎中の基礎を学んだだけ……結局、丸一日使って防戦一方が関の山だった。


 そして夕刻──訓練後、疲れ果てたライは大地に寝転がり天を仰いでいる。そんな顔を視界の上方からヒョイと覗き込んだ人物がいた。


「よっ!元気か?……ってボロボロじゃねぇか、ライ?」

「ティム!」


 親友との再会……ライは嬉しさのあまり勢いよく身体を起こす。が、二人は互いの額を激突させ痛みでのたうち回っている。実にお約束である。


「っ痛てぇ!……ッハ、ハハハハ!」

「なに笑ってんだよ!痛ぇよ!……ップ!アッハッハ!」


 故郷を旅立ちまだ一月ひとつきは経っていないのだが、酷く懐かしく感じる。ティムとの再会はライの疲労を吹き飛ばした。


「で、わざわざ呼びつけたんだ。詳しく説明しろよ?」


 ライの手紙にはただ数行、簡単な文章しかなかったのだ。


『お前に頼みがある。大至急エルフトの道具屋、シグマの店に来てくれ。【ライ】』


 シグマの手配で馬車を用意したとはいえ、手抜きにも程があった。しかしティムはやって来た。親友なればこそのやり取りである。


「わかってるよ。……とその前に飯食ったか、ティム?」

「いや、お前と食おうかと思ってまだだけど……」


 ニヤリと笑ったライは、ティムをラジックの家に案内した。


 呼びつけた手前、ティムの旅の疲れを風呂で癒して貰う。その後、ライが風呂を上がると丁度マリアンヌが食事を用意してくれていた。


「美味ぇ!何だ?ここは高級料亭か?」

「そうだろ?凄いんだぜ、マリー先生は?」

「先生?そういや訓練中って聞いたな。その先生が作ったのか?」

「そうだよ。あ、そういや紹介がまだだったな。旅の仲間のフェルミナと師匠のマリー先生だ」


 呼ばれてやって来たマリアンヌとフェルミナ。フェルミナはマリアンヌの後ろに隠れて顔を出している。


「こちらの仮面をつけているのがマリー先生……マリアンヌさん。後ろに隠れているのがフェルミナだ」

「はじめまして。マリアンヌです。メイド兼訓練の指導をさせて頂いています」

「は、はじめまして。フェルミナです。ライさんの下僕です」


 ティムは盛大に噎せた。無理もない。フェルミナがサラッと爆弾発言したことはティムの理解の範疇外のことである。視線をライに向けるとテーブルに崩れるように突っ伏していた。


 ティムは改めて二人を確認する。下僕を自称した白金髪の美少女と、仮面を着けた銀色の肌のメイド。実にツッコミどころの多い顔ぶれだ。


 しかし商人の血がそうさせるのか、はたまた痴れ者ライの友人故か、ティムは表面上全く動じていない。


「はじめまして。ティム・ノートンと申します。ライの幼なじみで商人をやってますが……うぉい、ライ!まず経緯を説明しろよ!」


 取り敢えず食事を再開しティムにこれまでの旅を説明した。するとティムは呆れたように笑った。


「たった一月足らずで濃厚な旅なことで……。なんか運だけで突っ走っているよな、お前……」


 ライから説明を受ける前は、経過日数から『ようやくエルフトに着いた』のだと思っていたティム。ところが最東の街ノルグーまで行き、全ての街に停泊しながら引き返していると聞いて苦笑いするしかない。


「で、その鎧ってのは?」

「ああ、それなら研究室でラジックさんが……あれ?マリー先生。ラジックさんは?」


 今日はラジックを見ていないことを思い出したライ。マリアンヌの答えは予想通りのものだった。


「解析に夢中で食事もしていなかったので、無理矢理栄養補給をさせて来ました。今も鎧の解析中です」

「だそうだ」

「この家、その人の家なんだよな?大丈夫なのか?」

「いいえ。この家の主はライ様です。ラジック様は鎧の研究が出来るなら全て譲渡すると発言しています」


 ライは固まった。ティムと視線が合うと実に生暖かい目をしている。


「ちょっ……そ、その話はいつ決まったんですか、マリー先生?」

「あの日、私が決めました。ラジック様は居候です」

「マリー先生~!?」


 いつの間にか家主にされていたライはワナワナと震えマリアンヌの肩を掴もうとした。しかし、マリアンヌはその華麗な動きで回避……そそくさと出て行ってしまった。ライはそのまま固まっている。


「うん……相変わらずで安心したぜ、親友!それでこそだ!」


 基本、ライは巻き込まれ型である。マーナの『覗き冤罪事件』もそうだが、誰かの意図に巻き込まれる場合が多い。何を隠そう、ティム自身がライを巻き込んでいる場合が多いのだ。盗賊と対峙した『薬草商売事件』もその一つである。


 そしてフェルミナの件も巻き込まれた部類かも知れない……。


「それにしてもフェルミナ、さん?ちゃん?大聖霊?こんな美少女を下僕とか……」


 視線をライに向け、鼻で笑うティム。心の友の口からライへ贈られる言葉はこうだ!


「羨まし……鬼畜!」

「ぐふっ!」


 崩れ落ちるライをティムは更に攻め立てる。


「マーナちゃんが知ったら大変だろうなぁ……」

「ごふぁっ!」

「ローナさん、泣くんだろうなぁ……」

「ひぶっ!」

「もう故郷には肩身が狭くて帰れないかもなぁ……」

「やべでっ!」


 ライの精神力はもうゼロに近い。ヘロヘロになったその姿に満足したのか、ティム項垂れるライの肩を優しく叩き囁いた……。


「黙っていて欲しくば有り金全部よこしな!」

「鬼畜はお前だ!!」


 久々に馬鹿なやり取りを堪能したライとティム。ようやく真面目な話を始めたのはシグマの元に向かってからである。

 シグマはライとティムを迎え入れ茶を用意してくれた。ティムとシグマは商人同士として挨拶がてらの世間話を行っている。


 因みにフェルミナはお留守番である。マリアンヌの状態を確認するとのことだった。


「それで本題ですが……」


 シグマは以前ライに聞かせた話をティムにも伝える。南の大国トシューラでの魔王軍と勇者フォニックの衝突、拮抗による軍事作戦長期化、それに伴う物資不足。更にトシューラ支援によるシウト側の物資不安と原料高騰。将来的な資源危機の恐れまで、あらゆる可能性を語る。


「魔王軍の話は私の耳にも入っています。しかし、実はその情報と別の情報も密かに入手しています」

「別の情報、とは?」


 シグマはティムの言葉を待った。若い商人と侮っていたが、中々に食えない人物と感じ取った様だ。決して恰幅の良さがそう思わせた訳ではない……筈。


「実はトシューラでの魔王軍と勇者フォニックの衝突自体が嘘、という情報があります。シグマ殿……シウトの支援物資が何処に流れているか御存知ですか?」

「確か……国境でトシューラの代表が受け取り、各領主達に分配していると……」

「そうです。しかしそれは戦場に届いていない。分配した領主から流れた先……いや、集められた先はトシューラ王都です。そして更に、トシューラから他国の紛争地へ」


「ま、まさか……!?」


 シグマの驚きにティムは不快そうに頷いた。


「トシューラがやっているのは支援物資の横流しです。タダで手に入れた物資を他国に支援として流す。見返りは国家間の取引でしょうね」

「ティム……それってつまり、シウト国の上前跳ねて他国に恩売りしてるってことか?」

「ああ。それともう一つ。ライ、知ってるか?勇者フォニックは個人名じゃないんだぜ?」


 ティムは一口茶を啜ると溜め息を吐いた。話の内容とは対照的に実に落ち着いている。


「フォニックってのは傭兵団なんだよ。魔物から救った代わりに金品を巻き上げる盗賊紛いの傭兵部隊。エラく強いらしいがな」

「……そんな奴らが何で『三大勇者』扱いされてるんだ?」

「そもそも『三大勇者』って括りの出所はトシューラ国だ。フォニックの悪評を広げない為、他の勇者を利用したのさ」


 それはつまり、ライの妹マーナも利用されたことになる。ライからすれば不快極まるだろう。


「中々に腹立つ話だな。何でそんな国に支援してんだよ……」

「一応、同盟国ってのもあるんだが……ん~、ケチ王の件覚えてるか?」

「ケチ王……ってまさか?」

「ご明察。ケチ王が貢いでた他国の貴族ってのがトシューラの貴族だ。所謂ハニートラップの一種だな。魔王軍をでっち上げて懇願されたらしく、王の権限で支援を決めちまったらしいんだ。キエロフ大臣は最後まで慎重を主張したらしいんだがな……」


 愛国に目覚めたキエロフは自国の流通不安もある為反対したのだという。しかし、王の持つ他国交流権限で支援は決定してしまった。


「キエロフ大臣、物凄い変わったぜ?自国民の為には出費を惜しまないし、外交や軍事にも妥協しなくなった。その上、自分の報酬までかなり下げたんだ。ただ……無能な王が直らない」

「そうか……もうエロ大臣なんて言えないな。それにしても……何とか出来ないのか、ティム?」


 無能な王の為に国の資源が垂れ流される……それは国民としては苦痛でしかない。しかも長い目で見れば、シウト国はいずれ疲弊してしまう可能性もある。由々しき事態だ。


「相手が相手だからな……策は今、シウトの商人達も思案中だ。ただ流れた資源はもう戻らないし、どうあっても資源補充が必要だろ?先ずはそっちの算段を決めようぜ」


 こうしてライの提案していた『回復の湖水』の流通に話が移る。


「まず、キエロフ大臣には話を通した方が良いだろう。いざという時、国が流通を主導した方が混乱が少ないし手配も早い。ただ、普段は俺達だけで商品を動かしておかないと他国に気付かれる。そこにアホな王や元老院がしゃしゃり出てくると台無しになるからな。その辺は俺が大臣と打ち合わせするよ。ライは大臣に面会出来るよう一筆書いてくれ。その方が話が通し易い」

「わかった」

「流通はシグマ殿の店の商品として行う。エルフトの新開発魔法薬ってことなら疑う輩もいないだろうからな。利益配分は全ての合計諸費用を抜いた純利益の三分の二を等分する。三分の一は積立てにして後で流通組織化の資金に。構成はシグマ殿、俺、ライ、シグマ殿の兄でノルグーの道具屋ロブ殿、バーユ殿、キエロフ大臣、ノルグー騎士団ないしノルグー卿。ただ、確定する前に素性調査はさせて貰います。よろしいですか、シグマ殿?」

「ええ。但し、私も独自に素性調査をさせて頂きますが?」

「勿論です。国の不安を取り除くのが目的ではありますが、これは飽くまで商売。寧ろ手放しで任せるような方にはご遠慮願うところでしたよ」


 そこでライが一言加える。商売など全くわからない立場。『手放しで任せた』帳本人の自分に等分の利益は過分に感じたのだろう。


「俺は商売出来ないぞ?大体、全部投げっぱなしにするからお前を呼んだのに利益とか……」

「アホタレ!元締めはお前みたいなものじゃねぇか。全員、お前絡みの人選だぞ?湖水だって本当は独占出来たんだ。寧ろ安いくらいだよ。貰っとけ」


 確かにライが元になる流れではあるが、その辺は運の要素ばかりである。湖に関して言えば埋めようとしていた位だ。“まぁ、貰えるなら貰っておくか”………ライはその程度にしか考えていないのだ。

 ふとシグマを見ると笑顔で頷いていた。


「それと、ラジックって人に湖水の研究頼めたらやってもらった方が良いな。湖水にも限りはあるだろうしな。あと騎士団だが……これはノルグー卿に相談した方が良いかも知れない。ノルグー領主は名主と聞いている。湖水の管理にノルグーの騎士の数を割いて貰うにも対策が必要だろう?ノルグー卿との折衝はキエロフ大臣に任せようと思う」


 次々に適切な取り決めをするティム。シグマも納得している様で、更に細かい打ち合わせは体制が確立してからということになった。


「さて……ここからが最大の問題だ。水を足しても桶の水が漏れっぱなしなんだが、ライならどうする?」

「補修出来れば補修、ダメなら交換だよな、普通?」

「正解。と言う訳で、ダメな王は交換といこうか?害悪な輩にはお引き取り願おうのが一番。勿論、穏便にな?」


 ティムの話では既に王の愚行は証拠が山程あるらしい。幸いシウト国の王妃と王女は良識ある人物なので、ケルビアム王を引退させさえすれば事態は好転するだろうとのこと。

 しかし、引退に追い込むには元老院を納得させねばならないのだ。


 王女はまだ若く経験が浅い為に王位に推すことは難しい。王妃の後ろ楯があっても『王の空席』を支持する元老院議員はいない可能性が高いとティムは推論付けた。


「王の散財の『おこぼれ』を貰っていた元老院議員もいるんだ。これも証拠はある。だけど、元老院の再任選挙は時間が掛かるからな。なら女王を担ぐ方向が一番安泰だと思わせれば良いのさ」


 そんな難題をティムは事も無げに言ってのけた。


「ティム。それって婚約とかか?王女って確か……」


 シウト国王女・クローディアはまだ十三になったばかりである。婚姻は早いが婚約ならば無理ではない。


「いや、婚姻も婚約も要らないぜ?元老院が納得する人物が【後見人】になればクローディア王女に御輿に乗って貰える。それからトシューラへの支援の内情をバラせば、責任上として王は退位せざるを得ない。シウト王妃は話のわかる方だそうだから後見人は口裏合せだけでも良い」

「簡単に言ってるけど、その【納得出来る後見人】ってのは何処にいるんだ?」

「誰でも良いんだよ。どうせ顔は隠して貰うんだから……」

「?」


 ライとシグマが互いの顔を見るとやはり困惑の色が浮かんでいた。その様子にティムは明らかに何か企んだ顔で笑う。


「勇者フォニックの顔は誰も知らない。何せ存在しないんだからな。なら、顔が知られていない理由が『仮面を着けているから』でも良いだろ?」


 この言葉でシグマはティムの企みを理解した様だった。ティムへの視線は賞賛と畏怖の混ざった複雑な色を浮かべている。


「つまり当事者の『本物のフォニック』がトシューラを『偽のフォニック』として悪事を暴露する、という筋書きですか……誰も顔を知らないことを逆に利用するとは、いやはや豪胆なことですな……。確かに地位も知名度も十分な人物です」

「奴等の捏造したモノを利用するのか……ハハハ、これ以上ない意趣返しだな」

「だろ?これでもしシウト国にいるフォニックを『偽物』と断言するヤツがいれば、それはトシューラの息が掛かった……つまり国賊って訳だ。ネズミの炙り出しも出来る」


 ティムの話は理解出来たが一つ問題があった。誰が仮面を被るのか、である。


「そこはホラ、お前の演技力で……」

「いや、俺はドラゴンに会いに行かなきゃならないんだが……」

「は?何の話だ?ドラゴンって?」


 ディコンズのドラゴンの話はティムも知っていたが、ライが騎士団との待ち合わせをして対話に行く件は初耳である。


「……俺の知るライはそんな行動派じゃなかったんだけどなぁ?」

「うん……あのね?多分、鎧の性能で舞い上がってたんだと思うんだ……」


 今、思い出しても恥ずかしい。あの台詞……。


『次の目的地はそこにするかな』


 さぞドヤ顔だったのではないか……そんな疑問に、ライは恥ずかしさで顔を覆っている。耳まで真っ赤だ。


「わかった、わかった。とにかく約束なら仕方ないな。ってか、どうせならそれも『本当のフォニック』の手柄にしちまえ。シウト国内での手柄があれば信憑性が上がるだろ?」

「はい……ガ、ガンバります」


 その日、ティムとシグマは遅くまで打ち合わせをしていた様だがライは訓練の疲れもありラジック邸……もといライの家に戻り休息を取ることにした。


 翌朝早く、ティムはライの元に訪れる。


「さて、それじゃ俺は先に王都に戻るぜ。お前のお陰でやること山積みだし、大臣とも打ち合わせしなくちゃならんからな?」

「ん?もしティムを頼らなかったら納得したのか?」

「馬鹿言え!お前が俺を外す訳がないだろ?こんな商人冥利に尽きる話なら尚更な?」


 互いの拳を軽く合せた後、腕を交差させる二人。


「ま、気を付けてな?ストラトで待ってるぜ?」

「ああ、お前も気を付けてな」


 再びの親友との別れだが今回は比較的早く再会予定である。惜しむ必要は無い。互いにそれを理解していた。


 親友ティムは、体格に似合わぬ小走りで腹を揺らしながら何度も振り返り去って行った。その姿に『少し痩せろよ』とライが呟いたことは言うまでもない……。



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