5 面影のなかのキミ
十年という月日は、ぼくをあの頃より少しだけ大人にした。ただそれは、ぼくの辿る線をぼく自身がある程度コントロールできるようになったということくらいで、それは決して、ぼくの人生を豊かにしているというわけでもなかった。
あの日、暗い文だと思って読んだあの言葉。あれは決して、ただの憂鬱な内容ではないと気づいたのは、つい最近だ。
ぼくらは、ぼくらが辿る線が何処へ繋がっているのか、分からないからこそ日々を往けるのであって、分かりきった線を歩くことに歓びを覚えるのは、多分に難しい。線を歩き慣れてしまったぼくは、代わりになにかを落としてしまった気もする。
その線上で、キミの面影を写真に見つけた。二度と会うこともないキミ。見るのさえ怖かったあの日のキミを、十年越しに確認する。
はにかんだキミの目は、光の加減かうっすらと光り、気のせいか、泣いているようだった。
その涙の理由に覚えがないぼくは、やっぱりキミにとって、線外にいる背景の一人でしかなく。その涙を流させたのも、そして拭いたのも、きっとその線上に交わる、誰かだったのかもしれない。
そのことに淋しさを覚えるには、十年という時間は長く、なんの感慨も覚えないには短すぎて。ただぼくは、二度と出会わないキミが、相変わらずに分厚い本を読んでれば良いとだけ願い、写真を薄いアルバムにそっと仕舞い込んだ。
ぼくの世界にいないキミ 綾坂キョウ @Ayasakakyo
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