第九話 流れるマグマと汗
わたし達は福田さんの宿を後にすると小さな和食屋さんに入った。
「あら、珍しいお客さんね」
にっこりと笑みを浮かべて出迎えてくれたのは可愛らしいおばあさんだ。長年ここで働いているのであろう。
「どうも、三人ですかいいですか?」
「もちろん。来てくれてうれしいわ。最近全くお客さんが来なくなっちゃったからね」
「でもすごくいいところですよ。この温泉街」
「そうなんだけどね、なんだか最近地震みたいに揺れてるみたいで。まあごゆっくりしてくださいな」
メニューにはそばやうどん、てんぷらなど様々な和食が書かれている。
こういうお店のカレーも少々気になってしまうが二人はどうするのだろうか。
「お二人は何にします?」
「うーん、カレーが気になっちゃうところだけど魚定食っていうのも気になっちゃうなぁ」
「俺はてんぷらそばかな。まった、温泉卵も気になるな」
二人も悩んでいる様子。
うーん、やっぱりそば? いや、それともな…。
優柔不断な性格を悔やみながらもやっと注文を決める。
「よし、俺は魚定食。ゆうっちは?」
「えっと、鴨南蛮そばにします」
「えんちゃんは?」
「俺はてんぷらそばで」
注文をするとひそひそと先ほどのことの続きを話し始める。
特に近くに人がいるわけでもないけれどなぜか声が小さくなってしまう。
「さっきは自信満々に解決するって言ってたけど大丈夫?」
「まあ大体は見当がついたというか」
その言葉に二人は興味津々で前のめりになる。
二人はものすごく真剣な表情だが、古代都市が関係あるなんて言ったら――。
仕方がないので話すことにした。
まあ秘密を隠して仕事はしたくないしね。
「驚かないで聞いてくれますか?」
「もちろん、とは断言できないけどどうぞ」
ふぅーっと息を吐く。
あの研究していた時の激しい動悸を思い出してしまいそうになった。
発見してはいけないものをこの目で見てしまったときのあの恐怖心を。
落ち着かなきゃ。
「私、実は大学時代は火山の研究をしていました。終利世山のことも。その時ある珍しい写真を教授に貸してもらったんです。それが終利世山の上空写真でした」
「へぇ、どんなの?」
長谷川さんは目を輝かせている。
「もう処分してしまったんですがマグマの様子を上から撮ったものでした。そこに明らかにおかしい影が映っていたんです」
「面白そうだ」
遠藤さんは熱いお茶を手に取り、こちらに鋭い視線を向ける。
私は再び激しい動悸に襲われる。
やばい。
「どうした? ゆうっち」
「す、すいません」
心配そうに長谷川さんは言う。
これ以上心配をかけないためにも早く言ったほうがよさそうだ。
「あのマグマの下には巨大な、古代都市があるんです」
「古代都市? 気になるなぁ」
「え、冗談だろとか思わないんですか」
意外な反応だった。
科学館で働いている人たちだしきっと笑うと思っていたのに。
「だってその落ち着きのなさはジョークを言うような顔ではないでしょ」
「詳しく聞きたいな、戻ってからみんなを集めて」
「わかりました。詳しく言うと私が発見したのは一部の古代遺跡だけなのですがその奥にも絶対に何かがある。そして、そんな技術が昔にあったとすれば――」
「大変な騒ぎになるな。そしてゆうっちはその技術を使った何に恐れてるの?」
「兵器に扱われることです。そして、この穏やかな街がなくなってしまうこと」
「一人で考え込まないでいいんだよ。ただの探偵じゃなくて科学探偵としてのチームなんだからね」
「ありがとうございます」
打ち明けた後の鴨南蛮はおいしかった。
これは仕事疲れがひどそうだなぁと考えながらも来た道を戻る。
こんなに良い街を変な商売人や科学者で埋め尽くされたらたまったもんではない。
「とりあえず“館長以外”を集めて話し合いだな」
「“館長以外”、ですか」
いったい何が待っているのか。
まったくわからないんだけどなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます