第七話 温泉街は賑やかで

「あの温泉街は確かにぎやかでいいところでしたよね」

「ああ、科学館から二時間半ぐらいの街だけど観光客も最近までは多かったそうだ。それに温泉街の中の桜が名物でな、ほんとだったら今頃は渋滞で俺らなんか二倍の時間をかけていくことになってたかもしれない。」

「そうですか。でも、“まで”ってことは……」

「ああ、異変から客足が一気に減ってしまったそうだからな」


 得体のしれない異変が起こったというのなら不気味がるのは仕方がないことだ。

 だが温泉街が寂しくなってしまってはその町の人たちやせっかくの温泉がかわいそうだ。


「あと一時間くらいだな。着くのは十二時近くになりそうだ」

「ちょうどあそこで昼ごはんが食べられるからいいじゃん。福田さんたちの聞き込みのついでにさ」

「そうか。それにしても館長――。いや、この話はやめよう」

「どうしたんですか」


 二人の顔がまた真剣な顔つきになった。

 あの館長に一体何があるというのだろうか。


「言っていいのかな?」

「ほかのみんなも知ってるし、ゆうっちだけ知らないっていうのもなんだしね」


 緑の生い茂る森を走る車の中に緊張感が走る。

 今ならクマが出ても気づかないかもしれない。


「実は館長、怪しい人と取引してるみたいなんだ」

「あっ、あの館長が?」

「俺らも知ったときは疑ったさ。でも最近聞いたことが無いようなことばっかり調べているらしいんだ。しょっちゅう出張にも行ってるしな」

「少し気になりますね」

「いやぁ、ごめんね。初日からこんな重たい話になっちゃって」


 長谷川さんの苦笑いがミラーに映る。


「さっ、もうすぐ着くぞー」

 

 空気を変えようとと長谷川さんは道路の“終利世温泉しゅうりよおんせんへようこそ”という看板を指さす。

 その中に入っていくとおいしそうな温泉饅頭屋さんや旅館などかつては賑やかであったのだろうということが感じられる町並みが広がっていた。

 遠藤さんが言っていた通り桜も見ごろを少し過ぎたぐらいだがきれいで風情がある。


「あそこだな、福田さんの温泉宿っていうのは」


 桜散る中にそびえる立派な門。石畳の通路。味のある落ち着いた建物だ。きれいに整備されている庭は秋や冬にも来たくなるような立派なものだった。

 きっと前までは大変繁盛していたに違いない。


「さあ、捜査開始だな」


 三人の軽快な足音とともに陽原の携帯の着信音が何かの始まりを告げる。

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