第3話 小銭の乱

 海辺の町はいいな。


 そこが南の海辺なら、この海峡のむこうは冬景色じゃなくて、おフランス。もし西の海辺に行けば、この海峡の向こうはシャムロックの国アイルランド。そしてそこが東の海辺の町なら、この海の向こうは、えーと、オランダかしら?ドイツ?デンマーク?えーと、えーと、それともスカンジナビア半島?と、大陸への思いを馳せる。家に帰ってグーグルマップで調べると、そこはギュイーンと大きな湾になっていて向こう岸は、なんのこっちゃないイギリスだった。


 そんなことも全部ふまえて、内陸部に住むあたくしなどは、海辺の町に行くたび心ウキウキするのでR。


 海辺の町はピアがあってフィッシュアンドチップスもうまい。ファンフェアも賑やかだけど、どこか寂しげ。ストライプのデッキチアーが夏でも寒々しいビーチに並ぶ。あたくしの好きなイギリスの風景のひとつ。


 つか、ポイントはそこではなく、あたくしが言いたいのは、あたくしの経験上、海辺の町ではおつり銭に1ユーロセントや2ユーロセントが混入されていることがある。そんなファンタスティックなことが起きる。という事。


 レジのおばちゃんがたまたま間違えたのだろう。まあまあ小銭やし。別にいいやん。よくあることだろう。


が、ありすぎる。混入しているのは一度や二度じゃないの。


そうか、


もしかしてこれは考えたくはないけど、あたくしの見てくれのせいなのか。と、ひねた考えが頭をよぎる。


アジア人やと思って、わからんやろと小銭のユーロコインをおつりに混ぜるか!


ああ、悔しいったらありゃしない。

きいーーーっとハンカチの角を噛む。

決めた。今度あったら絶対言ってやる。もう泣き寝入りなんかしない。


ついにその時がきた。それは海辺の町ではなくロンドンで起った。


出た。おつりにユーロ混ざってる。来た。

あたくしはここぞとばかりに、レジの厚化粧のおばはんに


「あのーー、このコイン、ユーロですよね」


と控えめに言った。


「ちっ、たったの1ペニーだわよ。1ペニー」

と超面倒臭そうにコインを突き出すおばはん。


はあ、何? これじゃあ、まるで、あたくしが、たったの1ペニーをケチるむっちゃドケチみたいやん。


確かに1ペニー、1円だよ。今のご時世1ペニー、1ユーロセントじゃ何も買えねーよ。けれど、1円を笑う者は1円に泣く。と教えられてきた。

そもそも、1ペニーのバリューの問題じゃねーだろ。なんでよその国のコインをおつりに混ぜるかな。ありえへん。


ああ、なんだこの腹ただしさ。

くっそー。

間違いを正してなぜ嫌な思いをしなければならぬのか。イマジン。イソジン。リフジン。リムジン。正解はどれ?



この厚化粧のババアめ。

てめえには1円たりとも、1ペニーたりとも1ユーロセントたりともやるものか。


アイドンギブアシッ〜〜〜ト!! 


と心の中で叫んで

(良い子のみんなは使っちゃダメよSワード。あくまでも心の中のつぶやきにしてね。)


顔はニコニコスマイルで

「チャリティーボックスあるかしら?」

と、レジ横に募金箱があるの知っているのにわざと聞いて厚化粧のババアにニコニコしながら、おつりの小銭を全部(1ポンド、50ペンスコイン、は除いて)チャリティーボックスにジャラジャラと入れた。


1ポンド、50ペンスは除くあたり、やっぱ自分ケチやん。




いわゆる、これが「小銭の乱」だ。

時と場所を変えて頻繁に勃発する小銭の乱。それは別名「レジ前の乱」とも言う。


ここ、テストに出るから覚えておくように。








グワシっ


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