第20話 瑠奈

数日後、俺は喫茶店にいた。


「来るかな・・・瑠奈さん」

「さあな・・・警戒心は抱かないように書いたつもりだが、信じるしかないか・・・」

「そうだね」


その時、喫茶店のドアのあく音がした。

ひとりの女子高生がそこにいた。


俺を見つけたらしく、こちらに来て声をかけた。

「佐藤一郎さんですか?」

「そうです。今野瑠奈さんですね。」

「はい。はじめまして」

「こちらこそ」

丁寧なあいさつをして、瑠奈さんは向かいの席に腰を下ろした。


「突然の事で、驚かせてしまい、申し訳ありません」

「こちらこそ、驚きました」

「信じて来て下さった事を、感謝します」

「こちらこそ、兄の事が聞けて、感謝しています」

(一郎、お見合いじゃないんだから」

(わかってるわい)


「あのう・・・どうかしましたか?」

瑠奈さんが、不思議そうに見る。

まあ、当然の反応だろう。


「早速ですが、近況を聞かせていただけますか?

お兄さんの、雄樹さんんが心配しています」

「わかりました。お話します」

瑠奈さんは、話しだした。


「兄と最後に会ったのは、5年前です。

両親が離婚して、会うのを禁じられていたのですが、

内緒で会っていました。」

「連絡は、どうしていたんですか?」

「鉄道関係のイベントです」

「イベントですか?」

瑠奈さんは、続けた。


「私も兄も、鉄道が好きで、両親が一緒の頃は、よくふたりで行っていました」

「はい」

「でも、離婚して、私が引っ越す時に、兄と約束しました」

「何をですか?」

「鉄道関係のイベントがあれば、顔を出そうと・・・会えるかもしれないと・・・」

「確率は、低いですね」

「ええ、でも必ず会う事が出来ました」

嬉しそうだった。


「ですが、5年前に母が再婚して、この事がばれてしまい、会えなくなりました。」

「どうしてですか?」

「新しい父が、鉄道が嫌いで、全て処分されたんです。そして、遠くへ引っ越しました」

「なら、よくあのサイトに書きこめましたね」

「実は、先日その父が、他界したんです」

言葉が出なかった。


「で、また兄と会えるのを期待して、あそこに書きこんだんです」

「素人派遣会社に登録したのは?」

「同じ理由です。あの早速ですが・・・」

「わかりました」

俺は、まほ・・・いや、瑠奈さんの待ち受け画像を、瑠奈さん本人に見せた。


「ええ、私で間違いありません」

瑠奈さんは、微笑んだ。


「瑠奈ちゃん」

いきなり、まほが割って入った。


「マスターくん、寂しがってるよ。ずっと瑠奈ちゃんに会いたかったと思う。

血を分けた、たったひとりの妹だもん」

瑠奈さんは、不思議そうに見る。


「あのう、これは?」

「ああ、この子はまほ。AIです。雄樹さんがいつも、持ち歩いていたものです」

「兄が?」

「ええ、瑠奈さん、あなたに会うためです」

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