第6話 クライアント

「一郎、このビルの5階だよ」

「ああ、でもいきなり押し掛けるのか?」

「ううん、受付の人に頼んでみて」

「ああ、5階のフロアは、株式会社ニルフか・・って、ギャルゲーだろ?」

「いいから」

「わかったよ」

俺は受付の人に、お願した。


奥のフロアで、しばらく待つように指示された。


「なあ、まほ、これでいいのか?」

「大丈夫だよ」


しばらくすると、1人の男性がやってきた。

「佐藤一郎さんですか?」

「はい、そうです」

「初めまして。私はニルフ営業担当の、高田信一と申します。」

そういって、名刺を渡された。


「どうもありがとうございます。突然おしかけて申し訳ありません。

実は、御社にお尋ねしたい事がありまして・・・」

(一郎、常識な言葉遣いも出来るのね)

(だーってろ)


「あのう・・・」

高田さんが、怪訝そうな顔で見ている。


「ああ、すいません。実はこのスマホの事で、お訊きしたい事がありまして・・・」

俺は、まほのいるスマホを高田さんに見せた。


「ええ、確かに弊社で製品化したものです。これをどこで?」

「さっき、この近くで拾ったんですが、どうやら、御社で制作されたらしく・・・」

「どうして、それを・・・って、まほ?」

「ハーイ、高田さん、久しぶり」

何だ?知り合いか?

ていうのも変だが・・・


何やら話しているようだ。

受付の人が紅茶を用意してくれたらしく、ありがたく頂く事にした。


「佐藤様」

「はい」

「事情は、まほから伺いました」

「ええ、聞いてました」

「ですが、弊社でも、この待ち受けの女の子については、わかりません。

申し訳ありません」

「いえ、それはいいんですが・・・」

「まほは、何者なんですか?」

高田さんは、しばらく考えているようだった。


「キズナアイって、ご存知ですね」

「はい。有名ばバーチャルユーチューバーですね」

「はい。そのキズナアイの、縮小版みたいなものかと・・・」

AIも、小型化ですか・・・


「高田さん、このまほのデザイナーは、どなたなんですか?」

「我が社の社員でしたが、数か月前に退社しました」

「そうなんですか」

声の事は、企業秘密と言われかねないので止めた。


しかし、バックアップ能力は高いほうだ。


「高田さん、まほは他にもいるんですか?」

「いえ、この子ひとりです。このタイプのAIは特注生産ですので、

他にもいろんなタイプがいます」

「タイプ・・・ですか?」

気になったので、訊いてみた。


「製品化する時に、クライアント様にかなりのアンケートをお伺いします。

そして、その方にふさわしい子を制作して、お渡ししています」

凄いな・・・

まほのようなタイプがマッチした方は、かなりシャイと見える。


高田さんとまほが、知り合いなのは、クライアントさんに渡す前の確認か・・・

クライアントさんについては、個人情報なので、教えられないし、既に削除されているようだ。


「この度は、突然の訪問にも関わらず、ご丁寧にありがとうございます」

「いえ、何かありましたら、またいらして下さい」


俺は、ビルを出た。


「一郎?何かわかった」

「ああ」

「何を?」

「待ち受けの女の子は、お前の持ち主でないということは、確かだよ、お前が言った通りにな」

「どうして?わかったの?」

「少なくとも写真の容姿だと、お前とは合わない」

まほは怒っているようだが、耳には届かなかった。


さてと・・・次はどうする?

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