片翼の勇者

「そういえばお前の名前は?」


 何かを隠すように我の棲処から歩き出した勇者から受けた問い。

 勇者の前足に縋りつきながら苦労してよたよたと歩く我には適当な答えが見付からない。


「名前? 亜竜が我ではないのか?」


「竜より劣るって意味の『亜竜』か?」


「違うのか?

 『片翼の竜できそこない』とも言われたが」


 自身が上位だと宣言する竜達に、我は散々蔑まれていたのは嘘だったのか?

 だとすれば酷い話だが…よく考えれば我も見下してきた相手を滅してるし、お互い様かと納得した。

 所詮過去の話でもあるしな。


「え、お前何言ってんの?

 人の技を扱う火山の魔竜、『混沌竜カオスドラゴン』って人に呼ばれてんぞ?」


混沌竜カオスドラゴン? 何だそれは」


「ぁー…竜ってな。

 根本的に強いから力ずくなんだよ。

 何かこの言い方すっげぇ違和感あるな…」


 そんなことを言って首を傾げた。

 確かにそのような感じではあった…か?

 ふと敵対した竜の力を一度も見ていないことに気付く。

 さっきの火竜が辛うじて気温を上げたくらいか?


「桁外れの身体能力と莫大な魔力を持つ竜は、その大きすぎる力によって人の技術を扱う素養がない。

 それに竜からするとブレス吐いてれば大概勝てるし、わざわざ小細工入れる必要もないからな。

 なのにお前は人の技術である魔法を平気で使う。

 しかも身体に宿る竜核の出力も凄まじく、息切れすることすらない。

 竜としては外れてる・・・・存在で、そこで付けられたのが『混沌なんでもありの竜』って固有名詞・・・・だ」


 つまり我は竜に属するが、異色過ぎるがために竜の分類カテゴリーから外して新たに項目を作った、みたいなものか?

 何処でも扱いが別れるのだな。

 ともあれ


「では我は亜竜ではなかったのか」


 蔑まれる理由が分かり、妥当性が無いことを知るだけでも意外にほっとするものだな。

 やはり確固たる意思を持っていても、所詮個での意見…思い込みでしかないからだろう。


「誰だよ…って、さっきの火竜も言ってたな。

 あー…そっか、わざわざ『人の技を使う』から、竜としては格が低いって認識なのか?

 竜って基本的に自分が持ってる特殊な攻撃とかで相手を押し潰すからなぁ。

 うっわ…そう思ったら竜って力強くて喋れるだけ…ってのも凄いが、大概馬鹿なんだなぁ」


 そんな納得や説明をし、笑いながら我の手を引いて山を降りる勇者。

 足元や周辺のごつごつした岩肌で削れる身体ではないが、みっともなく転ぶのは精神的に参るものがある。

 だからこの手の支えがあるのはとてもありがたい。


「となると名前を考えないとな。

 自分で何か思い浮かぶ言葉とか単語はあるか?」


「いや、思い至らん」


「…なら『アルカナ』ってのはどうだ?」


「おぉ、何となく良い響きだ。

 では我の名はこれからアルカナと名乗ろう。

 …そういえば勇者、お前の名前は何なのだ?」


 半年以上も種族名で呼んでいた勇者の持つ名を訊く。

 なるほど、他と認識を切り分けるために固有名詞をお互いに伝えるのだな。


「え、俺? ヴィクトル・ヘンライン」


「覚えたぞ、ヴィクトル・ヘンライン」


「そりゃどうも。

 略してヴァルって呼ばれることが多いからそっちでも良いぞ」


「分かったヴァル」


「おぉ…順応早いな」


 うむ、我の対応速度は他のそれとは違うのだ。

 まぁ他は知らんが。


 そんなことを考えているとヴァルが急に立ち止まった。

 何事かと首を傾げる我の前に、戦闘中のような真剣な顔(?)で静かに相対して跪いた。

 先程のじゃれ合いなど忘れたかのように「俺は改めて乞おう」と一つ前置きを入れた。


「たとえ他の竜が『片翼』だと呼んでも、俺にはお前が必要だ。

 不敗の竜神アルカナよ、俺に人を救うためのちからを貸してほしい」


 そう言って頭を下げて差し出された右の前足と告げられた言葉に高揚感を持った。

 そうか、ヴァル…お前には我が必要か。

『欲される』というのは存外心地良いものなのかもしれん。

 にしてもあえて我が嫌いな『片翼』の言葉を使うとは…頼みごとの場面で喧嘩売っとるのかこいつは。


 だが、竜に言われるのとは違い、何となく悪い気はしなかった。


「そうか、ならばお前が我に足りぬ・・・・・『片翼』になれヴィクトル・ヘンライン。

 たとえお互いが飛べずとも、片翼ずつの我らが合わされば不可能事など無いだろう?」


 どうするかも分からず、真似をして前足を差し出すとがしりと掴まれた。

 ヴァルは我の前足を嬉しそうに握り締めて立ち上がり、ブンブンと上下に振った。


「っは、違いない!

 アルカナ、よろしく頼む!」


「うむ、我を退屈させるなよ?」


「難しいかもしれんが、人の世は火山よりは色々とあるからな!」


 そんなことを言われれば楽しくもなる。

 我はこれから起こるであろう『何か』を仄かに期待する。

 まぁ、飽きたならヴァルと喧嘩すれば楽しめるから大した不安も無い。


「にしてもまずはアルカナの服か…?

 流石にこの格好で連れ歩くと俺の評価が危機的なものにッ!

 でも今は【水蜥蜴の衣】以外にまともな装備も無いしな…。


 アルカナ置いて先に何かを……ダメだな。

 そもそも俺が女物の服を買う時点でアレだし、こいつを放置したらどうなるか分からん…。


 いや、それもあるけど『竜神』が出掛けることを先に神殿に言わないとまずくないか…?

 いっそ神殿に放り込んで事情話して説得すれ色々世話してもらえるか…?

 うっわ…でもそうなると逆に神殿から連れ出せなくなる可能性がッ!

 やべぇ勢いで願い出たけど思ってたより八方塞じゃねぇか…」


 ヴァルは我の手を握って歩き出すとぶつぶつと呟きだした。

 いくつか問題がありそうな様子だが、我にできないことはヴァルが何とかするだろう。

 あぁ、もしかすると生まれてから『未来を思う』のは初めてかもしれんな。



 ――かくて勇者は不敗の竜を駆る

 彼らの行く末は後の伝承となり語られる――

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