勇者のこだわり

 女…あぁ性別の話か。

 気にしたことすらなかったが、そういえば我はそちら側だったか。


「それが? 我がメスだと何か支障でもあるのか?」


「大有りだ!! 俺は女にボロ負けしてたのか…」


 至極どうでもいい事で叫んだようだ。

 ヒトという種族は何とも困ったものだな。

 気休め程度に「種族が違うんだから気にするな」と嘆く勇者に返事をする。


 実際、強さの基準は大まかに種族、格、個体ごと、とそれぞれ分類されるが、例外は何処にでも存在する。

 目の前の勇者のようにヒトが上位種族の竜を倒してしまう者も出てくるのだからな。

 ちなみに種族差を無視して喧嘩を売るのは頭がおかしい…天敵みたいなものだからだ。


 しかしヒトの身というのはなかなかバランスの悪いものだな。

 四つ足の安定感を思えば、足元がふらついて仕方がない。


「竜の中でもオスの方が力は強いはずだろ?

 …って、そういえばお前魔法がメインだったか」


「そうでもない。

 過去には近付かれたこともあるし、我が身一つで戦ったこともある。

 最近は近付かれることなく撃退しているから、そんな印象があるのだろうな」


 ごつごつとした勇者とは違って、丸みを帯びた我の体躯。

 少し膨らんだ柔らかい胸をむにむに触りながら「戦いに向かないと言われればその通りかもしれないな」と答える。


 うむ、それなら確認くらいは必要だろう。


 不慣れな二足歩行でふらふらぺたぺたと我の背丈よりも高く聳え立つ岩に向かい、ぺしぺしと軽く叩いて『これくらいなら試しに良いか』と確認。

 竜の姿なら、この程度の岩くらいなら握り潰せていたはずだな…と指先を握り込む。

 慌てた声で「ちょ、おま! 怪我するぞ!」と叫びながら近付く勇者を無視して振り下ろした前足は、無事に岩へと着地した。


 …痛みは無い。


 だが、目の前の岩は欠片が少し零れた程度で綺麗に健在。

 流石にサイズが縮めば出せる威力も落ちるということか。

 ニギニギと前足を開け閉めして確認していると、勇者はゆっくり我の元へと歩いてきた。


「素手で岩とか殴って怪我でもしたらどうする。

 とりあえず見た目は無事らしいが…少し見せてみろ」


「痛みは無いから問題はない」


 本体が亜竜なのだから、そんなに慌てるようなことではないだろう。

 回復・復元の術式は持っているし、岩に負けるような体躯では話にならない。


 あぁ、しかしそうか。

 見た目と結果が違いすぎるのは、得てしてこういう状況ふあんにも繋がるのだな、と変に納得してしまう。


「我がヒトの形になったところで本質は変わらんからな」


 どちらにせよこの身が戦いに不向きだとしても、今まで通り近寄られなければ良いのだ。

 確認を終えた我はふらふらと勇者に近付き、掴みやすそうな前足に縋る。


「な、なんだ…?」


火山ここしか知らぬ我が、行き先を知ってるはずがないだろう?」


「そ、そうか…って可愛く上目遣いをするな!」


「可愛い? それは見目の話か?

 我を評価する言葉なら、もっと事細かに良し悪しを教えてもらいたいのが」


「うっせぇ!」


 まさか一言で一蹴されるとは思わなかった。

 ただ我よりも頭の高い勇者を見上げて評価を聞いただけなのにとんだ災難だ。

 どうやら我の見た目は余程悪いらしい。


 むぅ…こんなことなら多少の不便には目を瞑り、変化すべきではなかったかもしれんな。

 いっそ勇者と同じくらいのサイズの違う種族に変化し直した方が良いか?


 いや、だがその種族での見た目であるだけで、結局我は我。

 見目が悪いのならば変化した種族でも残念でしかないはずだと思い至り、知らずに嘆息してしまう。

 他者と共に歩く決意をした途端、まさか外見で悩むことになろうとは。


「こんな娘に勝てない勇者なんて…。

 くそぉ…人の世界で問題を起こすなよ?!」


「そんなことは知らん。

 お前が事前に教えるか、対処するかしろ。

 我はお前のためにそれなりになら頑張ってやろう」


 勇者が何に苛立って叫ぶかは我には分からなかったが、新たなる刺激を求める我は鼻から「ふんす」と息を吐くように答えた。

 何故だか横で「うっ…お、おう」と勇者がどもったたがやはり理由は不明だった。

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