享楽と競合
ある時余りのしつこさに痺れを切らし、過去に竜を縛った溶岩の鎖を周囲に巡らせた。
近付くだけでも熱に焼かれ、捕まれば脆弱なヒトは瞬時に燃え上がる…。
そんな即死の鎖を網のように、小さく捉えにくいヒトの侵入を阻むために。
だが我が放った灼熱の鎖は、あっさり熱を奪われただ歪なだけのごつごつとした岩へと一瞬で変えられた。
あの熱量を一気に奪うのは容易ではないが、可能ならば有効な策だろう。
実際、ただの障害物となった岩の鎖を剣で斬り飛ばし、我との距離を詰めて来たのだから。
そして思わず『面白い』と、我は初めて戦いに高揚感を抱いたまま、空間を揺らして振動を叩き付ける。
まともに喰らえばいつぞやの竜のように
我の意表を突いて必死で詰めた距離を、あっさりと切り捨てる判断力にまたも感心してしまう。
それにしても見えず感じられもしないはずの魔法なのにおかしいな?
しかし回避しきることは不可能だ。
冷えた岩の鎖は空間振の余波で砕けて質量を持った散弾になり、液状へと戻った溶岩の鎖は弾幕となってヒトを襲うからな。
二段構えの高速で飛来する岩と溶岩までは完璧には防げず、後方に吹き飛びながらかなりの負傷を刻んだ。
そのままでは戦闘続行は不可能だと判断したのか、即座に撤退して行く背を見て、またも倒しきれなかった、と少し悔しく思う。
またある日は、退いて距離が開いた瞬間に、狙いも定めず『ブレス』を放って前方全域を冷気で満たしたこともある。
到達する短い間に、我に鏃を向けるように配置した、複数の水の柱を地面から打ち立てブレスを防いだ。
水柱は風で延ばされ、冷気で
またも面白い、と感心させられる。
こうなれば余程の威力が無ければ吹き飛ばせないし、それだけの威力が乗れば氷壁の強度がさらに上がる。
水量さえ確保すれば氷の壁を簡単に補強されてしまう、有効な手段だが、種族の差が如実に現れて魔力枯渇に陥り撤退した。
そんな戦いを幾度となく行い、何度となく退け、我は未だ不敗。
だが、それでも日毎、時が経つ毎に、我が持つ引き出しを一つ一つこじ開けていく。
そのことに焦燥感を感じたことは無い。
逆に我のすべてを解析されていくこと、そしてこの『競い合い』に楽しさすら感じた。
連敗をいくら重ねても疲れた顔もせず、今日も今日とて我に挑むヒトに興味を持ち始めた。
そんな折に
<亜竜の分際で強力な個体が居ると聞いて来てみれば…たかがヒト風情に手こずるとは期待外れも良いところだな>
そんな我にとって楽しみと呼べるようになった時間に割り込んだのは、もう何度目かになる空からの
この後の結果は分かるな?
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