不遜な来訪者

 相対する我等に声を落としたのは『世界の上位種』の竜。

 またも片翼の我を見下しに来たのだ。

 苛立ちが募って視線を上げようとした時。


「たかが空を飛べるだけの火竜かりゅうに、こいつの何が分かる」


 今まで言葉を交わすことなく戦い続けた相手が放ったそんな声に、我はまさしくぎょっとした。

『言葉が分かるのか』との当然の疑問と共に、竜に対して喧嘩を売るような言葉を投げるのだから。

 何よりも我を庇うような発言は驚きの一言しかないだろう?


 <亜竜ごときに勝てない貴様に言われてもな>


 空中で豪快に笑う炎をまとう竜。

 だがその笑みはどう見ても好戦的で挑戦的…そして侮蔑的であった。

 相対するヒトを『ヒトの枠』で考えているらしい。


「馬鹿かお前?

 火竜ごとき・・・・・が、俺を下に見れると思うな」


 我を『亜竜』と罵った言葉に重ね、剣を竜に差し向け啖呵を切った。

 確かに我が放つ炎弾ですら生身で弾き飛ばすヒト相手に、たかが一属性しか持たぬ竜が対抗出来るはずが無い。

 少なくとも『強いから勝てる』なんて低次元での戦いしか出来ぬ竜ではな。


 <はは! 我にそのような大言…吐いた唾は戻らぬぞ?>


「うるせえな、俺はこいつと遊ぶのに忙しいんだよ。

 お前の下らん能書きを聞く時間が勿体無いからさっさと来いよ火トカゲ・・・・


 <……矮小なるヒトの子よ。

 良いだろう、その喧嘩…盛大に買ってやろう!!>


 この地は火の山、故にこの場の温度は地上よりも遥かに高い。

 だが、その高温の空気を更に熱するのは、空中に佇むたった一体の竜…余程頭にきているらしい。

 我には竜の表情も余り分からぬが、ヒトの言葉は激怒に足るのだろう。

 それにしても我の住処で、主を置き去りに喧嘩を始めるとは礼儀知らず共だな。


「黙って逃げてりゃ死ぬことも無かったろうにな」


 <ほざけ小僧!>


 上空からの叩きつけられるような竜の咆哮に一切耳を傾けず、ヒトは大きく振り被って剣を投げつけた。

 言葉の時間は終わり、争いの時間が始まった。

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