タンポポ
笹乃秋亜
冬、タンポポが僕を見ていた。
『私を摘んでくださいな。
生まれる時期を間違えたのですよ。
まだ雪がふる季節だというのに。
だから、あなた。
私を摘んでくださいな。』
タンポポは細い首を擡げて、僕をじっと見つめている。僕に摘まれるのを待っているらしい。
僕はタンポポの言うことがとても不思議だった。
「 間違ったって良いじゃないですか。
貴方の黄色は雪に良く映えますよ。」
『 駄目ですよ。
私は"春"です。
"冬"に生まれることは許されていないのですよ。
あなたもお分かりでしょう?
だから、私を摘んでくれませんか。
ここは寒くてなりません。』
タンポポはゆらゆらと揺れながら、急かす様に僕を見あげている。
しかし、僕にはタンポポを摘む事はどうにもためらわれて、困ってしまった。
僕はしばらく考え込んで、タンポポを両手でそっと掬いあげた。
『私をどこへ連れていくのですか?』
「まあ、見ていなさいな。」
僕はタンポポを家に運んで、小さな植木鉢に植えた。そして、暖炉の火が優しく照らす、棚の上に鉢を置いた。
すると、タンポポは驚いたようにふわりと花びらを揺らした。
『あら、あたたかい。ここは冬ですか?』
僕は笑って答えた。
「いいえ。ここは春ですよ。あなたの季節です。」
『ああ、何と。
春はここにあったのですね。』
と呟いて、タンポポはほっとしたように微笑んだ。
それから、僕は暖炉の火を絶やすことなく、春を満たした。
タンポポの太陽のように黄色い花びらは、いつしか雲のように白い綿毛になって、
そうして冬が終わり、本当の春が来る頃に、タンポポは朝焼けの空に飛んでいってしまった。
タンポポ 笹乃秋亜 @4k1a
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