その6 今風、男と女・・・かな? 1

『そうか・・・・』


 俺の報告を聞いた手塚警部は、大きく息を吐いてからそう答えた。


『有難う』如何にも裏表がありそうな男が、殊勝げにそう言い、懐から封筒を取り出し、テーブルの上に置く。


『危険手当は足しといた。それからギャラもいつもの一割増しだ』


 これまた珍しい。


『なあ・・・・乾の旦那・・・・』


 俺が封筒をしまうと、やつは目の前のコーヒーを飲み干し

 だか本当に何かを頼みたい時に出すような、そんな声を出した。


(しかし、男の猫なで声というのは、お世辞にもあまり気持ちのいいもんじゃないな)


『何ですかな?俺は料金分の仕事はしたんだ。これで終わりだろ?』


『実は・・・・もう一つ受けてくれ・・・・お前にしか出来ない。というより頼めねぇんだよ』


『俺は・・・・今日まで一度も女に、プロポーズってやつをしたことがない。勿論結婚はしていたが、それは見合いでな。上司から紹介されて、成り行きでそうなった。惚れたのヘチマのって、そんなのとは無縁だったんだ。』


 そんな結婚じゃ、当然上手くゆく筈はない。


 結婚して10年後、妻が別の男と不倫をした結果。

(本当に不倫だったかどうか、怪しいものだ。つまりは向こうの方が本気だったのかもしれない)


 一方的に離婚届けを突き付け、家に帰ってこなくなり、離婚と相成った。


 以後、彼は女と全く縁のない生活を送っているという。


 実に意外な話を聞くもんだ。


『な、頼む。この通りだ!無論ギャラはちゃんと払う。』


 警部はテーブルに手をつき、頭を下げた。


 真昼間の喫茶店である。他にも客は大勢いる。


 だが、彼はそんなもの、まったく目に入っちゃいない感じだった。


 周囲の視線が一斉にこっちに集中する。


 俺は頭を掻いた。


 お巡りは苦手だが、普段ポーカーフェイスでつかみどころのない男が、ここまで純情に頭を下げるんだ。


『わかったよ。で、俺は何をすりゃいいんだ』


 数日余して、俺は彼女と警部殿との出会いをセッティングした。


(そんなこと探偵のやるような仕事じゃないだろ?まるで結婚相談所の社員じゃねぇか)だって?


 分かってるよ、そんなことは。


 でも、金を貰っちまったんだからな。


 これも仕事だ。仕方がない。


 場所は赤坂の某高級ホテルのティー・ラウンジだ。


 俺はロビーで警部と待ち合わせたが、やって来た彼を見て、吹き出さないのに苦労をした。

 

 いつもはぼさぼさ頭、伸ばしっぱなしの無精ひげに、よれよれのネクタイ。

 

 皺だらけのワイシャツにドブネズミ色のスーツ。


 磨いていない革靴というスタイルがお似合いの彼が、どこであつらえてきたか知らないが、上から下までびしっと決め、おまけに中折れまで被っている。


 まるっきり映画の中のハンフリー・ボガードはだしだ。


『ど、どうだ。に、似合うか?』


 どもりながら俺にいったので、余計におかしかった。





 


 


 





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