第二章 ベンシブル再攻略戦
第一話 進撃用意
陛下に敗戦の報告をしてから早二週間。陛下から返事が返ってきた。
結果、軍上層部は仲良く半年の
うちの軍団において、減俸処分はおとがめ無しと同義だ。衣食住が保証されているが故に、前線にいる時の給料の使いどころなんて
その手のことをこよなく愛する者達にとっては厳しい処置になるだろうが、給金が全てなくなるわけでもないため、大抵のものはそこまで苦しくは感じない。戦果を挙げれば期間が短縮されることだってある。
精鋭だという自負がある竜騎士や魔道騎士からすれば、如何なる処分も等しく耐えがたいものがあるらしいが、寄せ集めとまではいかないものの、軍に入って日が浅い者も多く、プライドを重んずる気風がないうちの軍団からすれば雲の上の話だ。
陛下には本当に頭が上がらない。
「改めて陛下から
いつものメンバーが集まったところで、コッポラが司会進行を始める。二週間の間にすっかり立ち直っているようだ。
「そうは言っても前回と基本的な戦略は変わりません。兵数優位に物を言わせて
「よろしいですか?」
「どうぞ」
コッポラの話が一段落したのを見てジェレアムが手を挙げた。
「前回取りやめた各部族への調略は、今回行うのですか?」
「はい。時期を見てになりますが仕掛けようと思います」
「調略ねぇ。アテはあるの?」
意図せず語調が不機嫌になってしまう。どうもこういうのは好きになれない。勝つために必要なことと割り切らなくてはいけないのはわかっているが、それをその通りに受け止められるかは別問題だ。
「はい。もともとマンスール族に同調して帝国との
「了解」
「あ、私からも一つよろしいですか?」
次に手を挙げたのはレスタードだ。
「どうぞ」
「橋頭堡を確保するとおっしゃいましたが具体的にはいかがなさるおつもりですか? 前回は開戦前に大分奥まで進めて、陣まで張れましたが今度はそうもいかないでしょう」
「それについても考えがあります。山脈を越え、弓騎兵が活躍できるような開けたところに出たら一度騎兵を少数突出させてください。敵が食らい付けば射程に入らないように逃げ、逆にこちらの弓兵の射程に引き込むよう動いてください。これを複数箇所で行えばそれなりの時間を稼げるはずです。この間に設営を行います。更に設営が完了次第、続けて小規模な砦を築きます。この件に関してはチェンダー司令に協力を依頼し、アメルセア駐留軍の工兵隊をほぼ全て貸していただいております。無論皇帝陛下からのご許可もあります」
「ほぼ全部こっちに回して貰って大丈夫なのか?」
太っ腹だな、あのおばさん。立場上、部隊の貸し借りの件だけは聞いていたが、ほぼ全部送って貰える事になったとは知らなかった。
「旧アメルセア領の復興が進んできたので工兵隊は暇を持て余していたそうです。こういうのは民間に任せた方が地域の経済が
そういうものなのか。やはり政治の話はよくわからない。
「まあ順調そうでなによりだな、取りあえず話を戻そう。他に質問のあるものは?……いないな、それじゃあ進軍開始は例の工兵隊が到着してからで。では解散」
「承知致しました」
「承知」
「了解です」
「うーす」
「将軍。肩の傷はきちんと治されたのですか?」
「治ってるって。ここのところ毎日のように聞いてきてないかそれ」
案の定、用事はお説教だ。
「将軍に聞き入れる意思を感じないからです。それといい加減、単騎駆けをする癖も直してください。こちとら心配で胃に穴が開きそうなんですよ!」
「すまんすまん」
「私だけじゃありませんからね! みんな気が休まらないんです! 今までは将軍が強いので大目に見てた人もいましたが、最近死にかけてばっかじゃないですか! 幾ら私達を助ける為とはいえ将軍が死んだら意味がないでしょう! そうなったら、そうなったら私はどうすればいいんですか!!」
「落ち着け落ち着け。そんな無責任な事はしないから……」
「説得力がありません説得力が!」
なんだろう……いつになくコッポラが口うるさい。どうしたものか
「……お前もしかして癇癪起こしてる?」
「起こしてるわけないでしょう! 何言ってるんですか!」
……ダメだこりゃ。
その後俺はひたすら説教を喰らう羽目になった。人生で初めてだ、こんな説教喰らうの。教会の牧師でもこんな説教しなかった。
そして、俺がコイツの説教を喰らわなくなる日は来るのか、ということなんかを考えながら耐え忍ぶことにした。
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