一杯の苦味

春風月葉

一杯の苦味

 珈琲なんて、べつにどこでも飲めるものだろうにと、またこの店の扉を開いた自分に苦笑しつつ、一杯の珈琲をミルク多めで注文した。

 ちまちまと珈琲に口をつけるとやはり私には苦い。

 実のところ、私はこれがあまり得意ではない。

 それなのにこの店で一杯の珈琲を頼み、時間をかけて味わうように飲んでいるのは、人と触れていたいからなのだろう。

 ゆっくりと今日の珈琲を飲み干すと、いつもの店員が会計をしてくれる。

「今日もありがとうございます。またいらしてくださいね。」

 また、という響きに私は次を確信する。

「えぇ、もちろん。ごちそうさまでした。」

 代金を払い店を出る。

 口の中にはまだ珈琲の苦い香りが残っていた。

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一杯の苦味 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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