和解 (iii)

「私には、午角くんに話を聞いてもらうための11の理由がある。まず第1に――」

「それ、はしょって本題に入ってもらっていいかなあっ」


 力はいらっとした声で、クラス委員の始めようとする理論展開を制した。あそこで待機しているモンスターも、時代劇で斬りかかる順番待ちをしている悪役みたいにいつまでも待ってはくれないだろう。

 ていうか11て。理由の数多いな。なんで数も中途半端なんだよ。


「ご、ごめん……………なさい」


 ……今は午角くんの男性優位思想は脇に置いておくとして……、とのよくわからないぼそぼそ声が断片的に聞こえてきたが、それにとりあっていると話がいっこうに進まないのでスルーした。


「まずは謝りたい。ジャンヌ・ダルク役をじゅうぶんに果たせていなかったことを。せっかく午角くんから評され、託されたというのに」


 力は、漫画的に背景へが入ったかのように、ぴしりと固まる。これほどの奇人とは知らずにジャンヌ・ダルクなどと持ち上げてしまった痛恨の失敗ミス。しかも、音声にホワイトノイズが乗り教室の音声を拾っていることから、おそらく今、通話はスピーカーモード。クラスの面々に聞かれてしまった。若気のいたりでとち狂ったことを口走った自分を全力でぶん殴りたかった。

 いや、もしも環が男で、かつ目の前にいたら、ぶん殴るべきは黒歴史を暴露したこのクラス委員だ、と力は端末をぎりぎり握り締めた。


「それ言うためにわざわざかけてきたのかな?」こめかみの辺りをひくつかせて問う。


「ううん、私から午角くんに対してだけでなく、教室のみんなからプレイヤーのみんなに対しても謝りたいの。そっちがわもスマホをスピーカーに切り替えてくれる?」


 一瞬、なんの詫びかわかりかねたが、いわれるまま自身の端末を操作する。

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