恋環 (xi)

「なんで? たとえば食べものを生成するスキルでも存在するとか?」

「おい、まさかおしっこを飲料水に変える魔法があるとかじゃねえだろうなっ。最悪でも男子のは飲まねえぞ」

「発想ヤベえよ、おまえっ。女子、めっちゃガン見してんじゃねえか」

「悪いが女子のを飲むだとかじゃない」

「俺が飲みたがってるみたく言うなよなっ。てゆーか女ども、こっち見んじゃねえよっ、キモい言うなっ、なにが『やっぱり』だよ、ちげーし!」

「あんま騒ぐとカズみたくクラス委員にどやされるぞ。ほら、なんか俺らのほう、じっと見てるっぽいし」

「そうか? 見てるの、後ろの席の奴らじゃね?」

「で、モンスターを食わなくてもすむ理由は?」

「単純に、腹が減らない」

「はあ? どういうことだよ? 食わなきゃ減るだろ」

「今、お腹すいてるか?」

「今は――まだすいてないけど。でも、そのうち――」

「もう昼近くになろうとしてる時間だぜ? 空腹感のある奴いるか? ――いないだろ、やっぱ。変だと思ってたんだよ」

「変って、なにが?」

「俺、朝、あんま食欲なくて食わずに来たんだ。登校したときは腹減ってたんだけど、気がついたらそうでもなくなってた」

「たしかに、俺も寝坊して朝飯食ってないのに全然余裕だな」

「それってたまたまのタイミングじゃないの? 空腹感って波あるし」

「波といえば昨日から腹をくだし気味なんだよ。体育も適当にサボってたじゃん? 家帰ったらちょい熱あったし、やべ、風邪か、って。それが全部、今はない」

「んー……、俺は寝過ごしちゃないんだけど、昨日、夜中3時までアニメ見ててホームルームとか最強に眠かったのな。でも眠気、いつの間にかなくなってる」

「体調といえば、2、3日前、部活で痛めた手首がなんともねえな、そういや」


 俺も、俺も、と同様の申告があがる。

 グループの会話に加わっていない者も、聞こえてくる話に反応し「ネトゲで深い階層まで降りてたら夜ふかしになって」「Sueさんっていうバカな人の配信見てて寝るの遅かったけど」「ダイエット中で朝ご飯抜いてるのに」と話し、また内心で、精神的な負担が大きくなるといつもお腹が痛くなるのにこんな異常事態でもちっとも――今朝、3日連続で父親に殴る蹴るされた手や足の痛みが――おととい始まったのにすごく軽い、とそれぞれに「そういえば」を実感していた。


「これってもしかして……」

「ああ。ゲームの間、身体面はベストコンディションをキープするんじゃねえか、もしかしたら」

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