恋環 (vii)

「はあ? こんなときに飯の話?」

「のんきかよ。食いしん坊かよ」

「バイトの応募じゃねえんだぞ」

「いやいや、食事はだいじっしょ。腹減ってたらバトルはできねえって昔の人も言ってるし」

「たしかに一理ある、というか百理ある。俺らが持ってるのは昼の弁当とかせいぜい菓子ぐらいだ。食いものが尽きれば当然、餓死する」

「俺とかの購買組は特にヤベーじゃん。な、少しわけてくれるよな?」

「ちょっとだけなら、まあ……」

「ていうか、そこまで長くかかるか、これ? ……いや、かかりそうか」

「ステージっていくつあるんだっけ。90いくら? 今、何ステージ?」

「前のがたしか5だったはず」

「てことはまだ90ぐらい残ってると。うんざりするな」

「仮に1日で10クリアできたとしても1週間以上かかる。どんどん難易度がアップしてくるならクリアにも時間がかかるし、待機時間が長かったりする可能性もある。へたしたら2週間ぐらい」

「あるいはそれ以上……」

「人間、断食は1、2週間ぐらいならなんとかもつらしいけど飲み水はやばいらしい。1週間、なにも飲まなかったら死ぬって動画で見た」

「マジかよ、ヤベーじゃん。な、ちょいわけてくれる、よな……?」

「んー……、ま、まあ……」


 またしても重い空気が彼らの間でどんよりたれ込める。

 それを晴らそうとするかのように、もっと早くに迫る大切なことがらにおよぶ。


「これってさ、トイレとかどうすんの?」

「ええ? 飯の話の次はそれかよ」

「まあでも、地味に無視できないポイントではあるよな」

「男は最悪、窓からでもできるけど女連中どーすんの? 変態オヤジとかいたら大喜びだろ」

「おい、女子こっち見てんぞ。てか、俺らも大のほうはちょっと無理だろ、窓からは」

「絵的にキッツ。バランス崩して転落とかしたら笑えねえな」

「しかもブツの上に落ちるとかな」

「うわ最悪。死んでも死にきれねーわ」

「だから女子の奴らすげー見てるってば」

「食いものとかはあれじゃね? 剣なんかの武器みたく、あの青い光から出てくるとか」

「トイレも光って出てくんのか? シュールすぎんだろ」

「食料はもしかしたら狩りで調達するのかもしれねえぜ、『HOTMハンモン』みたいに」

「あの灰色の奴らを食うの? おえ~」

「なんか呪いとか受けそう」

「『ステータス異常「呪い」。一定時間、身動きできなくなる』とか?」

「ほぼ即死と同じじゃん、それ。午角ギューカクのより厳しくね?」

「しっ、あいつ、ちら見した。も少し小さい声で話せ」

「やべ。……んでもまあ、呪いとかなくてもあのモンスターは食いたくねえよな。普通にまずそうだし」

「つうか倒した瞬間、消滅するだろ、あいつら」


 わずかに思案し、やや自信なさげに意見を述べる。


「たぶんだけど――モンスターを食材にしたりはしなくてすむと思う」

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