看破 (iii)
『わからない。ヘルプを確認したかぎりでは、課題で受けたダメージやステータスの異常は、教室に戻っても残るみたい』
『ふざけんな!もとにもどせよ!!!』内容の聞きとれないかすれた声で一八は怒鳴った。
「そんなこと言われても……」環は、困惑してつぶやいた言葉を文字に書きくだす。
だんっ、と一八が拳を叩きつけ、
手のじんとした痛みからしたたかに殴りつけたはずなのに、かすかな音さえ聞こえなかった。まるでミュートボタンを押したみたいだ。
ゲームのステータス異常なら戦闘が終われば回復するのに、と一八はいらだつ。が、終了後も回復せずアイテムなどの回復手段が必要となるものがあることを思い出した。
もし、この『プリムズゲーム』がネットゲームのようにプログラムで動いているのだとすれば、ステータス異常のオン・オフを決めるデータがあって、自分の「聾」だか「唖」だかがオンになっていることになる。
そいつをオフにしないかぎり、「ゲーム」が終わるまでずっとこのままだ。
データの書き換えひとつで聴覚を失い言葉を発せなくなることに、一八は理不尽さと怒りと恐怖を覚えた。
彼が日常、携帯端末でプレイしている一般的なゲームでも、仕組みは同じなのだが、いちいち「毒状態のフラグが立った」「戦闘が終わったので眠りはオフになった」などとは考えない。HPも所持金もアイテムもパラメーターも能力も、すべては無味乾燥なデジタルの情報で管理されながら、ゲーム上の演出が上手にカモフラージュしてくれる。
しかし、体感可能な形で負わされると印象はまるで違う。
オン・オフを司るビットが存在を主張しはじめる。あたかも、ネジを外して機器のカバーを開け、大小さまざまなパーツがひしめく様子を見たかのような、舞台裏を覗き込んだ気分になる。
どうすれば回復を、オンになってしまったスイッチを、オフにできる?
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