第p章 ―― 1! - 2! + 3!

看破 (ii) ――― →

 なんだよ、それ。

 一八は、面と向かって環から告げられた事実に愕然として言った。つもりだった。

 実際には、よく耳をそばだてないと聞き逃しそうなほど小さなかすれ声が漏れ出ただけだった。言葉のていもなしておらず、内容はまったく伝わらない。

 のみならず、聴覚まで完全に死んでおり、頭骨内に直接響くはずの自身の声もいっさい聞こえなかった。


 当初、教室に帰った一八と力たちは、クラスの面々に喜びと興奮をもって迎えられ、ねぎらわれた。

 が、一八の様子がおかしいため、すぐに不穏な空気となる。どうかしたのかと皆が尋ねるも、一八の耳はクラスメイトの声をわずかも拾えず、声帯はぴくりとも振動しない。

 聴覚・発声。あまりにあたりまえすぎて、普段、意識することもない機能。その喪失により音のある世界から隔絶されてしまったことの、想像もしたことのない恐怖。

 なかばパニックに陥る一八をクラスメイトは懸命になだめたが、彼らもまた、いいしれない不安をつのらせていた。

 クラス委員による告知が傷口に塩を塗り込む。


『つまり、ステータスにある「ろう」「」は、それぞれ、聴覚機能、発声機能の喪失を意味する』


 環は、机に置いた水代みずしろいとの端末に『プリムズゲーム』のヘルプの一項目を、自身の端末のメール作成画面に記述した筆談を提示し、一八に説明した。


『水代さんの話だと、実際の聾唖とまったく同じではないみたいだけど』


 環は、かたわらの糸をちらと見た。おっとりとした面だちを硬くして、ボランティア部の彼女はうなずく。


『音を聞いたりしゃべったりができない障害みたい』

『そんなの自分でわかるんだよこれいつ回復するんだよ』


 一八は自分の端末を乱暴にタップして書いた文章を、環の鼻先に突きつけた。

 途中、「回復するのか」と書きかけたが、いつ回復するのか、との言いまわしに改めた。


 環は、言いにくそうな表情で返答をつづる。

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