ファクトリアル (xli)
視覚情報だけでもあまりに目まぐるしくて、過多となり、オーバーフローを起こしたのか、一八は、衝撃音さえ聞き逃したようだ。
そんなでたらめな光景を突然、脈絡もなく眼前で展開された午角力にしてみれば、まったく狐につままれた気分だ。
もし、今、起こったことをありまま人に伝えるとしたら『俺は巨大な牛に襲われたと思ったら、いつの間にか牛はぶっ飛んでいた』としか言いようがない。
なにを言ってるのかわかってもらえないと思うが、力自身もなにが起きたのかわから(以下略)
一八は、ぽかんと口を開けている力に、さて、どう順序だてて状況を説明してやるかな、とシアンの抜けたグラウンドで思案した。
力に限らず、わけがわからないのは教室の連中も同じだろう。そう5階の窓を仰ぎ見て、先ほどから少し覚えていた奇妙な違和感に気づく。
――なんか、ずいぶん……静かだな。
モンスターを撃破したにしてはいやに反応が、薄い。
あまりにしんと静まり返っているものだから、時間がまだ止まっているんじゃないかとさえ疑った。
が、窓ぎわのクラスメイトは停止などしておらず、大喝采のようだ。
とんとん、と肩を叩かれて振り向く。
放心状態がいくらか解けた様子の力が、一八になにか指さしている。
どこか不自然な力の動作を怪訝に思いながら、指し示された自分の端末を見る。
俺のスマホがどうかしたのか?
そう聞き返して、一八はぞっと背筋が寒くなった。
声が……………出ねえ?
各自の端末に表示される「ステージ5 クリア 課題・ミナスを撃破」とのアナウンスを目にした生徒は何人かあっただろう。ただ、ステージを終えた今、プレイヤーのステータスをわざわざ見る者はない。そんなことより、絶体絶命の危機が一瞬にして覆った勝利に興奮し、沸くことに忙しかった。
アプリでは次の情報が確認可能だった。まもなく皆がそれを目にすることになるだろう。
宮丘 一八 装備:なし ステータス:聾、唖
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【旭原高校 3年D組 クラス名簿】
[生徒]
[クラス担任]
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