ファクトリアル (xxxvii)

 そしてミナスの真正面。橙色の魔蹴球を配置する。

 このライトブルーの空間で、補色に近いカラーのボールはよく映えた。少年サッカー団の子供たち大多数が希望した千葉県の夢の国ではなく、大人の事情(役員の保護者のひとりによる積立金の使い込み)で変更になった埼玉のミカン狩りを連想させる、はつらつとした輝きを放っている。


 10歩程度、一八は後ろへ下がる。


 ――ランドとシーに行けないと知らされたときはがっかりしたけど、ミカン狩りはあれはあれで楽しかったな。とれたてはクッソうまかったし。ブドウ狩りんときも超うまかったっけ。なんかああいうの、また行きたくなってきたな。


 ミナスと、その至近距離に置いたボールを見すえる。

 遠くから当てたほうが威力が高いらしいが、用心して近くで蹴ることにした。パワーの不足ぶんを見越して、魔蹴球は少しよぶんに強化してある。


 ――帰ったら親に言ってみっかな。秋の味覚的なやつ、行ってみねー、って。


 おもむろに駆けだす。


 ――そのためにはこっから無事に出ねーと……なっ!


 ダムッ!


 ゴールに見たてた青灰色の肉塊めがけて痛烈なシュートを撃ち放つ。


 ――そうだ、肉塊だ。回避不能の即死攻撃なんだから確定だ。


 一八は腹のなかで低くつぶやく。『そして、時は動きだす』


 瞬間、空以外のすべてからマリンブルーが払われる。水中から一気に浮上したような視界の変貌。

 ほぼ同時に弾けるオレンジのひらめきが、きわめて短時間、視野を塗りつぶして失せるときには、鈍色の牛型の塊がわけのわからないすさまじい速度で吹っ飛んでいき、誰も見てはいないが、アプリ上でのミナスのHPゲージも、伸ばしたゴムひもから手を離す勢いで縮み、かの巨牛は地面へバウンドするひまさえ与えられず、無数のターコイズブルーの粒となって四散し、蒸散し、失せた。

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