ファクトリアル (xxiii)

 この『プリムズゲーム』に、強力な思念に対する感応性というものがもし存在するのだとしたら、それは、おそらく機能したのだろう。


 一八の、後悔と恐怖と渇望がないまぜとなった悲痛な思いがトリガーとなったかのように、彼にたて続けの「ファクトリアル」が発動した。


 宮丘一八は、それまでの人生で経験したことのない事象を目のあたりにする。リフティングが数回やそこら連続するなどといったちゃちなものではなく、本物の怪現象を。


 なんだ……こりゃあ……?


 一八は当惑した。目がどうかしてしまったみたいなのだ。

 見える範囲のすべてがモノクローム、ただひとつの単一色に染まっている。

 この『プリムズゲーム』ですでに何度となく目にした、幽霊のように生白くて、薄い、青。

 具体的には、479nmの波長の光に、人間の目が感じる色あい。


 一八は察してみる。これがファクトリーだかファンタジーだかの影響で、特殊能力の発動と引き換えに受けるステータス異常なのか?

 あまり気持ちのいいものではないが、りきのように行動に支障があるよりはましだろう。「ゲーム」を進行するうえでの実害はない。

 では肝心のプラス効果は?


 そこでようやく気づく。

 周囲の失っているものが、単なる色の多様性にとどまるものではないことに。


 動き。


 やぼったいネズミ色をクールなインディゴに染めあげられた猛牛も、角も蹄もなく胃もひとつしかない角も、襲う者、襲われる者の体勢をたもったまま、次のアクションを欠落させている。


 校舎を見上げる。

 窓を埋めつくして張りつく大勢のクラスメイト。数十人もいて誰ひとりとして動いて見える者がない。そういえば風もやんでいるような。

 これは、つまり、どう見ても、時間が――停止している。


 ――『ザ・ワールド』かよ。

 一八はぞくと身震いし、腹のなかでひとりごちる。

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