ファクトリアル (xix)
のんきにほうけてなど、もちろん、いられなかった。
「わああっ!! 来んなっ、こっち来んなっ!」
ひしゃげた叫びが耳を突く。力がなにかを振りまわしていた。
剣、なのだろう、たぶん。
一八のペンケースのなかの、ほとんど使う機会のないプラスチックの定規よりも短い刃のそれを、剣と呼んで差し支えないのであれば。あんなもの、象のようにでかい怪物の前じゃ威嚇にもなりゃしない。
ブォンッ、とミナスが大きく角を振る。「あつっ!」力が痛みに声をあげた。
打たれた手がのけぞり、剣――もはや
カラン、と粗末な音で地面に落下した。
武器は防具でもある。午角力はふたつのそれを持っていた。伸び縮みする不思議な剣と、恵まれた脚力。
そのいずれも失った今、彼にみずからを守る手だては残されていなかった。
今度こそ、目の前で、クラスメイトが、殺される。
俺がいけなかったんだ、俺が調子に乗ったから、今まで経験したことのない絶好調に浮かれてたから、サブローが言ったときすぐ攻撃しなかったから、黄色でじゅうぶん殺れたのに無駄にパワーアップを狙っちまって、あのときシュートしてれば、そしたら今ごろ俺たちは教室に戻れてて『いやあー、ギューカクの親族をやるのも気が引けてさー』なんて語って、あいつは『俺は牛じゃねえ』とかクソどうでもいいこと言って、あいつも俺もこんな目にあわずに済んで、おいやめろ、やめろ、やめろ、牛野郎、ギューカクから離れろ、やめてくれ、頼む、もう一度あのファクトリーなんとかの力を俺に与えてくれ、今度は、今度は、有頂天になったりしない、必要最低限だけ
やめてくれええええぇぇぇっ!!
一八は、声にならない叫びをあげた。
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