ファクトリアル (xvii)
三郎丸環が、有無を言わせないような、懇願するような口調で指示する。
撃てだと? なにを?
なにを言ってるんだ、こいつ?
遠いから、あるいはクラス委員あるあるの眼鏡キャラだから、よく見えないんだろう。このゴキゲンに真っ黄色な
ここまできたら極限まで鍛える以外、ありえねーだろうが。
虹色だか銀色だか金色だかのクッソ強そうな色まで。いや、白とか黒も最強クラスとしてありそうだな。
回数も今、めちゃくちゃいい感じで稼いでるとこなんだよ。死ぬほど調子いい。これ、前人未到の2桁台到達あるぞ。小坊のころから夢見てきた(言葉どおりに。目が覚めてがっかりした経験が3回はある)、神の領域。はるかな高みに俺は登りつめようとしている。
それを今、撃てだ? は? 寝言は寝て言え、サブロー。
6。レモンはオレンジに。7。オレンジはリンゴに。魔蹴球はまるで別人のように――サッカーボールに人格があればの話だが――すなおに飛び跳ね、新しい色にチェンジする。
「なにやってるの!」リフティング時のボールがこうも聞きわけのいい奴だとは知らなかった。「早くっ、今すぐ撃って!」
8。意外。それは小3の秋、茨城で体験したブドウ狩りを思い起こさせる、みずみずしい紫。赤から紫との予想外の流れに一八は、ほお、と小さく感嘆する。
「ファクトリアル、発動してる!!」
クラス委員のせっぱつまった声が、端末のスピーカーをびりびりと震わせる。――なんだっけ、そのファクトリーなんとかって。
そのとき、一八の記憶が恐ろしい速度で逆再生された。
通常の能力を超えた特殊な力――ミナスの巨体を一瞬でなぎ払った午角力――危機的状況に際して発動――強力なパワーに対する反動――ステータス異常「歩行困難」――
油断した。
順調に足の上で躍っていた魔蹴球が、前触れなくスカった。
茨城のブドウ園、最後の1個、ひときわ大きい粒を食べようとしてうっかり落とし、落ちたものを食べないの、と母親にとりあげられた――あのときのブドウのように、するりと、一八の足をすり抜けた。
ヤバ――
たんっ。
小気味いい音をたてて魔蹴球がバウンドする。グレープカラーは一瞬にして、黒の五角形と白の六角形の模様にリセットされた。
最強どころか――最弱じゃねーか。
一八は放心する。皮肉にも、彼の予想した白と黒は、最強レベルのカラーではなく、最弱、初期状態のとりあわせだった。
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