ファクトリアル (xiii)

 魔蹴球ボールを宙へ放る。足の甲で軽く、強く蹴り上げる。トッ、と機嫌よく球は、青々、飛び上がる。


 1。目線より上までやってきて少々威勢がよすぎるが問題ない。ももで受け次のリフトアップ。


 2。頭上にある色が眼前に出現する。意外と安定した挙動だ。沈む浅葱色を同じ動作で軽快に再浮上。


 3。青空から草原へと移ろってのジャンプアップ。また少し高く上げすぎてしまったが、魔蹴球の動きに危なげはない。一八は吸い寄せられるように自然に、すばやく、その下へ重心を傾け、前頭部で突く。


 4。教室が歓声に沸く。一番驚いたのは一八自身だ。リフティング以上にヘディングは苦手意識が強く、試合でも練習でも可能なかぎり避けて通っており、成功した試しも一度としてない。それを自分から。意識することなくスムーズに体が動いた。草原から大きなオリーブに変化した球を、あえて膝では受けずインサイドでホップ。


 5。巨大オリーブがバカでかいレモンに変身だ。ボールのやつはへその高さで上機嫌だ。いったいどうなっている。5回だぞ、5回。5回も。

「リフティング王」だとか「リフティングマスター」だとか「リフティングの神様」だとかさんざんからかわれている俺が、そこそこ普通に続いている。インサイドなんては今初めて決まった。失敗できないこの状況下で、なんの不安もなく試してしまった。やべ。ブラジル辺りからやってきた神様かなんかが乗り移ってるわ、これ。


 興奮気味に文字どおり、魔蹴球ボールを手玉にとっている一八に、ヒステリックな声が水を差した。


「撃って!」

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