ファクトリアル (xxix)

 こんな桁違いの能力の対価が、色覚の異常だけで本当に済むのだろうか。心配になって一八は携帯端末を取り出し、『プリムズゲーム』のアプリを開く。

 メイン画面の上部、端のほうにある『ファクトリアル発動中』との表示が目を引いた。

 ああ、ファクトリーみたいなやつ、やっぱり起こっているんだ。

 自身の状態をチェックする。


  宮丘 一八  装備:魔蹴球マジカルサッカーボール  ステータス:唖


 一八の脳裏にクエスチョンマークが浮かぶ。

 ――なんだこれ?


 ステータス欄の文字。見たこともない漢字だ。表示がバグってるのか? これが、ものが青く見える異常を表す字なんだろうか。

 そんなピンポイントかつ使いどころのなさそうな言葉があるとも思えないが、わからないものはしょうがない。ネットで調べようにも、読みかたもわからなければ、文字のコピーペーストもできない。それにたしか、ネットにつなげると、なにかのペナルティーがあるとの話だったし。

 気になって気持ち悪いが、とりあえずこれは見なかったことにしよう。それよりも。

 このデカブツをどうするか――


 一八は、今にも力へ飛びかからんばかりのミナスの横に立ち、シアンに染まった世界で思案する。


 敵は身動きがとれないのだ。一方的に好き放題、攻撃できる。まだかろうじて刃の残っている疾走如意剣ランニングソードで目をつぶし、頸動脈をかっ切ってやればくたばるだろう。

 ただ、そういうえぐいまねは生理的な抵抗感があり、できれば避けたかった。だいいち、主人公サイドや正義のヒーローがとる行動っぽくないではないか(このステージで自分たちが演じた、およそ一般的なヒーロー像とはずいぶんかけ離れた奮闘ぶりはなかったことにする)。

 となるとやはり、やるべきことはただひとつ。


 一八は足もとを見下ろす。

 ぽんっ、と白と黒の球体を軽快に跳ねさせ、口の端をゆがめた。

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