ペナルティーキック (xix)
力が
動くものへの本能のようにミナスが反応する。窓ぎわのギャラリーが叫ぶも、瞬間に魔物はのけぞる。間髪入れず一八が撃った球が鼻づらを打ちすえた。
ななめに返るボールを、
指一本――いや、蹄一本か――触れさせないかまえだ。校庭に転送された直後の取り乱しぶりが嘘のようだ、と力は感心する。ボールを操ることで日常のメンタルを取り戻しているのかもしれない。
落とした持ちものを回収し一八のもとへと駆け戻る。
次はどうやってミナスをけしかけるかだ。
ターゲットは一八に絞られているはずだが、先ほど自分の動作に反応したように、まったく無視しているわけではないようだ。確実なことなどない。近づくことなく攻撃対象を自分に仕向ける方法。
力にはひとつ案があった。「一瞬、ボール借りるぞ」
わきに立ったクラスメイトの言葉に一八は「は??」と聞き返す。
「あいつの標的を俺に変えさせるんだよ」
「適当に小石でもぶつけりゃいいんじゃねーの?」
「それも手だが、グラウンドじゃ豆粒みたいなのしか拾えない。確実に効きそうな手段にしたい」
さっきの仕返しをしたいだけだろ、との指摘に力は、それもある、とうそぶいた。本当は理由の9割がただ。
「ちゃんと蹴れるんだろーな?」一八はやや不安げにボールを譲る。力と同じクラスになるのは今年が初めてで、サッカーをしている姿をまだ見たことがない。
力はミナスに狙いを定めて言った。「少年団じゃコーチからサラブレッドと呼ばれてたんだ……ぜっ!」
長い足が球を蹴りあげた。小気味いい音で弾かれ、宙を駆ける。飛距離だけならサッカー部でも指折りの部類に入りそうだ、と一八に思わしめるほどにそれはよく飛んだ。まったく不必要なぐらい遠くへ。
「おい!!」
3者が同時に駆けだした。背の高いほうをなじる男子と、低いほうに「足の速さだけはコーチの折り紙つきだった」と弁解する男子と、2人を追う牛。
「なにをやってるの!」とめずらしく声を荒らげる環の非難が端末から飛んだ。
まもなく絶望感に満ちた多数の悲鳴があがる。真砂鉉が声高に言った。「おいおいおい、ボールが外に出ちまったぞ」
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