第3話 魅了の瞳①

 魅了の瞳。目を合わせた時点でどんな者でも自分に好意を抱いていくれるようになる魔眼の一種。

「疑心暗鬼?」

「はい。リトラお嬢様は自分が真に愛されていないとお思いになっているのです。魅了の瞳のせいで」

「どうしてですか」

「小さい頃はさほど気にならなかったそうです。だけど、思春期になっていくにつれて自分が言い寄ってこられるのは自分本来にある力ではなく、瞳のせいなのだと考えるようになりまして」

「なるほど」

「そして思い悩んだ末、ナイフで自分の目を抉り出そうとしたのです」

「え」

「最悪、未遂で済みました。そして、解決策が出てくるまで睡眠魔法で眠らせています」

「最終手段ですね」

「だけど、長い間眠らせておくと体が衰弱してしまいます。どうかお願いします。お嬢様の魅了の瞳を何とかしつつ、お嬢様の本来の姿を愛してくれる人を紹介してください」

 魔眼の力を完全になくすことは現代の技術でも不可能とされている。最悪、目を抉り出し、義眼を付けることもあるそうだが、十代の女の子にはあまりにも酷な選択である。

 中々厄介な案件だ。

 しかし、やらねばならない。何故なら、それが僕の仕事だからだ。

「分かりました。何とかしましょう」


「何ですか。この真っ黒くて細長い物体は」

 相談を受けてから一週間。僕はとりあえず今できる最良の策を用意した。

「これは向こうの世界ではサングラスと呼ばれている日の光などを遮る道具です」

「なるほど。だから黒いのですね。で、これが魅了の瞳とどう関係があるのですか」

「魔眼の威力は基本相手と目を合わせた時にしか発動しません。そこで、このサングラスの出番です。これを使えば、目を合わせた時にこのフレームと呼ばれている部分が邪魔するので、恐らくですが、魅了の力は無効に出来るかと思います」

「こんなもので?」

「信じがたいのは分かりますが、実際に試されてみてはどうですか。その結果次第で今後どうしていくのか考えていきましょう」

 執事のゴール氏はどこか煮え切らない様子で、サングラスを持って帰った。

 魅了の瞳か。

 しかし、今回の場合、むしろ魅了の瞳は必要ではないのかと思う。

 だって、この映像結晶で送られてきたリトラお嬢様って。

 どう見ても豚なんだもん。

 




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