寒昴
寒昴(かんすばる)――冬の季語。冴え返る夜空に燦と浮かぶ、牡牛座のスバル星。六つの星が重なって見えるため、別名六連星(むつらぼし)。『枕草子』によれば、動詞「統ばる」に由来する。澄んだ冬空の星はどれもよく見えるが、寒昴はひときわである。
榎本と土方がバチる現パロ(全員ばっちり記憶あり)を書こうと思って書いていたメモ。就活で忙しくなりそうなのでメモのまま供養します。自分ながらめちゃめちゃ大風呂敷を広げたものを書こうとしてました。いつか書けたらいいな・・・
(※バチボコにフィクションです)
主な登場人物
榎本…札幌のしがない記者。罪の意識はあるけれど、今生では平和に生きたい。
黒田…道庁職員。普通に鹿児島弁で喋る。榎本の大学の後輩。
大鳥…札幌のとある教授。なんか理系のすごいやつ。
土方…旭川の薬剤師。らしからぬ迫力がある薬剤師。
松平…道北一帯に展開する不動産グループの役員らしい。
中島…早期退職してFXで食ってるすごいおやじ。フットワークが軽い。
その他
澤…室蘭の小学校の先生。幸せに生きてくれ。
甲賀…海自の幹部らしい。多忙のため全然会えない。もう接舷攻撃するなよ。
伊庭…フリーランスの記者。神出鬼没。どちらの味方なのか分からない。
星…仙台に住んでいるがニセコエリアに別荘を持っている。塩の失敗がよほど悔しかったのか、現世ではやり手の実業家。
松岡…日本中をうろうろして蟠龍の面影を探している。
ほかいろいろ
○第一章
それは、冬のはじめ。初雪が解け、再び白くなったアスファルトに「どうせ積もらないんだろうなあ」と呟くような季節。仕事終わりの榎本と大鳥は、すすきのの安っぽい居酒屋で飲んでいた。榎本はハイボール、大鳥は生ビール。産地も質も分かったものではない。酔えればよかった。
話が弾む中で榎本は、今度旭川に取材に行くんだ、と話す。すると大鳥はジョッキを置いて、「旭川?」と聞き返す。何だもう耳が遠くなったのかとなじると、大鳥は悪戯を思い付いた少年のように笑う。
「スクープチャンスだぜ、榎本さん。なんたって道北はいま、経済界がキナ臭いんだ」
学会での世間話の中で、感じ取ったのだという。私大を中心に地元企業との連携を密に取っていこうとかで、プロジェクトが始まっているらしい。らしいのだが、そのプロジェクトで動く資本は、元を辿ると全て極北の国――ロシアに繋がるのだそうだ。
150年前は金勘定に疎かった榎本も、現代を生きる中でそこそこの知識とセンスを身につけた。前に旭川観光がしたいと言っていた黒田にその場で電話をして、榎本と大鳥は早速作戦を立て始める。
取材当日。黒田を助手に従えて(もちろん黒田は公務員なので無給だ)予定されていた取材をこなし、それから立てた計画通りに旭川のまちをまわる。見えてきたのは中国・ロシア外貨の存在感。急激に観光地化したニセコならともかく、何故今道北でこんなにも存在感を増しているのだろう。
疑問に思いながら休憩にと入った喫茶「ちろる」で、土方と出会う。榎本も土方も、一目で互いが互いであると分かってしまった。戸惑う榎本をよそに、同じく感じ取ったらしい黒田は土方にフランクに話しかける。土方にとってこいつは敵の親玉みたいなもん、と焦って止めようとする。しかし土方はにこやかに黒田に応え、自分から右手を差し出した。「昔」と比べて柔らかくなった雰囲気と、それでも纏っている「昔」と変わらない高潔さに、榎本は戸惑う。土方は腕時計を一瞥して、意味ありげな笑みと共に去ってしまった。一枚の名刺を残して。
まさかその一枚の名刺が、自分を巨大な陰謀の渦に巻き込むとは、榎本はつゆも思わなかったのである。
いつもの居酒屋。話は早々に道北へ。榎本は大鳥に土方の名刺を見せる。そこには「旭星会 石田薬局」の文字。あいつ現世では薬剤師なのか。処方するだけじゃなくて経営もしてるっぽいな。マジ? 信じられねえ。すると大鳥が、学会での雑談に「旭星会」の名も出てきていたという。そこから二人は推理を重ね、土方の経営する薬局は道北財界の重鎮たるグループの末端にいるのではないか。そして、そのグループが今外貨を積極的に取り入れているのではないか、という話になった。何故、何のために。それだけが分からなかった。
居酒屋からの帰り道、榎本の前に伊庭が現れる。奢るからもう一軒と言われついていくと、小奇麗なバーに連れていかれる。どぎまぎしながらも楽しく話していると、伊庭は「あの時、蝦夷共和国は本当に独立国家になると思っていたのか」「勘付いているなら退いた方がいい、不安定な引き金は暴発しか生まない」などと、意味深なことを言われる。榎本は自分の中である仮説を立てる。
伊庭と別れた後、榎本は意を決して土方に電話をかける。土方のほうは何にも気にしていないような、昔と全く変わらないような声だ。榎本は「会えないか」と土方に言う。「それなら榎本サン、」丁度来週札幌に行くんだ、と土方は言う。じゃあ札幌で、と榎本が言うか言わないかで、土方は続ける。「小樽で会おう。あんたがつくった街を俺に見せてくれ」
約束の日、何故か小樽駅の入り口、鐘の横に黒田がいる。榎本は「てめェ何処から聞いてきた!」と怒る。黒田はどこ吹く風。土方も最初は驚いたようだったが、しかし切り替えて三人で観光しようと提案してくる。榎本からしたら不気味で仕方ない。土方は酒を贈られたことも助命嘆願のことも知らないはずなのに。(仮に現世のどこかで知っていたとしても、それで恨みが晴れるような奴だろうか)
榎本は仕事で何度も来ていることもあり、土方と黒田に小樽を案内した。二人はすっかり意気投合したようである。血の気の多い奴同士、なにか通じるものがあるのかねェ。榎本は理解できないといった表情を隠さずに案内し続けた。
夜も更けた。すっかり楽しく観光しきったふうになっていたが、榎本は用があって土方を呼び出したのであった。榎本は、黒田がいては本題ができないと一泊することに。黒田は反対するが、退かずにいると明日仕事だからと終電で渋々札幌へ帰っていった。改札を過ぎる直前、こちらを見た一瞬の目が怖かった。あれは自分と土方どちらに向けられたものだったのか。
榎本と土方は駅前のホテルに部屋を取り、榎本の部屋で飲み直す。そこで榎本は自身が抱えていた仮説を、単刀直入に土方に問う。
仮説とは、無血による蝦夷共和国の再興である。
土方は否定も肯定もせず、ただ榎本も計画に参加しないかと誘う。榎本は伊庭に言われた「不安定な引き金は暴発しか生まない」という言葉をそのまま土方に伝え、部屋から追い出す。
榎本は先程まで土方が座っていた場所へ腰かけ、仮説を確信に変える。暴発を止めなければ。しかし、どうやって。
大鳥は勉強会のため室蘭を訪れていた。夜、教授たちの会食もそこそこに澤のもとを訪れる。大鳥は年に一回のこの勉強会の度に、澤と会って飲んでいるのだ。しかも今回は、澤が最近出会ったという中島も来てくれるという。
三人で箱館の思い出話をしながら飲んでいると、話は中島が趣味でしている艦砲射撃(大戦中米軍が室蘭港に行った砲撃)の研究へ。艦砲射撃と聞いて最初は嫌な顔をする大鳥と澤だったが、結局ドンパチの話は好きだ。「中島さんはやっぱり大砲が好きだな~」と話に乗る。しかし、次第にそのあまりにリアルな話に、大鳥と澤は顔を見合わせる。今にも再現できるとでも言った次第だったのだ。
様子の変わった二人に中島も気づいたのか、突然甲賀の話をはじめる。海自の幹部でなかなか会えないが、ここ数年文通しているのだという。澤は甲賀さんにも会いたいなあと言うが、大鳥は事態の重さ、話の大きさに気付く。
それとなく中島をいさめようと試みるが、中島は「五稜星が指すものが変わっても、私が五稜星を追うことは変わらんよ」とつっぱねる。大鳥は、もはやこちらも行動に出ないと止められないことを悟った。
榎本と大鳥は全体像を掴むため話をすり合わせることに。場所は何故か黒田宅。クリスマスが近くなり、いつもの居酒屋が混みはじめてゆっくりできないから、というのは建前で、まずい奴に聞かれちゃ困るからだ。あと黒田の住んでいるアパートは地下鉄の駅に近い。この上なく便利なので今後も溜まり場になる。
芋焼酎に舌鼓を打ちながら、三人で情報と推理で「蝦夷共和国再興計画」の大枠を組み立てる。
外貨を利用した独立は、確かに自然な論理立てだ。箱館戦争とフランス陸軍、開拓使とアメリカ学閥など、この北の地の近代は欧米と共にあった。しかしそれらは所謂西側。今回流入しているのは東側の外貨ばかり。冷戦が終わったからと言ってその対立が終わっていないことは、肌で感じているところである。
しかし、たとえば新兵器の開発には暴発の危険が伴うように、新たな動きにはリスクがつきまとうもの。榎本はケプロンを始めとしたアメリカ頼りの開拓を、暴発であったと解する。フランス陸軍との関係も綱渡りであった。「勿論ムッシュ・ブリュネは尊敬すべき軍人だったが、」と榎本が付け加えると、「いいよ榎本さん」と大鳥は制す。「俺たちは分かってたさ」
その一方で、彼らは暴発の危険性を理解しているのか。止めなくてはならない、と三人は結論付けた。
まずは突破口を探そう、と作戦を立てる。道内各地にコネを持つ大鳥と黒田は情報収集と内部工作。現世では一介の記者に過ぎない榎本は、仕事にかこつけて道内各地の外貨との繋がりを嗅ぎ回り、発信していくことにした。明治政府出仕後、まざまざと思い知らされたジャーナリズムの力を今こそ利用してやろうという魂胆だ。
「まるで桃園だ」と笑いながら、榎本、黒田、大鳥は、杯を高く掲げた。
○第二章
年が明けて、仕事始めと寒の入り。忙しい日々は変わらず続く。そんな毎日の隙間を縫って、榎本・大鳥・黒田が道内各地を飛び回り、いろんな奴と酒を飲む。
・余市で星とウイスキー
まずは北海道で外資といえばニセコ一帯の新観光地。オーストラリアの植民地とか言っている間に中国資本だらけになっている。星がそこに別荘を持ってて今丁度来ているというので、榎本は尋ねてみる事に。星は余市のニッカウイスキーを飲ませてくれる。そしてニセコの現状と共に近隣地域の再開発の動きも教えてくれる。間違いなく中国系外資による動きだ。榎本は早速記事を書き上げた。星が時折申し訳なさそうにこちらを見るのが気がかりだった。
・函館で荒井とビール
昔から観光地として有名で近年でも様々な動きのある函館。思い出の場所だ。函館の気象台に勤める荒井は外資とか経済には疎いようだが、函館のまちのありかたが次第に変わろうとしているのは感じ取っているらしい。それをヒントに嗅ぎまわってみると、函館は流入する外資に多少の影響を受けつつ、それでも函館の人々の手で、ノスタルジーのまちから国際港の街へと試行錯誤していることが分かった。榎本はそれが何だか自分のことのように嬉しかった。悩み抜いて、記事は何とか書きあがった。
・大鳥が田辺朔郎と岩見沢でワイン(これは完全に私の趣味)
大鳥は重い腰を上げて田辺を訪ねた。彼は昔も現世でも教え子だった男だ。岩見沢で学芸員をやっている田辺は、道内の博物館や資料館が置かれている窮状を並べ立てる。田辺が危惧しているのは、学芸員が機能しなくなることだ。今自分がやっている研究も、勤務外としてほぼ無給だとぼやく。大鳥が土方たちの動きについて零すと、俺なら乗っちゃいますね、と田辺は寂しそうに呟いた。
・榎本と大鳥が稚内で松平とワンカップ
仕事で稚内に行く榎本のもとに大鳥が合流する。なんでも田辺との会話の中で松平の名が浮かび上がったとか。今丁度松平も出張で稚内にいて、既に約束を取り付けたらしい。夜、榎本が大鳥に引き摺られて辿り着いたのは、雪にうずもれた何の変哲もない公園。その街灯の下に松平は立っていた。大鳥が買ってきたワンカップで乾杯して、雪のちらつく中、三人はしばし歓談する。一呼吸ついた時、大鳥が口火を切るように尋ねる。「お前、会社の役員だって言うが、あの計画とは関わってないだろうな」松平はそれに答えるでもなく、明治の頃の話をしだした。「俺はうまく生きられなかった。寝ても覚めても、凍土の下の同胞の声が聞こえるんだ。正直、今も」榎本は松平を助けられていなかったことに愕然とした。風が強くなってきた。雪も増してきて、吹雪の様相だ。三人は解散することにした。別れ際、吹雪の向こうで空のワンカップを控えめに掲げた松平のシルエットが、榎本の目から離れなかった。
・黒田が旭川で栗原安秀と日本酒(これも箱館関係ない私の趣味)
出張で旭川を訪れた黒田は、栗原という職員に既視感というか、言いようのないシンパシーを覚える。喫煙所で二人になった所を狙い、覚えているか、と尋ねると、やはり元老で、と返される。お互いに互いの昔のことは知らないが、カルチャーショックに苦しんだことなど記憶持ちあるある(?)で盛り上がり意気投合する。そのまま夜は二人で旭川の歓楽街へ。そこで黒田は栗原に、道北に展開する巨大グループについて尋ねる。栗原は最初は分かっていなかったが、急にピンと来たらしく、そのグループについて事細かに教えてくれた。さあ帰ろうという時に、栗原は「どうして僕ら、北海道にいるんでしょうね」と零す。黒田も栗原も、昔北海道に縁はあったが、出生地でも終焉の地でもない。記憶を持った者がこれだけ北海道にいる事実に、黒田は運命的なものを感じざるを得なかった。
・榎本が夕張で殺し屋みたいなやつに追いかけられる
栗原から夕張の治安が悪いと聞いていた黒田が、榎本が取材で夕張に行くと言っていたのを思い出して、出張帰りに車を飛ばして駆けつける。すると丁度ダッシュで何者かから逃げていた榎本に出くわす。急いで榎本を乗せて札幌へ帰る。車の中で榎本が起きたことを話す。榎本は「襲ってきた奴のパーカー、みんな水色っていうか、なんつーかな……浅黄色、ぽかったんだよな」とこぼす。話が大きくなってきましたなあ、と黒田は返す。丁度榎本の記事に反響が出始めたところだった。
・なんやかんやあり、榎本が小樽で満を持して(?)土方と命の追いかけっこをする
舞台は雪明りの路で賑わう運河通り、の一本裏の暗い路地だったり、人気のない地下道だったり。負けられない戦いがそこにあるぞ。
「榎本サン、アンタ戦いが終わったとでも思ってんのか!」
「馬鹿野郎! 抗うだけが戦いじゃねェだろうが!」
ピンチの時はだいたい黒田か大鳥が助けてくれるし、二人がピンチの時も体を張って助けに行く。そうしていると段々と土方との距離が広がってしまう。今生ではしがらみもなく君と笑えると思ったんだけどな……と榎本はしょんもり。そんな榎本を、それぞれ複雑な心境で見守る黒田と大鳥。
基本、再興計画側は戦闘で死んだor明治をうまく生きられなかった奴、阻止側は明治を血反吐はいて生き延びた奴ってかんじ。
ちなみに第二章で再興計画が頓挫しなかった場合、第三章で近藤さんを投入します。
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